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学園祭!……の前に②

「勉強?もちろんいいよ!」


 かなめが笑顔で言う。ちづるは授業の合間の休み時間にD組に押しかけ、かなめの席に向かうと、この通り、と両手を顔の前で合わせてかなめに嘆願していたのだった。


「かなめくん、勉強できるんや」


「な!意外よな!」


 かなめを見て少し驚いたような顔をして呟くまひろに、ちづるも人は見かけによらんよなと笑う。そんな二人の会話に


「いや二人とも失礼でしょ!」


と珍しく怒ったような、でも笑った顔でかなめが言う。そして、まひろんが勉強苦手なのこそめちゃくちゃ意外だよ、と続けた。ちづるは即座に


「うちは?」

 

 と訊いたが、かなめは笑顔で答える。


「ちづるんが勉強できないってことは分かるよ」


「あんたこそ失礼やろ!」


 とちづるは頬を膨らませる。つくももやけど、うちのイメージってなんなん!?まあ、勉強できひんのは事実やけど!


そんな二人の会話がツボにハマっていたらしい、まひろはようやく、笑いが収まると


「わたしも教えてほしい、いい?」


 とかなめに聞いた。


「もちろんだよ!昼休みとバイトのない日の放課後とかどう?」


「ありがとう!ぜひ!」


 目の前で着々と進んでいくテスト勉強計画に、ちづるは自分で頼んだものの、勉強したくないという気持ちを募らせていった。


「あー、早くテスト終わればいいのに!」


 ちづるは、かなめの机の端を両手で握ったまま、頭をつけて不平を垂れる。せっかく、夏休みの宿題から解放されたばっかりやと言うのに。


「そうだね、けど終わったら学園祭だよ!ちづるん!」


そうだ。テストが終われば学園祭。元は、学園祭きっかけでテストのことを思い出したちづる。今度は逆に学園祭という楽しみが待っていることを思い出したちづるはすっかり元気を取り戻した。


「よっしゃ、やったんでー!」


とクラスに響き渡る声で意気込む。


「その前に午前中の授業だね!」


 D組の生徒が、何事かと一斉にちづる達の方を向いたので、かなめはちづるにしーっと合図を送りながら言った。

 ちづるはD組の生徒に、ごめん驚かせて!なんもない!と謝ってから、


「そうや、まだ一時間目が終わっただけやった……」


 そう言って項垂れる。そんなちづるの様子を見てまたまひろがツボにハマりそうな勢いで笑っている。ゲラな妹である。かなめもちづるに微笑むと


「じゃあ早速、今日の昼休みから始めよっか!」


「うん!お願い!」

「お願いします!」


 笑顔でちづるとまひろに言った。二人も同時に返事をした。そしてちづるは、あ!と言う。


「やばい、次、移動教室や。もう行くわ!またあとで!」


 確か、次の授業は化学室で行うとのことだった。化学室は、ここから少し離れたところにある。今から急いでギリギリ間に合うかどうかといったところだ。忙しなくちづるは教室を出て手を振る。


「今日もちづるんは元気だねー!」


「ふふふ、ちづ姉が元気ない日の方が珍しいからなあ」


 ちづるが出て行ったのを見送り、ほのぼのとした会話を、かなめとまひろが繰り広げていると、すぐさま本鈴が鳴り響いた。


「あ、ちづるん!二時間目の授業、間に合ったの?」


 昼休み。らま鉢の八人は、特に用事がなければ中庭で一緒にお弁当を食べることが多い。ちづるが中庭に到着するや否や、かなめは笑ってちづるに訊ねた。


「めちゃくちゃギリギリ間に合った!名字が羅野で助かった!」


 点呼に間に合ったからセーフ、と笑顔で話すちづるにかなめはそれは良かった、と苦笑する。まひろは吹き出した。


「遅刻?何してたん?」


いおりが不思議そうに聞くと、ちづるはなぜか得意げに


「かなめにまひろと一緒に勉強教えてもらうねん!あとまだ聞いてなかったけどのぞみにも!」


 移動教室などでバタバタしていて許可を取りに行くことができなかったのだが、勝手にのぞみからも教えてもらうことにしたちづる。


「そうなの?いいよ」


 至って普通にのぞみは微笑んで答える。


「頼む前に勝手に決めんなよ……」


 いおりが呆れたように言ってきたあと、それでも疑問があるかのようにいまだ不思議そうな顔をしながら、


「なんでかなめくんとのぞみくんに?」


と訊ねる。それを聞いたちづるは、だっていおりが教えてくれへんから、と、とても小さな声で呟いた。素直に姉から教わることができれば頼んでない、と少し不貞腐れている。

 そんなちづるにいおりはため息をつきつつ、いおりがかなめとのぞみに対して、


「二人とも、ちづるとまひろに勉強教えてくれるのはありがたいけど、めっちゃ大変やで?二人とも基礎のきの字もなってないんやから」


「ひど!」

「事実」


 いおりの発言に即座に言うちづるにまたもやいおりも即座に自分は間違っていないとでも言うかのように大きく頷いて言い返した。


「まひろちゃんも?意外だね」


 まひろも勉強ができない、その事実はやはり意外なようで珍しくのぞみが少し驚いたように言った。


「だからなんでうちのことはなんも言わんの?」


 ちづるは嘆く。つくももかなめも、そしてのぞみまで。自分のことを勉強できないものだと決めつけていたからだ。まあ、それは事実なんやけど!

 そんなちづるに苦笑し、ごめんねとのぞみが謝る。

 あゆむはちづるだからな、と言ってふっと笑う。だが、そんなあゆむにちづるは、


「あゆむ、あんた笑ってるけど!聞いたで!あんたも勉強苦手らしいな!」


 勝ち誇った顔をして言う。もちろん、何も勝ててはいない。


「ああ、まあ。苦手だな」


 あゆむが素直に言うのを聞いて、ほら見てみ!と、そう言ってまた笑顔になるちづる。何を見ればいいのやら。


「さっき、ちづるんには連絡したけど、確認テストの結果持ってきてくれた?」


 先程かなめから、二学期が始まってすぐに行われた確認テストなるものがあったのだが、勉強を教えるにあたって現時点での実力を把握しておきたいから、とその結果を持ってくるようにと、連絡があったのである。


「遅れたー!何の話してんの?」


しぐれがやって来た。話を聞くと、どうやら窓から見えた雲に名前を付けていたら、いつの間にか昼休みだったということに気付いたらしい。もちろん、何を言っているのか意味がわからなかったが、長年の経験から、深掘りするのはやめておいた。

 かなめも、しぐれの行動に触れることなく、質問に答えた。


「確認テストの結果を見せてって頼んでたんだ!ちづるんとまひろんに勉強教えることになったから!」


「あー、しぐも持って来た!」


「え、何で知ってるの?」


 かなめが心底驚いた顔で言う。だが、いおり、のぞみ、あゆむ、つくもも持って来たと紙をひらりとさせた。


「うわ、ほんとだ。全員に送ってた……」


 スマートフォンを確認し、かなめが呟く。どうやら、ちづるだけにメッセージを送っていたつもり、だったらしい。まひろには口頭で伝えていたようだ。


「突然何かと思った」


「そう思ったならその時言ってよ……」


「四時間目始まる前やったから。まあどうせ昼休み会うからいいかと」


 嘆くかなめにいおりが淡々と答えると、同じく、とのぞみ、あゆむ、つくもも便乗した。


「しぐはー、そん時見てた雲が〜」


「また雲かよ」

「もうええわ!」


 雲に取り憑かれたしぐれにあゆむとちづるがつっこむ。さっき四時間目終わりにも雲見てたって言ってたよな。いつまで見とったんや……と、ちづるは自分のことを棚に上げて妹の授業態度を密かに心配する。


「あ、なあなあ、結果見せ合う?」


「まあ、他のみんながいいなら見せ合ってもいいけど……ボクも解説するために持って来てはいるし」


 しぐれの言葉にかなめが言うと、特に反対するものはいなかったので見せ合うことになった。


「じゃあ、せーので見せよ!行くで!?」


 ちづるが元気に言う。そして八人の声が中庭に響き渡った。


「せーの!」




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