文化祭一日目②
面白い写真が撮れると評判を呼んだのか、D組の教室に人が集まり出した。十分に楽しんだちづるたちは混雑してきたこともあり、違うクラスの展示を見に行くことにした。どこに行くか、ちづるが訊ねると、自分たちのクラスはどうかと、A組のいおりとあゆむが声を挙げた。
「A組はなんの展示やったっけ?」
教室に向かいながら、しぐれが訊く。当日に楽しめるようにと、あえて学園祭の話はあまりしていなかっため、お互いのクラスの展示の内容も詳しくは知らなかった。
「オレらのクラスはもの作りが好きなやつらが多かったから、まあいろいろと合作したって感じ」
あとはちょっとした体験コーナーがあるくらいと、あゆむの説明にいおりが付け足す。二人の返答は淡々としていたものの、それは楽しみとちづるが期待に胸を躍らせる。
いおりはDIYが趣味で工作が得意であるし、マスコットを作ってくれたあゆむの裁縫の腕は確かだ。そんな二人を含めたもの作りが好きな生徒たちは何を合作したのだろうか。ちづるは頭の中で色々なものを想像し、予想していた。
だが、A組の教室に入った瞬間、ちづるたちは言葉を失い、その場に立ち尽くした。少し経ってから口を開いたのぞみの感嘆の台詞を聞いてちづるも我に返る。
「何これ、本格的すぎん?」
興奮してつい早口になる。横を見るとまひろ、つくもも、声は出さないながらもかなり驚いた顔をしている。かなめとしぐれに至っては、テンションが上がりきっており、さっそく展示物を見た感想を話し合っている。
A組の教室にあったのは、ちづるたちが通っている学校、いろは高校の模型だった。確かドールハウスといったか。木材をベースにして作られた学校の再現度はかなり高く、細部までこだわって作られたということが分かる。
中側までしっかりと作り込まれており、教室にいる小さな生徒たちは、制服を着ている。
展示を見ている人たちは誰しも驚きの声をあげていた。
「この部分っていお姉が作ったん?」
「制服はあゆむくんの手作り?」
あまりの完成度の高さに興奮冷めやらない姉妹、兄弟たちからの質問に対して当のA組のいおりとあゆむは、至極冷静に肯定だけ行う。口数少ないのってなんか職人みたいと二人を見てちづるがそんな事を考えていると何やら教室の端で盛り上がっているのを見つける。
「あれ何やってんの?」
「ああ、あれがちょっとした体験コーナーのスペース」
話を聞くと、ドールハウスを作った際に出た廃材や、布切れ、余った塗料などを使ってお客さんに好きなものを作ってもらい、それをキーホルダーにできるようにしたらしい。体験コーナーと称するだけあって、使用できる道具の説明も分かりやすく書いてあるので、ちづるも何か作れそうな気がしてくる。
「よっしゃ、いっちょやったりますか!」
腕まくりをしてちづるが体験コーナーに向かおうとするが、いおりによって引き止められる。
「あんたはあっち」
そう言ったいおりが指を指す方向には、生徒たちの保護者と同伴してやって来る弟妹、小さな子どものために用意されたであろう塗り絵が置いてある。それを見てちづるは頬を膨らませていおりを黙って睨むが、あんたには作れへんやろ、不器用なんやからと言われてしまう。
「まあまあ、体験なんだからやってみよーよ!ね、ちづるん」
ちづるといおりのいつものやりとりにすっかり慣れてきたのか、かなめが二人を執りなし、八人は体験コーナーに向かう。
「けど何作るか迷うね!」
かなめが笑顔で言う。確かに材料いっぱいあるもんなとしぐれも楽しそうに笑った。
「つくもくんは何作ってんの?」
早速、黙々と何かを作り始めていたつくもにまひろが訊ねる。ハサミとブラシを作っているらしい、つくもがふと思い浮かんだから作ってみたと答えた。
それを聞いてまひろはじゃあわたしは音楽っぽいもの作ると意気込んでいる。そんな二人の会話を聞いて触発されたのか、他の五人も自分の好きなものを作る事にしたようだ。
「……好きなものか」
小さな声でちづるが呟き、何かを作り始めた。
「さーて、次は!しぐとのぞぴよのC組へれっつらごーごーごー!」
先程作ったキーホルダーを指で回しながら、しぐれがえらくご機嫌な様子でC組の教室に向かおうとするので七人も連れ立つ。
「確かC組は……」
「C組は迷路!と、ドミノ倒し!」
言いかけたいおりを遮り、しぐれが笑顔で話す。早く見てほしくて仕方がないとでも言うかのような顔をしている。
「にしても、迷路とドミノか。C組は童心めいてるというか高校生らしくないというか……」
しぐれにぴったりのクラスやなといおりが言うとしぐれはうれしそうに元気よく、うんと答えた。
「ドミノ倒しは時間が決まってるから、それまでは迷路をどうぞ」
のぞみが微笑みながら案内してくれる。そんな迷路は、数十分前まで子どものための展示かなと思っていた自分を殴りたくなるくらい複雑怪奇なものであり、全く出られそうな気がしなかった。頼りののぞみとしぐれは微笑んだり、ニヤニヤしているだけで答えを教えるつもりはないらしい。
さすが天然たちのクラスや、加減を知らん、とちづるが心の中で嘆いているとあ、どうもと集団から声をかけられる。あまりにも同じ道を行ったり来たりしているので、同じくゴールを目指している他の参加者たちともすっかり顔馴染みになってしまった。開始からすでに三十分は経過しているが、ゴールに辿り着ける気配は全くない。
「詰んだ……」
そんなちづるに最後方のいおりがこっちちゃう?と口を開く。並外れな方向音痴であるいおりは、自他ともに戦力外とし、どの道を行くかについてはいおりも口を出さないでいた。だが、あまりにも好転しない状況に痺れを切らしたか、ついに意見を出したのであった。
「だからいおりは普通の道でも迷うんやから分かるわけない……ってこんな道あったっけ?」
こっちは行ってねえなとあゆむも驚いた顔をして言う。方向音痴だからこそ分かるのか、というのは定かではないがこのままでは出られそうにもないので最後方のいおりを先頭に替えて迷路を進む事にした。すると、五分も経たない内に、ダンボールで仕切られた迷路の世界から抜け出すことができた。
「ゴール!やったー!」
答えを知っているはずのしぐれがなぜか嬉しそうにしており、のぞみも横で微笑んでいるが他の六人は床に座り込み心底疲れた表情を浮かべている。
「あ、ちょうどいい時間や!ドミノ倒しの時間!」
座り込んだまま、しぐれの指差す方向に顔を向けると、そこにはどうやって作ったのかと問いただしたくなる程の無数のドミノが床を埋め尽くすかのように並べられている。
「さあ、みなさんご注目!いよいよ倒しますよー!カメラの準備はいいですかー?」
C組の生徒の愉快なMCによって教室の外にいた人たちも何事かとぞろぞろと集まってくる。
「カウントしまーす!はいさん、にー、いち!」
「ドミノー!」の掛け声と同時に先頭のC組の生徒がドミノを倒すとカラカラと勢いよくドミノが倒れて行く。何やらドミノは無造作に置かれた訳ではないらしく、倒れたものによって文字が浮かび上がってきた。
「た、の、し、ん、で、る、か、い……」
ドミノによるメッセージは最後のクエスチョンマークを残すのみとなった。見ている人たちは、あまりの壮大さに謎の盛り上がりを見せており、成功への期待が高まっている。
「行っけえー!」
人々が口々に叫ぶ。が、そんな人々の期待とは裏腹にドミノは最後の一本だけを残して止まい、落胆の声も上がる。
これもまた一興とMCが口を開き、
「次は成功するから見に来てくださーい」
と笑顔で観客を見送った。惜しかったね、でもすごかったと感想を述べながら教室を出ていく人々は楽しそうだった。そしてちづるたちも同じ気持ちだった。
「さて!次はいよいよ」
そう言ったちづるにその前にお腹空いたとまひろが言う。時計を見るといつの間にかお昼時になっている。
「よーし、なら、買い食いパーティーや!行くで!」
そう言って駆け出したちづるに七人もやれやれとついて行った。何があるのか楽しみだ。




