1話
初めて投稿します。
是非読んでください。
姉の話
「早坂さん。こういった話はありふれているんです。ありふれたストーリーを売るためには、抜群の文章力とその平凡なストーリーも気にならない面白い展開、共感しやすいキャッチーなキャラクターが必要です。」
彼女は鉄仮面を崩すことなく話す。血色の悪いその顔を見ているといつも不思議に思う。
この人は今までの人生の中で嘘でもいいから愛想良くしてみよう、人の警戒心を解くためにも笑顔を作ってみようと思ったことは無いのだろうか。
いくら人に無関心だとしてもそれくらいは自分で気づくのではないのだろうか。
このままではいけない。周りは自分を避けて行ってしまう。孤立してしまう。1人は寂しい。
だからみんな笑顔を取り繕う。
しかしこの鉄仮面の編集者は逆にクールな鉄仮面をリアルの上に貼り付けている。
自分の理想を演じているんだな。
可哀想。
「この主人公の父親が轢かれそうになった猫を助けて死んだから主人公は猫嫌いになったっていうエピソードを変更しませんか?」
こいつは何を言い出すんだ。
それが無くなったら私の小説ではないじゃないか。
しかもありふれたストーリーって。
この世に何冊の本が出ていると思ってんだ。いくつかのパターンができて当たり前だろう。
スカートのプリーツをそっと直しながらいつもよりも早口で答えた。
「あ、じゃあいいです。別に作家辞めるんで。ありがとうございました。」
え、ちょっとと言いながら追いかけてくる素振りをみせる鉄仮面独身女を制して廊下を通り抜けた。
最後まであの鉄仮面崩せなかったなとちょっと悔しく思う。
私はこの話じゃないといけないのだ。
ストーリーをこのまま変えず出版してくれるところを探している。最悪自費出版でもいいのだ。携帯小説サイトに投稿する?
いや、それではだめだ。
紙に残さなくては。
帰りにあの美味しいクリームブリュレでも買っていこうかな。少し迷ったが、結局何も買わずに帰ることにした。
1秒でも早く家に帰りたかった。早くソファーに座って発泡酒飲もう。
私の話
「早坂先輩。俺がずっと先輩のこと好きだって気づいてました?バレちゃって…ましたよね?」
え、全然知らないよ。バレちゃってませんよ。
ずっと目で追ったり話しかけたりしたら気づいてくれるとか思っちゃってる系かな?
残念ながら私に話しかけてくる子なんて沢山いるんだよ。
ごめんね。
顔を少しこわばらせながら勇気を出して話しかけてくれた後輩の目を見つめる。
あ、綺麗な二重だな。
小学校の通学班が同じで、私を追いかけてこの高校に入って来たという彼の顔を注意深く観察する。
好きじゃないけど、好きじゃないけど6秒見つめる。
よく7秒見つめ合うと恋に落ちるって言うけど、私は6秒。
1番ちょうどいい秒数だ。
1、2、3、4、5、6
「ありがとう。でも、驚いたな。高部君が私のこと好きだったなんて。でもごめんね。私、彼氏がいるの。」
「あ、そうなんですね。わかりました。失礼します。」
高校一年生にしては背が低い彼は、素早く私の視線をかわして調理室を出て行った。
クーラーのない調理室は窓を開けなくては暑くて臭くてたまらない。
今年になって4人目の告白を受けた。まだ6月なのに。
まあ、告白された回数が多いからなんだって話だけど。
私はモテる。とてもモテる。
顔は整っている方だと思う。勉強もできる。
センスもいい。
運動神経はとてつもなく悪いけど。
でも彼氏ができない。私が好きになって欲しいのは1人だけだ。
孝太郎のあの綺麗な鼻筋を思い出す。透き通るような白い肌。
「春陽」
この年代にしたら低い方の、少し掠れた声で私の名前を呼ぶ。
なんて幸福だ。
思い出したら少し嬉しくなった。
今日の部活で作ったクリームブリュレもどきをそっと掴んだ。
私、ラッピング上手いな。
いつもより少し軽く足を弾ませながら昇降口へと向かう。