他己紹介ボウリング
「バイトかあ」
一番に昇降口に着いていたいおりは考え事をしていた。
「いお姉?」
続いてやってきたまひろはいおりの様子に気付いて話しかける。
「あ、まひろ。いやさ……。四人ともちゃんとおうちのこと考えててえらいなと思ってさ。あたしも何かバイト始めようかなって」
「確かにそうやんな。わたしも探したい!できるかはわからんけど……」
「大丈夫。まひろならできるって。まあ、あたしだって初めてやからできるか不安やけどさ。なんか考えてみよ」
「うん!いお姉が言うならできる気がしてきた」
「なにそれ」
途端に勇気が湧いたまひろにいおりが笑った。
「おーい!いおり!まひろ!お待たせ!いこいこー!」
ちづるとしぐれに続き真野兄弟もやってきて、八人は揃って目的地へと向かった。
「よし!登録かんりょー!」
「あ、ありがとうございます!」
ボウリング場に到着し、慣れた手つきで設定を済ませたかなめにいおりがお礼を言った。
「なあなあ!クラスごとでチーム戦しーひん!?総合点勝負!負けたらジュース奢るってことで!」
「そんなんちづるがいるチームが勝つに決まってるもーん」
ちづるの唐突な提案にしぐれが口を尖らせた。
「えーやりたい!楽しそうじゃん!」
「やんなやんなー?」
ノリのいいかなめにちづるがうれしそうに答えた。
「かなめさん、そう言うけど、ちづるの唯一の長所と呼べるのが運動ができるってことだから、負けちゃうと思うし後悔しますよ?」
「いや唯一って!」
いおりの言葉にちづるが反論するも、
「他になんかある?」
と聞かれると「うっ」と答えに詰まってしまう。
「あはは、まあまあ、二人とも。てかさ、敬語使わなくていいよ!せっかくの親睦会なんだしさ!あ、もちろん、まひろちゃんもね!てかみんなのことあだ名で呼んでいい?ニックネーム!いおりんとまひろん!どう!?」
「あ、え、はい…じゃなくて、うん。かなめくん。いおりんはちょっと恥ずかしいけどまあいいか」
「う、うん!慣れるまではなかなかむずかしいけど頑張る……!」
「じゃあー!もっとお互いを知るためにも他己紹介とかする!?投げる人のことを他の三人が順番に紹介してくってことで!」
「それいいねしぐっち!おもしろそう!やってみよっか!」
しぐれの提案にまたもやノリのいいかなめが賛同した。こうして八人はジュースをかけてクラス対抗でボウリングのスコア対決をすることとなった。
「さあ!ボウリングスタート!ABCDのクラスの順番で投げて、他の投げてない三人が投げる人の紹介するってことな!じゃあまずはいおりが投げる番やからその間うちがいおりのことを紹介するわ!」
「お前、適当なこと言うなよ」
いおりがちづるに釘を刺すが、ちづるは気にせず
「あんなー!いおりはしっかり者で真面目…に見えるやろ?けどな意外とめちゃくちゃ抜けてんねん。目覚まし時計の時刻は設定したのに電源入れ忘れるとかは日常茶飯事やし、火曜に出すゴミ勘違いして月曜に持って行ったり。あとはー、それはもう、めちゃくちゃ方向音痴やから店のトイレとか行ったら出るとき絶対一人だけ反対方向行くし、あ、そういえばファミレスのソフトクリーム食べ放題ってあるやろ?昔あれでさ……!」
「おい。いい加減にしとけよ。あんたの顔面にストライクかましたろか?」
二投終わったはずのいおりがなぜかまたボールを持ち、ちづるの目の前に差し出して言葉を遮った。
「近い近い近い!でもそういうもんやろ?他己紹介って!」
「へえー、意外だね。しっかりしてそうだもんね」
のぞみは、うっかり本気でやりかねない、いおりに対して悲鳴をあげているちづるという、目の前の光景を全く気に留めずにこにこしながら言った。
「じゃあどんどんいこ!次はーー!」
もちろん、しぐれも気にせず進める。
「オレ」
そう言ってあゆむが席を立ちボールを持つ。
「じゃあボクが紹介するね!あゆあゆはねえ、ボクが言うのもなんだけど、見た目がちょっと派手でしょ。それに、視力が弱いから目を細める癖があるんだけど、そのせいで目つきが悪く見えちゃってさ。」
「ちょっと派手……?」
ちづるが疑問気味に聞き返すがかなめは気にせず、
「うん、だから、よくみんなからは近寄りがたい、怖そうって言われるんだよね。でもね!本当はめちゃくちゃ優しいんだよ!確かにぶっきらぼうだけど、のんのんが大変そうにしてたらさりげなくサポートするし、寝起きが悪いつくつくが遅刻しないように起こしてあげてるし!料理だってめちゃくちゃ上手でさ。あ、この前もねー!」
「お、おい!かなめ!もうやめろ!」
ボールを投げ終わって戻ってきたあゆむは、まだ続けようとするかなめを制した。
「えーなんでー?」
「……恥ずいから」
途中で遮られてしまい、やや不満げなかなめであったが、そっぽを向いて小さく呟いたあゆむの内心喜んでいるととれる様子を見て満面の笑みになった。
「ほらね、かわいいとこあるでしょ」
「あゆむくんとかなめくん、めっちゃ仲良いんやなあ……!」
二人のやりとりを見ていたまひろがにこにこしながら言った。
「そーだよー!超仲良し!」
かなめもにこにこしながらピースをして、あゆむの肩にも手を回そうとしたがあゆむは払いのけて
「べ、別に普通だから……」
とこれまた下を向いて小さく恥ずかしげに呟いた。
「じゃあ次!あたしの番やで!しぐれ!紹介頼む!けどうちのすんばらしい投球見逃したらあかんで!ちゃんと見ててや!」
「あー、ちづるは…わかりやすいと思うけどまあこんな感じ。やから大雑把で、がさつそうに見えるやろ?けど実はめちゃくちゃ几帳面やし綺麗ずきやねんな。部屋とか鞄の中とかめちゃくちゃ整頓されてるし。これは長年、姉妹やってても信じられへんねんけどな。もはや羅野家の七不思議でさ」
しぐれの言葉に他の姉妹二人も大きく頷く。
「絶対それは嘘だろ」
そんな三人を見てあゆむが言った。
「はー?どういう意味やねん!そんなにうちって雑に見える?」
「ほら見て。今も投げ終わったボールめちゃくちゃ丁寧に磨いてるやろ」
そうしぐれが言うと
「本当だ、意外……。人は見かけによらない……」
とつくもがいつもよりほんの少し、目を見開いて言った。
「あ、つくもまで!!てかあんた寝とったんちゃうんかい!何しれっと起きて失礼なこと言ってくれてんねん!」
「つくもくんは省エネだから基本目を閉じてるけど今はちゃんと起きてるよ。まあ、話は聞いてないことも多いんだけどね」
「それちゃんと起きてるって言えるん……?」
なぜか得意げに言ってはいるものの、のぞみの結局はフォローしきれていないつくもへのフォローに対してしぐれが言及した。
「あ、先に紹介しちゃったけど、次はつくもくんの番だよ」
「わかった」
のぞみに促されてつくもがレーンに向かう。
「でね、つくもくんは、」
「投げ終わった」
「え、はやすぎない?あのね、つくもくんは気遣いがしっかりできるとってもいい子なんだよ。……もっと言いたいことあるんだけど続けちゃダメかな?」
「おれの番終わったから」
「それは残念」
続行を希望するのぞみだったが、つくもの視線と言葉を受け、断念した。
「はーい!しぐ!しぐ!次、しぐの番!まひろ、紹介よろしく〜!」
「えっと、しぐ姉は……、急に一人で何も言わんとどっか出かけたりするし、このガチャガチャ回しといてって頼んできたり、とにかく自由奔放で、めちゃくちゃマイペース。言い回しも独特やし、わたしたちの中で一番変わってるって言われることが多いな。」
「うんうん」
「お前はその次な」
激しく頷くちづるを見ていおりが言う。
「あ、あとは、動物がだいすきで動物に触れてる時のしぐ姉ってめちゃくちゃ幸せそうやねん。それに、意外と周りの人のこと見てたりするし、ノリもいいからちづ姉のテンションに唯一付き合えたり、わたしのことフォローしてくれたりもする!」
「あー!意外、やとー?」
ボールを投げ終わったらしい、しぐれが戻ってきて頬を膨らませて言う。
「もちろんいい意味でやで!」
「ならいいけどさー!」
そんなまひろの言葉にしぐれは膨れっ面から笑顔に変わる。
「ふふ、二人もとっても仲良しなんだね。じゃあ次はぼくの番だから、あゆむくんよろしくね」
微笑みながらそう言ってのぞみがレーンに向かう。
「ああ。のぞみは……。うーん、一応長男だけど常にニコニコしてるし、呑気、かな。実はたまに、つくもより何考えてるか分かりにくいと思うこともある。まあ、あいつが考えてることと言っても、新刊の本のことかコンビニの新作スイーツのことだとは思うけど。あとはオレらのこともか。根は単純なやつ。多分」
「え、スイーツすきなんや!?」
のぞみの意外な一面にちづるが食いついた。
「ん、ああ。まあ、スイーツがすきなのはかなめもだけどな。のぞみは洋菓子、かなめは和菓子がすきなんだよ。二人でよくスイーツバイキング行ったりもしてる」
「へえ〜!なんかみんな仲良いんやなあ!めちゃくちゃ楽しそうやし行ってみたいわ」
とあゆむの言葉にちづるが想像して言う。
「今度一緒に行きたいね!のんのんと見つけた、おすすめのお店があるんだよね!」
それを聞いたかなめが笑顔で言った。
「え!行きたい!」
「よし、決まりね!んじゃ、次!まひろんの番だよ!」
「う、うん。いお姉よろしく」
「まひろは最初は人見知りやし基本おとなしいけど、好奇心旺盛やし、やりたいと思ったことはすぐ実行する。思い立ったが吉日みたいなタイプかな。音楽もすきやから最近はドラム始めたもんな」
「うん!前からやってみたくて」
一投してボールが戻ってくるのを待っているまひろにいおりが声をかける。
「とにかく、歌もうまいし、音楽やってる時のまひろは堂々としててめちゃくちゃかっこいいねんで」
いおりの言葉にちづるも続けて
「そういえば、まひろって情にもアツいから思い返せばまひろのこと慕ってる子って結構いたよな。ファンクラブもあったし、一部の子からは姐さんって呼ばれてたし」
と言う。
「え、ファンクラブあるなんてすごいね、てか姐さんって呼ばれてるまひろちゃん想像つかないな。でも今度ドラム、聞かせてほしいな」
のぞみが感心しながら言うと
「が、頑張って練習するわ!」
とまひろも答えた。
「さあさあさあ、次はいよいよお待ちかね!ボクの番だね!つくつく、よろしく〜!」
ようやく回ってきた自分の番を、待ちきれないとでもいうかのような言動をするかなめ。だが、そんなかなめの紹介をするのはつくもなので
「かなめ……。はなんだろう……。うーん……」
と言いながら寝てしまうという、本日が初対面の羅野姉妹ですらも予想できた結果となった。
「ちょっと寝ないでつくつく〜!ちゃんと紹介してよ〜!」
何も紹介することなく目を閉じたつくもにかなめが縋り付いた。
「ああ、ごめん…とっさに思い付かなくて。」
「地味にひどい!」
拗ねかけたかなめであったが
「そうだ。昔からかなめはカメラがすきで。よく風景とかおれたちのこととか撮ったりしてる。めちゃくちゃ上手」
とつくもが紹介し始めたのですんなり黙り、ボールを投げに行く。
「あとかなめはね、甘いものがすきで、反対に苦いものが苦手なんだけど、何故か唯一ゴーヤは食べれるんだよね。さっき羅野家の七不思議って言ってたけど真野家ではこれが七不思議の一つだと思う」
「ゴーヤ……その名を聞いただけでうちは、うちは……!」
ちづるが大げさに震えてみせた。
「もしかして、ちづるんはゴーヤ苦手?ボク何故かゴーヤは大丈夫なんだよね。なんでかなあ」
戻ってきたかなめがそう言うとちづるは
「まじか。かなめとは一生分かり合えん……」
とこれまた大げさに嘆いてみせた。
「さあさあ!どんどん次行ってみよー!」
そんな様子を見て、しぐれが心底楽しそうに言った。




