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予想外の反応

 朝のホームルームが終わりに差し掛かる頃、いろは高校の一年生の教室では、各クラスにやってきた転校生たちがそれぞれ自己紹介をしていた。


「初めまして。羅野いおりと言います。よろしくお願いします」


 A組では冷静沈着ないおりが淡々とそれだけ話し終えると、担任の方へ向くと自分の席はどこか訊ねる。あまりにもあっさりとした自己紹介にクラスメイトは呆気に取られながらも、拍手を送った。

 





「はいはーい!羅野しぐれです!しぐって呼んで!しぐには調味料友達がたくさんいます!見て、かわいいやろ!」 


 また、C組ではそんないおりとは対照的にマイペースなしぐれが明るい調子でマイワールドを繰り広げ、これまたクラスメイトを呆然とさせていた。何やら、スマートフォンの画面をクラスメイトに見せているようだが、それが見えるのは前方の席の生徒だけだろう。





「ら、羅野まひろ、です。えっと、何言えばいいんやっけ、あ、好きなことは、音楽を食べること、じゃなくて音楽と食べることです。よ、よろしくお願い、します」


 はたまたD組では、これまた対照的と言えるのか、かなり緊張した様子のまひろが挙動不審な自己紹介を行っていた。明らかに目が泳ぎまくっているまひろに、今日からクラスメイトになる生徒たちは優しく、頑張れと応援している。その温かい空気のおかげで何とか自己紹介を終えることができてまひろは心底ほっとした顔をした。




「初めましてー!こんにち、あ!朝や!おはようございまーす!うちの名前は羅野ちづるって言います!」


 そしてB組の教室では、ちづるが元気いっぱい、教室どころか廊下にまで響き渡るほどの大きな声で挨拶をしている。


「大阪から来ました!好きな食べもんはラーメンで、好きな飲みもんは果汁百パーセントのオレンジジュースです!特技は運動で、走るのもすきやし球技もだいすき!あ、あと泳ぐのも!んでもって、苦手なものは勉強全般!頑張ってやろーと思ってもすぐ寝てまうねんなー!あ、これからどうぞよろしく!」


 大声、早口で軽快に話すちづるにクラスメイトの反応は最初こそ呆気に取られたかのようだったが、なかなかの好感触だった。そしてちづるは思い出したかのように付け加えた。


「あ、あと、他のクラスにも三人転校して来てるんやけどうちの姉妹で、うちは二女です!そっちもどうぞよろしく!」


 ペコリと音がしそうなほどの勢いで頭を下げるちづるにクラスメイトは笑いながらちづるの声に負けないくらいの盛大な拍手を送る。そして、何のスポーツがすきか、特に苦手な科目は何かなどといった内容の質問をする。

 正直この時のクラスの反応は、ちづるが、いや、姉妹全員が予想していたものとは異なっており、ちづるは、クラスメイトからの質問に答えながらも戸惑いを隠しきれなかった。なんせ四つ子であること伝えたのに、そのことに対する反応が顕著ではないどころか、ほぼなかったからである。今まで会ってきた人たちは、ちづるたち姉妹が四つ子であることを知るや否や、大量の質問を投げかけてきたものだった。何より、個人に対するものではなく、四つ子というジャンルに対する興味、好奇心からきた質問ばかりであったことに、本人たちは飽き飽きしていたし、憂鬱にさえも感じていた。


「はい、とっても元気な自己紹介ありがとう。運動が得意なんだね。勉強も頑張ってくれるとうれしいかな。じゃあ、そんな羅野の席は、お〜い、まの!」


 ちづるのテンションの高さに圧倒されつつも、担任は笑顔でちづるにそう言うと、ある生徒の名前を呼んだ。


(担任の反応も普通……。事前に知っててクラスメイトも把握済みやとしてもこんな反応になるもんかな)


 そう考えていたちづるだったが、担任が呼んだ一文字違いの生徒の名前を自分のことだと思い、


「……はいはーい?」


と返事をした。


「あ、いや、羅野じゃなくて、真野!ってまだ寝てるね!そんなに寝てばっかりだったらアルバイトの許可承諾も考え直さないといけないことになるんだけどなあ」


 担任は勘違いをして返事をしたちづるの方をちらっと見て首を横に振ると、真野と呼んだ生徒の方に向き直り、彼に注意をした。


「え、なに……?」


 真野と呼ばれた生徒は呑気にも、自分に何が起きているのか、そもそも担任が何に対して注意をしているかということでさえも分かっていないようだった。


「転校生の羅野!君の隣の席だから教えてあげてって言ってるの!」


「え、転校生?全然気づかなかった……」


「そりゃ君、ホームルーム始まってから最後の転校生紹介に至るまでずっっっっっっと寝てたからね……。これでも何回か呼んだんだよ」 


 担任と真野という男子生徒のやりとりは珍しいものではないらしく、他の生徒たちはまたやってるとでも言うかのようにクスクスと笑っている。


「はあ、ごめんね羅野。あの真野って子の隣が君の席だから」


 担任はそんなクラスの様子にもため息をつき、ちづるに向き直って場所を示した。


「わかった!あ、真野くん?やんな!?寝てたみたいやからもっかい自己紹介するけど、うち、羅野ちづる!大阪から来てん!よろしくな!てか、羅野と真野ってめっちゃ似ててウケるよな!さっきもさ、」


 早速ちづるは向かって左、一番後ろの席に駆け寄って真野に話しかけて得意の弾丸トークを浴びせた。しかし、真野はちづるの言葉を遮り


「いや、うるさ……」


 とだけ言った。寝起きの真野にとってはちづるのテンションはもはや騒音だった。


「あんた、初対面早々うるさって……!まあ、それはよく言われるんやけど!にしても、正直やな、真野くんって。逆に仲良なりたいわ!そーや!下の名前はなんて言うん!?」


 そんなつくもの反応でさえも新鮮に感じられ、ちづるはさらにテンションを上げてつくもに尋ねるが、


「え、つくも、真野つくも……。ごめんもう限界だから寝る……」


「は!?ちょっ!」


 ちづるの言動に圧倒されつつも、つくもはそれでも眠気には勝てなかったようで、また机に突っ伏した。そんなつくもの様子を見て、さすがのちづるも驚きが隠さず言葉に詰まる。


「真野〜、寝るな〜。今から授業だぞ〜」


 そんな二人のやりとりを見て担任は深くため息をついた。苦労も虚しく、早くもつくもは、すやすやと寝息をたてていた。


 なんか調子狂うなあ、と思いながらもちづるは担任から指定された席に着く。横の席で気持ちよさそうに寝ているつくもの姿を横目で見て、心の中で変なやつ!と叫ぶ。次の瞬間、


「あーーーーーーー!」


ちづるが今度は口に出して叫び声を上げ、立ち上がった。担任とクラスメイトの視線がちづるに集まる。


「ど、どうしたの、羅野?」


 突然のちづるの言動に驚き、言葉を詰まらせながらも所業の理由を訊ねる。


「教科書持ってくんの忘れた……」


お弁当以外中身の入っていないスクールバッグを覗き込むようにしてちづるが言う。軽いなと思ってはいたのだが、自己紹介に気を取られて授業のことをすっかり忘れていたのだった。


「……もう少しで授業始まるから、それまでに隣のクラスに借りておいで。幸いにも姉妹がいるんだから声かけれるでしょう?」


担任が打開策を伝えてやる。四つ子と言う存在を特別視したわけではない言い方でまた、ちづるは変な感じがするなと思ったが、


「りょーかい、行ってきまーす!いおりー!」


 と駆け出した。そんなちづるを見てクラスメイトはまた、笑いに包まれる。


「いや、あの転校生、ほんとにうるさい……」


安眠の邪魔をされたつくもはボソリと呟くが担任からもう起きないといけないからちょうどいいでしょと言われている。そんなやりとりをしている間に早くもちづるが教科書を抱えてクラスに戻ってきた。


「ふーっ、セーフ!」


 ちづるの声と同時に本鈴が鳴った。


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