真野家訪問
「……だからなんで母さんがそんなにソワソワしてるの?」
「つくもくん!だって!緊張するわよー!」
朝からずっと時計を見たり、うろうろ歩き回っている母を見てつくもが言う。
「もー大丈夫だってー!みんないい子たちだしー!」
かなめも笑いながらそう言うと、ガチャと玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
「あ、来たみたい」
「おかえり、のぞみくん、あゆむくん」
真野兄弟の母は、四人を駅まで迎えに行っていたのぞみとあゆむに声をかけた後、
「あらー、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
と二人の後ろにいた羅野姉妹に声をかけた。先程まであんなに緊張した様子を見せていたのに、さすがは大人の対応だとぼんやりつくもが考えている。
「お邪魔します……!お招きいただきありがとうございます。大勢で押しかけてしまって申し訳ありません」
そんな真野兄弟の母に代表していおりが挨拶をして、手土産に持って来たお菓子を手渡す。
「もー!そんな畏まらなくていいのよ!ありがとう、せっかくだからいただくわ。だけど自分のお家だと思ってくつろいでいってね!かなめくん、つくもくん、案内してあげて」
「やっほーみんな!靴そこで脱いだらこっち来てー!こっちがあゆあゆとつくつくの部屋だよー!」
「お前なんで、オレらの部屋に案内するわけ?」
「だってさー」
自分の部屋ではなくなぜかあゆむとつくもの部屋を案内しようとするかなめに突っかかる。
「ちょっとちょっと、かなめくん、あゆむくんやめなさい。もう。せっかく四人が来てくれてるんだから喧嘩しないの!」
そんな二人の様子を母が嗜める。
「はーい。でもボクらの部屋はさー」
かなめが素直に言うと
「あーまあ無理か」
とあゆむも納得した。
「なになに、なんかだめなん?」
首を傾げてしぐれが聞くと
「ふふ。ぼくのせいだね」
なぜかのぞみが自分が原因だと言いつつにこにこしている。
「のぞみのテリトリーがいつもめちゃくちゃ散らかってんだよ。こいつマジで片付けないから」
「意外!綺麗ずきそうやのに!ちづるもやけど人は見かけによらんなあ」
しぐれがそう言うと、
「何でいちいち、うちのこと引き合いに出すんかなあ?」
とちづるがぼやく。
「もうほんと、この子たちは。ごめんなさいね、リビングの方来てくれていいから。座布団だけど用意してあるし、どうぞ座って座って」
「ありがとうございます、失礼します。」
代表していおりがそう言い、四人が用意されていた座布団に座った。
「改めてお顔を見させてもらうと……やっぱりそっくりねえ。さすが四つ子ちゃんね。ほんとかわいいわぁ」
「あの、すみません、自己紹介が遅れてしまいました。私、長女の羅野いおりです」
「うちが次女のちづるです!」
「三女のしぐれと!」
「四女のまひろです」
「ふふ。ありがとう。いおりちゃんはDIYをやるんですってね。ホームセンターでバイトしてるとか」
「え、あ、はい、そうなんです」
真野母の、自分のことを理解してくれている発言に少し驚きつつも、いおりが答えた。
「棚とか大きいものも作れるの?」
「はい。あたしたち四人で部屋を使ってますが、棚は私が作ったものをみんな使ってますね」
質問にいおりが答える。
「こんなやつがほしい!って言ったらいお姉が作ってくれるし、使い勝手もいい!オーダーメイド!」
しぐれも続けてそう言った。
「まあ、それは素敵ね。あ、ちづちゃんは運動が得意なんでしょう?少しみんなより日に焼けてるからお外でスポーツしたりもしてるのかしら?」
今度はちづるに質問を投げかけた。
「うん!毎日走るのは欠かさんようにしてて!」
ちづるが答えると、
「まあ、えらいわぁ。私なんてお休みの日は一歩も外に出たくないもの。運動の習慣が若いうちからちゃんとついてるのは本当にいいことだと思うわ」
と感心している。
「えへへー!けどやってみると結構楽しいと思う!」
「そうなのね。なら見習って散歩から始めてみようかしら。あの子たちも動いた方が良さそうね。特にのぞみくんとつくもくんは本を読んでたり、寝てたりで動きたがらないから。今度誘ってみるわね」
「あはは、つくもがやだって言って寝てる想像つくけど。やってみて!」
そう言ってちづるが笑った。
「よく分かってるわね。あ、そうそう、しぐちゃんは動物がだいすきなのよね。私も動物はすきなんだけど怖がられちゃうの。一度でいいからしぐちゃんみたいに囲まれてみたいんだけどコツとかあったりするの?」
「わー!動物だいすきなの!?仲間だ!コツ……って訳じゃないけど上からじゃなくて下から触るようにしたり、近寄る時も見下ろしたりせずに目線合わせるようにするといいかも!」
「そうなのね……!なんだか早速試してみたくなっちゃった」
真野母がそう言うと
「じゃあしぐのバイト先のアニマルカフェ来て来て〜!めちゃくちゃ色んな種類の動物いてどの子もかわいいから!」
「あらー行きたいわ!息子たちと一緒に行かせてもらおうかしら」
「うん、ぜひぜひ!」
「まひろちゃんは……!」
「は、はい!」
初対面の人にかなり人見知りを発動するまひろは、真野家に来る前からずっと緊張し続けていた。
そんなまひろに、真野母は優しく微笑み、
「音楽がすきなんですってね。普段どんな音楽聴いたりしているの?」
と問いかけた。
「あ、えっと、音楽自体がすきなので結構ジャンル問わずって感じなんですけど、最近は少し前に人気だったバンドの楽曲を聴くのにハマっていて、この辺りを……!」
すきな音楽の話になってホッとしたのか早口ながらもしっかり答えながら、スマホの画面を見せる。
「あら、まあ!私このバンドだいすきなの!ほら見て!」
まひろのスマホを見て真野母がそう言うと、棚を指差し、かけてあった布をめくる。そこにはずらっとCDやグッズが並んでいた。
「え、待って!うわあ!すごい!これ全く出回ってないライブ限定のCDや……!ペンライトもめちゃくちゃあるし、え、サインもある!?何この空間強すぎませんか……?」
「結構入れ込んでたのよね……!それにしても、まひろちゃん若いのに詳しいわね!」
「このバンド、実は母もすきで、よく教えてくれるんです!でもここまでは……!」
そう言って目の前のお宝の山にまひろは目を輝かせる。すっかり緊張がほぐれていた。
「やだなんだか恥ずかしいわぁ。けどもしよかったら貸すわよー!限定盤じゃないと聴けない曲、あるでしょ?確かこれとかこれとか……」
そう言って探し出した真野母にまひろは恐縮しまくり、
「いやいやこんなに価値のあるものお借りできないですよ……!」
と言って断ろうとするが、
「でもこの曲とか、すごくすきでねえ。ぜひ聴いてほしいわ。せっかくの価値でも聴きたい人に聴いてもらえずここにあるだけじゃむしろもったいないもの。よければ持って帰ってお母さんと一緒に聴いてみて。それで感想聞かせてくれたらうれしいし」
「本当にいいんですか……!?母も喜ぶと思います!」
そう言ってまひろはとてもうれしそうにしている。
「いいのよ!返す時はあの子たちの誰かに……そうね、あゆむくんに渡してくれたらいいから」
誰でもいいと言いかけたが、返却した時の息子たちの様子を想像した結果、あゆむを指定することにした。
「あははは、確かにあゆむが適任やな。他の三人に任せるとちょっと不安かも」
そんな真野母にちづるが笑う。




