過保護なお兄様
「ふぅ…」
わたくしは寝室でホッと息をつく。
やっぱり一人で眠れるというのは快適ですわ。
「お兄様ったら、わたくしが幼くなっている間は要らないと言っても寝かしつけしてくるんですもの」
過保護なお兄様を思い出して思わずクスクスと笑ってしまう。
『お兄様、わたくし幼くなってももう一人で眠れますわ!』
『いや、悪い夢に蝕まれてはいけないからな。俺の妹を守るのは俺の役目だろう』
『もう、過保護過ぎますわ!』
『いいからいいから、ほら、ベッドで横になって。そう、では羊を数えるよ』
そうしてわたくしが寝付くまで、必ず手を握ってわたくしのそばを離れないお兄様。
お兄様が淡々と羊を数えて、わたくしはその優しい低い声にいつのまにか微睡んでしまっていた。
『ふふ、おやすみ。俺の可愛い妹よ』
そう言ってわたくしの額にキスをするお兄様に少し意識が浮上するけれど、また微睡んでそのまま眠る。
そんなわたくしにお兄様はクスクスと笑って、そして部屋を出る。
額へのキスは、この国では幼子から悪夢を退けるおまじない。
けれど、わたくし幼くなっていてももう十七歳ですのに。
お兄様ったら、仕方のない人。
『お前は結局、いくつになっても俺の可愛い妹だ』
『だからシャル。お願いだからもうあんな無茶はしないで』
『お前に何かあったら俺は今度こそ正気ではいられない』
幼くなって目覚めた初日に言われた、そんな脅しめいた発言もお兄様は多分本気で言っていた。
だから、これからはわたくしも無茶はできないなぁと思う。
『お前が王太子殿下を想うのならそれは止めないけれど、本当に許してよかったの?』
『いいんですの、お兄様。ヴァレール様は呪われていただけですもの!それにわたくし、許して差し上げますとヴァレール様に申し上げたんですのよ!』
『俺はお前を大切にしてくれる男を選ぶのが一番だと思うけれど』
『ヴァレール様も今、色々と反省なさってますのよ。お兄様だって見たでしょう?』
『…まあ、ね。今の王太子殿下は明らかにお前を溺愛しているね』
お兄様はある日婚約にも言及したが、あまりこの婚約をよく思っていない様子だった。
けれど元の姿に戻ったわたくしには何も言わずにいるので、認めてくださったのか様子見なのか。
いつかヴァレール様に嫁ぐ日に心から祝福してもらえるよう、わたくしも頑張らねば。
お兄様はわたくしに甘いから、ヴァレール様に愛されるわたくしを見せて差し上げればきっといつか心から祝福してくださるわ。