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四人の転校生

 八月八日。玄関のドアを開けて家を出た瞬間、アスファルトに反射する太陽の光がまぶしく思わず目を細めた。以前住んでいた場所も大阪の中心都市ではあったので都会には慣れているつもりだったが、改めてここ、東京との違いを思い知らされる。


「いや、あっつ……」


 セミの鳴き声がじりじりと、あたり一面に響いていることも暑さをより強く感じさせる要因となっていた。


「てか東京でもセミっておるんや……。なんでこんな日に登校しなあかんねん」


 現在地から少しだけ離れた場所にある、いろは高等学校の制服を着た少女、ちづるは空を見上げ、暑さの最大の原因である太陽を睨みつけると、倒れてまうやろと、大声で叫んだ。ちづるの着る制服は新品なのであろう、シワひとつなく、また、ちづるから文句を言われても変わらず、さんさんと照らす太陽の光に負けないくらいの輝きを放っていた。


「はいはい、そのセリフ何回目?夏休み中やけど創立記念日は登校するって決まってるらしいねんからしょうがないやろ」


 そう言いながら、ちづると同様、新品と思われる同じ学校の制服を身にまとった少女、いおりは、先に家を出ていたちづるの言動にうんざりしたような表情を浮かべて玄関から出てきた。


「しぐ、創立記念日って休みになるんかと思ってたわ」


「それ学校の考え方によるみたいやし、転校先の学校については今日授業ある代わりに一ヶ月後の九月八日が振替休日になるらしいで」


 先に出た二人に続いて、またしても同じ家から、そしてやはり同じく同じ学校の新品の制服を着た少女、しぐれとまひろが二人、話をしながら出てくる。


「へえそれは、うれしいな……。いや、そんなんどうでもいいねん!うちら!今日が転校初日でほんまによかったん!?」


 ちづるは、しぐれとまひろの会話に混ざりかけたが、そうじゃなくてと、我に返って話を続けた。


「だって、確かに登校日とはいえ、夏休みのたった一日だけやろ?そんな日に転校してくるの珍しすぎん?しかも四人も同時に!今日行ったところで次にクラスメイトに会うのは二学期の九月の登校日やねんから、もはや今日に学校行く必要なくない!?」


 貴重な夏休みの一日に登校することに疑問を持っているちづるは大げさに嘆いてみせた。そう、この少女たち四人は、夏休みも真っ只中である本日、八月八日に転校してきたのだった。


「だから、それ言うのも何回目やねんって言ってんの。聞き飽きたわ。何回も何回も同じこと聞かされるこっちの身にもなって。ただでさえ暑くてイライラしてるんやから、もうこれ以上イライラさせんといて」


 ちづるは先程の不満を昨日からずっと、一言一句違わず言い続けていた。そして、いおりは同じ事を聞かされ続けることと、夏本番といえるこの暑さもあいまって怒りが最高潮に募っていた。額の汗を拭いながらちづるを睨みつけるいおり。それでもちづるは、だってさ!と食い下がる。


「まあまあ、もう引っ越してきたんやし慣れてもらうには早いに越したことないやろ!ただでさえ、しぐたちってそれまでに時間かかると思うし」


 能天気なしぐれの言葉によって、まあ、それもそうかと、ちづるはようやく落ち着いた。自分たちは普通と比べて特殊なのだからと。


「やろ?でも、しぐだって、まさか高校生活五ヶ月目にして転校するハメになるとは思わんかったなー。なー、まひろ」


 まさか通うのが一学期だけになるとは思わんかった、としぐれは隣を歩くまひろにしゃべりかけた。まひろもしぐれの話に頷いた。


「ほんまに。前の学校、制服も可愛かったし、家から近かったからみんな気に入ってたもんな」


「めちゃくちゃわかる。まあ、今回の学校も、制服は前のやつとは違った可愛さって感じやし、家からもそこまで遠くないとこ選んでくれたからそこは良かったけどな!」


 転校することになったいろは高校の制服は紺色のブレザーにロゴマーク入りの金色のボタンが三つ、胸ポケットとおしゃれな校章ワッペンが付いていた。夏用の制服は暑いだろうからと、スカートを選んだが、スラックスタイプも選択肢としてあるため、冬用のものはそちらを二着選んだ。

 また、通学には最寄駅まで徒歩で数分、そこから電車で三つ先の駅で降りると、そこからまた数分歩いた先にあり、通算で三十分程度かかるとのことだった。数ヶ月前まで通っていた学校が自転車で十五分程度で通える距離にあったことに比べると遠くなったと感じられたが、許容範囲とすることにした。何より初めての電車通学にワクワクしていた。


「まあ言われてみれば、確かにそーやな。けど何より、せっかくできた友だちが恋しいな。わたし、バンドも始めようとしてたから。ああ、友達できるかな……」


 前の学校と比べて、新しく通うことになる学校に不安があるとすれば、まひろの言う通り、一からやり直しとなる、人間関係だろうか。


「あー、そうやんな。しぐも、みんなも友だちと別れるのめちゃくちゃ泣いたよな。それに、ちづるに関しては、部活入ってはなかったけど色んな運動部の助っ人やってたから、どの部活からも、色紙に花束、ボールの寄せ書きとかもらってたよな。スポーツ漫画かと思った」


「確かに。運動神経めちゃくちゃいいし周りに溶け込むのも早いからなあ。めちゃくちゃ青春謳歌しててスポーツ漫画みたいやったよな。助っ人ではあったんやけど」


「しぐれ、まひろ、そう言ってくれるのはめちゃくちゃうれしいけどさ、そんなに褒めても何も出えへんで?」


 後ろを歩いている二人の会話を聞いていた、ちづるが振り向き、ニヤニヤしながら話に混ざる。実際、褒めていたかどうかは疑問ではあるがちづるはそう受け取ったのだった。

 そんなちづるの様子を横目で見て、すかさずいおりは、きもと言い放つ。そんないおりに腹が立ち、ちづるもすかさず、なんやと?と言い返した。

 いおりとちづるの間には、下手すると一触即発にでもなりかねない不穏な空気が流れていたが、四人にとってはいつものことなのでしぐれとまひろが気にする様子は全くない。そのため、しぐれに至っては


「そういえばさ当たり前やけど全員違うクラスやん?」


 と他の話題を振る始末である。だが、そんなしぐれの反応ですらもいつものことであるため、他の三人も特に気にした様子はなく、素直に同じタイミングで返事をした。


「自己紹介、もう何言うか決めた?」


「まだ何も決めてない!そういえば学校のみんなって、ある程度はうちらのこと、理解してくれてるんやっけ」


 ちづるはしぐれの質問に答えつつ、確認するように、いおりをちらりと見て訊ねると、確かそのはず、といおりが答えた。


「じゃあ、しぐたちのこと見ても驚かへんってこと?」


 しぐれが少しうれしそうに、はしゃいだ様子で訊くが、それは難しいかもなと、いおりは落ち着き払った様子で答えた。

 そんないおりの返答に、まひろも、初対面の人の第一印象って驚いた顔やわと、続ける。それを聞いてまあしょうがないかとしぐれが残念そうに言った。


「あーあ!なんかおもしろいことでもないかなー!」


 ちづるは突拍子もなく大きな声で言った。それを見たいおりは、頭でも沸いたかと言いたげな冷ややかな目をちづるに向ける。だが、そんないおりの態度には慣れているのでちづるは全く気にしていない。それどころか

 

「だってさー、いっつも驚かれてばっかりやからたまには驚かせてほしいっていうか!」


 と、これまた大きめの声で駄々をこねるかのように言った。それを聞いてしぐれは


「いや、気持ちは分かるけどさ。でも、みんなが驚く、しぐたちの存在以上に珍しいようなことってあるかな?」


 と訊く。ちづる同様、まるで自分たちが特殊であるかのような口ぶりである。そんなしぐれの発言にちづるは何かを思いつき、口角を上げてこう言った。


「……存在以上か。なら"おんなじ"やったらどう?」 


「おんなじ?」


 ちづるの発言に対して全く同じタイミングと角度で首を傾げて言葉を繰り返す、そんな三人の顔をちづるは見回して頷く。そして続けた。


「転校先の学校に、












 うちらと"おんなじ四つ子"がいる……とか!」


 









 そう、彼女たち四人の少女は姉妹であり、四つ子だった。

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