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雨物語

作者: 小城

 雨音が激しく、やけに、私の空虚な心を湿らせてしまう。鳴る神の光と音は、私の心を打つ。冷感を纏った風が、窓の隙間から、私の体を凍えさせていた。空虚な心には、冷えた風が一番悪いと思う。風に吹かれると、体や過去までが寂しく、冷たくなってしまう。

 環境というものが、これほどまでに、人間の精神に影響を及ぼすものなのかと改めて感じた。私が初めて、街を歩いたときは、波のように動く、人の群れと、何を考えているのか分からない人間の吐く空気とが一体となって、私に遅いかかり、私は自分というものを失った。以来、私は人混みに出掛けることはない。

 そんな私が、今日も、一人、降る雨の音と闘っていると、その雨音に混じって、微かな歌声が、私の耳に聞こえて来る。その声は男のものとも女のものとも聞こえず、ただ、永遠と同じフレーズを繰り返し続けていることだけは分かる。というのも、余りにも、激しく雨が地面やコンクリート製の建物を打つので、人の歌声と思われる声は聞こえるが、その内容までは分からない。ただ、それは永遠に、2~3秒のフレーズを奏で続けている。初めてそれが聞こえてから、数年経つが、激しく雨が降る日には、私の耳元では、相変わらず、あの歌声が流れてくる。雨が降っている間、そのフレーズは呪いのように、私の耳から離れないでいる。

 私は今、山奥で療養生活をしている。おそらく私は、自ら空虚だと言いつつも、自ら空虚を求めていたのだと思う。人と交わることを避けて、人間が生み出す愚かで、醜悪で、不毛な摩擦熱と軋轢エネルギーで成り立っている精神世界から、清く、美々しく、寂静とした永遠不変の精神世界への扉を開こうとしていた。空虚な心でいることが、私にとっての平和であった。激しく地面を打ちつける雨とその音は、そんな私を、物理的にも心理的にも、世間と日常というとんでもなく、愚かでどうしようもない、世界から、引き離してくれる現象であったのだ、と思う。ただ、その中で、聞こえてくるあの歌声というものが、杜撰な人間世界を象徴する雑念として、私に奏でられたのではなく、天岩戸から天照を招き喚ぼうとするように、本当は人間的で温かい世界へ向けた、私の無意識の憧憬とそれを名残惜しむ理性の記憶が、脳に刻まれたレコードに針を落として奏でられるものだったのではないかと思うのである。

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