天才など不要
その男は希代の虚けと蔑まれた。
何をするにも愚図で鈍間。
要領が悪く、乞音の酷い喋りは人を苛つかせる。
「おいっ、木偶。さっさとしろ」
「おいっ、木偶。こんなことも出来んのか」
馬鹿にされる日々だが、男は愚直に真面目に毎日毎日、笑顔を浮かべて働いていた。
困っている人を見れば手を差しのべる。
「木偶、あんがとよ。助かった」
感謝されると、舌足らずな喋りでエヘヘと笑う。
しかし、そんな助けた者も三日もすれば、また男を馬鹿にした。
それでも、腐ることなく男は毎日毎日頑張っている。
ある日、森に入った男は野盗の集まりを偶然と見かける。普段は走ることもない男は転がるように、いや事実、何度も転がりながら村へと戻り、里長に野盗が群れなしている。襲ってくるかもしれんと訴えた。
だが、如何せん儘ならない喋りだ。苛々した里長は良く聞きもせずに追い返す。
男は方々で備えなければと訴えかけるが、相手にされない。
男は一人、森と里のあいだに陣取ると、たどたどしい動きで焚き火の準備をし、柵をおき、待ち構えた。
森から野盗が蠢きだす。
男は頭から水を被るとあちこちに仕掛けた焚き火に油をかけては火をつけ、自らも燃え上がりながらも野盗へと躍りかかる。
野盗たちはあちこちにあがる火の手に驚き、燃え上がりながらも襲いくる妖魔のような男に怯えて逃げ出した。
男は野盗が逃げるのを見て、焚き火が森にも里にも燃え移らないことを神に願って眠りについた。
「木偶と呼ばれた男よ、お主の魂に報いよう。才の溢れる生を約束しよう」
眠りについた男にそんな声が聞こえてくる。
「お迎えかー。そんなことより、里のもんと森の生きもんのために火を消しといてけろ」
「あー、火はもう消した。里は無事だ。野盗も二度と里を襲わない。だが、お主の功は報いられることがない。魂は流転するのだ。功に報いて因果によって、才のある者に生まれ変わらせよう」
暖かい風に包まれて、全身の痛みも消えた男は、ふわふわとした感覚のなか、乞音もなく、淀みなく喋れたなーなんて思いながら、笑った。
「おいらは愚図で鈍いけど、それでいいんだ。神さんから貰う天の才なんて、いらんべな。そんなもんあっても、おいらじゃ何にも役に立てられん。おいらは地に足つけて真っ直ぐ歩くだけ、死んだおっかぁがお天道様に顔向けできんことするなっていってべな」
神様は男の尊さにただ微笑んで、男を天に召されたのでした。
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