学園祭!……の前に④
「終わった……!」
チャイムが鳴り、テストを回収する最後列のクラスメイトにお礼を言うと、ちづるが安堵と喜びの感情を込めてふうっと息をついた。たった今、二学期中間テスト、全教科が終了したのである。クラスメイトたちも解放感から息をつく者や、ここはどうだったと答え合わせを行なっている者、遊びの計画を立てている者など、テスト終了時の特有といえる空気感で教室が満たされていた。
ちづるはテストが終わったことから込み上げてくる笑いを堪えきれずに、ニヤニヤしながら隣の席で突っ伏しているつくもに訊ねる。
「つくも、どうやった?テスト!」
まあまあかな、とちづるから声をかけられても同じ体勢のままピクリとも動こうとせず、つくもが答える。寝ているかもと思いながらも声をかけたのだが、起きてはいたようだ。
「まあまあってパッとせえへんなー」
ちづるがやれやれとため息をつきながら両手を横に広げ、首を振りながら言う。つくもはゆっくりながらも、ちづるの方に顔を向けて言う。
「え、ちづるはできたの?」
「つくもさんよー、うちの勉強量なめとったらあかんで!できたに決まってるやろ!」
少し驚いた様子のつくもの質問にちづるは、珍しくテスト勉強頑張ったからな、とかなり自信ありげな顔をして答える。だがつくもは興味が失せたのか、眠気に負けたのか、へえ、とだけ言ってまた机に伏せた。
「信じてへんな!?」
「ううん、テスト返ってくるの楽しみにしてる」
つくものそっけない態度にムキになりかけたちづるだったが、その後のつくもの言葉に期待しとき!と笑顔で答えた。つくもは寝たのか、んーとだけ言った後返答がなくなった。
テスト終了から数日後、科目ごとに担当の先生によってテストが採点され、全クラス全てのテストの返却も完了した。
「さー!お待ちかねの!テストの点数お披露目会や!この中で教科ごとに一位とれたら他の七人からお願い聞いてもらえる夢の企画!」
昼休み。中庭ではちづるがわくわくした気持ちを抑えきれないでいた。大きな声で言うちづるにかなめとあゆむは同時に訊いた。
「ちづるん自信満々!?」
「ちづる、そんなに点数良かったのか?」
ちづるはそんな驚いた様子で目を見開いた二人に、にやりと笑いかけると
「それは見てからのお楽しみ!まずは国語、現文と古文からな!さー、せーので行くで!」
と、これまた大きな掛け声をかけた。そして、八人の声が中庭に響く。
「せーの!」
「じゃあ今まで見た教科やと、現代文と古文がのぞみくん、数Aと数Iがあたし、生物と化学がしぐれ、日本史と地理がかなめくんか。まあ、ここまでは、予想通りの結果って感じやな」
それぞれのテスト用紙を見比べながら、結果を集計していたいおりが言う。少しの間の後、すっかり意気消沈しているちづるに訊ねた。
「あんた、何であんなに自信満々やったん?そんな点数で」
いおりの言う通り、ちづるのテストはどれも赤点は回避、といった程度の点数で、まさか誰かと競って勝とうだなんてことはつゆほども思えない、そんな出来だったのである。
「テスト終わった時もすごい自信ありそうで、期待しとけって言われた」
「う……。でもまだ残ってるから、これに賭けるしかない!」
いおりに正論を言われ、さらにはつくもに暴露されてしまい、返す言葉もなく、そして恥ずかしくもなりちづるは唸った。だがまだ最後の一教科が残っている。
「あはは、最後は英語だね!英語は表現とコミュニケーションの二種類だから、お願い聞いてもらえるのはあと二枠だ」
そんなちづるの様子に笑ったかなめが言うと、他の七人も英語の解答用紙を手に取る。
「後の二回がラストチャンス……!まずは英表!行くで、せーの!」
ちづるの掛け声に合わせて、各々が自分の英語表現の解答用紙を表にひっくり返した。そしてお互いのものを見比べる。
そして少しの静寂の後、つくもはしぐれが一番だ、と呟いた。英語表現の点数が高かったのはしぐれだった。そんなしぐれはやったーと素直に喜んでいる。
「ぐぬぬ、またしても一位はしぐれか……。あー、悔しい!」
「悔しいって、惜しかったみたいに言ってるけど点差60点以上あるで?」
わずかばかり届かなかった、とでも言うかのようなテンションで残念がるちづるにいおりが言う。ちづるはうるさい!といおりの方を見て頬を膨らませたあと、残す一科目に望みを託して最後の掛け声をかける。
「あと一科目、泣いても笑ってもこれが最後や!準備はいいか!?せーの!」
八人が最後の科目、コミュニケーション英語の解答用紙を掛け声に合わせて表向きにひっくり返す。
「これは……」
そう言って全員が息を呑んだ。またしばらくの間、八人には沈黙が訪れる。どうやら、一位を取ったのは、予想していなかった人物だったようである。
「意外な結果になったね」
「いや、ほんとにまさかだな」
「やればできるんじゃん!」
「うん、すごい」
そんな沈黙を真野兄弟は同時に各々が感想を述べることによって打ち破った。七人が、見事一位を獲得した者の方を向く。そして名前を呼んだ。
「まひろ!」
名前を呼ばれたまひろは照れた様子で俯いた。コミュニケーション英語、八人の中で一位を獲ったのは、ちづると同じく勉強が壊滅的に苦手なまひろだったのである。まひろん頑張ったね!、やればできる子などと、妹が褒められているのをちづるは呆然と見つめていた。そんなちづるの手には、彼女の中では頑張ったと言える点数の解答用紙が握られていた。だが、それでも平均点、と言ったところか。やはり勝負するには無謀なのである。
「てか英語が一番苦手なくせに、何で最後に賭けようとか思えたん」
妹の努力が実った嬉しさや、やっぱり込み上げる悔しさや悲しさ等、様々な感情が込み上がって今にも泣きそうになっているちづるに、いおりが呆れたような仕草をしながら言った。
「だって、勉強できる組の、のぞみは国語、いおりは数学、しぐれは理科、かなめは社会科目が得意やろ?残ってるのは英語や!って思って英語には特に時間かけて勉強したから……」
「あ、わたしもわたしも!」
同じこと考えてたと、まひろが言う。ちづるが作戦失敗、と両手で抱えた頭を左右に振る。良いアイディアだと思ったのに、まさか被るとは。そんな二人の様子にさすが四つ子、とあゆむが笑って言った。
「お願い事、決めてる?」
つくもが一位を獲った五人に訊ねる。いおりは、決めてないと言ってから、二科目で一位になったけど、思い浮かばんし一個でいいやと答えた。複数一位を獲った他の三人もいおりの意見に賛同したので、いおり、のぞみ、かなめ、しぐれ、まひろはそれぞれ、一つずつお願い事をすることになった。
「お願い事か……。あ、かなめくん」
「なになに、のんのん?……それいいね!」
迷った様子を見せたのぞみだったが、何かを思い出したようにかなめに耳打ちすると、かなめも大賛成、と言った様子で
「あのさあのさ、前言ってたスイーツバイキングに一緒に行きたいってのがボクとのんのん共通のお願い事!」
と笑顔で言った。どうやら、よく行くスイーツバイキング店では大人数で行くと特別スイーツが提供される、というキャンペーンをやっているらしく、行きたいねと二人で話していたようだった。
「もちろん行きたい!行こう行こう!あ、見てまひろがうれしそう」
しぐれが見ている先にはバイキングという言葉で胸が躍っていることが容易に見て取れる、まひろがいた。
「しぐれは?お願い事決まってんの?」
いおりがしぐれに訊ねると、みんなでアトラクションも併設されてる、動物園に行きたい!と答える。そしてしぐれもいおりにもう決まったか訊ねた。
「うーん。あ、じゃあアイディアがほしい。せっかく作るなら役立つものが作りたいからこんなんほしいってのがあったら定期的に頼んでほしいかも」
いおりがDIYに関して、新たなものを作りたいという創作意欲が湧いているところであり、技術向上のためにも新しい視点を求めていたようだ。他の七人はもちろん、お願いすると答える。そこで、お願い事をし合っていることに気付いて誰からともなく笑いが溢れた。
「じゃあじゃあ、まひろんは?そういえばこの企画立てた時にお願いしたいことがある、って言ってたよね?」
かなめが一位になったらお願い事を聞いてもらえる、というモチベーションの上げ方が提案された時にまひろが言っていたことを思い出して訊ねる。
「実はそう、七人に頼みたいことがあって」
まひろが一瞬、ためらうかのような表情になり、言葉を切った。




