意外な関係
「え、あれ、もうこんな時間?」
いおりが言う。時計は十九時過ぎを指していた。
「あーそろそろ帰らへんとやなー」
ちづるもそう言うと、
「そろそろ帰る?車で送って行ってあげるから。お母さんにも伝えてあるし」
とえまが声をかけた。
「いいんですか、ありがとうございます。ほら、三人とも帰る準備して」
いおりがそう答えて、上着を羽織る。他の三人も身支度を整え始めた。その流れに沿って息子たちが上着を羽織り出したことに気づいたえまは
「あ、四人はお留守番しててね?」
と言うと、えっ、と四人が声を揃えて言った。
「当たり前でしょ。そんなに乗れるわけないじゃない。わたしとお父さんで行くから四人はお留守番。分かった?あ、のぞみくんは自分のお部屋、片付けておきなさいね?」
「わ、わかりました」
えまの言葉に、珍しくのぞみがうろたえながら答えた。
「じゃあ行ってくるから」
えまが言うと羅野姉妹も真野兄弟に挨拶をした。
「お邪魔しました」
「今日はありがとーな!また遊ぼな!」
「のぞぴよ、お部屋ちゃんと片付けといてな!」
「じゃあまた学校で」
「あ、待って待って!」
かなめが言う。
「……?」
「せーの、」
「明日は誕生日、おめでとう!」
真野兄弟四人は声を揃えて言った。驚く羅野姉妹。
「いやー、改めて言っておきたくて!」
「四人とも転校してきて、そしてぼくたちと出会ってくれてありがとう」
「こんなおれたちだけど」
「まあ、これからもよろしく」
真野兄弟からのお祝いに驚きつつも、
「ありがとう!」
「そんなんこちらこそやわ」
「今日も楽しかった!」
「次も楽しみにしてるな!じゃあまた月曜!」
四人も嬉しそうに言葉を返した。
「うん、またね!」
そんな八人のやり取りをニコニコ見守っていたえまが声をかける。
「みんな、忘れ物ない?もう出れる?」
「あ、はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
いおりが答え、他の三人も
「よろしくお願いします!」
と言って車に乗り込んだ。
「ああ、ほんまに今日は楽しかったー!」
四人と別れ、車が少し走ってからちづるがしみじみと言った。
「いやー、あの子たちがあんなに楽しそうにしてるのは久しぶりに見た気がするよ」
それを聞いてそうまも嬉しそうに言った。
「そうよね!私もさっき同じことを四人に言ってたのよ。前も仲が悪かったわけではないんだけどね。でも、あなたたちと出会ってからのみんなの方がとても楽しそうなの」
「改めて、四人と仲良くしてくれてありがとうね。いおりちゃん、ちづるちゃん、しぐれちゃん、まひろちゃん」
えまの言葉に続いて、そうまがお礼を言った。
「いえ、さっきも言ったけど、こちらこそなので」
「しぐらこそ四人に会えて超ラッキー!」
「四人とは気が合うのか、全員と一緒にいてとても楽だし楽しいです」
「だからまた、遊びに来てもいいー?」
「ああもちろんさ」
「ええもちろんよ」
そうまとえまが同時に言った。
「あれ、二人も双子?息ぴったり!」
そう言ってちづるが笑う。
「そう言えば、君たちに聞きたいことがあったんだった」
そうまも笑って言った。
「聞きたいこと?」
「うん。君たちのお父さんの名前なんだけど、もしかして」
ちづるが聞き返した。そうまは少し勇気を振り絞るかのような震えたような声で言う。
「羅野、あきらさんだったりしないか?」
「そうだよ!あきら!」
「え!そうちゃん、うちらのとーちゃん知ってんの!?」
「父とお知り合いですか?」
「なんのご関係が……?」
父の名前がそうまの口から出たことに四人は驚き、矢継ぎ早に質問をする。
「あ、すみません。少し動揺してしまいました」
そんな自分たちの様子に気づいたいおりは冷静に謝罪する。
「いや、構わないさ。やっぱりあきらさんなのか。実はね、君たちのお父さん、あきらさんは僕の高校時代の部活の先輩なんだ」
「ということは、そうちゃんも父と同じでバレーボールをされてたんですか?」
「ああ、そうだよ。ボクがスパイカーであきらさんが、セッターだったんだ。だから練習とかわりと一緒のことが多かったんだけど」
「仲良かった?」
しぐれが聞くと
「そんな、恐れ多いよ。とにかく厳しい人だったから。でも自分にもとても厳しくていつも最後まで一人になって練習してた」
「えー、ぱぱが怒ってるところとかあんまり想像できひんなー」
それを聞いてしぐれが驚いたように言った。
「はは、あきらさん、君たちには甘いのかな?」
「はい、多分相当甘いと思います」
「えーそうなん?」
「特にしぐ姉にはめちゃ甘やと思うけど……」
「えー!全然気づいてなかった」
「うそやろ」
「最近は連絡は取ってるんですか?」
「いや、卒業以来会えていないなあ。いや、一度だけ当時のメンバーで飲みに行ったことがあるか。それも十年以上前になるけどね」
「そんなに!じゃあ、ひさびさに会ってく?」
しぐれが言うとそうまは明らかに動揺して
「きょ、今日は心の準備ができていないかもしれないな……」
とだけ言った。
「まあ、そうは言ってもぱぱ、一週間前から大阪に短期出張行ってるから今日は無理やけど!」
それを聞いてそうまは
「そうか、それは残念だなあ」
と言ったが、心の中では盛大にガッツポーズをしていた。
「今そうちゃん、ほっとしたやろ」
とちづるが笑いながら言う。すかさず、いおりがちづるの頭をはたいた。
「とは言え、父が怒っているところはほんの数回くらいしか見た覚えがないのであまり想像がつかないのは事実です」
「なんかちょっと見てみたい、かも……?」
知られざる父の姿に四人の娘は少し興味があるようだ。
「うーん。逆に僕は甘々な所の方が想像できないんだけどね。あきらさんは今出張中なんだよね。いつ帰ってくるの?」
「明日!ってか今日の夜中?」
「誕生日会開くからってめちゃくちゃ仕事詰め込んで頑張って帰ってくるらしい」
「はは、本当に君たちに甘々だね。だけど自分には厳しい人だ。そういうところは変わってないんだなあ」
そうまが笑いながら少し懐かしそうに言う。
「なー、えまちゃんはなんか部活やってたん?」
「私?私は剣道!」
「へえ!なんか意外!」
「あ、でも似合うかも」
「めぇーーーーん!みたいな?」
えまの言葉を聞いて口々に感想を述べる。
「そういえば二人はどうやって出会ったん?」
「えー、そんなの聞いてどうするのよー」
えまは照れたように笑って言うが
「まあ、大学の時にサークルが一緒で出会ったんだけどね」
と答えた。
「そーなんや!うちらのとーちゃんとおかーちゃんは高校の時やねんな。みんな学生のうちに出会ったりするもんなんやな」
「高校の時……ということは相手はまさか、えっと確か、さくら……さん?」
「そー!なんで……って同じ高校やったんなら知ってるか!」
ちづるが納得したように言う。
「お母さんのことも知ってるの?」
少し驚いた様子でえまが聞くと
「いや、名前できいたことがあるだけなんだけどね。他校の人と付き合ってるって噂だったから。でも先輩自体がすごく目立つ人だったし、かなり有名だったんだよ。今でも覚えてるくらい」
と、そうまが答えた。
「なんかちょっと恥ずいな。両親がそんな感じで有名やったって聞くのは。まあ正直想像つくけど」
いおりが顔を背けながら呟いた。
「あはは、確かに」
そう言ってしぐれが笑った。




