シーズニングフレンズ/ちづるの過去①
「こっちこっちー!」
しぐれが手招きして真野兄弟を案内する。よく見てみると確かに、リビングにも、廊下の通路にも、そして四人の部屋にも、至る所にしぐれの"おともだち"を見つけることができた。こんなにたくさんいるというのに、一人で世話しているとのことだからよっぽどの動物好きだと真野兄弟は全員、改めて実感した。
そして、紹介できることが嬉しいのか、いつも以上にはしゃいだ様子のしぐれにあゆむがはいはいと少し笑って返事をする。
「ほら!この子たちがケチャップちゃんとしょうゆちゃん!」
「ああ、この前言ってたね」
「うん!みんながくれたおもちゃ、めちゃくちゃ気に入ってはるで!」
のぞみが言うとしぐれはおもちゃを出してケチャップとしょうゆの前に差し出す。確かに、嬉しそうに遊んでいる。そんな二羽を見てしぐれも嬉しそうだ。
「はは、ほんとだー!ボクもやってみていいー?」
「もちろん!どーぞ!」
しぐれからおもちゃを受け取り、かなめも二羽と遊び、ほんとにかわいいねとはしゃいでいる。
「でしょでしょー!」
そんなかなめに得意げに言うしぐれ。さらに嬉しそうな顔をしていた。
「そういえばなんで調味料の名前つけてるの?」
ケチャップ、しょうゆ、しお、こしょう、他にもたくさんいる動物たちの名前も、調味料で名付けられているので、ふと疑問に思い、つくもが口にする。
「んー、特に深い意味があるってわけじゃないんやけど……。強いて言うならしぐれといえばしぐれ煮が思い浮かぶやん?だからかな!」
言い切るしぐれに、よく分かんない、とつくもは戸惑う。
「まあ、しぐやから。それに深い意味はないって言ってるし。しぐれ煮といえば調味料みたいな連想したんやろ、知らんけど」
「ふふ、なるほど?」
いおりのフォローらしきフォローを聞いてもやや理解が追いついてはいなさそうであったがのぞみもそう言った。
「あゆりんもやるー?」
静かに見ているだけだったあゆむにしぐれが訊ねる。しかしあゆむは、オレはいいと答えた。
「あゆあゆね、昔から動物に怖がられちゃうんだよね!まあそれは母さんもだけど」
あゆむを見てかなめが代わりに理由をしぐれに説明する。するとしぐれは
「ああ!確かにえまちゃん言ってたわ!でも、えまちゃんにも聞かれたから教えたけど、優しく、こういう感じで接したら大丈夫やで!ほら、あゆりん!」
しぐれに言われ、こ、こうか?と恐る恐る鳥のしょうゆとケチャップに触れるあゆむ。そんなあゆむに、しぐれの言う通り、二羽は嬉しそうに頭をすりつける。
「はは、かわいー」
初めて懐いてもらえたことに感動しつつ、あゆむが少し笑って言う。その横でのぞみは一粒の涙を流している。
そんなのぞみの背中をぽんぽんと優しく叩きつつ、あゆむによかったねとかなめが言う。あゆむがああとうれしそうに答えるのを見てしぐれもにこにこ笑う。
「かわいいやろ!しぐのシーズニングフレンズちゃんたち!」
そう言った後、しぐれは、ハッとしたように続けて
「ごめん、つい紹介するのに夢中になっちゃった!座って座って!」
と真野兄弟を促す。四人は言われた通りに座る。伊織も自分のベッドに腰掛ける。少し席を外していたちづるとまひろがやってきて、
「はい!お菓子と飲みもん持ってきた!」
「机に置くから遠慮なくどうぞ!」
そう言いながらまひろは机に置いたお菓子を早速食べる。そんなまひろに笑いながらのぞみが羅野姉妹に訊ねる。
「四人はこの部屋で過ごしてるんだよね。しぐれちゃんはさっき聞いたとして、どこを誰が使ってるの?いおりちゃんは今座ってるところ?」
しぐれのスペースは動物たちのおもちゃやお世話関連のものがあり、他にも動物のぬいぐるみやカプセルトイなどどちらかといえばものが多い印象だ。
「そう、あたしはここ」
と言ういおりのスペースは、しぐれとは反対に、物が全くないように見える。強いて言えば工具セットと思われる大きいボックスが目につくくらいだ。
「うちはこっちー!ほら見て!」
ちづるが指さす方向には教科書がきれいに整頓された机とベッドがある。他にはバドミントンかテニスのものだろうか。ラケットケースが壁にかけられている。
「うわ、ほんとにきれいとか」
他己紹介の時に、ちづるの部屋が整頓されている話は聞いていたものの、正直普段の性格から想像が難しかったため、目の当たりにした事実につくもは驚いて口にした。そんなつくもに信じてへんかったんかいとちづるが憤慨する。
二人のやりとりに微笑んだ後、のぞみがじゃあまひろちゃんはあっちだねと言う。
そこには数々の楽器のものと思われるケースや楽譜等が整頓はされているが、しぐれ同様、いやそれ以上に物が多いため、溢れかえっているように見える。
「ここにある楽器、全部弾けるのか?」
この一角にあるものだけでバンドでも始められるのではないかと思えるほど、たくさんの楽器があるので圧倒されながらあゆむが訊く。
そんなあゆむの質問にまひろは、練習中のものもあるけど大体は、とお菓子を手に取りつつ答える。
「えーすごいね!あ、昨日のウクレレもある!」
それを聞いてかなめが言うと、弾いてみよっかとまひろが手を拭いた後、ウクレレを持ち、弾き始める。少しして手を止めると、まだこれくらいしか弾けへんけど笑った。
「まひろんすごい、昨日買ったばかりなのにこんなに弾けるなんて」
かなめが口をあんぐり開けて言うと、のぞみ、あゆむ、つくももうんうんと頷く。
「昨日の夜に少しと、今日起きてからさっきまでずっと弾いてた。あと買う前にも動画見たりしてたから」
謙遜するまひろであったがちづるとしぐれは
「まひろすごいやろ」
「聴き惚れたかー!?」
となぜか得意げに言い、いおりから、なんで二人がそんな態度取れんねんと、つっこまれる。
そんな姉妹のやりとりを見てのぞみが笑い、つられて他の七人も笑う。
「ねえ、そういえばちづるんは、今も走りに行ったりしてるんでしょ?前の学校でもいろんな部活の助っ人やってたんだっけ?部活入ることは考えないの?」
かなめが思い出したようにちづるに訊ねる。するとさっきまでの笑顔がすっと消え、ちづるが俯いた。そんなちづるを見てかなめは慌てて
「ごめん!訊いちゃだめだったかな?言いたくなかったら言わなくていいから!」
とちづるに伝える。のぞみ、あゆむ、つくもも、ちづるのいつもと明らかに違う様子にどうしていいか分からず戸惑っている。そんなちづるたちを見ていおりは軽くため息をつき、
「急にそんな風にしても分からんやろ。困らせてどうすんの」
といつもよりは優しい口調でちづるに言う。するとちづるは顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「ごめん、かなめ。いつか聞かれるって覚悟はしてたものの、実際聞かれるとどう答えていいか分からんくなってもーた!」
悪い悪いと、努めて明るく振る舞うちづるにかなめたちはさらに戸惑っている。かなめは再度、無理しなくていいからと謝る。
「いや、いいねん。大丈夫。昔あったことでちょっと部活に入ることが怖くなっただけやから。それに今みたいな生活も楽しいし!」
「怖くなった……、ちづるが?」
ちづるの言葉を聞いてつくもがかなり小さく呟く。だが、ちづるには聞こえており、
「大したことでは……ないとはうちの中では言い切れんけど、四人になら話しても大丈夫やな。ちょっとだけ暗くなるけど」
そう言って、ちづるはいつもよりは元気がない調子で話し始めた。




