らま鉢ーズ!?
九月四日。夏休みが終わり、久しぶりの登校日である。羅野姉妹にとってはこれが二回目の登校となる。
「この学校宿題多すぎやろ」
「しぐ、ここ最近ずっと宿題してた気がするんやけど」
げんなりした様子のちづるとしぐれが言う。
「あんたらが溜めすぎてたんやろ。計画的にやらんから」
「だってえー」
「だってちゃうわ」
そんな二人をいおりが嗜めていると、
「あ、羅野ちゃんたちだおはよー!」
「朝から仲良しだねー!」
と同級生から声がかかる。
「おはよー!みんな久しぶり!今日からまたよろしくな!」
そんな同級生たちにちづるが元気よく答える。
「こちらこそよろしくね!」
四つ子耐性がついている生徒たちではあるが、それでも四姉妹はやはり目立つため存在を広く知られており、その後も色んな人から話しかけられた。
「あ、つくもおはよー!今朝もバイトやったん?」
ちづるがクラスに入ると机で突っ伏しているつくもがいたので話しかける。
「ちづる、ふぁー、おはよ……。バイトだった」
「そっかお疲れ!」
「ありがと。あ、そうだこれ」
「なにこれ?」
「あゆむに、おれからはちづるに渡しといてって頼まれた。自分で渡せばいいのに」
つくもは軽くため息をつき終わるとまた机に突っ伏した。ちづるは受け取った袋を開けて中身を取り出す。
「マスコット……?ってこれつくもが前プリに描いたらま鉢のキャラクター!」
「なんかずっと作ってた。あゆむ」
「え、これあゆむが作ったん!?」
「うん。あゆむ裁縫も得意だから」
「うち、ちょっとあゆむのとこ行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
ちづるが隣のクラスへ行き、あゆむを探すと、後ろの方の席に座って教科書を準備している姿を見つけて思わず大声で名前を呼びながら駆け寄る。
「あ、あゆむ!」
「ああ、ちづるか、はよ。相変わらず声でけぇな」
「もー、恥ずかしいからボリュームもっと落として」
突然耳に入って来た妹の声量に顔を顰めながらいおりが注意する。
「おはよっ、てか!」
ちづるは注意を受けて声量を少し落としたが、興奮しているので結局大きいままだった。しかも
「あゆむくん!」
「あゆりん!」
と、まひろとしぐれもあゆむのところに駆け寄ってきたので、依然、騒がしいままである。
「これ……!」
「あー。受け取ったんだな。前つくもが書いたやつ。らま鉢。作ってみた」
頭を軽く掻く仕草をしながらあゆむが答えた。
「めっちゃっくっちゃかわいい!ありがとう!」
「そうか。それはよかった」
「直接渡してくれればよかったのに」
「うんうん」
「……なんか恥ずかったから。まあ結局こうなるなら同じだったけど」
そう言うあゆむはやはり顔を少し赤くしている。
「この子たち、色も違うんやな」
あゆむからマスコットを受け取っていたいおりも、姉妹のものを見て感想を述べる。
「ああ。前、ボウリング終わりにファミレスで話してた時、すきな色の話になっただろ。その色でそれぞれ作ってみた。つくもにも八個分の色のバランス考えてもらった」
「八個も作ったんや……!すごいなあゆむくん」
「さてはおぬし、実はラマ鉢への愛めちゃくちゃ深いな……?」
「るせぇ。それより授業始まるだろ。お前らそろそろ自分たちのクラス戻れよ」
「うん!ほんまにありがとうな!後でみんなで写真撮ろ!」
「いいな!昼休み集まるか!」
「おけ!みんなにも連絡した!」
「はやっ!」
しぐれの行動の早さにあゆむがつっこむが、かなめからも早速、了解を示す意図のスタンプが送られてきていた。
「こいつも反応はやいな」
それを見たあゆむが呟く。
かなめから、かなめのらま鉢の写真も送られてくる。
「そして腹立つ……」
あゆむは、全て見透かしているかのようにらま鉢の画像を送ってくるかなめに恥ずかしさも相まって苛立ちを覚えた。
「んじゃまたあとで!」
「ほんまにありがとう!」
そう言ってちづる、しぐれ、まひろがクラスを出て行く。それを見送り、いおりがあゆむに話しかける。
「いや、ほんまにあゆむくんがこんなかわいいの作ってくれてるなんて思いもせんかったわ」
「もういいだろ……!」
「ごめんごめん。妹たちもあたしも、みんなうれしくてさ」
そう言ういおりに
「はいはい、もうわかったから。授業始まるぞ、いい加減前向け」
と顔を机に突っ伏してあゆむが言う。
「ふっ、はーい」
そんなあゆむを見ていおりは少し微笑んだ。
「やっと昼休みやー!久しぶりの学校、授業ってやっぱり疲れるわ……。あー!夏休みが恋しい!」
「うるさいなあ。疲れてるんやから休ませて。あんたの騒音聞いたら休まるもんも休まらんわ」
「なんやと!」
「ほんといおりちゃんとちづちゃんって仲良しだねえ」
ちづるといおりのやりとりをなぜかほのぼのと見ながらのぞみが言うので
「仲良くないわ!」
と二人は声を揃えた。
「それでー、みんな例のアレ、持ってきたやんな?」
そんなやりとりは気にしていない、しぐれが言うと、
「ふふ、もちろん!」
そう言ったちづるの声を合図にみんながさっとあゆむの作ったマスコットを取り出した。
「いやー、改めて見てもかわいいなあ。全員色違うし……って表情も違う!」
「見て!つっきゅんの子!寝てる!」
「ほんまや!本人そっくりやな!ってみんなのやつ見比べてから見ると…なんでうちの子こんなアホっぽい顔してるん?口開いてるし!」
「本人そっくりやな」
ちづるのマスコットを見たいおりがふっと笑いながら言う。
「いおりのも見せてみ!ってなんか普通や!けど工具持ってる!」
相変わらず自分のことをバカにしてくるいおりに憤慨してちづるもいおりのらま鉢を見せてもらうが、存外普通な表情をしていることに加えて趣味のDIYまで反映されていることに
「すご、細かいなぁ」
と先程までの怒りは何処へやら、すっかり感心へと変わっていた。それほどまでにあゆむが作ったマスコットは細部までこだわって作られていたのである。
「写真とろー!」
「あ、かなっぺそのカメラ!」
「へへーんボクの相棒だよー!いつも学校には持ってきてないんだけど今日はなんとなくこれで撮りたいって思う気がしたんだよね。正解だったね」
そう言ってニヤリとあゆむの方を見る。
「あゆあゆー!はいチーズ!」
「オレ単体じゃなくていいから。みんなで撮るんだろ」
「そーだね!」
カシャリ
「撮ってんじゃねえか!」
そう言いながらシャッター音を響かせるかなめにあゆむがつっこむ。
「へへへー!さ、みんなでも撮るよ!はい、ラマ鉢ーズ!」
「え、なにそれ」
「語呂も悪いな」
突然のかなめの掛け声にいおりとちづるが口々に感想を述べる。
「そんな、せっかく考えたのに……!」
「まー、どんまい」
軽く落ち込んでみせるかなめに、ニヤリとあゆむが笑って言った。
「あゆあゆいじわるー!」
「ははっ、おまえだろ」
「ふふふ。あ、そういえばみんな、八日大丈夫そう?うちの親たちめちゃくちゃ張り切っててさ」
そんな弟たちのやりとりを見て微笑みながら、のぞみが思い出したかのように羅野姉妹に聞く。
「もちろん大丈夫!けどほんまに?そんな楽しみにしてくれたはるん?」
ちづるが聞くと
「それはもう。あんなにウキウキしてるの久しぶりに見た気がするよ」
そう言ってのぞみが苦笑する。
「へえ!なんか謎に緊張してきたかも」
「ちづるに緊張って感情あったんだ」
「つくも、うちにつっかかりすぎちゃう?アイムヒューマン!」
「一応人の形留めてるだけやろ」
「いおり?」
「ふはっ、そんな緊張しなくて大丈夫だよー。いつも通りで!それじゃあ八日楽しみにしてるね!」
かなめも笑ってそう言った。




