学園祭!……の前に③
「せーの!」
八人の声が中庭に響き渡る。そして、少しの静寂のあと、
「いおりん、数学得意なの?数A満点じゃん!」
「うん、得意。かなめくんは日本史、と地理も点数高いな」
「のぞぴよ、現文も古文もできるのすごいな!」
「しぐちゃんこそ、生物も化学も高得点だね」
と羅野姉妹と真野兄弟の勉強できる組の四人、かなめ、いおり、しぐれ、のぞみが和気藹々と話している。
そんな四人を見て羨ましく、そして悔しく思いながらちづるは文字通り、ぐぬぬと唸った。だが、そんな感情はあゆむとつくもの点数を見た瞬間に消え去った。なぜなら二人とも、ちづるが思っていたよりもはるかに点数が良かった、からである。
「つくも、古文結構とれてるな」
「あゆむも、地理のテスト、問題用紙埋められたんだ」
二人はちづるの様子に気付いてはいないようで、お互いのテストについて話している。ちづるはそんな二人に向かって静かに言った。平均点は取れる、とつくもが言っていたとはいえ、勉強できない仲間だと思っていたのにと、勝手に裏切られたかのような気持ちになり精神的ダメージは限界を迎えていたのである。
「あんたら、二人とも頭いいやん」
呆然としたちづるにつくもとあゆむが気付き、振り向くと、さらっと答える。
「いや、平均点以上取れたの国語と社会だけ」
「のぞみとかなめが得意だからな」
「でも!他も平均取れてるやん!見てみ、うちとまひろの点数!」
「あ、ちづ姉」
まひろが止めようとしたが間に合わず、ちづるは、まひろのテスト用紙を自分のものと並べて六人に見せた。二人のテストの点数を見た六人は時が止まったかのように固まった。想像以上にひどかったようだ。
「ちづるとまひろのテストだけ二十点満点だったの?」
その後しばらく続いた沈黙を破ったのはつくもだったが、笑顔を崩さないのぞみによって言いかけのところで止められた。しかし、二人とのテスト用紙にはそう言われても仕方のない点数が並んでいた。
「あ、でもまひろのテスト」
と何かに気付いた様子のあゆむが言う。
「なになに?あ!数学と理科は平均点近く取れてるね!」
かなめもその二科目だけは二十点満点のテスト、とはいえない点数であることに気付いた。つくもがまひろに得意なの?と訊ねる。
「もちろん苦手やけど、いお姉としぐ姉が教えてくれるから」
「もちろん、苦手なのは苦手なんだね」
得意げに言うまひろに苦笑しながらかなめが言う。それを聞いたつくもは疑問を持ったようで、少し首を傾げながらいおりにいう。
「ちづるが、いおりは勉強教えてくれないって言ってた。しぐれも何言ってるか理解できないって」
「ああ、まひろはまだ、理解しようっていう気持ちがあるの分かるから教えてあげようと思えるんやけど。ちづるにはそれが全く見えんから教える気失くすっていうか、時間がもったいないっていうか」
まあ無駄やなといおりがつくもの疑問に答える。ちづるはあまりの言われようにひどいと抗議したが、案の定、無視されて終わった。
「じゃあ、しぐれは?ちづるはしぐれが何言ってるか分からないって言ってたけどまひろは理解できるの?」
「まひろはしぐのこと、よく分かってくれるんよなー!一番の理解者!」
つくもの質問に、しぐれは嬉しげな様子で答える。
まひろも照れたように笑っている。そんな二人を見てあゆむがしぐれに理解できない行動を控えてくれよと嘆いたが、しぐれには響いてなさそうだ。
「ともかく、うちは二人から教わることはできひんねん。まひろと違って。つまり」
ちづるが堂々とテストを見せびらかしながら言う。見事に赤点に至る点数ばかりである。
「と、とりあえず、二人、特にちづるんは本気で頑張ったほうがいいね」
かなめがなぜか余裕すら感じさせる落ち着きを見せるちづるとまひろに焦った様子で言う。何より本人たちがあまり気にしていなさそうなところが不安を煽る最大の要因となっている。
「よっしゃー!学園祭思いっきり満喫するためにまずは勉強頑張るで!な、まひろ!」
そう言ってちづるは笑顔でまひろの肩に手を回す。
「あんたが一番頑張らなあかんねんで、ほんまに分かってる?」
呆れた様子のいおりが言うとちづるはもちろん!と元気よく答えた。いおりがため息をつく。
「まあまあ、でもとりあえず現状を把握することはできたからさ、今から頑張れば大丈夫!なはず……」
言いながら段々と自信を失っていくかなめにちづるは他人事のように大丈夫や!と励ました。
かなめはありがとうと引きつった笑いを浮かべてお礼を言いつつ、残りの休み時間の二十分は勉強しようと提案した。わりと真剣な顔つきだった。
程なくして。八人は先程見せ合ったテスト問題を解き直すことにして、早速取り組んでいる。
「あ、のぞみくん。古文のここのとこってこういう解釈で合ってるんかな?」
「惜しいけどこっちのが正しいかな」
「なるほど、ありがと」
「しぐっち、ボク化学がいまいちなんだよね!教えてくんない?ここのとこ」
「あー、ここはズビューンやからドギャーって感じ!」
「うーん、なるほど?」
「ここはこうやからこうって言ってると思う」
「なるほど!ナイス通訳ありがと、まひろん!」
「おい、つくも寝るな」
「うーんあと40分だけ」
「寝すぎやろ!」
分からないところは得意な人に教えてもらったり、注意、励ましたりと、お互いに助け合いながら勉強を進めていく。
「あ、もう時間だね。昼休みはこれくらいにしとこっか。今日の放課後集まれる人いる?って、」
そう言いかけたかなめは途中まで言いかけたところで口をつぐんだ。
かなめの目線の先には、白紙の問題用紙を見つめて意気消沈としている、ちづるとまひろ、つまり一番頑張らなければいけない二人がいた。
「いおりんの言ってた通り、確かにこれは大変そうだね」
かなめが苦笑する。ちづるに至っては、うちが学園祭諦めれば済む話や……と独りでぶつぶつと呟いている始末である。
「学園祭以外に何かモチベーションが上がるようなことがあればいいんじゃないかな?」
すでに限界を迎えかけているちづるとまひろを見てのぞみが微笑みながら言った。モチベーション?とつくもが訊き返す。
「例えば、八人の中で各教科ごとに一位を取れた人がお願いを聞いてもらえるようにする、とか?」
尚も微笑みながら言うのぞみに対してあゆむは、いやダントツ最下位二人のモチベーションアップには繋がらねえだろ、その条件、と言いかけるが
「やるやるやる!」
「実はみんなに頼みたいことが」
と、先程まで苦手な勉強を前にくたびれ果てていたダントツ最下位の本人たちが息を吹き返したかのようにノリノリになったので、まあ二人が乗り気ならいいけどさと、呆れたように呟いた。
じゃあ、次のテストで各教科ごとに一位を取ったらお願い聞いてもらえるってことでゲーム、スタート!とかなめが笑顔で言ったと同時に予鈴が鳴った。




