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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そしてヴィランは斯く嗤う

【キャラクター】

◆ノイン(年齢:15歳):一見弱々しい少年。しかし、時折荒々しい人格へと変貌する。


フィーア(年齢:13歳):お嬢様気質でいつも強気な少女。自己中心的な一面も持つ。


▲ゼクス(年齢:26歳):一見普通な、眼鏡をかけた紳士。

     しかし、人を蹴落とす際のコミュニケーションでしか、自身の孤独を埋められない。


●ドライ(年齢:24歳):妖艶な雰囲気を醸し出す女性。女王様気質。他人を道具のように扱う。


★ツヴァンツィヒ(年齢:18歳):気性の荒い青年。戦闘狂だが、物事を冷静に判断することもできる。


●ヌル(年齢:16歳):無口な少女。セリフはほぼ無い。ドライと被り役。セリフ数:5セリフ


◆少年:記憶の中の少年。ノインと被り役。セリフ数:9セリフ


▲父:記憶の中の父。ゼクスと被り役。セリフ数:3セリフ


●母:記憶の中の母。ドライと被り役。セリフ数:2セリフ


▲研究員1:謎の組織の研究員。ゼクスと被り役。セリフ数:5セリフ


★研究員2:謎の組織の研究員。ツヴァンツィヒと被り役。セリフ数:5セリフ


●ニュースキャスター:最後に登場する。ドライと被り役。セリフ数:1セリフ


(名前の前の●や★などのマークは、兼ね役の検索をしやすくするためのものです。)




【配役表】



◆ノイン/少年(♂♀):

フィーア(♀):

▲ゼクス/父/研究員1(♂):

●ドライ/ヌル/母/キャスター(♀):

★ツヴァン/研究員2(♂):




【台本について】


・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan


・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。


・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。


・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。




  ~~~~シーン①~~~~




  とある荒野。6人の男女が立っている。

  それぞれ同じ手錠で拘束されていた。



▲ゼクス:……はてさて。やっと地上の空気を吸えたと思ったら。

次もまた、楽しい殺し合いになるんでしょうなぁ。これは。


フィーア:あははっ! まだまだヤれるのね! うれしい!! 

次にあたしに殺される奴はどいつ? そこの眼鏡男? それともそこの女子高生?


▲ゼクス:おやおや勘弁していただきたい。私は戦闘向きの能力ではないのでね。


●ドライ:あらあらぁ。盛んね。はなはだ風情に欠けるけれども。


フィーア:はぁ? なに? うっさいケバ女。あんたから先に殺すよ?


◆ノイン:な、なんだようもう。い、嫌だ嫌だ嫌だ……。無理、怖い。

みんな目がギラギラしてるじゃないか。

む、無理だよ、生き残れないよ。どうせ僕が最初に死ぬんだよ……。


●ドライ:弱気ねぇ。それとも、そう見せることでこちらの油断を誘っているのかしらぁ?


▲ゼクス:そうかもしれませんな。なにせ、30を超える異能力者を皆殺しして生き残った猛者ですから。

とはいえ、今この瞬間に殺されることはないのは救いでしょう。ありがたいことです。


フィーア:ほんとに! この手錠、まじでうっざい!

異能を発動しようとしてもウンともスンともならないし!


◆ノイン:そ、そうなんだよね……。がんばっても腕から外せそうにないし。

多分、手錠に表示されてるカウントダウンがゼロにならない限り外れないんだと思う。


▲ゼクス:成程。では、後10分経たなければ能力は発動できないというわけだ!

であればちょうどいい! 最初の殺し合いを生き抜いたそれぞれを称えるという意味でも、

自己紹介をしようではないか!


フィーア:は? なにそれ意味不明。


●ドライ:いいんじゃなぁい? 別にいいと思うわよぉ?

ただ、お生憎様あいにくさま。手の内を喋るつもりはないから、そのつもりでぇ。


▲ゼクス:もちろんだとも! どんな異能なのか分かってしまえば、それは自身の弱点へと繋がる!

この場で付け入るスキを見せてるということは、それすなわち、死!!

わかっている、わかっているとも……ッ!

ただ私は、過酷な人体実験を乗り越え、異能を手に入れ!

そして凄惨な殺し合いを生き残ったッ!!

そんなヴィランの卵達の名を、胸に刻みたいだけなのだ!


◆ノイン:な、なんか、そういうのノリじゃない……。


フィーア:あたしも、そこのガリガリに同感ー。そのノリうっざい。

……あんたらはどう思ってるわけ?


★ツヴァン:…………。


●ヌル:…………。


フィーア:おーい、そこの女子高生とお兄さんに言ってるんだけどー。


★ツヴァン:……。別に、どっちでもいい。


▲ゼクス:強制はしない! 好きに語るがいい!

……では、私から。

私は、被験者番号666。本名はとうに捨てました。なので、ゼクス、とでもお呼びください。

エリア8の選別を生き残り、ここに参上しております。以後、お見知り置きを。

それでは、次。ダウナー系の少年、どうぞ。


◆ノイン:あー……。ぼ、僕は、皆がやるってんならやるよ。最後に回して。

そこの女の人、お、お先にどうぞー。


●ドライ:うふふ、恥ずかしがり屋なのかしらぁ?

私は被験者番号3333。……そうねぇ、ドライ、とでも名乗っておきましょうか。

エリア7を生き抜いたわ。特に話すことはないけれど、折角せっかくだし先に謝っておくわねぇ。

今回も生き残ってしまうけれど、ごめんなさいね?


フィーア:はぁ……? なにそれ、勝利宣言? 死んでほしいんだけど。

あたしは、被験者番号654。フィーアって呼んで。

エリア6の雑魚をみぃーんな、ブッ殺してここにいる。

っていうか、自己紹介はノってあげたけど、ぶっちゃけあんたらの事なんか微塵も興味ないから。

だってどうせ、あたしがみんな殺すわけだし?

さっきあの“おばさん”がなんか言ってたみたいだけど、あたしが全員踏み台にしていくから。

そのつもりで。


●ドライ:あらあら。んふふ…………。


◆ノイン:(溜息)。まったくだよまったく。どいつもこいつも殺意ばら撒いて……。

ほんと、い、嫌になっちゃうなぁもう。


▲ゼクス:はっはっは! よろしいことだ。我々ヴィランはくあらねば。

フィーア嬢の言う通り、所詮しょせんこの殺し合いもただの踏み台。

殺し、生き残り。

おのれの存在を確立して初めて、ヒーローと対峙する資格を得るわけだからね。


フィーア:資格ぅ? そんなことはどうだっていいし。ヒーローと戦うことに執着なんて微塵もないし?

あたしはただ、世界を殺す。そのためにはどんな手段も苦労もいとわない。そんだけ。


◆ノイン:ど、同感。僕も正直ヴィランがどうとかヒーローがどうとか興味ないよ。

ただそれぞれが、違う思いを抱いてヴィランとしての力を得ようとしているわけだし。

……ま。強い執念がなきゃ、こ、ここまで生き残れなかっただろうけど。


▲ゼクス:そうだともそうだとも!

どん底にいた我々に届いた1枚の手紙! そのしるべに従い、我々は異能を手に入れた!

しかしただ、力を持つだけではヴィランたり得ない。


●ドライ:だから、1000人にも及ぶ人間をお互い殺し合わせ、最強の一人に絞る。


◆ノイン:そして、ヴィラン組織はそいつが暴れることで裏社会での名声と地位を得る。


▲ゼクス:その報酬として、生き残った者は莫大な富と、強靭なバックアップを与えられる!

ヴィランは、おのが欲のままに好き放題暴れることができ、組織はそのおかげでのし上がれる。

まさしく、ウィンウィンの関係ということですな。


◆ノイン:だ、だからこそ、僕たちは殺し合う。それぞれが叶えたい願望を追って。

まぁ、だとしても。誰がどんな想いでこの殺し合いに参加したとしても、

ぼ、僕にはどうでもいいことだけどね。

“……クハハ。ぶち壊し、踏みつぶす”。


フィーア:あははっ! いうじゃないガリガリ。最初はナヨナヨした奴かと思ったけど、見直しちゃった。


◆ノイン:……ど、どうも。


フィーア:んで? そろそろ自己紹介に戻らない? 次はそこの女子高生、あんたよ。


●ヌル:……ヌル。エリア2から来た。


フィーア:……。


●ヌル:……。


フィーア:……えっ、それだけ? なにそれ、つまんない奴。まぁいいわ。あんたは?


★ツヴァン:……エリア1から来た。被験者番号20、ツヴァンツィヒ。

慣れ合うつもりはない。全員殺す。それだけだ。


◆ノイン:け、血気盛んだなぁもう。こ、ここでバチバチしても効率悪いだけじゃない?

……さて。最後は僕だね。被験者番号979、ノイン。

しょ、正直殺し合いなんて面倒だけど、しょうがないよね。皆、踏み台になってよ。よ、よろしく。


●ドライ:どいつもこいつも似たり寄ったりねぇ。

……さてぇ? 戦闘開始まであと5~6分くらい? あんたらは好きにしたらいいわ。興味ないし。

私は私で好きに動かせてもらうけど。


フィーア:なにするつもり?


●ドライ:気付かない? 最初の殺し合い、全員開始地点がバラバラでのスタートだった。

少なくとも、私のところはね。でも今回は何故か、全員一纏ひとまとめにされている。

……それってつまり、こういうことなんじゃぁないのぉ?



  ツヴァンツィヒにしなだれかかるドライ。



★ツヴァン:チッ。……何のつもりだ。


●ドライ:ねぇ、ツヴァンツィヒ。私と組まなぁい? 私なら、こんな奴ら瞬殺よぉ?


フィーア:はぁっ!?


●ドライ:あははっ!! おこちゃまには思いつかなかったかしらぁ?

見るからにあなた、青臭そうだもんねぇ?


フィーア:な……っ! なにそれ!? さっきの仕返しのつもり?


●ドライ:そんなことはないわよぉ?

ただ、威勢よくケンカ売っといて、真っ先に死ぬあなたの顔が見たいと思っただけぇ。

そっちのガリガリのぉ……。ノイン、だっけ? その子とでも組めばいいんじゃなぁい?

お似合いだと思うわぁ……?


フィーア:こ……のっ! クソあまぁ……ッ!!


●ドライ:あはははっ! いい顔よ、がきんちょ。


▲ゼクス:なるほどなるほど! 実に聡明! 実に狡猾だ!

確かにドライ嬢の言うように、私のところも全員別々の地点からスタートでした。

つまりは、少人数であるからこそ、化かし合える。そういうことなのだろう!


●ドライ:私たちが言われたのは、“最後まで生き残れ”。それだけ。

別に徒党を組んじゃダメってのは、言われてないからねぇ。


フィーア:うっざ。勝手にやってれば? あたしはパス。別にあたし一人で何とかなるし。


★ツヴァン:同感だ。アンタと組むメリットも見えねぇ。組むデメリットはあってもな。

別に女に殺られるタマでもねぇが、下手打つ道理もねぇんだよ。


●ドライ:もう一手、頭を回してよぉ。あなたの言っている事は、私にも言えるのよぉ?

それでもなお、私は手を組むことを提案した。

それは何故か。デメリットを遥かに上回る勝算があるからよ?


★ツヴァン:勝算だぁ?


●ドライ:そう。……しょ、う、さ、ん。



  ツヴァンツィヒの首に手を回すドライ



●ドライ:(ささやく)どう転んでも、私ならあの中の二人は食い殺せるわ。


★ツヴァン:……どうして俺にそこまでこだわる。


●ドライ:(ささやく)どこか、似てるのよ。あなた。私のパパに。


★ツヴァン:……。


●ドライ:ふふふ。(ささやく)そ、れ、に。乗ってくれれば、私の能力を教えてあげる。

……どう? いい取引じゃない?


★ツヴァン:……。



  間



★ツヴァン:(深く、深く、息を吐く)




  ツヴァンツィヒの手錠が、細かく振動する。




◆ノイン:……え? な、何、この音。


▲ゼクス:なにか、カタカタと……。あぁ! ツヴァンツィヒ殿の手錠が!!


★ツヴァン:協力? 連携? 戮力りくりょく? 団結?

ハッ! クソ喰らえだなぁ!? あぁ胸糞悪い胸糞悪い!

仲間、友人、親友、恋人、家族!

いくら親密でいようが、そん中にでさえ裏切りは潜んでるっていうのによォッ!?


◆ノイン:うわっ!!


▲ゼクス:手錠が、爆発した……!? なんと! 異能の封印をこじ開けたというか!


★ツヴァン:考えりゃ簡単だ三下ァ……。

内から外へ放たれる力を抑制してんなら、内だけで解決させりゃぁいい。

とはいえ。手錠の壊し方が分かったからってテメェらには後はねぇんだがな。


●ドライ:は? 何言って──、うぐっ……っ! 首が……! 離しなさいよっ!


★ツヴァン:言ったよなぁ? 慣れ合うつもりはないってよ。


●ドライ:手錠を壊すなんて、ルール違反……!


★ツヴァン:何言ってんだ。お前も言ったろ?

この殺し合いのルールは、“最後まで生き残れ”だけだってなぁ?

手錠の脆弱性ぜいじゃくせいに気付けるかどうかも、殺し合いの範疇はんちゅうなんじゃねぇか?


●ドライ:や……、やめて……ッ!!


★ツヴァン:真相は闇の中にハイドアファクト



◆ノイン(M):刹那せつな。まるで花火みたいに、ドライの上半身が散った。

彼女の下半身が、力なく崩れ落ちる。糸の切れたマリオネットのようだった。

彼女だったモノの周りに、鮮血が飛び散っている。その景色は、深紅の向日葵を彷彿とさせた。



フィーア:あーあ、きったないなぁ。服に血が着いちゃったじゃん。


▲ゼクス:みんな血まみれですなぁ。とはいえ、これはのほほんとしている場合ではないのでは?

もしかして私ら、大ピンチ?


◆ノイン:ち、血だ……。あはは、血だぁ……。くひひ。くひひひ……。

“あぁ、うめぇうめぇ。女の血は格別だァ……! だが、足りねぇなぁ! もっと寄越せよぉ。”


フィーア:きっも。死体見てトチ狂っちゃったわけ? そんなん何十人も見てきたでしょ。


▲ゼクス:とにかくここは、戦略的撤退です!


フィーア:そうねー。あっちは能力使えるけど、こっちの手錠はいまだ健在。

癪だけど、ここは引くしかなさげ。


★ツヴァン:させると思うかよ?


▲ゼクス:げ。やば。


◆ノイン:“ヒャハハハッ! いやいや残念させてもらうぜぇ?

引導者からの贈呈グリムリーパーギフト!! そらそら! 足元をご注目っ!

ついでにこれも、俺からのプレゼント! そらよッ!


★ツヴァン:ちっ、手錠……? なるほど、テメェも考えは一緒だったってわけか。

そんで、足元からわらわらと泥人形……。時間稼ぎにはもってこいの異能だなぁ?


◆ノイン:“ほらほら! 行くぜ嬢ちゃん! 正直ゴーレムもいつまでもつか分かんねぇからよ!”


フィーア:あっ! ちょ、ちょっと! 気安く触んないで!


◆ノイン:“はいはい、おしゃべりはまた後でな! 黙っとかねぇと舌嚙んじまうぜぇ!?”


▲ゼクス:おぉ、僥倖ぎょうこうですなぁ! 私どもも退散しましょう!

さぁさ、ヌル嬢も行きましょう! ここは協力して、奴に備えたほうが得策!


●ヌル:あ……あぁ……。


▲ゼクス:(独り言)ふむ。使い物になりそうもありませんが。まぁいいでしょう。

それでは! また会いましょう! ツヴァンツィヒ殿!



  間



★ツヴァン:あー、クソ、めんどくせぇ。この土人形、30は余裕でいんじゃねぇのか?

ま、暴れられるなら何でもいいか。

さてさて、やりますかねぇ。鬼さんこちら、手のなる方へってか……!?




  ~~~~シーン②~~~~




  小高い丘。

  ゼクスとヌルの二人が走ってくる。



▲ゼクス:ふぅー。いい運動になりましたねぇ。

なるほどなるほど、異能を無効化させる手錠を攻略して見せますか。それも、誰よりも早く。

あのツヴァンツィヒという男、なかなかどうして頭が回りますねぇ。



  ゼクスとヌルの手錠が、時間超過により外れる。



▲ゼクス:……おや。噂をすれば。やっと手錠が外れましたか。

これで異能を思う存分使えるわけですが……。


●ヌル:うぅ……、あぁ……。


▲ゼクス:しかしこの少女。フィーアという子よりは使えそうと判断して連れてきたはいいものの……。

先ほどからまるで魂を抜かれたかのようですね。

これで先の殺し合いを生き抜いたというのだから驚きですが、果たして使い物になるのでしょうか。


●ヌル:あぁ……、ああぁぁ……。


▲ゼクス:ムムム? 正気を失っている……、というよりは、自我が崩壊しているような気が……。


●ヌル:ああぁぁあああぁぁあああっ!!!!


▲ゼクス:おわっと!! 急に藻掻もがきだした! 自発的な発作?

ふーむ……。いやこれは、外的要因な気がしますなぁ。精神汚染系の異能?

だとしたら、誰が……。


●ドライ:あー……。征服、完了ぉ……。

いやー、危なかったー。派手にぶちかましてくれなかったら死んでたわね、私ぃ。


▲ゼクス:おや? おやおや……? 急に雰囲気が……。


●ドライ:あはっ!! やっぱりいいわねぇ、若い体は!!

見た目は好みじゃなかったけど、なかなかいいじゃない、これ。

意外と鍛えられてるし、能力も申し分なし!

さぁて、ともかくまずは、ツヴァンツィヒをどうなぶり殺してやるかだけどぉーーーー。

……あれ?


▲ゼクス:……む?



  ピタリと視線があうゼクスとドライ。



●ドライ:あー……、そういうことぉ……。それはちょっと、都合が悪いわぁ……?


▲ゼクス:どうもどうもごきげんよう! まずはその殺気を収めていただけるとありがたい!

何度も言うが私は戦闘向きの異能ではないのだ。君とここで争うつもりは毛頭ないよ、ヌル嬢。

──いや。こうなってしまっては、“ドライ嬢”と呼んだ方が正しいかね?


●ドライ:ふふふ……、好きに呼んでくれて構わないわぁ。


▲ゼクス:ではドライ嬢。察するに、君は精神転写能力の持ち主のようだね。

特定の条件を満たした相手にのみ乗り移ることができる、そういう能力とみた。


●ドライ:ご明察めいさつよぉ、眼鏡紳士さん。


▲ゼクス:そして、その条件についてはいくつか考えられるが……。考えられる一つは、ドライ嬢の死。

生きているうちは発動できないが、死ぬ瞬間に発動できる異能であると考えられる。


●ドライ:あらあら、どうしてぇ?


▲ゼクス:手錠は自身の中から外へ能力を働かせるのを抑制させるが、

自身の中で異能を処理する分には効果を発揮しない。それはツヴァンツィヒ殿が証明した。


●ドライ:えぇ、そうねぇ。


▲ゼクス:しかし、君の異能“精神転写”は自身の魂を移す。

自身の中で発動する能力だから、手錠の効果を受けないわけだ。


●ドライ:まるで名探偵ねぇ、ゼクス。とてもヴィランとは思えないわぁ?


▲ゼクス:頭の回転が速いこともまた、ヴィランには必要さ、ドライ嬢。

以上から考えられるに、君は死ななければ異能を発動できない。

そして、もう一つ。君は、“女性にしか魂を転写できない”。……違うかね?


●ドライ:あははっ!! どうしてそう思うのかしらぁ?


▲ゼクス:簡単な推測だよ。あの中で、なぜ転写先にヌル嬢を選んだのか。それを突き詰めればいい。

私ならば、転写先はツヴァンツィヒ殿一択だ。合理性を考えるならね。

彼は成人女性を軽々と持ち上げる腕力があった。体つきからも身体能力は相当高いと伺える。

それに、一瞬で上半身を爆散させてしまえる異能も強力だ。


●ドライ:あの異能、痛みを感じる暇もなかったわ。その点については感謝ねぇ。


▲ゼクス:しかし、そんな強大な異能を持つ彼を選ばなかった。

あえて、と考えるのはいささか難しい。

そうなると、何らかの制限があった、と考えるのが自然だろう。


●ドライ:なるほどなるほど。……大正解よぉ。なかなかどうして、勘もいいのねぇ。

いや、だからこそ。“あなたはここで仕掛けられない”。そうよねぇ?


▲ゼクス:──ご明察、ですなぁ……。


●ドライ:あははっ! やっぱり気付いているのね!

私のは、ただ精神転写をするだけの異能じゃない。“精神転写した相手の異能も使える”のよ。


▲ゼクス:そして、いまドライ嬢が乗り移っている相手────ヌル嬢の異能は未知数。

ここで仕掛けるのは最善策ではない。わかっていますとも。

しかし。そんな私だからこそ、あなたの考えていることも分かるというものです。ドライ嬢。


●ドライ:あらあら、命乞いかしらぁ?


▲ゼクス:んふふふ。何をご冗談を。“交換条件”の間違いでしょう、ドライ嬢。

そもそも、今この場で私が生きている事そのものがおかしい。

何故あなたは、能力を暴いた私を生かしておく? 考えられるのは2つだ。

1つは、ヌル嬢の異能が、私を殺せるに至るものではなかった。

そしてもう1つは、私を殺せるとしても、ツヴァンツィヒ殿に届くほどの能力ではなかったか。

どちらにせよ、あなたの思惑は一つだ。自身に有意な状態を保ちつつ、協力関係を持ち掛けたい。

……そうでしょう?


●ドライ:……頭のいい男は好きよ。ただ、口の減らないのはいただけないわ。

殺してしまいそうになるもの。


▲ゼクス:これはこれは、失敬失敬。お詫びに一つ、建設的なお話をしましょう。


●ドライ:建設的な話?


▲ゼクス:ええ。ありていに言うのであれば作戦です。

最も安全に、かつ最も確実に。私かドライ嬢のどちらかは生き残れる作戦、ですかね。


●ドライ:へぇ、面白そうね。


▲ゼクス:では是非、ご拝聴はいちょういただきたい! この私のパーフェクトプランを!



  間



▲ゼクス:────と、いうことでございます。


●ドライ:成程……。それなら確かに、生存率はぐっと高まる……。いい案ね。採用よ。


▲ゼクス:恐れ多き言葉……! 恥ずかしながら私、高見の見物をさせていただくのが何よりも好みなもので。


●ドライ:そのようねぇ。嫌いじゃないわよ、その考え方。私も自らの手を汚さずに勝利できるのなら、

率先してその道を選ぶもの。


▲ゼクス:おぉ、おぉ、分かりますか! なかなかに考えが似通っておりますなぁ私ども。

あぁ、神が憎い! どうしてこのような方が敵であったのか!


●ドライ:そうねぇ。私も気の合う人と出会えて嬉しかったわ。

ただ、この作戦には1つ、大きな欠陥があるわね。


▲ゼクス:なんと!?


●ドライ:考えれば単純な事よ、ゼクス。“この計画に、あなたは必要ない”。ただそれだけの事。


▲ゼクス:なっ──!?


●ドライ:地獄の饗宴をプロミネント・インフェルノッ!!!!。


▲ゼクス:くっ!! 蜉蝣満る桃源郷エフェメラル・ユートピアッ!!!!


●ドライ:もう遅い。あなたの異能は、私に届かず終わるの。


▲ゼクス:ぐは……っ! これは……、この異能は、まさか……ッ!!


●ドライ:さようなら。つたないピエロ。私の手駒として貢献できたことを誇りに思いなさい。


▲ゼクス:く……、やはり、こうなりますか……。はは、やはり、やはり……。


●ドライ:そしてあの世で自分を呪うのね。詰めが甘かったって。あははっ! あはははっ!!


▲ゼクス:私の計算に、狂いは……(絶命)。


●ドライ:さぁ、待っていなさい……? まとめて残らず千切り殺してあげるわ……!




  ~~~~シーン③~~~~


    

     

  とある草原。2メートルを超える大岩の陰に隠れるように、ノインとフィーアが座っている。




◆ノイン:っはぁ、はぁ、こ、ここまで来れば大丈夫なんじゃないかな……。


フィーア:まじで……、何なのよ急に……。


◆ノイン:か、かなり奴との距離を稼げたと思う……。

ゼクスとヌルの方にあいつが行ってくれたら、ね、願ったり叶ったりなんだけど。


フィーア:は? なにそれ! 別にあいつが今こっちに来ようが、何も問題ないし!

返り討ちにして終わりなんだけど!!


◆ノイン:で、でもまだ、手錠が……。



  ノインとフィーアの手錠が時間超過により外れる。



◆ノイン:あ、外れた。か、カウントダウンがゼロになったんだ。


フィーア:あははっ! やっと! やっとね!!

あのクソ女は死んじゃったし、次はツヴァンツィヒでも殺そうかと思ったけど!

ノコノコやってくるまで待ってられない!


◆ノイン:……え? い、いやちょっと……。


フィーア:まずはあんたからよ、ノイン。

なんかあたしのこと舐めてるみたいだけど、あたしの能力を受けても同じでいられるかしら?


◆ノイン:いや、ま、待ってよ。ここで争うより、協力して他を倒した方が……。


フィーア:そんなの不用よ! なんたってあたしは最強なんだから!!

湧き上がる恐怖をテラー・フォー・ユーッ!!!!


◆ノイン:え……?



  ノインの体、その内側から虫が這い出して来る。



◆ノイン:あ……、あああっ! か、体の中から、蛆虫うじむしが……ッ!

ひっ! やめてやめてやめてッ!!


フィーア:あはははッ!! 何その顔! ほんとに最高! もっとッ! もっと見せて、よく見せて!?


◆ノイン:あぁ、か、かゆい……ッ! かゆいぃ……!!


フィーア:そうそう、もっと、もっとむしんなきゃ、

体の中の蛆虫うじむしは無くなんないよ!?


◆ノイン:かゆい、かゆい、かゆいかゆいカユイカユイかゆいぃぃいいぃぃ……。

“──ナァンテ……、ナァ……?”


フィーア:……は?


◆ノイン:“ナルほどナルほどぉ? 幻術系の異能かぁ? しかも、錯覚している間は感覚もそれに引っ張られる。”

“面白れぇ異能だな、オイ。”


フィーア:……え? なんで? なんで効いてないの……?


◆ノイン:“単純な相性の問題ダロうよ。致命的だったナァ?”


フィーア:ふざけんな……ッ! 湧き上がる恐怖をテラー・フォー・ユーッ!!


◆ノイン:“ヒハハハハッ! 今度は火の海地獄か! あちいアチィ、皮膚がただれ落ちちまうぜ!”

“──だがなぁ……。”(指を鳴らす)


◆ノイン:い、異能が働くのは、1人まで。……て、事なのかな?

た、対象が切り替われば、効果が切れるみたいだ。


フィーア:はぁっ!? なんでなんでなんでっ!!

人格が変わる異能!? でもそんな! 異能は1人にひとつ!

土人形を作り出す異能と2つ持ちなんて、そんなのズルじゃん!


◆ノイン:人格が2つあるのは、べ、別にチートでも何でもないよ……。単に僕が多重人格なだけ。


フィーア:はぁ!? なにそれ! ずっるッ!!


◆ノイン:……えぇー。


フィーア:あーもうっ! 私最強なのにッ! 最強なのにーッ!!!! なんで効かないのよッ!

最悪じゃんッ!! こんなにも愛称悪いんじゃ、太刀打ちできないじゃん!!

やだやだっ! 死にたくない! なんでこんな奴に殺されなきゃなんないのよ!

こんな奴に、こんな奴に、こんな奴に────ッ!!!!


◆ノイン:……は?


フィーア:……は?


◆ノイン:ま、まさか、僕が君をここで殺すって思ってる?

嫌だなぁ。君をここで殺しても、僕にとってメリットはないよ。

い、いつでも殺せるのなら、利用してから殺した方がいい。君なら、そうするんじゃない?


フィーア:まぁ、確かに……。


◆ノイン:な、なら、二人で協力して他の3人を各個撃破していった方が、手っ取り早い。

幸い、僕もフィーアも近距離から中距離まで対応できる異能。戦闘での自由度は高い。

だ、だから、乱戦にならないよう距離を保ちつつ、乱戦になれば即撤退して、

相手の体力を少しづつ減らして確実に狩りにいこう。


フィーア:正直、あたしの好みじゃない戦略だけど……、そっちのほうがいいかも……。


◆ノイン:だ、大丈夫。僕らなら、いける。


フィーア:……えっ?


◆少年(M):……大丈夫。僕たちなら、きっといけるよ!



  フィーアに急な頭痛がはしる。



フィーア:……くっ! 何? 今の声……。


◆ノイン:フィーア?


フィーア:いや、なんでも──。


★ツヴァン:────で。話は終わったか?


フィーア:!?


◆ノイン:つ、ツヴァンツィヒ!


★ツヴァン:さて、それじゃ、殺ろう。殺し合いだ。

どうもまぁ引っかかるモンもあるにはあるが、関係ねぇ。2人纏めてかかってこいよ。


フィーア:なにそれ! ムカツク! 余裕ぶっこいてると殺したくなるんだけど。


◆ノイン:は、はは。僕たちに勝てると思ってる? 随分と甘く見られたね。

あぁそれとも? 僕のゴーレムの意趣返しのつもりなのかなぁ? やめてよ。ちっさいからさぁ。


★ツヴァン:あぁ?


◆ノイン:“雑魚片付けた程度で調子乗ってんじゃ、器が知れるってんだよ。三下。


★ツヴァン:……。


◆ノイン:“そんなに死にテェなら、いいぜ、相手してやるよ。さてさて、何分持つかナァ? 計ってあげようか? あぁでも、死んじまったら結果知れネェか! 残念だなぁ……ッ!”


★ツヴァン:……はは。ははははッ!!


◆ノイン:“あははッ! 笑っちまうよナァ! いいゼいいゼ! 最期ぐらい笑っとかネェとな!”


★ツヴァン:……いや、そうじゃない。ペチャクチャとよくしゃべるな、ノイン。

なるほど、合点がいった。


◆ノイン:“アァ!?”


★ツヴァン:真相は闇の中にハイドアファクト



  ツヴァンツィヒがつぶやいた瞬間、フィーアの体が何かの打撃で吹っ飛ばされる。



フィーア:……え? きゃああぁぁッ!!


◆ノイン:フィーアッ!!


フィーア:クッ……ソ、何がおこ……った……(気絶)。


★ツヴァン:殺すつもりだったが、咄嗟に受けたか。反射神経は腐っても、といったところか。


◆ノイン:テッメェ……ッ!


★ツヴァン:ハハハッ! 怒るよなぁ怒るよなぁ! いいぜいいぜぇ、成程分かってきた!


◆ノイン:“ぶち殺してやるよ! 引導者からの贈呈グリムリーパーギフトォ!!”


★ツヴァン:激怒・激昂・憤慨・憤怒ふんぬ! コロシアイらしくなってきたなぁオィッ!!

荒々しく! 猛々しく! 殺り合おうぜ、ノインッッ!!

真相は闇の中にハイドアファクトォッ!!





  ~~~~シーン④~~~~




フィーア(M):薄れていく意識の中で。ふと、声が聞こえた。

それは、温かく、懐かしい。あたしの記憶。まだ、普通の少女だった頃の、記憶。


▲父:起きろ、──。もうすぐ朝ごはんだぞ。おかぁさんも待ってる。


◆少年:あはは。ねぼすけだなぁ。──。おきろー。


●母:おはよう。今日は──も好きなスクランブルエッグよ。ほらほら、顔洗って寝ぐせ直してきなさい。


フィーア(M):あぁ、思い出したくもない。もう二度と思い出したくない、そんな、とても、幸せな思い出。


▲父:ヴィランが出た。でも大丈夫だ。炎のヒーローが来てくれた。


●母:もう少しの辛抱よ、──。大丈夫、きっとヒーローが助けてくれるわ。


◆少年:ねぇ、パパ、ママ。なんか赤いのが────。


▲父:あぶないっ!!!!


フィーア(M):爆音と、衝撃。家族が奪われるのは、一瞬だった。奪ったのは、ヒーローの流れ弾だった。


◆少年:……大丈夫。僕たちなら、きっといけるよ! だから、──。安心して! お兄ちゃんに任せろ!


フィーア(M):あぁ、でも。どうしても、思い出せない────。


◆少年:ごめんな、──。寒いよな。お腹すいたよな……。明日は、いっぱいごちそう持ってくるから。


フィーア(M):こけた頬。薄汚れた肌。だけど、すごく温かい、柔らかな笑みであたしを見てる。


◆少年:だから、──。安心してお休み。


フィーア(M):でも……、この人は……。────誰、だっけ。




  ~~~~シーン⑤~~~~




◆ノイン:はぁ……ッ! はぁ……ッ!


★ツヴァン:ボロボロだなぁ、ノイン。言うだけあってよくもつ! 何分経過だァ!?


◆ノイン:う、うる……さいよ……ッ!


★ツヴァン:女守りながらじゃァ戦いづらそうだなァ!! かといって捨てることもできねぇ! 難儀なもんだ!


◆ノイン:黙れ……ッ! “引導者からの贈呈グリムリーパーギフト”!!


★ツヴァン:真相は闇の中にハイドアファクト


◆ノイン:くそ! な、なんだよその影の中から出てくる手は! 僕のゴーレムが片っ端からやられる!


★ツヴァン:影? ちげぇなァッ! こいつは闇だ。俺の異能は、闇を物質化する能力。

半径1メートル以内の闇しか物質化できねぇのが玉にきずだがなぁ。


◆ノイン:な、なら! 近づけさせなければ勝機は────。


★ツヴァン:その対策はできてんだ、よッ! 真相は闇の中にハイドアファクト!!


◆ノイン:な──ッ! 闇に乗って……ッ!


★ツヴァン:物質化してるって言ったろ! ならこいつに乗って移動もできんだ、よッ!!


◆ノイン:ぐあッ……!



  吹き飛ばされるノイン。



フィーア:ん……、んん……。


★ツヴァン:よぉ。お姫サマもお目覚めか。王子様のキスはまだだぜェ?


フィーア:あ……、あたし……。


★ツヴァン:……あ?


フィーア:え……?


★ツヴァン:何、泣いてんだ……? オマエ……。


フィーア:あ……? あれ……、あたし、なんで……。


★ツヴァン:──まぁいいや。真相は闇の中にハイドアファクト


フィーア:え……?



  フィーアに闇の手が襲い掛かる。その鋭い爪でフィーアを貫こうとした、その時。



◆ノイン:やめろ────────ッ!!!!



  闇の手とフィーアの間に割って入るノイン。



フィーア:ノイン!?


◆ノイン:ぐ……、あぁ……。



  ノインの腹部に爪が深々と突き刺さっている。

  ノインの血が、フィーアの顔にかかる。



フィーア:あ、あぁ……、血が……。


★ツヴァン:まさしく、必死、だなぁ。ノイン。


◆ノイン:フィーア……、逃げろ……。


★ツヴァン:それがいい。この傷じゃ、もうこいつは助からんしな。

ま、逃がすかどうかはさておきって話だが。……よっと。



  刺さった影が消える。



◆ノイン:がは……! はや、く……、にげ────。


★ツヴァン:うるせぇ。



  影が、ノインを叩き潰す。



フィーア:ノインっ!!!!


★ツヴァン:──さて、これでお邪魔虫は消えたっと。んじゃま、ついでにお姫様にもご退場してもらうわ。


フィーア:簡単にはやられない! 湧き上がる恐怖をテラー・フォー・ユー!!


★ツヴァン:なにっ!? 周りに炎が! 幻覚だと分かっていてもこれかよ!


フィーア:幻覚だとしても! 痛みや熱さを感じれば実態とそう変わらない!


★ツヴァン:クハハッ! 面白れェ! 真相は闇の中にハイドアファクト

実体化してるモンを、幻覚で防げるかよ!?


フィーア:くっ──。


◆ノイン:“油断してんじゃァねぇぞ三下ァっ!!!! 引導者からの贈呈グリムリーパーギフト”!!


★ツヴァン:なにっ!? ────ぐはっ!!!!



  ゴーレムの体当たりで吹き飛ばされるツヴァンツィヒ。



◆ノイン:(激しく肩で呼吸している)


★ツヴァン:く、そ……が! 無傷で復活!? なにが────。

……いや、成程。そういうことかよ……。


◆ノイン:“残念だったナァ……? 俺は死なねぇぞ、三下ァ……!”


★ツヴァン:クハハッ! 面白れェ! 真相は闇の中にハイドアファクト


◆ノイン:“甘ェ!! そんなもんジャァ俺は──。”


★ツヴァン:知ってるよ! だから狙った! 真相は暴かれたピアースファクト


◆ノイン:な……ッ! 闇の影から棘が!!


★ツヴァン:物質化してんだ! ならばそこにも闇はある! 今度こそさようならだよ! “お姫様”ァ!!


フィーア:え……っ。


◆ノイン:しまった──!



  フィーアの腹部に、闇の棘が刺さる。



フィーア:ぐ……あ……。


◆ノイン:フィーアッ!!


フィーア:あ……、あぁ……。あたし……。


◆ノイン:しっかりして! 大丈夫! きっと大丈夫だから!! クソ! 血が止まらない……ッ!


フィーア:ま、だ……、あたしは……。こんなところで……。


◆ノイン:嫌だ……! 嫌だ……ッ!! 死ぬな! 死なないで!! 

僕たちの復讐は! 僕たちの幸せは!! まだまだここからだ! そうだろ!? 愁子シューコッ!!


フィーア:シューコ……? あぁ、そう、かぁ……。あたし────。



◆少年(M):あはは。ねぼすけだなぁ。愁子シューコ。おきろー。



◆少年(M):……大丈夫。僕たちなら、きっといけるよ!

だから、愁子シューコ。安心して! お兄ちゃんに任せろ!



◆少年(M):だから、愁子シューコ。安心してお休み。



◆ノイン:愁子シューコ! 愁子シューコッ!!


フィーア:そっかぁ……。そうだったんだぁ……。ぜんぶ、ぜんぶ。

おもいだしたよ……。ナオお兄ちゃん……。




  ~~~~シーン⑥~~~~



  回想。時は遡り、1週間前。

  とある研究施設。



▲研究員1:被験者番号979、実験成功したぞ。こいつはすごい。二重人格だと、異能が2つ手に入る。

異能は1人に1つじゃない! 1つの人格につき1つということだ!

はははっ! 面白い! 面白いぞ!!


★研究員2:いいなぁ。こっちは失敗だ。被験者番号654の女は異能が定着しなかったよ。

たしか、979の妹だっけ? 兄妹でも才能には差があるんだなぁ。


▲研究員1:死んだのか?


★研究員2:いや。見ての通り、無傷だ。……幸か不幸か、だけどな。

どうせ廃棄処分になるだろうけど。


▲研究員1:異能を持ってなければ、死にに行くようなもんだし。

記憶消去処理をして捨てたほうが、まだこの娘も幸せだろうよ。


◆ノイン:や、やめろ……。


★研究員2:な、こいつ、意識が……!


▲研究員1:慌てるな。既に手錠はつけてる。


◆ノイン:愁子シューコは、僕が……! 俺が……!


★研究員2:くそっ! 暴れるな!


▲研究員1:おい! 鎮静剤を!!


★研究員2:分かった!



  間

  時間が変わり、ゼクス達と出会う前。ノインとフィーアは最初の殺し合いを戦っていた。   



◆ノイン:“はぁ……、はぁ……ッ!! これで、全員……!”


フィーア:お兄ちゃん……。


◆ノイン:“これで、ファーストゲームは終了だァ! ハハハッ! 生き残ったゼ! 愁子シューコっ!!”


フィーア:やった……! やった……っ!


◆ノイン:“オィ! 聞こえてんだろ! 運営!! これで全員だ!! さっさと次のステージに移らせろ!”



  間



フィーア:なんで……。まだ、終わらない……?


◆ノイン:“……クソッ!! そういうことかよ……ッ!!”


フィーア:どういうこと……?


◆ノイン:“俺たちのどちらかが死ななきゃ……、ゲームは終わらねぇってことだ……!”


フィーア:そんな……!?


◆ノイン:……だけど、大丈夫。愁子シューコはかならず、僕たちが守るから。


フィーア:お兄ちゃん……? 何を────。


◆ノイン:常闇よ深淵を覗けマインド・ブラスト


フィーア:おにいちゃ────。


◆ノイン:ゴーレム生成は、もう1人の僕の異能。僕の異能は、認識改変の呪い。

認識を歪め、歪めた認識はかかった人が死ぬまで実体化をする。

だけど、かかった人が歪められた事に気付いてしまえば、呪いは解けてしまう。

だから、僕たちの記憶を消すよ。これから君は、幻覚の異能を持つ能力者だ。

そして、僕らは他人として、君を支える。歪めた認識の、実体として。


フィーア:いかないで……、お兄ちゃん……。(気絶)


◆ノイン:さようなら……。愁子シューコ。でも僕たちは、必ず、約束は守るから……!




  ~~~~シーン⑦~~~~




  回想終了。



フィーア:ぜんぶ、ぜんぶ。おもいだしたよ……? おにいちゃん……。


◆ノイン:愁子シューコ……ッ! そんな……っ!


フィーア:そっかぁ……。ぜんぶ、おにいちゃんのちからだったんだね……。


◆ノイン:愁子シューコ


フィーア:ずっと、ずっと。まもられてばかりだなぁ。あたし……。

力があれば、パパとママをころしたやつも、このせかいも……。

ぜんぶ、こわせるとおもったのに……。


◆ノイン:ごめん……っ! ごめんよ……! 僕たち、約束を守れなかった……ッ!


フィーア:あたしは、ここにいるぞって……。あたしは、まけない。

さいきょうのおひめさまなんだって……。


◆ノイン:そうだよ……! 愁子シューコは、僕たちの最強のお姫様だ……っ!


フィーア:でも、もういいんだ……。


◆ノイン:愁子シューコ


フィーア:あたしには、やさしくて、つよい……、おにいちゃんたちが、いたんだ……。


◆ノイン:愁子シューコ……っ! あぁ、僕の体が、透けて……!


フィーア:おにいちゃん……?


◆ノイン:なんだ? 僕は、僕たちは、ここにいるよ。


フィーア:ごめんね……、わがままばっかりで……。


◆ノイン:そんなのいいんだよ……。僕は愁子シューコのそばにいれるだけでいいんだ。

“俺も、アンタのために、生まれたんだ。つまんねぇこといってんじゃねぇよ……ッ!”


フィーア:ごめんね……、そして……。あり……が……(絶命)


◆ノイン:愁子シューコ! 愁子シューコッ!!

あぁ、あぁ……! ああああぁぁぁぁ────ッ!!!!



  呪いが解け、消えていくノイン。



★ツヴァン:……消えた、か。────チッ! 胸糞悪ィ……。


●ドライ:地獄の饗宴に華をプロミネント・インフェルノッ!!!!


★ツヴァン:な────ッ!! ちぃッ!!


●ドライ:終わった!? 終わったわね!! 待ってたわ! 待ちわびた!

さぁ、殺し合いましょう!? 奪い合いましょう!?


★ツヴァン:ヌル──!? いや違ぇ! テメェは────!


●ドライ:私! ドライよ!! あなたが殺した! あなたが砕いた!!

逢いたかった! 逢いたかったわッ!!


★ツヴァン:くそ、なんだこれ! ゾンビ!? 纏わりついてきやがる……ッ!


●ドライ:それ!? 私のしもべ! ヌルの異能なの!

あの子が殺した人間の霊魂! 私が乗り移ったことで、私が殺した人間の霊魂も呼び出せるの!


★ツヴァン:乗り移った……ッ!? あぁチキショウそういうことかよ!


●ドライ:だから、見て! 私を見てツヴァンツィヒ!! これが、私が手に入れた、私だけの王国よ!

地獄の饗宴に華を宴をプロミネント・インフェルノ・カーニバルッ!!!!



  ドライのまわりに、100を超えるゾンビが湧いてくる。



★ツヴァン:ざっと、120のゾンビか……! いいセンスしてんなぁ女王様!

ただ残念だ! こっちは入国願い下げだぜ!!


●ドライ:この物量! この暴力!! 覆せるものなら覆してみなさい!!


★ツヴァン:ご命令とあらばってな! 見せてやるよ、俺の全力をよォ!!

数多の真相はハイドアファクト・暗黒へ堕ちてマッシブッ!!!!


●ドライ:あははははっ!!!! 影の手を増やしたのね!! だけど、私の奴隷を倒せるかしら!


★ツヴァン:さァ、どうだろうなァッ!? テメェを倒したらゼクスも殺して終いだ!

せいぜい楽しませろよ!?


●ドライ:ゼクス……? あぁ、あの男! 殺したわよあんな奴! とっくのとうにね!!

だから、これが最後で最期さいごよ! 安心して私だけを見なさい! ツヴァンツィヒ!


★ツヴァン:いけ! ハイドアファクトっ!!

      

●ドライ:蹂躙じゅうりんしなさい! プロミネント・インフェルノ!



  闇の手とゾンビがそれぞれぶつかっていく。



★ツヴァン(M):チィッ! さすがにこの量の同時操作、脳への負担がやばい……ッ!

早々にケリつけなきゃこっちが持たねぇ……ッ!


●ドライ:辛そうねぇツヴァンツィヒ!! 同時展開の反動ってところかしら!

でも大丈夫! 私がすぐに、地獄へ連れて行ってあげるわ!!

さぁ、奴隷達! 一緒に踊って差し上げなさいッ!


★ツヴァン:くそッ! さらに展開網を広げやがった! 流石に脳の処理が追い付かねぇ……!


●ドライ:処理量オーバーかしら!? 鼻からも目からも血が出てるわよ、ツヴァンツィヒ!

ハイドアファクトの動きもぎこちない!


★ツヴァン:チ……、目が、眩んできやがった……!


●ドライ:アハハハハッ!! 私の! 私の勝ちよツヴァンツィヒ! 死になさい!!


★ツヴァン:俺のハイドアファクトも、ほぼ倒された……。

敵のゾンビはまた数十体残ってる……!


●ドライ:これで最期よ!! プロミネント・インフェルノ! 敵将の首を打ち取りなさいッ!!


★ツヴァン:だがッ! ハイドアファクトが散ったその残滓ざんしは、まだ残っているッ!!


●ドライ:な────ッ!?


★ツヴァン:勝利を確信したその油断! 死をもって知るがいいッ!!

数多の真相を弾倉にバレットアファクト・マッシブッ!!!!


●ドライ:砕けた影が、銃弾に……ッ!? しま──ッ!


★ツヴァン:撃ち抜けッ!! バレットアファクト────ッ!!!!


●ドライ:あ……ッ! ああぁぁああぁぁッ!!



  沢山の銃弾が、ドライの体を貫通していく。



●ドライ:あ……、カハ……ッ! あは……、あははははッ! 死ぬのね、私……ッ!

残念だったわね、パパ……ッ! あんたの野望はここで終わりよ!

ザマーミロッ!! アハハハハッ! ……くっ、(吐血)。


●ドライ:(荒い呼吸)。パパ……っ! あんたを殺すことはできなかったけど!

あんたも私と同じように、すぐ死ぬのよッ!! あは! あははッ!!

地獄で待ってるわ!! 今度はそこで、一番無残に殺してあげるッ!!

早く死ね!! 死んでしまえッ!!!! アハハッ!! アハハハハッ!!!!


★ツヴァン:真相は闇の中にハイドアファクト


●ドライ:あはははははは────────。



  闇の手がドライの頭部を掴み、容易く────。



★ツヴァン:(激しい呼吸)。これで、俺の……、勝ちだ……ッ!!

くそ……ッ! 異能を使いすぎた、目が霞みやがる……。

だが……、これで、ゲーム終了ってわけだ……!!


▲ゼクス:いやはや。よくやってくれました。パペット君。


★ツヴァン:なに……っ!? ガッ!?


▲ゼクス:あなたの肝臓をナイフで貫きました。即死はしませんが、助かりません。


★ツヴァン:てっめぇ……! 真相はハイドア ────。


▲ゼクス:おっと、危ない。



  ゼクスは、顔色一つ変えずツヴァンツィヒの喉を掻き切る。



★ツヴァン:カハッ……っ!?


▲ゼクス:動脈は避けましたが……、これでは異能の発声さえ出来ませんなァ……?

苦しい? 苦しいですかァ……?


★ツヴァン:カハッ! ガ……!


▲ゼクス:本当はドライ嬢と共倒れが望ましかったんですがねぇ……?

でも致し方ない。あなたも、そしてドライ嬢も。想定通りに動いてくれました。

そして何より。やはり近くで流れる血は美しい……!

私の策略にはまり、苦痛で歪みながら流される血は、もはや芸術といってもいい……ッ!


★ツヴァン:て、めぇ……!


▲ゼクス:おやおや。私が死んだとお思いで? そうでしょうそうでしょう。

ドライ嬢の情報ですね。確かに、私は死にましたよ。“彼女の認識の中では”、ね。


★ツヴァン:く、そ……が……!


▲ゼクス:ご理解いただけた! なかなかどうして、勘が鋭い!!

私の異能、蜉蝣満る桃源郷エフェメラル・ユートピアは、他者の認識を私の理想と同化させる。

私が死んだことになれば、段違いに動きやすくなりますからなぁ。

ドライ嬢にも言いましたが、恥ずかしながら私、高見の見物をさせていただくのが何よりも好みなもので。


★ツヴァン:(激しい呼吸音)


▲ゼクス:さて!! これで私とあなたは分かり合えた!

これで、私とあなたはトモダチ、なのでしょう? 私の策略を、あなたはすべて知った!

互いの認識を共有することこそ、トモダチとしての最低条件と聞きます!

また、私のオトモダチが一人、増えた……ッ! なんと、喜ばしい一日なのでしょう!


★ツヴァン:クソ、が……ッ! 地獄に、堕ちろ……ッ!! カハッ……(絶命)。


▲ゼクス:あぁ、オトモダチからの、熱いお言葉でした……!

ならば私は喜んで、地獄へ堕ちるとしましょう! すべてのヒーローとオトモダチになった後で、ね。



  けたたましいサイレンの音。



▲ゼクス:数多のヴィランを陥れ! 最後に生き残ったのはこの私、ゼクスッ!!

策略にめ、自身は極力手を汚さずに! 思うがままに動く人間とは、なんと愛らしい!

真実を知った瞳、そして流れる血のなんと美しきことか!

────待っていてください! 憧れしヒーローの方々ッ!!

本日! 5月5日を以て! 私というヴィランの生誕といたしましょう!!

踊れノース!! 踊れノース!! 光あるところに、私、参上仕りましょう!

あはははっ!! あははははははッ!!!!




  ~~~~シーン⑧~~~~




  3カ月後。とある街中。

  大きな商業ビルの電光掲示板から、ニュースが流れている。



●キャスター:8月13日、お昼のニュースをお伝えします。

お手柄! 新人ヒーローが市民を無傷で救出です。

昨夜、東京都港区で立てこもり事件を起こしたヴィランを、新人ヒーローが打ち倒しました。

ヴィランは、大人気テーマパーク、ヒロイックランドの来場者を人質に、

ヒーローの招集を呼び掛けたとのことです。

偶然そこに居合わせた、今年正所属になったヒーローがヴィランと戦闘を行い、打倒しました。

事件を起こしたヴィランは戦闘により死亡。ヒーローも全治1か月の大けがを負ったものの、

同じく居合わせたヒーロー校生徒の迅速な救助活動もあり、来場者の死傷者はゼロとのことです。

ヴィランは認識操作のような異能を使っていたとの情報もあり、現在も関係者の認識鑑定が行われています。

続いてのニュースです。上村動物園の大人気パンダ、ニャンニャンが、ワンワンを出産しました。

それをうけ、上村動物園では────────。




  ~~~~終演~~~~




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