美少女がますますイケメン
今回の主犯は、増田 貴羅々だ。
なにせ、現在進行形で俺に一番強い憎悪を向けてきている。
そして共犯者は中木 胡々葉。
女子男子の大半が、俺と目が合うと気まずそうに視線を反らす。これは、自分の利益を選んで俺を見捨てた事に対する申し訳無さの表れだ。
この二人が手を組む理由は分からないが、今回の事で得をする人は居る。
それが、御城 清楽だ。
ここで俺に手を差し伸べ、俺が惚れてしまえば一昨日の朝の鬱憤を晴らせる。
____しかし、そうなるとこいつは、俺が鈴と付き合ったのを知らない事になる。
うーーーん?
まあ、今は良い。
とりあえず席に着き、机に突っ伏す。
情報集めはRPGの基本だろ? 盗み聞きスキルは習得済みだ。
「(おい、あいつだろ? 貴羅々さんが言ってたの)」「(ほんとだよな。なんでこんな奴を......)」
やはり、主犯は増田か。
「(ま、無視し続ければ良いだけなんだし、楽なもんだよ)」「(ああ、たったそれだけでゴニョゴニョ......)」
くそ! 大事なところが聞こえない......だが、何か報酬で釣っているというのは分かった。
それより今考えるべきなのは、いつものあいつらが何をしているのか、ということだろう。
この件に絡んでいないとは考え難い。なにか、見落としている決定的なものがある気がするんだけど......
例えば、増田が俺に徹底的にまとわりつく理由、とか。
「翔くん! おはよう!」
同棲しているのがバレると今回の作戦に支障をきたすため、別々に登校してきていた鈴が扉を開ける。
......今度は教室の空気の変化は無かったな。
とすると、標的は俺一人。
良いぜ。望む所だ。
「____小猫さん。ちょっと来てくれるかしら?」
ツカツカと歩み寄った増田に、鈴が呼ばれる。
「どうしました? 増田さん」
「着いてきてもらえる?」
鈴は然り気無くアイコンタクトをとってきた。
____ダメだ。
俺もアイコンタクトで返す。
「翔くんとお話していたいので。ごめんなさいね?」
「っ! あなたの為にも、着いてきた方が良いと思うけど?」
また鈴からアイコンタクトが来た。
____良いぞ。
ただし、俺も着いていく。
「分かりました」
その返事を聞いて、増田は早足に歩き出す。
おいおい、そんな速度じゃ見失うだろうが。
まあ朝だし、話をするだけだと思うけどな。そうじゃないと周りの人に、色々と疑われる。
そして、舞台は俺も連れてこられた踊り場へと移る。
「さて。小猫さん。単刀直入に言うわ。翔クンから離れなさい」
「それは翔くんと別れろ。という解釈で良いですか? 返事は分かりきっている筈ですよ? 嫌です。そこにどんな理由があろうとも、私は翔くんの彼女で居続けます」
「......あなた、生意気なんじゃない? 近いうちに痛い目に遭うわよ?」
「お話はそれで終わりですか? 不毛な話し合いでしたね。では」
おっと。話し合いは終わったようだな。と言っても、鈴が勝手に打ち切ったようなものだが。
そろそろ俺も見つからない内に教室に......
「ま、待ちなさい!」
「なんでしょう」
「私は、翔クンの事を愛してるわ!!」
......正気か?
こいつの発した言葉の意味がよく理解出来ない。
お前の言動のどこが俺を愛しているんだよ。明らかな敵対だっただろうが。
というか、もしそれが本当の事だとしてもそれは愛じゃない。一方的な感情だ。
「何を言っているのですか? あなたの態度を見ている限り、翔くんに好かれる努力を何一つしていない様ですが」
「そ、それは、好きすぎてつい......」
ふざけるなよ......
「ふざけないでくださいっっ!!」
「っ!!」
鈴が怒鳴った。
多分、校舎すべてに響いたのでは無かろうか。
しかし、鈴のそのエネルギーはすぐに鳴りを潜め、静かな怒りへと昇華する。
「あなたは......翔くんの顔をまともに見た事があるのですか? あなたのその歪んだ瞳ではなく、正面から。 一度でもまともに向き合った事があるのであれば分かる筈ですよ? 翔くんがどれ程辛いのか。どれ程苦しみを抱えているのか。どれ程痛みを堪えているのか......」
鈴は話しながら大粒の涙を溢していた。
鈴......
「あなたの偏愛が、翔くんを傷付けていることに気が付かないんですか? 翔くんを愛しているんですよね!? なら必ず気が付く筈ですよ。あんなに辛い顔をした人を、あなたは見た事が無いでしょう? それでも翔くんを傷付け続けるあなたに、『愛している』等と言う資格はないッ!!」
「......」
鈴は......俺より俺を分かってくれているのかもしれない。
言われて初めて気が付いた心の痛みが、涙を押し上げてくる。違うな......それよりも、鈴の優しさ、暖かさに涙腺を刺激されたんだ。
「あなたは......許されてはいけない人です。あなたに出来るのは、自分の罪悪感を少しでも軽くする事だけ。
......翔くんは優しいので、下らない自己満足に付き合ってくれるかもしれませんね。それでは」
俺は、教室に帰ってやっぱり寝た振りをした。
今顔を上げたら、涙でグチョグチョな顔を見せてしまうから。
なあ。神様よ。あなたはこうなる事さえ見越して、鈴を人間にしたのか?
俺の人生は、余りに辛かった。でも、やっと今、報われて良いのか?
俺を起こそうとしてくれている鈴には悪いけど、もう少し泣かせて欲しい。でも、必ず感謝は伝えるから。
胸に固く誓って、朝のホームルームの開始と同時にハンカチで涙を拭いた。
大切な事なのでもう一度言います。
ヒロインは小猫さんただ一人、デスッ!!
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