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第五章 6日目

■AM 移住


 明るくなってきたので移住の支度をする。行き先は決まった。ここから10kmほど離れた国営公園の農家再現コーナーだ。

 農業で自給自足と考えると、あの有名なテレビ番組を思い出す。古民家に住んで、手頃な大きさの田んぼと畑をやる。妄想してたら、似たような風景を思い出した。それが国営公園だ。

 多摩に住んでいる人はたいていは行ったことがあるだろう。都心からも大勢やってくる巨大な公園だ。その端っこに農家の再現コーナーがある。

 どこからか移築した古民家があって、広い庭と納屋と蔵があったっけ。家よりちょっと低いところに畑と池と田んぼがあった。確か武蔵野の原風景がテーマだったような。

 あそこに行けばテレビのように自給自足ができそうな気がする。しかも、今の時期なら稲も野菜も育ってるんじゃないのか? 収穫から始めるのも良いじゃないか。


 荷物をまとめて小型のプラコンテナに詰める。パソコン、ノート、参考になりそうな本、気に入ったCD、ゴーグル、懐中電灯、アマチュア無線機だ。コンテナをバイクの後部座席に縛り付けて、その上に長靴とゴム手袋、カッパを置いてさらに縛り付ける。準備完了。工業用マスクはすぐに着けられるように首から提げていく。

 家具屋に作った居間スペースとか、昨夜使ったテントはそのままだ。片付けない。誰もいないのだから誰の迷惑にもならない。自然に帰らないって、建物とか車とか道路とか、不自然なものがたくさんある中でちょっとものを残したからって大差ないだろ。


 ホームセンターの自動車用品コーナーにバイク関係も少しあった。見るからに安そうな肘当て、膝当てとか、プロテクターを身に着けていく。大怪我をすると命取りになる。途中でバイク用品店に立ち寄ってもっと高性能なものに換えよう。




 バイパスを使うと直線的で速そうだが、事故車で塞がれていたら逃げ道がない。後戻りとかしてたら逆に時間が掛かる。一般道で行こう。

 問題は橋だ。多摩川を渡らなければならない。オフロード車とは言え、深い川の中を走ることはできない。橋も車で塞がれているかもしれないから、歩道が大きめの橋を選ばなきゃ。


 スタートしてすぐ、目的地と反対方向にある行きつけのバイク用品店に行く。点検、整備、改造なんかもしてくれる人気のお店だ。

 土日に比べると駐車場の車やバイクは少ないが、それでも何台か駐車してある。駐車場に面しているピットを覗くとやっぱり整備の人が倒れていた。あまり見ないようにしてそっと入り、入り口近くの移動式ラックに載っていたスプレー式の潤滑オイルとチェーンオイルを頂戴する。まずバイクに油を差しておくんだ。用品を調達している内に浸透するだろう。


 入り口から店内を伺うと、中は薄暗い。匂いもする。一旦ヘルメットを脱いで工業用マスクを着ける。顎がないタイプだからマスクをした上でヘルメットを被り直す。ヘルメットのシールドを下ろしてゴム手袋を着けて防御完了だ。カッパは省略。


 被災者さんがいそうなところは避けて店内を物色する。必要なものは俺の体を守ってくれるものだ。ヘルメットからブーツまで良さそうなものを複数持って店の外に出る。外で試着だ。

 バイクがオフロードタイプだから、ウェアもオフロード用の方が格好いいが、誰かに見られるわけでもない。見た目はどうでも良いので安全性が高くて、できれば快適そうなものを選ぶ。

 GPSは生きているが、スマホで地図が表示できないからナビは使えない。用品店内にあった道路地図帳を破り、整備ピットから頂戴したガムテープで必要なページをタンクに貼り付ける。地図を見ながら運転するなんて初めてだ。

 用品店に1時間ぐらいいただろうか。ようやく出発だ。


 幹線道路はどこも事故だらけでまともに走れない。近くの川に行ってみると、期待通り土手には邪魔なものが何もない。快適だが、スピードは控えめにして安全運転に徹する。怪我をしたら終わりかもしれないからな。

 土手の道はまっすぐ続いているわけではない。なぜか途中で途切れていて、横の道路に降りなければならないところもある。面倒だが幹線道路で事故現場を回避するよりはずっと楽だ。

 止まって地図で現在地を確認する。多摩川は北西から南東に向かって流れている。このまま多摩川まで東に行くと北にある公園へはかなりの遠回りになってしまう。多摩川を渡る前に北側の低い山を越えた方が距離は近い。山には複数の大学と団地がある。大学の向こうは幹線道だ。団地の中を通ろう。

 適当な路地を曲がって幹線道路を横断して山に入ろうとすると、やっぱりここでも事故だ。歩道を使って回り込むように回避する。途中、ガードレールに膝をぶつけたり、電柱に肘をぶつけたりした。怪我はない。プロテクターを着けていて良かった。

 山を越えて隣町に入った。幼い頃から見知っている街だが、ニュータウンではないので道が細い。昔から渋滞がひどかったところだ。

 ここはもう事故だらけ。主に歩道をノロノロと走る。途中、いろいろ悲惨な光景があった気がするが、なるべくよそ見をせずに道だけを見て走った。

 江戸時代にはちょっとした宿場町だったらしい街並みを超えると、ようやく整備された道に出た。この道で多摩川を渡ろう。もちろん歩道で。


 川を越えると多摩地区の中心的な街だ。俺も何度も来たことがあるからまあまあ土地勘はある。この先は鉄道を越えなければならない。駅周辺は想像もしたくない。西側に迂回する形で横断できる場所を探そう。

 住宅街の中を通る旧街道には歩道がないが、逆に住宅街なので事故現場を迂回できる細い道がたくさんある。だからこの旧道で行く。紙の地図だと住宅街の道はよく解らない。普段ならば10分も掛からない道を30分ぐらい掛かっただろうか。ようやく一番近い踏切に来た。

 踏切は遮断機が下りていた。お陰でこちら側は右側車線が、向こう側は左側車線が空いていた。踏切内に電車はいない。遮断棒を押し上げて斜めに横断する。懸案が割と簡単に片付いてホッとした。別の踏切を探すとまた時間が掛かるからな。

 この踏切を越えると国営公園は目の前だ。もう、左手前方が広く開けているのがわかる。

 ただし、この公園の角がまた渋滞だ。公園に向かう途中だったのか、歩道にも被災者さんが結構な人数倒れている。ここからはバイクを降りて押して歩く。右へ行ったり左へ行ったり、バックして切り返したり。50mほど進むのに20分も掛かったぞ。途中で被災者さんを踏んでしまった気がするが、なかったことにしておこう。




 公園内に入る。この公園は自転車専用の道がある。レンタルサイクルもあるが、自分の自転車を持ち込む人用に大きめのゲートがある。そこからバイクで入っていく。平日だったというのに結構利用者がいたんだな。あちこちで被災者さんが倒れている。

 入り口で園内の案内図を見て目的地を確認する。通ったことがある歩道と、その外側にサイクリング道がある。よく見るとさらにその外側に道があるようだ。ちょっと考えて思い当たった。管理車両用の道路だ。そこを通れば倒れている人はいないだろう。よくよく見ると、管理道から農家再現コーナーの畑の隅まで道がつながっているじゃないか。なるほど、管理しやすいようになっているんだ。

 よし出発だ。と、その前に腹が減ったので売店に行く。消費期限の長い食べ物が何かあるだろう。



■PM 新拠点


 新しい家だ。目の前には畑がある。菜っ葉とか組まれた添え木に沿って上に伸びる作物がある。広くはないが、一人で耕すことは楽ではないだろうな。

 右手には2階建ての割と新しい建物がある。管理用の建物だ。覗いてみると下が農機具の収納で、上は事務に使われている感じだ。どちらも無人だ。バイクはこの管理棟1階に駐車することにした。シャッターがあるから雨風で汚れることもないだろう。


 外へ出る。このエリアは高さで言うと3段になっていて、この畑周りは中段だ。下段に小さい田んぼが4枚並んでいる。期待したとおり稲が元気に育っている。上流側は貯水用のため池が、下流側には蓮池もある。

 下段と中段をつなぐ緩い斜面にはお茶の木が植えられている。その並びに農作業に使うのか、細い木材がトタン屋根付きで保管されていた。

 上段は住居エリアでため池の近くにある石階段を上ると両脇に部屋が付いた長屋門があり、くぐると広い庭の向こうに母屋が、左手には蔵がある。土の庭には何もない。収穫物を干したり、道具の手入れをするためだろう。

 他にも小さい建物があるが何だかわからない。後で見てみよう。門を回り込むように坂道があって、軽トラとかの作業車が庭から田んぼや畑と行き来できるようにもなっている。


 ざっとエリアを見回していると、作業服を着た職員さんが1人倒れていた。周囲をハエが舞っている。

 匂うので少し離れたところから手を合わせて冥福を祈り、一旦その場を離れる。ここに住まわせてもらうのだからこの方だけはちゃんと埋葬して差し上げよう。だが、今はまずはエリア全体の把握が先だ。


 母屋はふすまがワイドオープンになっていた。縁側に触れると砂埃でザラザラしている。この前雨が降ったから泥になってこびりついている感じだ。掃除をしなければ。

 蔵も扉が開いていた。こちらはすぐには使わないから、今日は扉を閉めるだけにしよう。

 住居エリアの一角には井戸があった。手押し式のポンプが付いている。試しに汲んでみると、最初は温く、そしてすぐに冷たい水が溢れてきた。これで生活は大分楽になる。

 大切なトイレは管理棟に水洗式が、母屋にくみ取り式があった。


 母屋に掃除道具があったので、まずは母屋を掃除する。ほうきで掃いてぞうきんで拭く。中学校以来だな。この掃除スタイルは。

 とりあえず裸足で上がって横になることはできるようになった。外側の障子を閉めてほこりが入らないようにする。


 管理棟にあったスコップを持ってエリアの外れ、雑木林の一角に行く。職員さんをここに埋葬しよう。汗だくになって大きな穴を掘った。こんな大きな穴を掘ったのは人生初だな。

 管理棟に戻って一休み。今度はカッパを着て長靴を履きマスクとゴーグル、ゴム手袋のフル装備だ。同じく管理棟にあったネコ車(一輪の荷物運搬車)にスコップと大きなブルーシートと、同じく管理棟にあった石灰の大袋を乗せて職員さんのところまで押していく。

 まず先に手を合わせて失礼をお詫びする。職員さんの隣にブルーシートを敷いたら、スコップを使って職員さんを転がしてシート上に移動する。いろんな虫が飛び出してきたが大丈夫。想定の範囲内だ。無視する。職員さんがいたところに石灰を多めに撒いて消毒だ。

 ブルーシートの先をつかんで後ろ向きに体重をかけて埋葬場所まで引っ張っていく。ものすごく重たい。

 ブルーシートごと職員さんをお墓に納めて石灰を撒いてから土をかける。しっかり固めたら手を合わせてご冥福を祈る。墓石は省略だ。名前も知らないし...名札ぐらい見ておけば良かったかな。

 ネコ車とスコップは蓮池の水でザッと洗う。俺自身も井戸水で洗って埋葬終了だ。




 時計を見るともう4時だ。食料と寝具を調達しなければ。

 農家復元エリアの裏側、500mほどのところに裏ゲートと事務棟があるはずだ。まだ濡れている防護服一式を持って歩いて行く。途中、休憩所とトイレがあった。ベンチ付近に年配の方が3人倒れていた。一礼してトイレに行く。ここは使えそうだ。下水は多分詰まっていないだろう。

 さらに歩いて行くと、期待通りに事務棟前に公園管理用の軽トラが停まっていた。運転席を覗くとキーが刺さったままだ。ラッキー! 誰も居なくて。


 乗り込んでエンジンをかける。さすが国営公園だ。後付けのカーナビがあった。どうせ使い物にならないだろうと思ったら、DVD式のナビだ。ネットが要らない。しかもGPSの電波はちゃんと受信している。


「使えるじゃん!」


 すっかりスマホに慣れていたが、ちょっと前の旧式はネットに依存してないからスタンドアロンで使えたのか。ITエンジニアなのに気がつかなかった。目からうろこだ。


 裏ゲートから外に出て新市街に向かう。思った通り、この辺りは道が広いのに交通量が少ないから慎重に走れば軽自動車でも通行可能だ。

 ショッピングモールに到着。食品売り場はやはりとんでもない異臭だ。匂いだけでなく、何やら液体も溢れている。長靴を履いてきて良かった。マスクとゴーグル、懐中電灯でまだ食べられそうな食品を幅広くなるべく多くカート一杯に集める。いったん軽トラに戻って荷台に移し替えたら、今度は寝具と衣類、日用品の調達だ。

 平日だったとはいえ人気のモールだ。女性と子供を中心に少なくない被災者さんが居た。なんとかカートを操って必要なものを調達した。全部軽トラの荷台に積んで、布団を上からかけ、元々荷台に積んであったロープで軽く縛って終了。来た道を母屋に帰る。


 母屋に帰ると6時を過ぎていた。もうじき夏至だ。1年で一番日が長い。今日は1日よく働いたな。

 囲炉裏で火をおこしてお湯を沸かした。魚型の自在鉤を使うのは初めてだ。原理は知っているけど、こんなので水が入ったやかんを留めることができるってすごいよな。

 明るいうちに布団を敷いておこう。そのあとは雨戸を閉める。木製の雨戸を閉めたのも生まれて初めてだ。これが新しい日常になるんだな。



■夜 再検討


 食事も終わって一息ついた。外はすっかり暗くなったようだ。なんとなく外に出てみると月がきれいだった。

 庭を横断して田んぼに続く斜面の草に上に寝転がった。月ってこんなに明るかったんだな。周囲の星があまり見えない。月から離れたところは満天の星なのに。




 これまでのことを振り返りそうになるが、今日はやめておこう。前向きに生きていくんだ。これからの暮らしを考えよう。


 目の前に田んぼが広がっている。稲が青々と育っている。秋、これを収穫すれば俺一人1年間食べていけるんじゃないかな。

 畑には青物が植わっている。明日、何の作物か確認して収穫の計画を立てよう。

 お茶の木が新芽を出してるな。これを摘めば新茶が飲めそうだが、加工が面倒そうだな。お茶はまだ良いか。今年は放置しよう。

 あと、果物があると良いんだけど、公園に植えられている木は実がなるのかな? 秋に食べられたら儲けものってところか。


 夏の間に必要な作業は草刈りぐらいかな。暇そうだから農業の勉強をしよう。本屋か図書館に行って参考書を調達しよう。


 電力が必要だな。太陽光発電システムを調達しよう。そんなに大電力は要らない。照明とキッチン家電が使えれば良いだろう。あと、冬の暖房か。

 古民家で暖房と言えば薪と炭だよな。公園を巡回すれば落ちた枝とか、大量にあるだろう。そうそう、バーベキューコーナーに薪が山積みになっていたはずだ。放置していると雨に濡れて腐っちゃうかも。早めにこっちに運んでおこう。


 耳元で高い羽音がする。蚊だ。ここに居るとたくさん刺されそうだ。振り払いながら母屋に戻る。蚊取り線香とかも調達しないといけないな。

 待てよ。蚊って人とか動物の血を吸わないと卵が産めないんだよな。俺以外に動物がいないとなると、アイツら絶滅危惧種になったのか? 他の吸血系の虫とか寄生虫とかは全滅だな。この災害は虫には影響がないのかと思ったら、やっぱりそれなりに影響がありそうだな。そう考えると植物にも影響がないとは言えないな。よく観察して食料調達への影響を警戒しよう。考えなきゃいけないこといっぱいあるなぁ。




 それにしても、本当に俺以外に人は居ないんだろうか? もう一度考えてみよう。


 災害が起きたのは俺が鍾乳洞の中にいたときだろう。俺が鍾乳洞にいた時間は高々30分ほどだ。その間に、ごく短時間、何かが起きたんだ。

 いわゆる放射能だったら残留するはずだから、俺が鍾乳洞から出たらすぐに影響が出たはずだ。だから核兵器とか原子力事故ではないだろうな。

 病原菌とかなら蔓延するまでに早くても数ヶ月掛かるはずだから、これもないな。

 広範囲に雷のような電磁波が走った? それなら多くの電子機器が壊れているはず。動物にしか影響がないから、これも違うな。

 うーん、原因と言うか、何が起きたのかわからない。影響範囲の推測はできないな。


 他に人がいないだろうか。

 観測するしかないか。人が組織的に活動していれば電波が出るはずだよな。やっぱり電波観測は必要だ。局長のところから拝借してきたアマチュア無線のハンディ機の電源を入れて受信周波数をゆっくり変えてみる。所々でビーコンらしきものが聞こえるが、おそらく電池で長期間稼働できる無人の発信器だな。人の声は聞こえない。

 ラジオ放送とかも復旧する可能性はある。というか、外国から呼びかけているかもしれない。右手の丘の上になるべく長い電線を張って中波とか短波を受信してみよう。受信機も調達しなきゃ。秋葉原に行けばすぐに手に入るが、この辺りではどこにあるかな?


 そういえば都心はどうなった? 火災は治まったみたいだな。

 ちょっと待てよ。この公園の隣、自衛隊の駐屯地だ。その一角に内閣の施設がなかったか? 都心に大規模災害があったら政府が疎開してくる場所だ。だいたい、この公園を含めて地域一帯が首都災害の対策拠点だろ。警察と消防の航空隊も自衛隊と滑走路を共用していたはず。何年か前に盛り上がった怪獣映画でも後半は主人公がそこで指揮してたよな。

 その割には全く人の気配がないな。インフラそのまま残っているから、地方が生きていればここに来て都心の調査や救援の拠点にすると思うんだが...やっぱり地方も含めて政府とか自衛隊とか、活動できる組織がなくなっちゃったのかな。


 となると、この影響がどこまで広がっているかだ。この災害は日本だけかもしれない。短波放送なら東アジアとオセアニアは大体受信できるはず。外国語でも何でも良いから放送さえ受信できればどこが残っているか推測できるだろう。

 気になるのは北から西側の隣国たちだ。もう既に北海道や日本海側・沖縄は占領されているかもしれない。そうであれば遠からず偵察機が飛んでくるだろう。迎撃される恐れがないからヘリとか我が物顔で飛びまくるだろうな。道路はどこも事故車で塞がっているから戦車とか装甲車で踏み潰しながら威力偵察に来るかも。隣に駐屯地があるから、この辺りは軍事偵察衛星監視されているかもしれないな。俺一人だけだと動きはそう簡単には把握できないと思うが...複数の写真でAIがチェックしたらバレるかな。

 見つかったらどうなるんだろう。奴隷にされるのかな。それとも生き残った理由を探ろうと人体実験されるだろうか?

 捕まりたくないな。外国軍が来たら多摩川沿いに山へ逃げよう。究極のサバイバルだ。

 その前にまずは情報収集だな。やっぱり電波観測。それと、明日から空もよく見よう。超高空で何か飛んでいるかもしれない。




 とはいえ、俺が生き残ったんだ。日本にも他に生き残っている人がいるんじゃないかな。

 こんな世界で生き残ってる人って...あれかな? ものすごいマッチョで、金属の鋲を打った革製の服着て、モヒカンでタトゥー入れて、チェーンを体に巻き付けて、どデカい改造バギーに乗って、原始的な武器を振り回しながら奇声を発して集団でやってくるんだろうか? 捕まったら作物を奪われて奴隷にされたり、面白がってなぶり殺しにされたり...外国軍に捕まった方がマシかもしれない。


 いかんいかん。マイナス思考はダメだ。アニメの見過ぎだな。

 プラス思考で行こう。生き残った人はもっと協調して生きる努力をするだろう。特に日本人は。


 自衛隊の潜水艦が無事だったらどうだろう? 母港に帰って事態を把握して、生存者を探す努力をしているんじゃないだろうか? とすると、この辺りだと横須賀か。潜水艦のクルーにはヘリの操縦ができる人はいなさそうだな。空から救援には来ないな。地上を移動してくるとなると、事故車両の処置が必要だが、被災者さんたちを無視できないだろうな。人数も少ないことだし、ここまで捜索範囲を広げるには相当時間が掛かるだろう。それに、ここに来る前に都心に行って...諦めちゃうかもしれないな。

 そうだ! 自衛隊の無線も受信しなきゃ。警察と消防も。元々受信した内容を人に話すと違法だけど、受信するだけなら合法だ。マニア系無線雑誌を見れば受信の仕方は解るはずだ。暗号化されていても良いんだ。電波が出ていることが解れば。電波さえ出ていれば、フォックスハンティングの要領で発信源を特定して様子を見に行くこともできる。

 フォックスハンティングって言うのはアマチュア無線のゲームだ。狐役の無線家が出す電波をハンター役の無線家が追いかける。単純だけど面白いらしい。俺は参加したことないけど、大学のアマチュア無線部では準備したり武勇伝語ったりしてるのを見聞きした。羨ましかったな。よし、それをやろう。


 それと、地下と言えば鉱山か。地下鉄もあるな。大江戸線ぐらい深いところなら影響少ないかも。ただし、都心は地上が大惨事になっていそうだから、その影響で地下に閉じ込められている可能性もあるな。

 ちょっと都心から離れたところだと、リニアモーターカーとか圏央道のトンネル工事とかの大深度にいた人も無事かも。他にも地下深くにいた人は無事かも知れない。

 そういう人達がいたとすると、どう行動するだろうか? 俺のように一人で行動している人は少ないかな。やっぱり、みんなで協力して救助と復旧に努めているよな。あるいは既に局地的な復興をしているかもしれないな。


 そんな人達と合流できたら、俺もやぶさかではない。復興に協力する。

 だが、どうやって合流する? 夏だからな。これから被災者さん達のご遺体がどんどん腐敗する。病原菌があふれるから被災者さんの多いところには行かない方が良い。となると、こちらからあてもなく探しに行くのは危険だ。向こうから探してくれるだろう。じっと待っている方がリスクが少ないんじゃないか? 大体、こんな非常事態でどうして良いか解らないというのに消極的だと批難する人もいないだろう。他人の目を気にする必要はない。

 よし、既定路線でこのまま一人で生きるためのインフラを作ろう。それと無線で探索だ。ここはちょうど良い場所だ。

表記を訂正しました。国立公園→国営公園

ご指摘ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「国立公園」と書くと尾瀬国立公園などの自然環境を保全する地域を指す国立公園になってしまうので、「国営の公園」とするか、モデルにした公園の名前か創作した公園名で書いた方がいいのではないで…
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