営業担当
「…………え??」
俺の顔が引き攣る。
その横でハックはここぞとばかりに口達者になった。
「それはお困りでしょう!!」
「おい!ハック!!」
「実は何を隠そう!ここにいるこのお方こそ!最近話題の召喚霊媒師!!ヨド・イチル様なのです!!」
「おい!!」
抵抗しようとする俺を押さえ込み、ハックは酒場に大声でそう告げた。
おお……と感嘆半分、疑い半分の吐息が酒場中から漏れ、場はシン……と静まり返る。
あちゃ……と俺は頭を抱えた。
「……それは本当かね?!」
「はい!もちろんです!!」
「おい!ハック!!」
まだ嘘ですで誤魔化せると慌てて訂正しようとした俺を、ガスっとハックがテーブルの下の見えない位置を殴りつける。
思わず声がつまった。
旅の途中、立ち寄った小さな町。
その酒場で宿を取り食事をしようとしていた俺達は、旅人を珍しく思って話しかけてきた店員と話しているうちに、この街で起こっている怪奇現象の話を聞く羽目になったのだ。
「まさか……そんな……。」
「いやでも、少し向こうの村に現れて、完璧な退魔をされたって噂が……。」
「もし本当なら……。」
俺が声にならない悲鳴を上げて痛みに悶ているうちに、酒場のあちこちからつぶやきが漏れた。
あぁ……なんか、嫌な予感しかしない……。
酒場にいる人々の期待と不安の混じった目が俺を凝視している。
俺は頭を抱えて蹲る。
しかしハックは得意満面、声高らかに宣言した。
「お任せ下さい!!この街の怪異!こちらのヨド様が納めてみせましょう!!」
いや、勝手な事を言うな、ハック……。
やるのは俺なんだぞ……。
そうは思っても後の祭り。
もう逃げようもない雰囲気が酒場の中に充満していた……。