体育祭一日目②
ダンス演技の発表順は、先程の開会式にて四人の団長たちによってくじで決められた。トップバッターはD団、まひろとかなめの所属する団だ。
「客席から応援してるわ」
緊張した様子のまひろにいおりが声をかける。反対にかなめは楽しみで仕方ないといった様子で今にも駆け出しそうな勢いである。一年D組の生徒が二人を呼ぶ声がする。
「行こ、まひろん!」
かなめとまひろがクラスメイトの方へ向かう。D団の団長、副団長を中心に円陣が組まれ、団長の掛け声がかかると団員の気合の入った声が上がり、拍手が起こった。揃った衣装を着ての大円陣は迫力がある。ちづるは自分も早くやりたいとうずうずしてくる。
D団の演技は無事に終わり、次はいおりとあゆむ属するA団の集合アナウンスがかかる。衣装がドレス、タキシードをモチーフにしたものであるためか、同じ円陣でも優雅に見える。
「お疲れ様!」
客席に戻ってきたまひろとかなめにしぐれが声をかける。ありがとうと笑う二人はやりきった顔をしている。D団のコンセプトは"和"ということで、よさこいを彷彿とさせるような振り付けで息の合ったダンスを披露した。終始黒地に光る赤色サテンがキラキラして見えてとてもかっこよかった。まひろも始まる前こそ緊張していたようだったが、始まってからは堂々としたもので楽しそうにも見えた。
「いやあ、めっちゃかっこよかったわ」
白い歯を見せながらちづるが言うとかなめはさらに口角を上げてピースサインで答えてみせた。次の団の始まる合図がすると、六人はそちらを注目を向ける。
ドレスとタキシードの男女ペアが並び、舞踏会風に始まった演技はとても優雅かつ妖艶さを感じさせるほど仕草が細やかだった。しかし、演技が進むにつれて音楽のテンポも上がり、予想を裏切る迫力を見せてきた。これは負けていられないなと、ちづるに気合が入る。
「次の団はC団です」
アナウンスが入るとのぞみとしぐれが行ってきますと敬礼のポーズを取る。テーマが"警察官"なだけあり、とても似合っている。二人を頑張れと送り出すや否や、客席に帰ってきたあゆむといおりにお疲れと声をかける。二人もまた、やり切ったのだろう、満足げにお礼を言った。
C団の演技は敬礼から始まった。選曲もなるほどと思わせるような映画やドラマの主題歌が選ばれており"らしさ"があるなと感じた。終わりも敬礼で締められ、一貫してテーマに沿った内容で作られていることに、強敵だとちづるが唸り声をあげる。
「最後はB団、集まってください」
アナウンスが聞こえると同時にちづるは立ち上がる。そしてつくもに行くでと声をかける。珍しくというべきか、他の団の演技中に一度も眠そうにすることなく鑑賞していたつくもはすぐに立ち上がり、ちづるの方を見て頷いた。四人に行ってらっしゃいとエールを受ける。
途中、観客席に戻るしぐれとのぞみに遭遇した。二人からも激励を受けたちづるとつくもは目を合わせ、よしと気合を入れる。ちづるたちB団のテーマは"妖精のお茶会"ということで、団員が集まると何やらファンタジー感が強い。キラキラとした羽が日光に反射して眩しいくらいだ。
「行くわよ、妖精たち!」
妖精らしいとでも言うべき団長からの掛け声に気合をさらに高めると位置につく。すうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐き切る。音楽がかかると、練習してきた演技を披露していく。妖精らしい可愛さを意識しながら踊っていると、何だか本当に妖精の一員として踊っているのではないかと錯覚してしまいそうになるほど、団員全員が結束していることが練習の時以上に感じられる。
演技も終盤に差し掛かると、軽快なリズムの曲に合わせてダンスも軽やかになる。手拍子を求め、観客をも巻き込んでのパフォーマンスはとても楽しい。少しの間の後に送られる拍手は盛大だった。
隣にいる、うっすらと額に汗を滲ませたつくもが何を考えているのかは分からないが、少なくともちづるはあっという間に終わってしまったと感じるほど、夢中になってやり遂げたという達成感と一抹の寂しさを抱えていた。
「あ、戻ってきた」
二人が客席に戻るとお疲れ様と迎えてくれたのはいおりたち六人に加えて両家の両親四人だった。同じ観客席といっても生徒と保護者のスペースは別れているため演技中にはそれぞれの場所で観覧することになっている。全団の演技が終わったため、合流したようだった。ちづるたちの父、あきらは相変わらず、本格的なカメラと三脚を持ってきており、娘たちの勇姿を記録する準備を万全にしていた。今夜も、その録画を見ながらの夕飯となることだろう。
そんなことをちづるがぼーっと考えていると、次の競技の集合アナウンスがかかる。体育祭が始まってからすでに一時間以上経過しており、時計の針は十一時過ぎを指している。いろは高校の体育祭には、第一の名物である団ごとのダンス演技、第二の名物である全員リレーに続き、隠れた第三の名物が存在すると言われているらしい。体育祭プログラムによると十二時を予定しているお昼休憩までの間、何やらこんな文字が記されていた。
「教職員による、借り物競走……?」
ちづるが文字を読み上げる。確かに、校庭には教職員が集まっている。先程開会式で挨拶をしていた校長先生でさえ、ストレッチをしており、どうやらやる気満々のようだ。先輩たちの話によると、生徒にとっては少し休憩にもなるし、日頃とは違った先生の一面が見られるから面白いと評判だった。そしてもちろん、自分が先生のお題に当てはまれば一緒に走る必要があるとも。
「よっしゃー、先生がんばれー!」
ちづるが飛び跳ねながら担任に手を振ると、こちらに気が付いたようで、手を振りかえしてくれた。先生たち大人が揃ってスタート位置に並んでいるのはなんだが新鮮で、それだけで生徒たちは盛り上がる。スタートの合図に走り出す職員たちに向かって生徒たちが一斉にエールを送る。
あらかじめ何が書いてあるか分からない状態で伏せられている紙を早い物順で引いてから、制限時間五分以内にお題に沿った物を持って審判の所に行き、判定してもらう必要がある。紙を引いた者から順に、客席に向かって走ってくる。
「教科書!教科書持ってる人いない?」
「左右違う色の靴履いてる人いませんか!?いや、いるのか!?」
わいわいと、盛り上がる客席にちづるとつくもの担任もやって来る。どうやら走るのが苦手らしく他の教職員よりも一歩遅れている。
「せんせー!紙に何て書かれてたーん!?」
そんな担任を見てちづるが声をかける。ニヤリと笑った担任に来てと呼ばれるがまま、審判の所まで走る。もちろん、先にちづるが着いて担任が走ってくるのを待つ形となる。ようやく辿り着いた先生が息を整えながら、審判に向かって紙とちづるを見せる。ちづるも何が書かれているか教えてもらってなかったので覗き込む。そこに書かれていたのは
「逆立ちができる人」
羅野、運動得意だからできるかなってと微笑む担任。まあできるけどとすんなり披露してみせると、きれいな逆立ちに観客席からわあっと歓声が上がった。
「合格!」
紙を引いた時こそ一番遅れていた担任だったが、他の職員が難航しているお題は一番乗りでクリアすることができた。あとは三十m程の距離があるゴールまで走るだけだ。
「行くで、先生!」
逆立ちをしたままだったちづるが元の体制に戻り、ゴールに向かって駆け出したのだった。




