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天才虐められ師“翔”の惨めな日常

本日二話目です。

「ちっ。こいつ、財布も持ってないのか」

「まあ、放課後だしいつも財布持ってきてないこいつに期待はしてなかったけど」

「遊んでやってんだから財布くらい持っとけって」


 やっと終わったか......

 声も聞こえなくなってから、立ち上がって服の埃をはたいた。

 大丈夫。体の中心は避けている。代わりに、ある程度丈夫な部位に飛んできた暴力には強い手応えを残しているから、違和感は覚えない筈だ。


「(子猫は......無事に逃げられたか。良かった......)」


 先程の茂みを覗いた俺は、そこに猫が居ないことを確認する。

 逃げられた、と言っても、この先生きていけるかは分からない。だが、今暴力を受けて人間を恐い生き物だと思われるよりはマシな筈だ。




 家に着いた俺は、まずシャワーを浴びる事にした。

 雨に濡れていて寒いので、本当は風呂を沸かすべきなのだが、生憎とそんな暇は無い。

 バイトの時間が、刻一刻と迫ってきているのだ。




「あのさぁ、雨川クン。何回言ったら分かるかなぁ? 時間の三十分前には仕事始めてろって言ったよね?」

「すみません、でした」

「次やったら減らすよ?」


 この人は店長。

 別に全国展開なんかしていない、小規模なスーパーの店長だ。

 俺はいつも怒らせてしまう。この間も、パンに爪楊枝が入っていたとクレームが来たとき、店長に頼ってしまったのだが、


「こういうのはキミの責任でしょ? キミのポケットマネーから出すのが常識だよね?」


 と、五~六千円払わされてしまった。

 なぜ俺の責任になるのかは理解出来なかったが、抵抗すれば辞めさせられる。

 払うしか無かったんだ。


「話聞いてんの?」

「申し訳ありません。品出しですね。直ぐに取りかかります」


 考え事をしていても、その間の会話くらい覚えておかなければ世の中やっていけない。

 この数年で身につけた技術だ。


「おい。お前」

「はい」


金髪ピアスのいかにもな客が話し掛けてきた。


「この商品腐りかけてんだけど」

「それは大変申し訳ありませんでした。別の商品とお取り替え致しますので____」

「そういうの良いからさ、これ無料(タダ)にしてよ。訴えられるよりはマシでしょ?」

「____はい」


 また支出が増える。

 俺、なにやってるんだろう。




 店長は一時間前には帰っていた。

 店長が帰った後の労働は時給に含まれないらしいので、一時間のタダ働きをしてしまった事になる。

 思ったより、言い付けられた仕事を終わらせるのに時間が掛かってしまった。


 ......もう十一時か。

 まあ、一日二時間も睡眠を取れれば俺にとっては十分だ。家に帰って明日の予習をするくらいの時間はあるだろう。


 帰路に付く。

 今日は疲れたから、何事もなく帰りたい......

 と思ってはっ、とした。

 これじゃあ、まるでこのあと......


「おい、ガキ」


 二十後半から三十後半の間だろうと思われる男に、絡まれてしまった。やはりか......無闇にフラグを建てるものじゃないな。

近道をしようと思って、細い道を選んだのが間違いだった。


「俺の事ですか?」

「それ以外に誰がいるってんだよ。舐めてんじゃねぇぞ? それより、金出せよ。お前の命と交換だ」

「はぁ」


 今日はもう、これ以上の出費は避けたい。

 こいつとは今日だけの付き合いになるだろうし、多少()()()()()()報復はされないだろう。


「断ります」

「あっそ。これ見ても同じ事が言える?」


 男はパーカーのポケットから、折り畳み式のナイフを取り出した。


「刃物を人に向けるのは危ないですよ?

 ____あなたの身が」

「舐めたこと言ってんじゃねぇ!!」


 上から振るわれたナイフに対して、ハイキックで手元を打つ事で応戦。

 あっさりと弾かれたナイフは、近くの壁に当たって止まった。


 地面でナイフが回転する音だけが響く。

 口をポカンと開けているこいつと、後腐れ無くお別れする為にももう少し恐怖を植え付けたい所だが、男はそのまま逃走を図った。

 全く.......


「ナイフを忘れてる、ぞ! っと」


 俺が投げたナイフは、男の進行方向にあった壁の接合部に刺さる。

 思ったより上手く決まったな......

 これでこいつはもう絡んで来ないだろう。


 ふぅ......

 命を狙われる感覚というのは、数回体験した程度では慣れないものだ。

 現に今、足が震えて満足に歩けない。

 いつも俺で遊んでる奴らは、命までは奪ってこないから経験が少ないというのもある。


 これ程の能力を持っていながらも、なぜ彼らに振るわないのか。

 実は、昔一度だけやり返した事があった。

 しかしその翌日から、誰一人として目も合わせてくれなかった。

 報復だった。

 辛くは......無かった。しかし、学校生活に支障が出てくる様になったのだ。


 結果、下手に抵抗するより、されるがままになった方が被害が少ないと判断した。


「(はぁ......)」


 いつまでこんな生活が続くのだろうか。

 卒業まで?

 社会に出るまで?

 下手したら、一生、ということもあり得るかもしれない。


 俺は、今の生活が............惨めだ。

お読みくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの壁にナイフ刺すシーンなんですが木造でしたら問題無く刺さると思います(しつこくてごめんなさいm(_ _)m)
[気になる点] 武道の有段者でも壁の隙間というところに上手く刺すのは難しいと思うのですが?、 結構どうでもいいですが気になってしまいましたすいません、
[一言] 普通にいじめられっ子系かと思ったら実力を隠して受け身になってる系だったの巻
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