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そんなんいるわけない

 話は今朝、"四つ子の姉妹"が転校先の高校へ登校中へと遡る。


「おんなじ四つ子がいる……?」


 ちづるの発言に対する三人の反応に呼応して、か、どうかは定かではないが、先程まであんなに鳴き声を響かせていたセミの声は全く聞こえず、あたりは静まり返っている。


「いや、あほらし。最後までちづるの話聞こうとしたあたしが馬鹿やったわ。この恥は墓場まで持っていきたいくらい」


 いおりが我に返ったかのようにため息をつきながら言う。ちづるは、言いすぎやろ、泣くでと返す。いおりの対応がいつものこととはいえ、あまりの言いようではないか。


「けど〜、しぐですら、さすがにありえんと思うで。このしぐちゃんですら!やで!」


「う、しぐまで。でもあんた、自分が超変人マイペース自由人な自覚はあるんかい。なら少しは改めてくれへん?」


 ちづるが普段の自分の行動について顧みるよう、しぐれに懇願するが、あはは、四つ子なんているわけないない〜と言いながらブンブンと音を鳴らして首を素早く振ったかと思えば、あ!わんちゃん可愛い!と言って散歩中の犬とリードを持った飼い主に話しかけに行ってしまった。聞こえてくる会話の内容から察するに、初対面のようだが、そんな気は感じさせないほど、しぐれと飼い主は話に盛り上がっている。


「残念ながらそれは多分無理……」


 そんなしぐれの様子を見て苦笑したまひろが代わりに答える。しぐれは昔から突発的で、何をしでかすか分からない。いまさら改めるよう言ったところで無駄か、とちづるも同意する。


「あ、まひろひどーい」


 こちらの会話も聞こえていたようで、変わらずニコニコしながらしぐれが言う。それだけ言うとまた犬に夢中になっている。相変わらずのマイペースめ。


「でもちづ姉、わたしたちとおんなじで四つ子がいるなんてこと、本気で思ってるん?」


 改めて、と言ってちづるに向き直ったまひろが聞く。しぐれのことを言える立場にないほど、ちづるが突拍子もないことを言うのもいつもの事である。とはいえあまりにも現実味のなさすぎる発言にまひろは困惑していたようだ。


「……いたら面白くない?ってくらいの気持ちやってんで。ジョーク。そやのにこんなに言われるとは。うちだってそんな珍しいことがあるなんて本気では思ってへんもん。まひろ、慰めて〜」


「あー、はいはい。ちづ姉、よしよし」


 まひろは、そんな姉を見て、またもや苦笑しつつも優しく頭を撫でた。


「あんたの冗談は分かりにくいねん。普段から言うことがアホやねんから。」


 いおりはひどいことを言うがしぐれはつっこむどころか気にする様子すらなく、


「けどもし万が一億が一兆が一、四つ子がいたとしたら、学校のみんなも耐性とかついてるかもな!」


と思いついたかのように言った。


「え、しぐれまでそう思い始めたん?」


「まさか!無量大数が一ありえんと思ってるけど!ただ、もし四つ子がいたとして、みんなが耐性ついてるなら、今までうんざりするほどされてきた四つ子特有の質問とかもされなさそうやし、いいなと思って」


 少し驚いた顔をしたいおりが聞くとしぐれがあっけらかんと答えた。


「そういうことね。まー、そんなことより、もうすぐ学校着くからさ。そしたらまず職員室行って各クラスで四限目まで授業受けたら昼休み一回集まろ」


「おっけー!」


「わかった!」


 淡々といおりが提案し、それにしぐれとまひろが即座に答えたが、ちづるはまだ何か考え事をしているかのような表情をしており、反応を示さない。そんなちづるをいおりが覗き込み、訊ねてきた。


「ちづる、聞いてる?」


「え、あ!聞いてる!んじゃあ、授業終わったらA組の前行くわ!いおりのクラス!」


 ちづるは我に返り、いつもの笑顔になると大きな声で答えた。いおりにうるさいと言われたが特に気にはしなかった。





キーンコーンカーンコーン






 四限目の終了の鐘が鳴り、待ちに待った昼休みを迎え、約束通り集まった四人は、ふう〜っと大きくため息をつき、


「つ、疲れた……」


と言いながら同時にしゃがみ込んだ。


「いや〜、やっぱ慣れん環境って疲れるんやな。これが東京のセンレイってやつか。あー、大阪が恋しいわあ」


 そう言いながらちづるが座ったまま大きく伸びをする。


「あんたが疲れたのは慣れへん環境のせいじゃなくて普通に勉強が苦手やからやろ。それに自己紹介でも弾丸でトークぶちかましてそうやし」


「まーな!みんなに元気やなって言われた!」


「やっぱり」


 元気よく答えるちづるにいおりが頭をかかえる。


「それなら多分クラスのみんなの方が疲れてるやろな」


 ちづるの存在に影響されるクラスの様子を想像して、しぐれがそう言うとまひろも苦笑する。


「みんなひどいな。てか、それより!どうやった?クラスの方は」


 三人の反応に若干の怒りを覚えつつも思い出したかのようにちづるが聞く。


「あ、えっと……」


「なんか、想像以上に……?」


 すると、歯切れ悪く、まひろとしぐれが答え、そして、


「普通の反応やった……」


と、四人が自己紹介から午前の授業終了時間に至るまでのクラスメイトの反応を思い返し、声を揃えて言った。


「いや普通ってわからんねんけど!されたことないし!けど質問とかも、ただの転校生に対する興味って感じで!ちゃんと他のクラスに姉妹いるって言ったのに特に何も言われんかったし」


「そうそう、めちゃくちゃわかるで!私も姉と一緒に転校して来たって言ったのに、他にも音楽のこと話したからかそっちの質問ばっかりやったもん」


 ちづるが言うことにまひろも賛同する。


「……なんかー、言うなら四つ子耐性ついてそうって感じ……?」


 しぐれが静かにそう言うと、三人が黙り込んだ。


「けど四つ子がいるとか、そんな話は聞いてないし、今日だって特に何も言われんかったよな」


「いや、別に全然いいんやけどさ、普通の対応されたらされたで、なんかムズムズするよな。こう、なんか変って感じ?」


としぐれが照れたように言う。


「わかる。あ、変といえばさ、うちの隣の席の真野ってやつが」


 ちづるがクラスの様子を思い返し、ふと思い付いたて話題に出したのはクラスメイト、真野つくもについてだった。


「え、真野?」


と三人が同時に反応する。


「……?うん。真野つくもってやつの隣の席やってけどあいつ、ずっと寝ててさあー。無気力ってかめちゃくちゃ変なやつって感じやった!初対面のうちに対してもうるさいって言うしさ!」


 真野という名前に三人が示した反応を少し不思議に思いつつも、初対面の自分に対するつくもの言動について話してみせた。


「うるさいのは事実やからな。いやそれよりさ。あたしも真野って名前の人が隣の席やわ。真野あゆむくん」


「え!しぐも!確か真野のぞみって言ってたかな?」


「わたしの隣は真野かなめさんやねんけど……」


「え……?」


四人が一瞬固まる。


「ええっと……。まさかほんまに四つ子がこの学校にいたりして!?」


 四人に流れた沈黙を打ち消すかのようにちづるは冗談っぽく言った。だが他の三人も全く同じことを考えていた。


「いやいやいや……!真野なんて羅野と違って珍しい苗字でもなんでもないし!クラスに一人くらいいてもおかしくないやろ!おかしくないよな……?」


 珍しくいおりの慌てた反応にちづるはなにやら確信を得たのか、


「でもさ、明らかにクラスのみんなの反応は普通やったし、うちらがいおりのクラス前に集まった時も騒がれることはなかったよな。いってら〜的な。めちゃくちゃ軽いノリでさ」


と続けて言ってみせる。


「そ、そーやけど!」


 少しムキになって言い返すいおりの反応を見て本当に四つ子がいるのかもと思えてテンションが上がってきたちづるは


「なら早速、確かめよや!」


と言い、今すぐクラスへ戻ろうとする。


 そんなちづるに


「いやもう昼休み終わるから!……放課後な」


 と少し動揺した様子のいおりが言った。


「うわ、ほんまや!もうこんな時間!そういえば確か次の授業、教室移動するって言ってたような……。教室どこか聞くん忘れたやばい。早く誰か見つけな!ごめん先行く!」


 そう言って食べ終わった弁当箱を忙しなく片付け、でも急いでいるわりにはトートバッグに丁寧にしまってからちづるがクラスの方へ向かって走り出した。


「ほんまに忙しない……」


 そんなちづるにいおりは呆れながら言う。


「んじゃ、しぐたちも戻ろっか!」


「うん!」


 三人はもう見えなくなったちづるを追いかけるように駆け出した。予鈴が鳴る。


 

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