たまたまとたまたま、つまりはたまたま
「さ、履歴書も買えたし、お昼食べよっか。って言ってもさっき朝ご飯食べたようなもんやからあんまお腹空いてないけど」
「しぐも!」
「うちも軽くオレンジジュースにしよかな」
「え、みんな、ほんまに言ってる?わたし、カツカレーかオムライス、ビビンバあたりでどれにするかってことに加えて食後のアイスを何にするかまで迷ってたんやけど……」
「さすがまひろ。朝も一番食べてたのにな」
まひろの言葉にしぐれが心底感心していると、ちづるがある人物を見つけて言った。
「あれ!?なーあそこにいるのってあゆむちゃう?」
「え、うそ、どこどこ?」
「ほらあそこ!フードコートの入り口らへん!」
「ほんまや!おーい!あっゆりん〜!」
しぐれが声をかけるとあゆむも四人に気付き、
「あ?ってお前らか、よく分かったな」
と少し驚いた顔をした。
「さすがに夏休みやからか、人めちゃくちゃ多いもんな」
休日のショッピングモールといえる人混みを見て言ういおりに
「いやちげえ。まあ、それもあるけど、よく見分け付いたなってこと」
とあゆむが小さな声で言った。
「え、それは分かるわ」
「分かるよな」
「うん」
「分かる」
それを聞いて羅野姉妹が口々に言うと
「あーあー!もう分かったからやめろ。なんか恥ずい」
とあゆむはそう言って後ろを向いてしまった。
「あー!照れてる!」
「照れてねえ!」
わざわざ前に回り込んで言うしぐれにあゆむが言い返した。
「あゆあゆー?何してんの?ってあれ?四人ともどうしたの!?」
あゆむに気づいて近くにやって来たかなめは、周りにいる羅野姉妹にも気づき、驚いた顔をしながらこちらへ向かって来た。
「あ、かなめくん、それにのぞみくんも!」
かなめのすぐ後ろにいたのぞみにもまひろが声をかけた。
「フードコート来たらたまたまあゆむがいるの見えたからさ!話しかけてたとこ!」
「そうなんだ!ってあゆあゆなんか顔赤いね?」
「あゆむくん何かあったの?」
かなめとのぞみがあゆむの顔を覗き込んで聞くが、
「うるせえ。んなことよりつくもは?合流したのか?」
とだけ言った。
「あーボクらもさっき合流して注文したとこだからまだ声かけてないけどつくつくは……」
そう言ってかなめが振り向いた先に机に突っ伏した何かを見つけることができた。
「あれか……。あいついつからああやってんだ?」
あゆむがため息をつきながら聞くとかなめが答える。
「さあ……。けどそんな経ってはないんじゃないかな?注文したであろうお店の呼び出しベルが隣にあるけどまだ鳴っては無さそうだし。待ってる間に寝ちゃったんでしょ」
そんな二人の会話を聞いて、
「なー、つくもって、やっぱりどこでもあんな感じなん?」
とちづるが呆れる。
だがのぞみはなぜか、
「そーだよ。でも見て、ほら」
と言って、嬉々として机を指差す。
「え、え、なに?」
本気でわからず戸惑うちづるに
「ほら机の上。ちゃんとセルフで取ってくる水が四つ置いてあるでしょ?つくもくん、気の利く子なんだよ」
とのぞみがにこにこしながら言った。
「……のぞみ、えらいうれしそうやな」
「これでもみんなのお兄ちゃんだからね。弟がいい子だと幸せなんだよ」
「あー、はいはいみんなのお兄ちゃん、あいつのベル鳴り出したけど寝てて気づいてないっぽいから取りに行ってやれば?」
あゆむがいつものことながら兄弟愛を炸裂させている兄を見かねて言う。
「あゆむくんったら、拗ねなくていいんだよ。あゆむくんのお兄ちゃんでもあるんだからね」
「どこをどう判断したら今のでオレが拗ねてることになんだよ……!さっさと行けよ、ばかのぞみ」
あゆむがため息をつくがのぞみは気にせず、いまだ鳴り止む気配すらないつくものベルを机まで取りに行き、ベルの呼び出し先の店を確認してから注文した品を取りに向かった。
「あ、ねえねえ、四人は場所取ったのー?そろそろお昼時だし混雑すると思うから先に席確保したほうがいいと思うよ!ボクらのテーブルの横、まだ空いてるからよければどーぞ!」
「ありがとう!!じゃあ遠慮なくー!おーい、つっきゅーん!」
「んあ?なんでしぐれがいるの……?あ、夢か。おやすみ」
「いや、寝るな寝るな」
「ちづるまで……?何してんの?」
全く状況を理解していないつくもにちづるがつっこむ。
「いや、こっちのセリフな。あんた何こんなとこでも寝てんねん」
「注文待ってたら眠くなってきて。三人も来ないし…ってあれ、ベルどこやったっけ……」
やはりベルが鳴っていたことや、のぞみがベルを取りに来たことに気づいていなかったらしく、つくもはベルを探し始めた。
「はい、つくもくん。取ってきたよ。ハンバーガー頼んでたんだね」
そこにちょうど、つくもの代わりに店まで品物を取りに行っていたのぞみが帰って来た。
「あ、のぞみ。取ってきてくれたんだ、ありがと」
「どういたしまして。つくもくんも席とお水ありがとね」
「んー」
つくもがのぞみから注文した品を受け取り、返事をする。
「つくもくんが頼んでたのってハンバーガー……?でもつくもくん、昨日もハンバーグ食べてなかったっけ」
つくもの品を見ていおりが尋ねる。
「まあハンバーグとハンバーガーは全くの別物だよね。けど毎食ハンバーグでも全然いい」
「やっぱりハンバーグ愛つよ……」
昨日のことながら、つくものハンバーグ愛を思い出したまひろが言った。
「てか、四人揃って何してんの?」
「それはこっちのセリフでもあるけど……。うちらは履歴書買いに来た」
「履歴書?こんなとこまでわざわざ?駅までちょっとあるって言ってなかったっけ」
あゆむが不思議そうな顔をする。
「まあこの辺りにどんな店があるか見に来たってのが一番の理由やけど!バイト候補探し!あとは、普通にショッピングしたかった」
「うん、最後のやつが最大の理由に聞こえるな」
ちづるの言葉にあゆむが言った。
「なるほどね!いいお店は見つかったの?」
「んーん!まだ履歴書買っただけーー!さっき来たとこでさ。で、特別腹が減ったわけではないけど戦のために腹ごしらえにきたって感じ。まひろはお腹空かしてるけど」
かなめの質問にしぐれが答えた。
「そーなんだ?そういえばまひろちゃん昨日も結構食べてたよね。食べるのすき?」
「うん!だいすき!」
にこにこしながらそう言うまひろにつられてかなめも笑顔になる。
「いいね!何食べんのーー?おすすめはねー!」
「ラーメン」
「え?」
「あ、いや、おすすめって言えばラーメンかなって思ってたら口に出てた。わるい」
あゆむがつい口を出してしまったことを謝った。
「あゆあゆね、ラーメンだいすきなんだよ」
とかなめが言うと
「ほんまに?わたしも食べ物の中でラーメンが一番すき!ちづ姉もラーメンだいすきやからよく一緒に食べに行ってたんやけど、この辺でも美味しいとこ探してたとこで……!な!ちづ姉!」
だいすきなラーメンの話になりテンションが上がったまひろは、ちづるにも話を振った。
「そーそー!あゆむ、今度おすすめの店教えてくれへん?」
「それは別にいいけど」
「あゆむくんも今からラーメン買いに行くん?」
「ああ」
「じゃあわたしもラーメンにする!ちづ姉も食べるやろ?」
「うーん、まあラーメンなら別腹か」
「あんたお腹空いてないって言ってたやろ」
「だってラーメンはラーメンやから」
「は、なにそれ。意味わからん」
「あははははは。あははははは!」
ちづるといおりの会話を聞いてまひろがこれでもかというくらい笑う。
「……昨日からちょっとだけ思ってたけど今確信した。まひろってゲラだよな」
「あはは、は、あ、ばれた?実はめちゃくちゃ笑い声うるさいって言われる。よく笑い声怪獣みたいって言われてて。はー笑った。さ、ラーメン買い行こー!」
「……まひろちゃん元気だねえ。もっと大人しいかと思ってたよ」
ラーメン屋に向かった三人の後ろ姿を見送りながらのぞみが呟いた。
「昨日でかなり慣れたんちゃうかな?実はあたしら四人の中で一番喜怒哀楽の表現大きいし。素では。」
「え、ちづるよりもうるさいってこと……?」
それを聞いたつくもが心底驚いた顔をする。
「あはは、うるささがちづる基準やねんな。単純な声の大きさとかはちづるがでかいしうるさいけど本気で笑ったり怒ったりしたらまひろの方が感情の振り幅が大きいかも」
「今朝、実際に怒られてた人の説得力がありすぎる」
しぐれの言葉にいおりがうんうんと頷きながら言った。
「え、しぐっち、まひろんに怒られたの?なんか想像できないんだけど……」
かなめが驚いた表情で言う。
「実は恥ずかしながらそうやねん……。張り切って五時とかに起こしにかかっちゃって。めちゃくちゃ怖くてちょっと泣いたよね。うん」
「まひろ怒ると怖いのか……。怒らせないようにしないと……」
それを聞いてつくもがぼそっと呟いた。
「……なんか、つっきゅんがそんな心配したりするの意外かも。あんまそういうの気にしなさそう。ゴーイングマイウェイって感じやし」
「それゴーイングマイウェイオブマイウェイのしぐれさんが言う?」
まひろとつくものやりとりに思わずいおりが口を挟む。
「だっておとなしいとか、優しいとか思ってた人が怒るのって怖いでしょ。例えばここにいるかなめとか、のぞみとかがそのいい例だけど」
「あー。確かにかなめくんものぞみくんも、怒ってるとこ想像できんだけに本気で怒るとかなり怖そうかも」
「いやいや、ぼくもかなめくんもそんなことないよ。……多分ね」
「ひえっ」
いおりとしぐれが怯えてみせると
「ふふ、冗談だよ。ところで二人は何も買わなくていいの?」
「あー、あたし、あんまお腹空いてへんねんなあ」
「しぐはあとでアニマルカフェで堪能するって決めてるから大丈夫!」
「アニマルカフェ?あー、確か一階にあったような!行ったことはないんだけどね。あ、三人ともおかえり」
ラーメンを買いに行っていた三人がそれぞれラーメンを持って戻ってきたのでかなめが声をかけた。
「ん。ただいま」
「しぐれちゃんたち、あとでアニマルカフェ行くんだって」
のぞみがそう言うと
「アニマルカフェ?あー確か一階にあったような。行ったことねえけど」
「さすがの同じ反応」
「行ったことないなら四人も行く?楽しいよ!動物嫌いじゃなかったら、やけど」
としぐれが提案する。
「え、行きたい行きたい行きたい!」
かなめが率先して声を上げて
「みんなも行くでしょ?」
と兄弟に問いかける。
「お邪魔でなければ」
「まー行ってもいいな」
「もふもふしててあったかくて気持ちよさそう」
「まさかカフェでも寝る気なん?」
何やら様子のおかしいつくもにちづるがつっこむ。
「やったー!じゃあちょっとしたらみんなで行こーー!特に甘いものすきなお二人さんに朗報やけど、ここのアニマルカフェ、スイーツにもめっちゃ力入れてるらしいで!」
「ほんとに?ボクらとしたことがリサーチ不足だったね、のんのん」
「もともとめちゃくちゃ行く気満々だったけど、もはや行かないという選択肢は完全になくなったね。かなめくん」
「あー、はいはい」
あゆむが二人の会話にラーメンを啜りながら相槌を入れた。
「そういえば四人は何しに来てたん?フードコートで合流してたっぽいからそれまではバラバラに行動してたんやろうし」
と、いおりが尋ねた。
「あー。オレらは……」
あゆむがそう言って兄弟の顔を見る。
「えっと、たまたま?」
のぞみも微笑みながら言う。
「たまたま?」
羅野姉妹四人が声を揃えて聞き返す。
「んー、なんていうか、昨日が夏休み中の登校日だったでしょ?だから次の日は休みたいって気持ちが同じだったんだろうね。昨日に引き続き今日もたまたま全員がバイト休みにしてたんだよね」
「おー、それで全員で買い物行こうってことになったん?」
ちづるが聞くとのぞみは首を横に振り、
「ぼくら、部屋は二人ずつで使ってるんだけど広いわけじゃないからさ。それぞれがお互いの休みに気を遣って違う部屋のそれぞれと出かけることにした結果」
のぞみが肩をすくめる。
「そんな真野兄弟二組四人が同じ行先のバス停で合流するというなんとも不思議な出来事が起きたよね」
かなめも同じように肩をすくめながら言った。
「のぞみとつくもの二人が先に出て行ったのは知ってたけどまさかコンビニ寄ってちょうど同じ時間のバスになるとは思わなかったんだよな。まあ同じ時間じゃなくても行き先同じだったわけだから、結果は変わんなかっただろうけど」
「そうだね。ぼくは、ここにあるパン屋さんが、ぼくのすきな洋菓子店とコラボするっていうからつくもくんを誘って来ようと思ってね。で、コンビニではバスの中でも食べられるようにプリンとパンを買ってたんだ」
「パンいっぱい買った。食べるの楽しみ」
つくももうれしそうに言う。
「洋菓子コラボフェアやってるパン屋に行くのにコンビニでも洋菓子とパン買ったんや」
二人の会話にいおりが軽めにツッこんだ。
「いや遠足かよ。まー、オレの場合は服とか見たくて。かなめとはセンスが結構近いからマネキン代わり?にして客観的に見れるしまあこいつと行くかって」
「あゆあゆひど!」
心底ショックを受けたような表情をするかなめ。
「わり、冗談。まあそういうの見に行くならこいつと行くのが楽しいからさ」
「あゆあゆ……!」
かなめは、あゆむの言葉に今度は目を輝かせた。
「見事に兄に弄ばれてんなあ」
そんな二人の様子を見てしぐれが面白そうに言う。
「まあ、そんな感じでお互いに気を遣い合った結果一緒の行動になってしまったので当初の目的を果たした後は各自別行動を取り、昼食でまた合流しようってことになりまして」
のぞみがにこにこしながら言った。
「あんたらって、なんだかんだで仲良しやな」
「るせえ」
ちづるが言うとあゆむが照れ臭そうに言った。
「じゃあ四人は大体の用事は済ませたって感じやねんな」
しぐれが聞くとのぞみが答える。
「うん。だからこのあとよければご一緒してもいいかな?」
「もちろん!」
「ってかうちら昨日連絡先交換してなかったよな。せっかくグループ名まで決めたのにすっかり忘れてた。グループ作るわ!」
そう言いながらスマホを取り出すちづるに続き、
「あ、確かに!忘れてたね!」
とかなめもスマホを取り出す。
ちづるがグループ『らま鉢!!!!!!!!』を作成しました。
ちづるがいおり、しぐれ、まひろ、かなめを招待しました。
かなめがのぞみ、あゆむ、かなめ、つくもを招待しました。
「これでよしっと!」
「ありがとう」
「夏休みも残り一ヶ月切ってはいるけどもしまた遊べそうな日あれば遊ばん?四人といるの気楽で楽しいし」
「ほんと?うれしい、ぜひ」
「もちろんだよ!ね、つくつく、あゆあゆ!」
のぞみが答え、それに続いたかなめが二人にも話を振る。
「うん。気楽ってのは分かるかも」
「ああ。ラーメンも行きてえしな」
「ラーメン!」
ちづるとまひろがラーメンを啜りながら目を輝かせて言う。
「あんたら今食べてるとこやん」
「おたくら絶賛ラーメン中ですやん」
そんな姉妹にいおりとしぐれが同時につっこんだ。
「あ、そういえばさ!ボクらの親に昨日四人のことを話したんだけど、ぜひ会いたいって言っててさ。だからもしよければ会ってくれない?」
「ほんまに!行きたい!って実はしぐたちも両親からそう言われてたりして」
そう言って笑うしぐれに、
「まじか」
とあゆむも少し笑って返した。
「まだ引っ越してきたばかりで片付けてる途中だから片付いてからにはなるけど、来てくれる?」
まひろが聞くと
「もちろん行かせていただくよ」
とのぞみが答えた。
「てかなんかうちらの関係なかなかに面白いな。昨日会ったばっかやのに」
しみじみとちづるが言う。
「まあそうそう、四つ子と四つ子が対面することってないだろうしな。珍しいことには変わりねえな。」
「だからこそなんか分かり合えたのかもね。親同士も気が合いそう」
「確かに。四つ子育児あるあるで盛り上がれそうやんな」
「え、おれ、それ聞くのなんかやなんだけど……」
「あはは分かる」
「あ、そろそろいい時間だね。アニマルカフェ行きますか」
のぞみが声をかける。
「あ、ほんまや、もうこんなに経ってたんか。喋ってたらあっという間やな」
「ちなみにちなみに〜!しぐっちは何の動物がすきなのー?」
「え、全部かな。生きとし生けるもの全部」
「え、ぜ、全部?生きとし生けるもの全部?」
迷いなく笑顔でそう言い切るしぐれにかなめは動揺した結果、ただただしぐれの言葉を繰り返すことになった。
「しぐ姉は生き物全般すきやねん。すきっていうかもう愛やんな。包み込む感じ」
「そうそう」
「動物にもめちゃくちゃすかれるもんな。やっぱなんか分かるんやろうな。通じ合うっていうか」
「へ、へえ。そうなんだ」
「それ、めっちゃ見てみてぇわ」
「よーし、早速向かっちゃおう!はあ、ほんまに楽しみすぎる……!」
「ぼくも楽しみだなあ」
「……のぞみ、今お店のスイーツのこと考えてるでしょ。」
「……つくもくん、なんで分かったの?エスパーなの?」
「いやお前ほんとそういうとこは分かりやすい」
あゆむも、つくもに同意してそう言った。




