第三章 3日目
■44時間経過 異臭
朝になった。まずトイレに行って小用を済ませる。水を流す。手を洗おうとしたら...あ、水が出てない。停電だからな。水道ポンプも停まったんだ。今のはタンクの水か。タンクの蓋をずらしてのぞき込むとまだ半分ぐらいある。もう1回ぐらい流せるが、大きい方は無理だぞ。
下水はどうなんだろう。当然下水処理場も停まっているだろう。使い続けると溢れるかもしれないが、俺一人ならそう簡単には溢れないだろう。じゃ、汚物は流せるとして、問題は流すための水の確保か。
風呂場を覗く。水はとってないよな。災害用にとっておくべきだった。
気を取り直して昨夜の帰り道にコンビニで調達した食料で朝食をとる。そうそう、自動ドアが開かなくて手で押し開けたよ。何でもかんでも電気使うっていうのもいかがなものかと思ったよ。
電気が止まったってことは、生鮮食料品はすぐに食べられなくなるだろう。そう思ってヨーグルトと野菜ジュース、昨日が賞味期限のパンを食べる。惣菜パンでなければ1日ぐらい大丈夫だ。もっと旨いもの食っておけば良かったな。山梨では牛も鶏も寝てたからな、肉とかもう食えないのかな。
そうだ。今日の昼飯は最後のステーキにしよう。ファミレス系のステーキ屋に行けば冷凍肉が溶けて食べ頃になっているかも。...俺って危機感無いな。こんな時に飯の心配ばかり。仕方が無い。食わなきゃ死ぬんだからな。
昨夜、コンビニで物色しながら電気が止まったらどうなるのか考えた。バッテリーで動いている携帯基地局が停まるのも、非常電源で動いているサーバが停まるのも時間の問題だ。電源さえ用意すれば手元のスマホもパソコンもオフラインで使える。今後の暇つぶしや、サバイバルのためにできる限りコンテンツを用意しよう。そう思って、コンビニで各種サービスのプリペイドカードを仕入れようと思ったたが、...決済できなかった。コンビニのPOSが死んでた。だから今食べてる朝食も決済していないんだ。不可抗力だよね。悪気はないんだ。
灯りのない部屋に帰って、パソコン使ってコンテンツを集めていた。全部クレジットカード決済だ。請求額が恐ろしいが、請求される前にシステムがダウンするはずだ。そうそう、どうせ金なんてもう使えないんだ。今使わなくてどうする。
アパートの共用有線LANは死んでたからスマホでディザリングだ。俺は金なんか持ってないから使い放題サービスなんて契約していない。途中、パケットが足りなくなったのでクレジットカードで追加パケットも買った。
しかし、そのパソコンが夜中にバッテリー切れを起こした。フル充電してあったのに。結局、あまりコンテンツを集められず、やることもないので寝たのだった。
しかし、今のところ全世界が被災しているように思える。電波が遠くまで届きやすい初夏の夜にまったく受信できないってことは誰も発信していないってことだろう。たまに聞こえるビーコンやデジタル音は機械同士が自動で通信しているだけだろう。それも電源が切れれば停まるだろう。
でも、事故に遭った人たちはダメだろうが、気を失っているだけの人が意識を取り戻すことは無いのか? サバイバル本を取り出して確認する。72時間。被災者のタイムリミットだ。まだあと30時間ぐらいある。今意識を取り戻せれば助かるんじゃないか?
しかし、病院も消防も機能していないから、体力のない人はケアしてもらえない。助かる見込みは薄いな。体力のある人ならまだなんとかなるか。
どうにかして起こしてあげられないものだろうか。声をかけても、叩いてもダメだった。電気でも流せば...生きている人にAEDを使っちゃいかんだろう。...何も方法が思い浮かばない。
考えること3時間。何もアイディアが浮かばない。腹が減った。
「よし、やっぱり最後のステーキ食べに行こう」
それとさっきから大きい方を我慢している。どこかで出さないと。
アパートの外に出て自転車に乗り、周囲に気をつけて走り出す。どこかで誰かこっちを見ていないだろうか。
そよ風に乗って異臭が漂ってきた。停まって匂いのする方向を確認する。前方の自動車事故の現場だろうか。
近づいてい見ると、2台の車に合計3人の被災者さんがいる。それぞれに血を流しているが、既にお亡くなりになっているようだ。初夏だからな。早くも腐敗が始まっているようだ。俺は目を背けて走り出した。
一番近いコンビニに入ってトイレを借りた。ここはタンク式だ。被災から誰も使っていないはずだから流せるだろう。
すっきりした。誰も居なくて良かったよ。これが普通の地震とかだったら面倒なことが一杯起きただろうな。災害対策しておけば良かった。後悔先に立たず。
それはさておき、あんな光景を目撃したのに腹が減っている。躊躇せずにステーキ屋の扉を押して中に入るとものすごい異臭だ。しまった。被災時に提供していた食材が腐ってるんだ。初夏に丸2日も放置したらそうなるだろう。この界隈ではめったに見かけないハエも何匹か飛んでいる。
「まずいぞ、これは。街中異臭とハエで不衛生になっちまう。俺も病気になるかもしれん」
それでもステーキが諦められない。人生最後のチャンスなのだから。
事務室に入ってみた。幸い無人だ。匂いも少し楽になった。棚を漁るとマスクとタオルがあった。マスクを三重にしてさらに上からタオルを当てて後頭部で縛った。すごく息苦しいがこれで匂いはすこし軽減できるだろう。
店内に戻るとレジに飴があった。帰る客に口臭消しとして渡しているやつだ。3つ頂戴して、息を止めてマスクを持ち上げて口に入れた。飴の香りがマスクの中に広がって気が紛れる。
厨房に入ってみた。被災時にはグリルに火が入っていただろうが、今は消えている。火事にならなくて良かった。
冷蔵庫を開ける。流石は業務用だ。一晩では腐敗しない。ハンバーグは食中毒になる可能性がある。一番高そうなステーキ肉を選んで取り出す。辺りを見渡すと持ち帰り用の保冷バッグがあった。これを頂戴しよう。冷凍庫には溶けかけの氷がまだ残っていた。これも入れて保冷剤にする。
ここでは臭くて食べられない。衛生上も非常に良くない。どこかに移動しよう。
アパートに戻ってもガスコンロが使えない。せっかく良い肉だし、炭火とかで食べたいな。よし、ちょっと遠いけどホームセンターに行こう。アウトドア用品コーナーにバーベキュウグリルと炭があるはず。備長炭とかあると良いな。日持ちする食料も道具も全部揃ってるじゃん。
再び自転車に乗り、30分かけてホームセンターに行った。
■49時間経過 夢の家
ホームセンターに着いた。ここはちょっと規模が小さめで、最近はライバルの大型店に押されて人気がない。照明が消えているので、窓から遠い方はよく見えないが、店内に人は少ないようだ。ひっそりとしていて、初夏だというのにちょっとヒンヤリする。
扉が開かない。停電しているんだから自動ドアが開かないのは当たり前だ。
スマホを取り出す。このエリアはまだ携帯網が使えるようだ。『自動ドア 非常時』で検索する。結果をタップしたが表示されない。どうやらサーバーがダウンしているようだ。もう時間の問題だな。
表示できるサイトがあった。『非常時は、①停電したときのままになる ②施錠する ③解錠する のいずれか。いずれの場合も内側からは開けられるので閉じ込められる心配は無い』か。いや、侵入したいんですけどね。
さて、この店の場合は...手でこじ開けてみたら意外にあっさり開いた。解錠してるのかな。
えーと、トイレトイレ。エアコン無いから水飲み過ぎた。小を流す。小便器だと水が流れない。時間が経つと匂うかもしれないが、気にすることもないだろう。
アウトドア用品売り場に向かうと、途中に食品があった。飲み物も調味料もここで調達できる。生野菜はないが、乾物の海藻を水で戻せばちょっとしたサラダになる。良いね。使えるものがたくさんあるぞ。
店の入り口に戻ってショッピングカートを持ってきた。とりあえず、昼食に使えそうなものをどんどんカートに入れる。除菌スプレーにティッシュペーパー、皿に箸にカップ、水とお茶、レトルトご飯も食べよう。
アウトドア用品売り場にはもっといっぱいある。小型のバーベキューコンロ、炭、トング、手袋...必要そうなものは片っ端からカートに入れていく。金を気にしなくて良いから見た目が良いものを躊躇なく選ぶ。これが大人買いか。買わないけど。
そうそう、ランタン。店内が暗いからな。大型の電池式を選んで、近くにあった電池を入れる。明るくなった。よく見える。
ほかに必要なものはないかな? 足りなければ取りに来れば良いだけだが。辺りを見回すとペットコーナーがあった。気になるので見に行ってみる。
犬、猫、鳥はみんな寝ていた。餌と水は残っている。餓死ではないな。確認していないが、多分鳥は事切れているだろう。あいつらは食いだめができないからな。そういう意味ではここで売られている犬猫はみんな子供だ。体力ないからもう死んでいるかもしれない。考えると憂鬱になる。気にしないようにしよう。
奥に行くと水槽が並んでいた。薄暗くてよく見えない。水槽にランタンを近づけると、なんと魚は生きている!普通に泳いでいる。よく見ると小さなエビや貝も動いている。
振り返ると水のない水槽が並んでいる。こっちは爬虫類っぽい。動きはないが、ちゃんと木に張り付いている。死んでいたら落ちるよな。
昆虫も生きているようだ。
「哺乳類と鳥類はだめだけど、魚類、爬虫類、昆虫類は生きているのか。そういえばハエもぶんぶん飛んでたな」
店の外へ出た。ガーデニングコーナーにテーブルとパラソルと椅子があった。ここで食事しよう。
ウェットティッシュでテーブルと椅子を拭く。コンロをセットしてドーム状に炭を並べて中に着火剤を置く。着火用のライターで火を点ける。後は待つだけだ。急ぐならうちわで扇いで風を送るが、今は食材を用意しよう。
バーベキューで炭に火がつかなくて困っている人っているよね。大体、熱は下から上に回るから、炭の上に着火剤を置いても効果がないんだよね。炭をドーム状に並べて、その中に着火剤を入れると、熱がもれなく炭に伝わってすぐに火がつくんだ。俺は子供の頃、おじさんとキャンプに行って教えてもらったんだ。
おじさん、どうしてるかな。もう亡くなっちゃったかな。
カップにお茶を注いで飲みながら作業する。ミネラルウォーターで海藻サラダを戻す。肉を程良いサイズにカットする。皿にタレを用意する。
焼き網が十分熱くなったところで肉を焼いていく。香ばしい。
早速一口。うまい...が、思ったほどじゃない。そんなに高い肉じゃなかったか。と思ったらタレの味だった。ホームセンターで売ってる安いタレの味に肉が負けているんだ。
そうだ。岩塩で食べよう。たしかショッピングカートに放り込んだぞ。そうそう、これこれ。
岩塩をちょっと振りかけて食べる。うーん、うまい。これだよ、これ。哺乳類が全滅しているとしたら、人生最後の生肉になるかもしれない。この先は缶詰とジャーキーになるだろうな。それもいつまで続くことか...
いかん、いかん。滅入ってどうする。今は食事を楽しもう。
たらふく食べた。うまかった。満足だ。
「さて、これからどうするか」
生存計画を立てなければならない。スマホを取り出してマインドマップアプリを立ち上げて、思いつくままに入力していく。
必要なもの - 住居(安全快適)、水、食糧、日常生活用品、エネルギー
やりたいこと - 特になし
やるべきこと - 人類救済
悲しいな。負け組だからやりたいことが出てこない。そうか、『やりたいことを探す』っていうのがやりたいことだな。ま、それは余裕ができたらやろう。
人類救済は...やっぱり無理だよな。あと20時間ぐらいがタイムリミットだ。意識を回復させる方法が解らないし、植物状態で延命させる...介護関係の本でも読めばケアの仕方は解るだろうな。病院に行けば栄養補給に必要な点滴も手に入るだろうし、医学書を見れば針の差し方とかもわかるだろうな。
でも、俺一人で何人ケアできるんだ? 自分の生活もあるんだぞ。せいぜい、一人か二人だろう。それに、誰を助ける? 親戚はおじさんの家族だけだが、移動にどれだけ時間が掛かるか解らない。自力で生き延びていることを願うほかない。
他に誰か献身的に助けたい人いるか? ちょっとした知り合いや友達ぐらいじゃそこまでできないよ。親友なんていないし、もちろん彼女もいない。
彼女か...彼女どうしてるかな。本屋の。昨日ブランケットを掛けてあげたあのままの状態でまだ寝ているんだろうな。彼女を助けてあげるべきか...
彼女のことを思い出してみる。
「いらっしゃいませ。カバーお掛けしますか? 有料のレジ袋はご利用ですか? ○○円になります。ポイントカードはお持ちですか? 駐車券をお持ちですか? ありがとうございました」
これ以外の言葉を聞いた覚えがない。外見は気になったが、性格がわからない。仮に意識が戻ったとしても、その後仲良く暮らしていけるだろうか? 意識が戻らなかったらどうする? 点滴の栄養補給だって使用期限があるからいつまでもできないだろう。衰弱して死んでいくのを看取るのか?
不確定要素が多すぎる。アニメのヒーローなら後先考えずに助けるんだろうが、それってただのエゴだよな。やれるだけやったって自己満足に浸りたいか?
やっぱり人類救済は諦めて絶滅を受け入れよう。ただ、俺は生命として個体保存に努めよう。種の保存は不可能だけど。それが自然の摂理だろ!?
よし。じゃ、まず短期的に安全快適な環境を作ろう。長期計画はゆっくり練れば良い。
まず食糧と水、日常生活用品だな。これはその辺の店にいくらでもある。俺一人なら当面問題ないだろう。とすると、調達に走り回るのが面倒だよな。なるべくまとまっている所が良い。っていうことは、今のアパートに住み続ける必要性はないってことだ。だいたい満足してないしな。暑いとか寒いとか隣がうるさいとかボロいとか不満ばかりだ。家賃の安さと有線LAN以外にメリットがない。
LANは使えないし、もう家賃がいらないから便利なところに住み替えよう。マンションはないな。電気も水道も使えないから。戸建てもどうだろう。住人がいる家を乗っ取るのは気が引けるからな。住宅展示場のモデルハウスだったら住みやすいかなぁ。最新だし。でも、物資を調達するにはそれなりに移動と運搬が必要だよな。
いっそ、ホームセンターに住むか。そしたら物資はすぐに取り出せる。でも、この店はちょっと小さいから扱ってる商品が少ないんだよな。ああ! 2Kmぐらい先のホームセンター系ショッピングモールが良いな。あそこなら衣類に家具、電化製品なんかもあったな。屋上で太陽光発電やってなかったかな? それがあれば電化生活ができるぞ。よし、俺史上最大の邸宅を作ってやる。まだ昼過ぎだ。今日中に寝床を作ろう!
そうと決まったら残ってる肉をもう少し食べよう。既に腹一杯だが、これが最後だからな。倒れる直前まで食っておくぞ!
■54時間経過 寝床
いったんアパートに帰った。大概のものは新しく調達すれば良いが、やっぱり捨てられない大切なものもある。俺の専門のITに例えれば、ハードはいくらでも替えがあるが、データは失ったら二度と戻らん、ってことだ。
後で見たくなるかもしれない本や写真が入ったCDとかDVDとか、一応とっておこうと思う。今運ぶのは大変だから、劣化しないようにプラケースに入れて、ホームセンターから持ってきた除湿剤をたっぷり入れる。蓋をしてビニールテープでがっちり塞いでおけば2,3年は大丈夫だろう。
手持ちの荷物はパソコンと昨日調達した本、それに局長から拝借した無線機だけだ。
今度はちょっと遠いからバイクで行こう。自転車もホームセンターにあるから必要なら新車を頂戴すれば良い。
普段から交通量の少ない道を選んで行く。途中、大通りを横断するときに気がついた。すぐそこにバイク屋がある。乗り換えよう!
このバイクは250ccのロードスポーツだ。舗装されたきれいな道を移動するには便利だが、障害物を避けるために道なき道を行くっていうのは苦手だ。オフロード用のバイクなら楽なはずだ。乗ったことないけど。
バイク屋さんに行くとたくさんバイクが並んでいた。いや、並びすぎていて奥のバイクを引っ張り出すにはその手前にある何台ものバイクを移動しなければならないぞ。そりゃ大変だ。外側に手頃なのがないかな。
あった。125ccのオフロード。またがってみる。今までより軽い。方向転換も楽そうだ。
あれ、これ売り物じゃないな。店内で倒れているお客さんのバイクか。
店内に入って倒れているお客さんに声をかける。
「済みません。あなたのバイク、頂戴します」
キーはどこかな。ショルダーバッグの中...にはないか。俺はいつもズボンの前ポケットだな。
「ちょっと失礼しますよ」
体を横向きにしたが、ちょっとためらう。男のズボンだからな。意を決してズボンの前ポケットに手を突っ込む。無い。反対側か? 体の向きを変える。反対側のポケットに手を突っ込む。あった。これだ。
この人もバイク大切にしていたかもしれない。大切なものを盗んじゃいけないよな。
「よかったらこれ、受け取ってください」
俺は自分のバイクのキーを握らせた。交換することで罪悪感を減らそうと思う。ただの自己満足だとはわかっているが。
オフロードバイクは今までと比べるとエンジンの回転数が高くなりがちだ。エンジン音はちょっとうるさいし、振動も大きい気がする。でも、軽くて小回りがきく感じだ。あとで本屋に行ってライディングテクニックを調べよう。
本屋...いかんいかん、もう考えないようにしないと。
目的のホームセンター系ショッピングモールに着いた。今日の目標は快適な寝床の確保だ。まずは照明を用意しよう。まずはアウトドアショップに行く。ここの自動ドアは施錠されていた。まあそうだよね。盗まれそうだもの。
裏口に回ってみた。従業員用の出入り口がある。ドアノブに手をかけると開いた。ラッキー。
中に入るとそこは事務室で、店員さんが椅子に座って寝ていた。一声かけて店に入る。ほかにも店員さんが床で寝ていたが、お客さんはいないみたいだ。正面入り口に行って自動ドアをよく見ると鍵ノブがあった。これを回すと...手で開いた。よしよし。次来るときのために鍵は開けておこう。
電池式ランタンと電池をたっぷりカートに入れて、家具屋に行く。家具屋の自動ドアは開きっぱなしだった。風雨が入ると嫌なので、逆に手で閉めた。
店内は結構広い。窓がないので入り口からちょっと入ると暗くて何も見えない。大型家具の売り場は2階だ。カートを1階に置き、ランタンを一つ点けて停まっているエスカレーターを上っていく。
ベッドだけでも30台ぐらいある。一番寝心地の良いやつで寝よう。値段を見て高そうなやつから寝転がってみる。
そっか、今までせんべい布団で寝てたからな。ふかふかのベッドはどうも落ち着かない。悲しいな。いくらでも贅沢できる身分になったっていうのに、簡単には変われないものなんだな。とりあえず中くらいの値段のほどよい堅さのベッドで寝ることにして、高級ベッドで寝られるようになることを目標にしよう。
決めたベッドの周りにランタンを並べて、寝具売り場から適当な枕とブランケットを持ってきて準備完了だ。出入り口までの要所要所にもランタンを置いておこう。電池は大量にあるが、交換が面倒だからなるべく暗くしておく。
寝床はできた。次はこのショッピングモールの探索と物品の調達だ。何度か来たことがあるが、どこに何があるのかざっくり把握しておく必要がある。
家具屋の隣の服屋に入る。ここの自動ドアも鍵がかかっていない。楽ちんだ。
これからは洗濯なんかしない。どんどん新品に着替えるんだ。下着類をカートに入れて、室内着としてジャージも調達。
次はさっき行ったアウトドアショップにもう一回行く。やっぱり服とか靴はアウトドア系が機能的で良いよな。ブランドもののパンツやシャツ、トレッキングシューズ、リュック、帽子、ソックスも揃える。試着なんてしない。一度着てダメなら捨てるだけだ。そもそもそんなに着続けるつもりもないしな。あとはタオル類は多い方が良いよな。
そうそう、サンダル。家具屋の店内を裸足という訳にはいかないし、いつも靴履いてられないよな。アウトドアサンダルならそのまま外に出ても良いしな。
「そういえば天気はどうなんだろう?」
もう天気予報は見られない。今日まで雨は降らなかったが、雨の日も動く必要があるかもしれない。カッパやリュックのカバーなんかもカートに入れた。早くもカートが一杯になってしまった。いったん寝床に運ぶ。
次はホームセンターだ。ここはいろんなものがあるからな。端から全部見て何が売られているのか知っておこう。
木材、ちょっとした建材、工具、作業服、カー用品、事務用品、家の中で使うもの山ほど、家具とかカーペットとかもある。覚えきれないな。
災害対策コーナーがあった。長期保存の水と食料、これは普通の食品が食べられなくなってからで良いな。非常用電源。太陽光で充電してスマホが使える。100Vも出力できるからパソコンも使える。これは必要。非常用トイレとか保温用のアルミブランケットとかは要らない。
とりあえず、水とお茶とインスタントコーヒー、3日分ぐらいのインスタント食品とレトルト食品に缶詰、菓子も少し持って行こう。どれもこれも普段買わないハイクラスを選ぶ。
酒はいいや。貧乏だから酒飲む習慣がないから。飲み慣れていないからあまり美味いとも思わないんだよね。酒は腐らないから、心底飲みたくなってから始めても良いだろう。
そうだ。お湯を沸かさなきゃ。インスタント食品にはお湯が必要だ。電気は使えないから、カセットコンロとやかんと鍋を持って行こう。ああ、食器も必要だ。
時計売り場があった。そうだな。時計も要るな。家具屋の2階は窓がないから朝か夜かわからないかも。スマホ頼りも何だし。アナログの目覚まし時計を持って行こう。
水道が使えないからな。石けんよりもウエットティッシュの方が良いな。歯ブラシと歯磨き粉ぐらいは持って行くか。ミネラルウォーターで磨こう。
家具屋に戻る頃には日暮れが近づいていた。ずっと気が張り詰めているから忘れていたが、そういえば昨夜は睡眠不足だった。飯食ってさっさと寝よう。