いざ、アニマルカフェ!
「なあなあ、エスカレーターとエレベーターってちゃんと使い分けられる?」
ちづるが後ろにいるあゆむに尋ねた。
「いや急にどうした?」
「いいからいいから〜。今乗ってるのはどっちでしょう〜?」
「え、エスカレーターだろ?」
唐突な質問に意味がわからず戸惑いながらも答えるあゆむにちづるがなぜか悔しそうに
「天才やわこいつ」
と言う。
「……こんなんで天才だったら世の中天才のごった煮だろ」
そんなちづるにあゆむが呆れたように言う。
「世の中天才のごった煮だろ……」
「世の中天才のごった煮だろ……」
「世の中天才のごった煮だろ……、伝えて」
「?世の中天才のごった煮だろ……」
「世の中天才のごった煮だろ……、え、これを伝えるの?」
「世の中天才のごった煮だろ……?え、なにこれ」
「おいそこ!伝言ゲームみたいに後ろに伝えて繰り返すな!」
あゆむが後ろにいる六人に言う。
「だってなんか回ってきたから」
いおりがそう言うと
「回すな!……なんかオレはエスカレーターって文字に"か"って入ってるだろ?エスカレーターは階段の"か"っていう風にして覚えるといいって誰かに教えてもらって覚えた気がする」
「エスカレーターは階段の"か"」
「エスカレーターは階段の"か"」
「エスカレーターは階段の"か"」
「だからいちいち回すなって!」
「……あゆむって優しいな」
「分かる。優しい」
「なんだよ、うるさいな」
「……照れ顔も回す?」
しぐれが笑ってそう言うと
「回さねえよ。ってかどうやって回すんだよ……!今気付いたけどなんでオレこんなにつっこんでるんだよ。そんなキャラじゃねえんだけど。お前らボケすぎじゃね?いおり、こいつらどうにかしてくれよ」
あゆむは自分のキャラ崩壊につっこみつつ、好き勝手し放題な妹たちの対処をいおりに求めるが、
「ごめん基本私その二人放置することにしてるから管理は任せる」
と突き放される。
「まじかよ。おい姉」
とあゆむは途方に暮れた。
「あ、着いた着いたっと!あゆりん、しぐたちのお世話ありがとね」
「手ぇかかってんのわかってるなら改善してくんねえかな……」
「ふふ、お疲れ様、あゆむくん」
そう言って項垂れるあゆむにのぞみが笑顔で声をかけた。
「何笑ってんだよのぞみ。見てたんなら助けろよ。」
「だって、あゆむくん楽しそうだったからついにこにこして見ちゃった」
「だからなんでお前はそう脳内お花畑なんだよ……。どこをどう見たらそんな解釈になんだ?」
「……じゃあ楽しくなかった?」
「……!いやそんなことはねえけど」
「ふふ、でしょ」
「おーいあゆりんはどのコースにすんのー?猫耳つけるコースでいいー?」
「いや、どんなコースだよ!つけねえわ!……のぞみ」
「なあに?あゆむくん」
「お前のそう言うとこほんとムカつく」
「がーん、お兄ちゃんショック……!」
「うるせえ。そういうとこもだよ」
そう言いつつも少し顔を赤らめているあゆむをのぞみは見逃していなかったし、のぞみに見逃されていないことをあゆむも分かっていたので、
「ちづる!しぐ!猫耳ならこいつがつけっから!」
ちょっとした仕返しのつもりで提案する。
「あゆむくん!?」
「ほんま?のぞみも似合いそうやな」
「うんうん、のんのん似合うよ」
「つけて。のぞみ」
なぜかかなめとつくもまで話に入ってくる。
「うーんそこまで言うなら……どう?」
兄弟に言われてはと、のぞみが後ろを向いて猫耳をつけた後、恐る恐る振り返って感想を求めたところ。
「やっぱり似合わなかった。ごめんのぞみ。外してくれる?」
兄の猫耳姿を見たつくもが嘆願する。
「う、つくもくんひどい。もう取るもん」
「いや取らなくていい。似合ってるし、はは」
「あゆむくん面白がってるでしょ。笑い声がめちゃくちゃ乾いてるんだけど」
「あ、チケット買えたでって何してんの?」
全員分のチケットを買っており、状況を全く把握してなかったいおりが尋ねた。
「なんでもないよ。それよりチケットありがとう。入場しようか」
「……う、うん」
のぞみの頭上に何故猫耳がつけられているのか分からないいおりはちらちらと頭上をみるがのぞみはもう吹っ切れておりそんな視線に気付いてすらいなかった。
「チケット拝見いたします〜。八名様ですね。いらっしゃいませ。ようこそアニマルカフェへ。こちらメニューと注意事項となっておりますのでご覧ください。注意事項にご承諾いただきましたら手を洗って消毒いただき、あちらの席へお座りください。後ほど係のものがメニューを伺いにまいります。その際ご入用であれば動物たちのご飯をお買い求めいただくこともできますのでお気軽におっしゃってください。何かご質問等ございますでしょうか?」
「いえ、大丈夫です。」
「承知いたしました。では手指消毒後、あちらのお席はどうぞ。いらっしゃいませ、八名様ご来店でーす」
「いらっしゃいませー!」
「すごいテキパキしてるな」
「メニュー見してー!ってしぐれ?」
「あ、ごめん、はい」
「ありがとう。何にする?」
「ボクはこのねこもなか付きおしることさくらもちのセットで!」
「ぼくはこのワンワンプリンと本日のケーキセットにするね」
「オレ、ほうじ茶アイス」
「おれはクロワッサンにする」
「真野家決めるのはやっ。うちら何する?あ、うちオレンジジュースにしよ。さっきラーメン食べたしさすがにお腹いっぱいやわ」
「あたしミルクセーキと紅茶クッキーセットにする。まひろは?」
「わたしもラーメン食べたから……このトゥンカロンとマリトッツォと苺大福の抹茶ココアセットにする」
「いや前置きおかしいし」
「てかなんやねんそのセットは。全員主張強すぎるし絶対チームワークゼロやろ」
「でもこの店なんでもあるなあ。あ、しぐ姉、ラムネあるで」
まひろが言ったがなぜか返答しないしぐれを三人が覗き込む。
「しぐれ?」
「どうしたん?」
「あ、ごめんお小遣いでどこまで本気だせるか考えてた」
しぐれは真剣にメニューを見ていたようだった。
「店員さん呼ぶで?」
いおりは問いかけてしぐれも
「うん、大丈夫」
と答えた。
各々すきなものを注文したが、しぐれは
「このカフェにいる動物全種類にあげれるおやつセットお願いします!」
と張り切って注文した。
「……めちゃくちゃ堪能してるねえ」
とても満足げに動物たちと触れ合いおやつをあげるしぐれをみてのぞみが微笑みながら言った。
「……いや堪能しすぎじゃね?動物全員あいつの周りにいるんだけど。おやつ持ってない状態ですでにああなってたしおやつを持った今無双しすぎててこっちもはやただのカフェなんだけど」
あゆむが冷静に今の状況につっこんだが、かなめとのぞみは呑気に
「でもここのスイーツほんとにおいしいね、のんのん」
「うん。また来ようね、かなめくん」
と言いながらスイーツを堪能している。
「しぐ姉幸せそうやなあ」
「ほんまに動物を愛し動物に愛されるよな昔から」
幸せそうにしている姉妹の様子を見ながらまひろといおりが話していると、
「失礼ですが三人様はあちらのお客様とご姉妹、でいらっしゃいますか?」
さっき案内してくれた店員さんが三姉妹の座っているテーブルに再び来てそう尋ねた。
「あ、そうです。うちの三女です」
といおりが答える。
「そうなのですね。お顔が大変よく似ていらっしゃったのでそうかなと。皆様は高校生でいらっしゃいますよね?」
また店員が尋ね、
「あ、はい、そうです」
と今度はまひろが答えた。
「実はですね、あそこまで動物を愛し、動物に愛される方はなかなかいないので……。スカウトというと大袈裟になってしまうのですがアルバイトとしてぜひここで働いてもらえないかとスタッフ一同で話しておりまして。それをご本人様に伝えても大丈夫かお聞きしたくお声がけさせていただきました」
真剣な表情でそう話す店員さんにちづるが答える。
「なるほど。それはご丁寧に。ぜひあんなんでよかったら働かせたってください。ちょうどアルバイト先探してるところなんで」
「本当ですか!ありがとうございます。では今は楽しまれていらっしゃるので後ほどお話させていただこうかと思います。お食事中失礼いたしました。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
返答を聞いて嬉しそうな表情を浮かべた店員さんはバックヤードに戻ろうとするが、のぞみが引き止めた。
「あ、すみません。ぼくたちさっきのセット、もう一セットずつお願いします」
かなめもにこにこしながら頷く。クロワッサンを食べ終わったらしいつくもはちょうど日が差し込みぽかぽかした席でうとうととしている。
「こっちはこっちで堪能してるわ」
そんな様子を見てちづるが言う。
「承知いたしました。空いているお皿お下げいたしますね。失礼いたします」
テキパキと食器を片付け店員さんが戻って行った。
カフェの利用終了時間になり、思う存分スイーツを堪能した二人と動物に囲まれて幸せな空間を堪能したしぐれの顔は緩みきっていた。
「あーー楽しかった!お会計お願いします!」
「はーい。すぐ伺います!」
「あ!」
「あ?」
「なに?」
「どうしたの?しぐちゃん。」
七人がしぐれの方を向いて聞く。
「やばい。しぐ、全種類おやつセット注文したんやけど」
「うん、頼んでたな」
「そういえばさっきの入場チケット代のこと考えてなかった」
「嘘やろ」
真野兄弟は、入場チケットを全員分買ったいおりにのぞみが兄弟分の料金を先にまとめて渡していた。羅野姉妹の分はいおりが先に支払っており、あとで返すことになっていた。
「まー、家帰ってからでも返してくれればいいけどさ。えっと入場チケット代が……」
いおりがしぐれに言っていると
「あの、すみません。少しよろしいでしょうか?」
「店員さん?なんですか?」
「実はですね。先程皆様にはお伝えさせていただいていたのですが、しぐれさんとおっしゃいますよね。しぐれさんにぜひうちのカフェで働いていただけないかと考えておりまして」
「……ほへ?しぐがですか?」
「はい。アルバイト先もお探しだとお聞きしまして。実は急に人が辞めることになってしまった関係で深刻に人手が足りてなくてですね、急遽アルバイトを募集していたのですがなかなか見つからずでして。少しでもうちに、動物たちに興味を持ってもらえたらとこんなキャンペーンを始めたところだったんです」
壁に貼ってあるポスターと同じものをしぐれの前に差し出す。
「なになに?全動物と仲良くなろう!みんなのおやつプレゼントキャンペーン?」
横からちづるが覗き込んで読み上げた。
「はい。何より動物たちにすごく愛されてしあわせそうな表情をされていたので、一緒に働いていただけると動物たちもとてもよろこぶと思いますので。こう言うと失礼になってしまいますが、今なら先程のおやつセットも差し上げられますし」
今の状況を見ていたらしい、店員さんが言う。
「しぐ、バイトしたことないんですけど……」
「はい。大丈夫ですよ、もちろん一からしっかりとお教えしますので」
「……でもさっきの店員さんのテキパキした対応とか、動物たちのお世話してる時の丁寧さとか、とてもいいなって思ってて」
「それはありがとうございます」
「実はここで働きたいなって思ってて」
「本当ですか。では……!」
「し、私、羅野しぐれと言います。ここで働かせてください」
「もちろん、喜んで!」
「やったー!」
「店員さんもしぐれも喜んでるね」
そんな様子を見てつくもが呟く。
「バイト決まってよかったな」
「うん!ありがとう!」
「なかなかスカウトで決まることないよな。さすがしぐれ」
「確かに。動物にあんなに囲まれることもないよな。さすがしぐ姉」
「別次元で生きてる説が強い仮説に変わってく。」
あゆむにお礼を言っていると、ちづる、まひろ、いおりが口々に感想を述べるので、
「ちょっと!姉妹のアルバイト先が決まったんですけど?」
としぐれは頬を膨らませる。
「はいはいおめでと」
「おめでとう!」
「おめでとうしぐ姉!」
「ありがとうみんな!」
が、素直に祝われてすぐに笑顔になった。
「ではお会計変わりましてこちらお支払いお願いいたします。あ、しぐれさん」
「は、はい!」
「後日面接という形を取って希望日や時間帯等のご相談を行いますのでひとまずはご連絡先をお教えいただけますか?」
「は、はい!さっき履歴書も買ったのでその時持ってきます!」
「ではよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」
しぐれが笑顔で答えた。




