バイト探しという名のショッピング
「みんなー!朝やで!おっきろー!」
しぐれの元気な声が羅野姉妹の部屋に響き渡る。
「うーーん。今何時……?」
眠そうな声でいおりが尋ねるとしぐれが元気よく
「五時!」
と答えた。
「早いわ!」
「えーーーそう?しぐはとっくに起きてるよーん」
いおりの言葉にしぐれは元気に言う。だが、
「……しぐ姉」
静かな声が部屋に響いた。
「!ひゃっ、ひゃい。」
テンションの高かったしぐれだったが、その声を聞いた途端、これでもかというほど縮こまった。
「うるさい」
ただただ静かに、しかし圧のある声にしぐれは
「すみません、すみません」
とひたすら謝る。
「五時間後に起こしてくれる?」
静かで圧のある声の主、まひろがそう言ってまた眠りにつこうとすると
「わかりました。慎んでそうさせていただきます。お休みを邪魔してしまい大変申し訳ありませんでした」
どんどん小さくなりながら、しぐれが早口で答えた。
そんな二人の様子を見て
「あーあ、まひろ怒らせたら怖いんやから気をつけなあかんって分かってるやろ」
と、いおりがしぐれを宥める。
「う、つい張り切ってしまいまして」
しぐれが軽く涙ぐみながら答えた。
「くがーーー」
そんな三人のやりとりはつゆ知らず、ちづるが気持ち良さそうに寝ている。
「五時間後にってことやから十時くらいか。店開くくらいの時間やしちょうどいいな。あたしらのこともそれくらいになったら起こしてくれる?昨日遅かったからあたしもまだ眠いし。けどまひろはやることあるから起きるやろ?」
「うん。分かった。また起こしに来る……」
「ん、ありがと。じゃまたあとで」
いおりはそう言ってしぐれの頭を軽くクシャッと撫でた後、横になる。羅野姉妹は全員寝付きがいいのでいおりもその後すぐに寝息を立てた。
「しぐ姉、ほんまにごめん……!」
いおりから五時間前に何があったか聞いたまひろは少し顔を青ざめさせながらしぐれにひたすら謝っている。先程の光景とは正反対である。
「いやいや、しぐが悪かったからさー。昨日遅かったのに朝五時とかに起こそうとしちゃって!」
「そんなことがあったんか。まひろ怒らせたら怖いんやから気を付けなあかんって分かってるやろ」
しぐれが謝りまくるまひろを宥めている。そんな光景を見てけらけらとちづるは笑った。
「全く同じセリフを五時間前にいお姉からも言われておりますのでご勘弁いただけないでしょうか……?」
しぐれは頬を膨らませながらちづるに言う。
「でも、ひさびさにまひろがキレたとこ見たわ。よっぽど眠かったんやな。なんか自分が怒られてたわけじゃないのにちょっと怖かった」
「う……。しぐ姉ごめんね?起こしてくれたのにそんなひどい態度取っちゃって。いお姉も巻き込んじゃってごめんなさい。しぐ姉あとでアイス買うから許してくれる?」
まひろがそう言うと
「もういいって!しぐが張り切りすぎたのが悪かったんやし。でも、アイスは半分こして一緒に食べよ?」
「しぐ姉……!うん!もちろん!」
笑顔でしぐれが言い、つられてまひろも笑顔になる。どうやら仲直りできたようだ。そしていまいち状況を理解しきれておらず、しかも空気の読めないちづるに関しては
「えーずるいうちも食べたいー!」
と言うが、しぐれに
「ちづるは勝手に食べとけばいいやろ!」
と言われてしまいシュンとしている。
「朝ご飯食べて準備したら出よっか。駅の近くにショッピングモールあるみたいやけどそこ行く?学校と家の中間くらいやしバイト候補としても良さそう」
そんなちづるには全く興味を示さず、いおりが提案する。
「めっちゃいい!そうしよ!」
笑顔でまひろが答えた。
「さてと、どこから行きますか!」
店に着いてすっかり元気を取り戻したちづるが張り切っている。
「あ、見て!ここアニマルカフェあるんやけど!しかもいろんな種類の動物がいるっぽい!やば!行きたい!」
動物だいすきなしぐれのテンションも最高に高まっていた。
「はいはい、あとでな。まず履歴書買ってから」
そんな二人を前にしてもいおりは冷静さを失わずに真の目的を果たそうとしている。
「真面目!」
そんないおりを見て、ちづるとしぐれの二人の声が揃う。
「そこが、いお姉の良いところやんな。履歴書ってことは本屋かな?買ったらそろそろお昼時やからフードコートでなんか食べよっか?アニマルカフェはおやつの時間くらいでいい?しぐ姉」
まひろが言った。
「うん!もちろん!」
「じゃあまずは本屋に向かいますか〜」
「そういえばのぞぴよのバイト先も本屋って言ってたよなー」
「駅前のとこらしいからこことは違うけどな」
「おっきい本屋さんって文房具とかもいっぱいあるから楽しいよな!何時間でもおれるって感じ!」
「わかるかも!おっきい薬局も楽しいよな!」
「そうそう!」
「はいはい置いてくで」
盛り上がるちづるとしぐれを尻目にいおりが本屋に向かい、それにまひろが続く。
「あ、待ってや」
またしても声を揃えた二人が慌てていおりとまひろを追いかけた。




