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婚約

「サミエル卿は忙しいらしく、なかなか時間がとれないみたいだったが、今日やっと王宮で会って話してきた」


 数日後、帰宅した父がそんな情報を仕入れてきた。


「実は、この話は国王陛下から内々に打診されたものらしい」


 予想もしない高貴な存在にルーシェは目を丸くする。


「国王陛下、からですか? どのような理由だったのでしょうか?」

「私たちハイゼン家の祖先が、元を辿れば王族だったようだ。陛下は傍系の遠い親族である私たちの現在の境遇を耳にされ、何か力になりたいとお考えだったらしい。そのため、サミエル卿はルーシェとの結婚を勧められたようだ」

「そうだったんですね。陛下からのお言葉なら私どもはお受けしない訳にはいきませんね。ですが、その理由をお聞きしても、やはりサミエル卿には何も利点がないように感じますが」


 陛下に無理やり結婚を押し付けられた感じだ。


「私の勝手な憶測だが、陛下はサミエル伯爵家の力を抑えたい意向があったのかもしれない。最近あの家の景気の良い話をよく聞くからな。これ以上力を付けられては脅威になると思われたのかもしれない」

「まぁ、陛下は私にサミエル伯爵家のお荷物になれと? それではサミエル卿はなんとおっしゃっていたのですか?」

「サミエル卿は陛下に恩を売れると言っていた。なによりもルーシェと婚約すれば、他の家から結婚話は来なくなるとも」


「それはつまり私は、ていの良い風避けだと?」


 お飾りの妻になれと、遠回しに彼は言っていたようだ。どうやら彼は積極的に結婚できない理由があるようだ。


「愛を期待されても困るが、きちんと正妻として遇すると彼は言っていたが……」


 父はとても言いにくそうで歯切れが悪かった。

 正妻の身分を与えるから、何も文句を言うなと、言われたようなものだ。


「分かりましたわ。結婚前に包み隠さず教えてくれて、かえって潔くて好感が持てますわ。彼も巻き込まれて迷惑でしょうに。サミエル卿の求婚、是非お受けしたいと思います。ですが、婚約をしたあと、結婚まではなるべく待っていただきたいのです」

「どうしてだ?」

「なるべく、弟の側についていてあげたいんです」


 角の立たない理由をきちんと用意しておいて助かった。

 本当の理由は、結婚したら彼までも貧乏になるからだ。呪いなんて、そんな突拍子もない話をいきなり信じてもらえるとは思ってもみなくて、正直に話せなかった。

 求婚の話を聞いた直後、妖精たちに相談したら、結婚の約束だけなら大丈夫だと言っていた。

 今でさえ何も指輪の手掛かりがなく、探索を始めてから二年経っても全然見つかっていない。

 結婚までの猶予期間は、長いほど良かった。


「そうだな。仕事で私が不在がちだからな。サミエル卿にそのように要望を伝えておこう」

「お父様、よろしくお願いします」




 それから父はサミエル卿との打ち合わせだけではなく、数日かけて彼の身辺を聞き出して調べてくれたようだ。

 それも帰宅後にルーシェに教えてくれた。


「どうやら彼には想い人がずっと前からいるようだ。王宮の女官で彼に告白した女性がいたようだが、それを理由に断っていたらしい。他にも同じ理由で、女性からの誘いを断っていたらしい」

「お父様、それはいつの話ですか?」

「数年前の話から、最近のものまであったぞ」

「なるほど」


 想い人がいるが、正妻にするには難しい身分のようだ。だから、ルーシェというお飾りの妻が彼には都合が良かったようだ。


「まぁ、それは予想の範囲の噂だったのだが、もう一つ彼に関する妙な話を聞いた」

「まぁ、なんですか?」

「彼は呪われているらしい」

「まぁ、呪いですか?」

「ああ、詳細は私も分からないが、そういう噂もあった」


(彼も呪われているの!?)


 同じように呪われているルーシェにとっては、重要な噂話だった。是非、噂の真相を知りたいと強く思った。


「王宮に提出する婚約申請の書類に署名する必要がある。そのときにルーシェにも同行してもらう」

「まぁ、そこで初めてサミエル卿にお会いできるのですね」

「すまない、顔も知らない相手に嫁がせることになって」


 父の表情から苦渋を感じたので、ルーシェは慌てて笑みを浮かべた。


「お父様、貴族ではよくあることですわ。気になさらないで」



 §



 数日後、サミエル家の馬車が廃墟同然のハイゼン家に迎えに来てくれて、やっと相手と対面することとなった。


「初めましてハイゼン子爵令嬢。私があなたに結婚を申し込みましたウィリアム・サミエルです」


 お昼過ぎ、ルーシェは相手の屋敷で出迎えてくれた若い男性を見て、緑の目を丸くした。


 艶のある短い銀髪。綺麗な切れ長の碧眼。見覚えのある美しい容貌。何度見返してもルーシェをいつも追いかけてくる副団長その人であった。

 彼の名前を初めて知った。


 陽が出ている中で彼を見て気づいたが、彼の目の下には濃い隈があった。そのせいで、吊り目がちな目つきがさらに鋭い印象になっているようだ。


「あの、初めまして。ルーシェと言います。今日はお忙しい中、お会いくださり、ありがとうございます」

「いや、気にすることはない」


 まさか知っている人が来るとは、微塵も思っていなかった。


 相手からもまじまじとルーシェは見つめられている。

 まさかバレたのだろうか。

 髪や瞳はよくある色だから、特定はされないと思ったが、予想外すぎる展開に気持ちが全然落ち着かない。


 失礼のないようにドレスを従姉から今日だけ借りて着ていた。しかし、家に鏡がなくて全身を確認していないから、変なところがないか今になって気になってくる。


「では、ハイゼン卿、子爵令嬢、中へどうぞ」


 屋敷の中を案内されて、冒頭のように彼と契約するに至ったわけだった。


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