文化祭一日目③
「あっちで焼きそば売ってる!あ、いおり、ベビーカステラもあるで!なんや、えらい本格的やな!」
いの一番に駆け出し、目を輝かせてはしゃいでいるちづるの言う通り、飲食ブースにはアメリカンドッグやポテトフライ、焼きとうもろこしなどお祭りで見る屋台に遜色ないラインナップがずらりと並んでいた。
「チョコバナナにわたあめ、りんご飴もあるね」
のぞみが好物の甘いものを売っている屋台を見つけたようで、ニコニコしながら言った。かなりうれしそうだ。どの屋台も生徒や職員たちが必死に、そして楽しそうに店を回している姿が見られる。お昼という時間帯もあってか、列は途切れることなく続々と人が集まってきていた。
「さて、うちらも並ぼか!何買いに行く?」
「バラけていろんな種類買った方がいいんじゃねえ?」
ちづるの問いかけに答えたあゆむに、ちづるとしぐれは天才と賛辞の言葉をかけた後、ちづる達はそれぞれが屋台に並び、いくつか購入して分け合う、という作戦をとることにした。
「お待たせー!これ置いたら店にお盆返してくるわ」
先に購入を終えて席に着いていた七人にちづるが声をかける。ちづるが買ってきたのはジュースだった。全員分運ぶのは大変だからと、屋台の店員が気を利かせてお盆に乗せてくれた。
「ありがと、ちづるん!」
かなめがジュースをお盆ごと受け取り、それぞれに配る。ちづるがダッシュで店にお盆を返し、お礼を言ってまた帰ってきた。机には、すでに七人が買ってきていた、たこ焼き、フランクフルトなどが湯気を上げた状態で並べられている。出来立てのようだ。八人は、いただきますと声を揃え、分け合って食べる。八種類の屋台特有のメニューには心踊るものがあり、文化祭の話をしながらであったにも関わらず、かなりの量を買ってきたものの、すぐに完食したのであった。
「なんか甘いものも食べたくなってきちゃったね!」
甘党の筆頭、かなめがそう言って、のぞみも腰を上げる。彼らはすでに屋台の方へ目が向いており、何を食べるか悩んでいるようだった。
「はは、さすがやな。まひろも行ってきたら?」
ちづるが言うと食べることが大好きなまひろもうんと頷き立ち上がる。三人は甘いものを求めて屋台巡りへと向かった。どんだけ食うつもりだよとあゆむが呆れたように笑った。
「そういえばみんな、あれの調子はどう?」
つくもの問いかけに四人が力強く頷く。バッチリということだろう。
まひろからお願いを受けて、らま鉢は有志発表にて二曲披露する事になっている。本番は明日の十五時で、文化祭二日目終盤ということもあってその時間帯に有志発表のステージに集まる観客は多いだろう。そんなステージは屋外に仮設されたもので、どこから予算が来るのやら、かなり本格的だ。
「けどやっぱり緊張するなあ!」
まひろ主導のもと、精いっぱい練習してきたとはいえ、本番が近づいている今、実際に観客の前で演奏することを考えるとどこか不安に近いような感情があるのは確かだった。
そんなちづるにしぐれが大丈夫と言って笑って励ましてくれる。不思議なことに、しぐれから大丈夫と言われると本当に大丈夫な気がしてくる。これは昔からそうだ。
「よし、がんばるでー!」
ちづるは立ち上がり、拳を空に突き上げる。ちょうどその時、まひろとのぞみとかなめが屋台巡りから帰ってきた。三人の両手には、甘い香りを充満させたビニール袋が提げられており、さらにのぞみに至っては、彼の顔よりも大きい綿菓子も持っており、たいそうご満悦である。
「あんたら、ようけ買ってきたな……」
食べ切れるのかという意味でちづるは苦笑しつつ言ったのだが、三人は厳選するのに大変だったと、さらに買いそうな勢いだったことを打ち明けた。
そしてうれしそうに食べ始めた三人だったが、思い出したかのように、のぞみが綿菓子を手でちぎりながら、ちづるに訊ねた。
「それで、さっき何の話してたの?ちづるちゃん、張り切ってたよね」
ああ、と言った後にちづるは、明日の有志発表本番について気合を入れ直していたのだと説明した。本番が近づき、少し弱気になっていたということも。
「そういえば、真野兄弟は全員、緊張とかあんまりしなさそうやな。本番に強そうっていうか」
ちづるの言葉にいおりも確かにと頷いた。
のぞみはいつも微笑みながら何でもそつなくこなしているというイメージがある。あゆむも何だかんだ真面目で普段からも色んなことをこなしていることもあってか、責任感も強い。かなめはおちゃらけているようで、気遣いもちゃんとできるし結構器用な面もある。つくもはまあいつもの寝てばかり、という行動には不安を感じる要素しかないのだが、やろうと思ったことに対しては、夢中になってかなり努力するタイプだ。そんな四人が何かに不安になっている姿は見たことがなかった。
「えーあるよ、ボクたちにだって不安になることくらい。ね、三人とも」
そうやって笑って言うかなめと平然と頷く三人からはやはり、そんな姿は想像できなかった。意外と本番に弱く、緊張しやすいいおり、意外と繊細なところがあるちづる、本番に強いとはいえ何をしでかすか分からない奇想天外のしぐれ、引っ込み思案なところがあるまひろの羅野姉妹たち四人からすれば、頼もしい限りである。
「頼りにしてるで!さあそうとなれば、円陣組も!」
そう言ってちづるはその場で立ち上がり、七人にも立つことを要求する。しぐれ、かなめは元気よく、まひろとのぞみはニコニコと特に何の迷いもなさそうに、あゆむとつくもはやれやれといった表情で立ち上がった。
どうとなったんや、といおりが呆れたように言うが止めても無駄だと思ったのか、渋々といった表情をして立ち上がった。
テーブルを囲った状態で八人が右手を真ん中に差し出す。ちづるの、明日はやりきるぞーという掛け声とともに真ん中に集まっていた右手を空へと掲げた。
周りの人たちからは、突然の円陣に驚いたのか、一斉に注目を浴びた。いおりははっとしたような顔になると即座に座ってジュースを飲み始めた。気持ちを落ち着けているのだろう。対照的にしぐれは何事かとこちらを見てきた人たちに向かって、どうもどうもと笑顔で手を振っている。なんだかんだ言っても明日が楽しみになってきた。ただし、今日だってまだ終わってはいない。
「忘れてへんとは思うけど、三人が食べ終わったら次はB組来てもらうねんからな!」
ちづるの言葉に七人が忘れていたとでも言うかのように綺麗に、あ、と声を揃えた。
「何でつくもまで、忘れてんねん!てか、うちらそろそろ当番の時間やんな?」
ちづるの言葉に、時間を見たつくもは本当だ、と答えた。
「二人は何すんのー?確かB組はお化け屋敷だったよね?もしかしてお化け役とか!?」
粒あんのぎっしり入ったほかほかしたゆげが立っているたい焼きを幸せそうに頬張っている、かなめが問いかけた。先程まで聳え立っているかのようであった大量の屋台スイーツたちの山は、いつの間にかかなり低くなっており、あと少しで無くなりそうである。
「うちはそう、お化け役!何のやつかは内緒やけど!つくもはメイクも担当してるから午後のお化け役のメイクをするねんな!」
文化祭当日までは装飾担当のつくもであったが、当日の役割にはそれに加えてメイクも担当することになっていた。もちろん、つくもがメイクを練習しているということをクラスのみんなに教えたのはちづるだ。
「つっきゅんがメイクするなら、かなりリアルで怖そうやな」
そう言って笑うしぐれ。だが一人、明らかに怖がった様子の者がいる。かなり不安げな表情だ。
「さ、行きますか、我らがB組お化け屋敷へ!」
完全に山が無くなったのを見て、ちづるが言った。




