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3/13

「以前助けて頂いた猫です」と言われても......あなた、どう見ても美少女ですよね?

 あれから半年経った。

 いじめは今も続いているし(担任にも相談したが、厄介事の臭いを敏感に感じ取った担任は「こちらで対処しておく」と言って逃げてしまった)、店長は相変わらず当たりが強い。


 そして、今は春休みの終わり。

 明日からは二年生になる。

 二年、三年の範囲は春休み中に終わらせたので、定期テストで少なくとも赤点を取ることは無いだろう。


 この二週間毎日のようにバイトが入っていて、正直な所メンタルが限界だ。情けない。


 そんな事を考えながら俯いて歩いていたら、地面が斑模様に濡れた。

 ......あれ? 俺、泣いてんのか?

 無意識で泣き出すとは、相当やられているらしい......と思ったが、違ったようだ。


 ポツポツと。次第に音を大きくしていくにわか雨は最終的に雨のカーテンを作り、さながら半年前の再現のようになる。

 このあと子猫でも出てくるのか? と身の無い想像に思わず苦笑する。


 が。その想像は、(あなが)ち間違いでも無かった____間違いと言えば間違いなく間違いなのだが、想像の遥か斜め後ろに反り返る様な現実が、家の玄関先で待っていた。



 雨に佇む彼女は、とても幻想的で、可憐で、到底俺なんかが扱う言葉じゃあ、表しきれないほど美しかった。

 誰かに見惚れて、放心する。といった経験をする人は少ないのでは無いだろうか。

 俺も、これが初めてだった。


 腰まで届く青みがかったグレーの髪。染めていては決して出せないその髪色は、同色の虹彩と合わさって儚げな印象を与える。

 それに、目測百六十後半と見られる身長は、女性にしては高いのだろうが、百八十と少しある俺と比べると、やはり小さく見える。

 総合すると......そうだな。小動物の様なイメージだ。子猫。


 とにもかくにも、話しかけない事には前に進まない。


「どちら様でしょうか?」

「私の事?」


 他に誰が居ると言うのだろう......


「とりあえず、早く鍵を開けて欲しいな?」


 こてん。と首を傾げる彼女の魅力に勝てる男は居ないと、確信した。俺も負けた。

 まあ、どっち道こんな雨の中帰す訳にもいかないし。ちょうど良かったんじゃないか?

 素直に鍵を開け、彼女を中に招き入れる。


 子猫の様な彼女は、雨が降る前から玄関先に居たのだろうか。全く濡れていない。

 だが、体温は少なからず低下するだろう。

 そういうときは暖かいものに限る。


「コーヒーと紅茶と......ホットミルク、どれが良いですか?」

「......? 貰えるの?」

「はい。せっかくですから」

「じゃあ......ホットミルクをお願いします」


 かしこまりました。

 心の中で呟き、牛乳を少しぬるめに温める。

 ......偏見かもしれないが、彼女は猫舌そうだな......と。

 甜菜糖を少し溶かして、彼女の元へ持っていく。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 恐る恐る口を近付けた彼女は......


「熱く......無い......」

「やっぱり猫舌でしたか?」


 マグカップを両手で包み込む様に持ちながら頷いた。

 ......あのカップは家宝になるな。


「やっぱりって、なんでですか?」

「いや、雰囲気が猫っぽいなって。ただそれだけ」

「......ふふっ。 なんですかそれ?」


 猫っぽい彼女が小さく笑うだけで、周りの空間が華やぐ。

 本当に、不思議な人だ。


「それより、体。濡れてるけど、なめ......拭かなくていいの?」

「あ、ああ。そうだった。ありがとう。じゃあ、失礼して良いかな?」

「ごゆっくり~」


 どちらが客人なのか分からなくなってしまった。





 バスタオルで軽く全身を拭いた俺は、軽く呻いた。

 なにせ、彼女がテーブルに突っ伏して寝ているのだ。


「(いくらなんでも無防備過ぎだろ......)」


 とはいえ、起こすのもあれなので、自室から毛布を持ってきて彼女に掛けてあげた。

 あの毛布も家宝になるな......




 数時間後、熟睡していた彼女がやっと目を覚ました。


「......お、はよう?」

「もう遅い時間だけど、お早う」


 おはよう、か......

 久しく言っていなかった言葉に、涙腺を刺激される。


「で、色々聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

「うん。なんでもきいてきください?」


 まだ少し寝ぼけているのか、呂律が回っていない。

 本当に。極限まで男子の夢を凝縮した様な人だ。


「まず、君はだれ?」

「以前助けて頂いた猫です。神様にお願いして、人間として生活させてもらう事にしました。不束者ですが、よろしくお願いします」


 前言撤回。

 極限まで男子の夢を凝縮した様な猫らしい。

 色々とおかしい所はあるが、彼女が猫なら、納得してしまう。


「じゃあ、君の名前は?」

小猫(おのねこ) (れい)です。タマって呼んで下さい」

「......」

「冗談です」


 愛らしい顔を全く崩さずに言うものだから、騙されそうになった。


「結構遅い時間だけど、帰らなくて大丈夫なの?」

「帰る......? どこに?」

「えっと......小猫さんの住所は?」

「ここ」


 ..................え?

 え?

 ここに住むと? そういうことですか?


 Oh......my god 神様、どういう事ですか?

 割りとナチュラルに出てきた英語はこの状況にピッタリなもので、小猫さんを遣わした神様に向けた言葉だった。

お読みくださり、ありがとうございます。

ヒロイン(猫)登場です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず一つ一つの動作が可愛すぎるヒロインなんか出して……誇らしくないの?←やってみたかっただけですすいません。 今の段階では、雨川くんと言うより小猫さんの方が恋のキューピッドっぽい?…
[一言] 私は小猫 鈴だった…? ここから物語がどう動いていくのか先が気になりますねぇ
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