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文化祭一日目⑤/プチ打ち上げ?

「いおりん、大丈夫だった?」


 教室から出た瞬間、いおりは手を額に当てて、目を細めた。少し前を歩いていたかなめが振り返り、いおりに訊ねる。お化けが出てくるたびに、ひえっ、と一声あげてごめんなさいごめんなさいと何かに謝りまくっていた、いおりの怖がりようをかなめも心配していたようだ。

 たった今、B組のお化け屋敷から出てきたいおりの前には、かなめ、あゆむ、のぞみ、まひろ、しぐれの五人が立っていた。怖いものが苦手ないおりは五人の後ろを、頭を手で覆い、姿勢を低くしながら歩いていたのだった。


「なん、とか?」


 いおりが呼吸を整えながら答える。だがそう答える、その額にはうっすらと冷や汗をかいていたし、内股の状態になっている膝はすっかり笑ってしまっている。そんな姉の状態とは裏腹に、しぐれは大きく伸びをしてその笑顔を弾けさせる。


「めちゃくちゃおもしろかったなー!」


「オレはお化けが出てくるたびにケラケラ笑ってるおまえが不気味で仕方なかったわ」


 ため息をついたあゆむの言葉にしぐれはまた、ケラケラと笑う。怖いもの知らずなしぐれにとって、お化け屋敷に対する恐怖心は全くなく、アトラクションのような感覚で楽しんだようだ。


「のぞみくんは、ってのぞみくん、泣いてへん!?」


 出口を出てから無言を貫き会話に入ってこないのぞみをまひろが覗き込むと、その頬にはうっすらと、涙の跡がきらりと光っている。


「はあ、どうせあれだろ。お化け役のメイクがリアルだったから、つくもの努力を思って感動してんだろ」


 正解とのぞみがあゆむに微笑む。あゆむの言う通り、お化け役はそれぞれに迫力のあるメイクが施されており、その技術がより一層、お化け屋敷の怖さを引き立てていた。つくもなりに研究して臨んだのだろう。

 そしてのぞみは、これまたあゆむの言う通り、つくもの努力に感動して涙していたのであった。そんな兄の様子に呆れたあゆむは深くため息をついた。


「けど安心して。あゆむくんのドールハウスの衣装も、かなめくんの写真も、感動して泣いたから」


 のぞみは、ちゃんと平等に弟三人のことを大事に思っているということが伝えたかったのか、あゆむにそう言って笑いかける。何に安心すりゃいいんだよとあゆむが先程よりもさらにため息を深くつく。


「ほんまにのぞぴよは弟だいすきっ子やなあ」


 しぐれの言葉に何の躊躇いもなく、うんと答えるのぞみにあゆむ、そしてかなめもやめてと顔を赤くしている。ははっとその様子を見て笑ういおりに、あゆむが言う。


「笑ってるけどいおりも妹想いだもんな。普段あんなに喧嘩してるくせに、ちづるのために苦手なお化け屋敷入るし」


 早口で言うあゆむの頬には、まだ少し、赤らみが残っている。照れ隠しのようだ。そんな様子に気付いてか、いおりは唇の端を吊り上げる。


「せっかくやから一年生の展示は全部見とこうと思っただけ。それに想像よりは、」


 怖くなかったしと言ったいおりの後ろからわあっと声がかかる。


「ひゃぁぁぁぁぁっ!」


 いおりは文字通り飛び上がった。そして、呼吸を整えた後、いおりに声をかけて驚かせた張本人を睨みつける。


「ごめんごめん、そんなに驚くと思ってなくて!どうやった?お化け屋敷!」


 そんないおりの視線を気にすることなくちづるが訊ねる。ちづるの隣にはいつの間にか、つくもも現れていた。


「二人ともお疲れ様!めちゃくちゃ楽しかったよ!」


 かなめが二人に賛辞を送ると他の五人も頷いた。そうか、良かったと、ちづるが胸を撫で下ろす。ちづるにしては珍しく謙虚な反応に驚いたのか、いおりが目を見開いた。確かにいつものちづるであればそうやろ、そうやろとはしゃぎまくっていただろう。


「何その顔。うちだって真面目なとこもあるんやから。意外と」


 それ、自分で言ってて悲しくならないかとあゆむに言われるが、自分でも思い当たる節があるのだから仕方がない。


「つくもくんのメイクもすごかった!」


 まひろが言うとつくもは一瞬、口元を緩ませてありがとと答える。褒められたことが素直にうれしかったようである。


「つくつく、メイクほんとに上手になったよね。練習台になった甲斐があったってことかな!?」


 先程ののぞみと同様、涙を流す、とまではいかないが弟の頑張っている姿に感動していたようでかなめが満足げに顔を綻ばせた。あゆむも、ああと頷いて弟を称えてみせた。そしてまた、頬に涙を流すのぞみ。

 そんな兄たちを見てつくもは、はいはいありがと、と困ったように笑っているが、その実、口調は穏やかであり、喜びも含んでいるのか、いつもより声のトーンがやや高い。


「あー!まじでどこが勝ってもおかしくない出来やったな」


 お化け屋敷内をゆっくり回っていたこともあり、窓の外を見ると空はオレンジ色に染まっていた。秋の夕暮れはいつ見ても美しく、また、どことなく何か寂しい気持ちも蘇らせる。


「なんかお腹空かへん?」


「お昼めっちゃ食べてたやん。スイーツも」


 まひろの言葉に思わずつっこむが、言われてみると確かにやや空腹感を感じる。もう少しで文化祭一日目は終了する。空を見て込み上げてきた寂しさを払拭させるかのように明るく努めてちづるが言う。


「よっしゃ、じゃあプチ打ち上げと行きますか!」


 一日目で、と声は挙がったが誰も反対はしない。そして、文化祭の終了を告げて、帰宅を促す校内放送が流れる。生徒たちは片付けたり、明日のために準備をしている。らま鉢の八人もそれぞれ教室に戻って、のちにまた集合する流れになったのだった。


















「打ち上げやー!」


 以前も来たファミリーレストランに到着し、席に着くと昼ご飯を食べていた時以外は立ち通しだったこともあって八人はふうっと息をついた。注文をどうするかとのぞみが訊ねると


「ハンバーグ」

「オムライス」

「エビフライ」


 つくもといおりとしぐれが即座に答えた。三人の好物のラインナップはお子様ランチのそれなので、あゆむによってつくも、いおり、しぐれはお子様ランチ組と、名付けられた。他の五人も注文を済ませる。

 

「それにしてもどこも本格的だったよね」


 クリームあんみつをスプーンで掬い、しあわせそうな顔をしているかなめが言う。かなめの言う通り、一年の展示ももちろん、飲食の内容や校内の装飾等、どこを取っても気合が入っていた。


「明日は十五時まで時間あるよね?いくつか劇を見てみない?二年生の」


 二年生といえば来年の文化祭ではちづるたちも劇をやることになる。その時の参考になりそうだと、プリンをこれまたしあわせそうな顔で食べているのぞみの提案に七人は賛成した。


「それでそれで!明日といえば!もちろん!」


 有志発表と声高にまひろの方を向いてしぐれが言う。そう、十五時からは屋外ステージでらま鉢の有志発表がある。朝にはリハーサルも行うのでわりとハードスケジュールだった。だが忙しくて大変だということを全く感じさせないくらい、八人はわいわいと盛り上がり、明日の計画を練っている。

 そんな中、追加のご注文をお持ちしましたと店員が料理を運んでくる。パンケーキをのぞみ、ぜんざいをかなめ、そして特大パフェをまひろの前に置く。


「いやいつの間に?てか、パフェ、大きすぎだろ」


 知らない間に先程注文した品を食べ終え、さらに追加で注文していたことと、あまりのパフェの大きさにあゆむが苦笑すると明日のエネルギー補充と三人はしあわせそうに各々の前にあるスイーツをしあわせそうに頬張っている。


「打ち上げ、って言ったけど打ち合わせやな」

 

 ちづるの唇が笑いの形を作る。さあ、明日も楽しくなりそうだ。

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