文化祭二日目③
八人はステージへ続く階段を一段一段、駆け上がる。さあ、いよいよだ。用意していたおそろいのお面をかぶる。
ステージに上がった瞬間、客席から歓声が上がる。ちづるはそれに応えて手を振る。
「こんにちは、らま鉢です!早速ですが聞いてください!」
つくものドラムスティックの音に合わせて演奏を始める。いおりはベース、しぐれがギターを弾く。あゆむの心地よいキーボードに、のぞみがタンバリンで曲にアクセントをつける。かなめはギターに加え、まひろと一緒にボーカルを務める。そしてそれに合わせてちづるが得意なダンスで観客を魅せる。
曲自体は今流行りのアーティストのもので、キャッチーなこともあり、観客の反応も上々だ。手拍子する者や、曲に合わせて掛け声を上げる者、中にはペンライトを持参し振る者など、楽しんでくれていることが分かる。
そして観客の中には羅野姉妹の両親であるあきらとさくら、真野兄弟の両親である、そうまとえまの姿も前方で見つけることができた。有志発表に間に合うように来る、とは聞いていたが、さらに二組は合流していたようだ。四人は動画を撮ったり、らま鉢八人の名前を呼んだりと、こちらも楽しんでいるようだ。あきらとさくら、父と母に至ってはちづるたちの名前が書かれたうちわを振っている始末だ。いつの間に作っていたのやら。
円陣の時にはすでに吹っ切れていたとはいえ。緊張していないだろうかと、まひろの方を見るが、そんな心配は無用だった。まひろの透き通るような歌声が屋外に響き渡っている。堂々とした力強い声が、マイクを通して後方にまで伝わっていることが分かる。
(さすが、まひろ。うちも負けてられへん!)
まひろのパフォーマンスに負けじと、ちづるのダンスにも熱が入る。それにつられるように歓声も大きくなる。ステージの八人と観客のボルテージが最高まで高まった状態でクライマックスを迎え、大きな拍手が鳴り響いた。
「ありがとうございましたー!みなさん、楽しんでくれてますかー!?」
曲が終わり、ちづるが観客に問いかけると歓声と拍手が起こる。そんな観客の様子を見て八人はありがとうございますと頭を下げる。
「ドラムのつくも、ベースのいおり、ギターのしぐれ、キーボードのあゆむ、ダンスで盛り上げてくれたのはちづる、タンバリンはのぞみ、そして、ギターとボーカルのボク、かなめと天使のような歌声を聴かせてくれたまひろ!ボクたち八人でらま鉢と言います!今日はステージを見てくださってありがとうございます!めちゃくちゃうれしいです!」
軽く自己紹介をして再度頭を下げるかなめと同じく七人も頭を下げる。そして話を繋ぎながら、順番に楽器をステージ脇に片付け、別の楽器を持ってくる。ハンドベルだ。
「今度はさっきの楽器じゃなくて、ハンドベルに挑戦してみようと思います」
ハンドベルを持った両手を構え、いおりが観客を見回す。
「次に演奏する曲は、ここにいるほとんどのみなさんもご存知のあの曲です!」
ちらほらといろは高校の生徒を確認できる。しぐれが右手を上げて元気よく言う。
「それでは聞いてください。らま鉢で『いろは高校校歌』〜ハンドベルver.〜」
「お疲れ様ー!」
演奏を終え、ステージを降りる。羅野姉妹、真野兄弟の両親が八人を囲む。よかったよと感想を伝えてもらう。いおりがありがとうございますとお礼を伝えている。
「みんな、楽器すごかったわ。あゆむくんとかなめくんは前からできたの知ってたはいたけどこんなに上手いとは思わなかったわ」
えまが息子の顔を見て言う。以前本人たちから聞いた話だが、あゆむは幼少期に自らやりたいと言ったらしく、一時期ピアノを習っていたらしい。かなめもかっこいいからという理由で中学生の時にギターを友達と始めていたようだったので二人の担当パートの決定や練習はとてもスムーズだった。それに加えてかなり練習していたようである。
「のぞみはタンバリンとかカスタネットとか、昔からそういう楽器が好きだよね」
タンバリンを担当したのぞみは、本人の言っていた通り、あまり楽器に触れてこなかったことと、本人希望でタンバリンを担当することになったのだった。
そして、特に、つくもがドラムを担当していたことに両親のそうまとえまはかなり驚いた様子だった。まひろから教わり、つくもはドラムを練習していた。ドラムを担当することになったのは、楽器ができないとのことだったがリズム感が良く、本人も座れるからという理由で了承したからだった。もちろん、まひろのスパルタ練習を受けたため、かなり上達した。
「ばっちり、録画しといたから!後でみんなで見よう」
にこにこと、緩む頬を抑えきれていない羅野姉妹の父、あきらがカメラを見せながら言う。行事の時にカメラで録画したものを一週間程度見続けた挙句、過去のものまで見始めることは、羅野家にとってはもはや恒例となっていた。母、さくらも
「いおりとしぐれはベースとギターやんな?まひろに教えてもらってたんやな。あとちづるもダンス良かったわ。それに、まひろも歌良すぎて泣きそうになったわ」
そう言って手に持ったハンカチをひらりとさせ、白い歯を見せる。あきらは高速で縦に首を振っている。
両親たちからの感想に、褒めすぎと照れるいおり、まひろ、あゆむ、つくもに対してちづる、しぐれ、のぞみ、かなめはイェーイと、ハイタッチをしている。いずれにしても全員、嬉しそうな表情だ。
「そのお面も作ったん?」
八人が頭につけているお面についてさくらが訊ねる。ステージ上ではらま鉢のラマ(しぐれいわくラー油&マーガリンだったか)のお面を顔に付けていたのだった。知っている人だけならまだしも、知らない人から見たら顔の似た四人と四人が出てきたらそれだけで気になってしまってライブに集中できないのではないかと考え、急遽用意することになった。
その後、十二人の大所帯で記念に写真撮影を行った後、両親たち四人は展示ブースを見て回るとのことだったのでまた後でと別れた。
時計の針はもうすぐ十六時を指す。文化祭終了まで約二時間程度だ。
「楽しい時間はあっという間やなあ」
もうすぐ終わってしまうと言う事実に気付きしんみりとしてしまったちづるが小さな声で呟く。だが、かなめとしぐれがちづるの腕を片方ずつ掴み、
「まだ終わってへんで」
「もちろん、まだまだ楽しむでしょ」
そう言って笑いかけてくる。ちづるもつられて笑顔になると、よし行くか、と七人の顔を見回した。
その後も約二時間、八人は存分に文化祭を楽しんだ。現状を確認しにそれぞれのクラスに戻ると、見に来てくれていたクラスメイトから感想を伝えてもらった。また、展示については、終盤に差し掛かっても盛況であることが分かり、気にかけていたちづるは胸を撫で下ろした。
文化祭は大成功と言える出来で無事二日間を終えることができたのであった。




