出会い
この作品は二話完結の短編集のようなものです!
反響によっては続編が出るかもしれないので是非とも読んでいただけたら反応なさってくださると泣いて喜びます。
波のように揺れる人。朝の上り線では当たり前の満員電車。
そんな電車に乗って早二年、満員電車にも慣れ僕はいつも五号車のドアの脇にいる。学校の最寄り駅に止まるたびに電車から降り、帰りにまた乗ることを繰り返すいつもの日常。
今日も変わり映えのない日だとずっと思っていた。
♦ ♦ ♦
(うわ、きついな)
四月に入り新社会人や学生が増え、僕はいつものドアの横をとれず座席の前まで押されて来てしまった。
僕は人が密集する中に隙間を見つけ、何とか体を滑り込ませる。そして一息ついていると後ろからいきなり強く足を踏まれた。すぐさま振り向くと中年くらいのおじさんがこちらを睨んでおり駅に着くなり降りて行った。
一体何なんだろうと思いながらも前を向くと、目の前には僕と同じ学校の制服を着た女子生徒が吊革につかまって立っていた。
満員電車の中では男性は痴漢に間違われないよう、両手を上にあげていることが多い。それは僕も例外ではなく僕は吊革を両手で握りながらイヤホンを着けて音楽を聴いていた。
ふと気を抜いた瞬間、僕と前に立っていた女子生徒は人の波に押されて本来下りることのない駅に追い出されてしまった。時間に余裕もあったし無理に割り込んでまで再び乗る必要はないと思い、僕は次の電車に乗ろうと長蛇の列の後ろに並びなおした。ちょうど音楽を変えたかったのでスマホを取ろうとポケットに手を入れると、
「あの…… 先ほどはありがとうございました」
「えっと…… はい?」
首元まで伸びる艶のある栗色の髪。メイクが薄い整った顔立ちにカーディガンの前を開けた服装。いかにも今どきの女子高生と言わんばかりの女子が突然話しかけてきた。
電車内で僕の前に立っていた女子生徒である。僕は感謝を言われるようなことはした覚えがないので混乱する。
「さっき、痴漢から助けてくれたじゃありませんか」
「ああ、あのおっさんね」
僕の足を踏んできた中年会社員風の男のことだろう。僕自身、あのおっさんが痴漢だったことに気づいていたわけではないので何と言っていいか反応に困っていた。
自覚なく人を助けていたと考えるとなんとも言えない気分になってくる。まあ彼女が痴漢から解放されたならそれで良いだろう。
「朝から大変だったね」
同じ制服を着ていてリボンの色から同学年とわかった僕は彼女に励ましの言葉をかける。もっとも社交辞令のようなものだが。
「そうですね、さっきの男の人は常習犯の様で電車から降りる際に近くの女の人から大変だったね。と声をかけられました……」
「なるほど…… その男の特徴を覚えてる?」
「え!? えっと、後ろからだったのであまり細かくは覚えていませんが少しくらいなら」
それだけ覚えているなら、と僕は彼女の手首を優しく掴み普段なら窓の外の駅の改札まで引っ張っていく。
「一緒に付き合ってあげるからそいつのことを駅員さんに伝えておこう」
「て、手がっ! わ、わかりましたから! 一人でも歩けますっ!」
彼女は顔を真っ赤にしながら僕の後を歩き始めた。僕は無理に手を引っ張ってしまったことに反省しつつポケットからスマホを取り出す。
学校に遅れるかもしれないと家族に連絡をしておくためだ。それ見た彼女は自分のスマホを通学用バッグから出すと、
「あ、あの…… 連絡先交換しましょ!」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。さっき会ったばっかりの女子に連絡先を交換しようなんて言われたら誰だって戸惑うものだろう。
「あ、ああ。別にいいけど……」
「ありがとうございますっ!」
僕は彼女の連絡先を登録するとすぐにスマホをしまい、改札にいる駅員さんに話しかけた。
♦ ♦ ♦
事情聴取が終わり時計を確認すると時計は十二時を指していた。彼女ともバラバラに聴取を受けたため一人になってしまった。
「学校行くか」
丁度通学に使っている電車が来たためそれに乗り込む。朝と違い、人がちらほらとしか居らず僕は普段は座れない座席に座った。
周りから見れば僕は不良に見えるのだろうかなどと考えていたらすぐに学校の最寄り駅に着き電車を降りた。
時間を確認しようとスマホ見ると『新着メッセージが一件』と表示があったのでメッセージアプリを開く。
『咲:先ほどはありがとうございました! もしよろしければ今日、学校が終わったらお茶でもしませんか?』
どうやら朝に助けた女子生徒の名前は咲と言うらしい。僕は返信しようか迷った末、なにも反応せずに学校へと向かった。
僕が学校に着くころには四限は終わり、昼休みになっていた。
職員室に行き担任に事情を話して教室へと向かう。教室に入ると一時は好奇の目で見られ、「何があったの?」とか「え、彼女?」などと聞かれたがそっけなく返事をしているうちに僕からは離れていった。
僕は教室から出てご飯を食べようと図書室に向かう。
「誰もいないからって図書室でご飯を食べてはいけませんよ?」
このご時世、昼休みには誰も使っていない図書室の端でコンビニのおにぎりを食べようとしていると一人の女子生徒が話しかけてきた。
その女子生徒とは朝に助けた咲さん(仮)である 僕自身何と呼んでいいのか分からなかったので心の中では(仮)と呼ばせてもらう。
「誰もいないし毎日ここで食べてるから文句は受け付けないよ」
「そうなんですね。前いいですか?」
「嫌と言っても座るんだろう?」
咲さん(仮)は僕のいる端の机に向かい合うように座った。彼女は手作りのお弁当を持ってきていて机の上で開き始めた。
「君もここで食べるんじゃないか」
「お互い様です これで私たちは共犯ですね」
咲さん(仮)は僕に向かってニコッと笑った。僕はどう反応していいか分からず食べることに集中する。
「無視は良くないですよ? それにさっき連絡したのに君呼ばわりはないです。ちゃんと名前で呼んでください」
「えーと、なんだっけ。佐倉さん?」
「咲です! なんで苗字寄りで間違えるんですか!?」
ようやく(仮)が外れ咲さんになった。しかし僕に女子を名前で呼べるほどの度胸はない。
「で、君は僕に付きまとって何がしたいの? 悪いけど壺は買わないよ?」
僕がここにいることはクラスの人から聞いたんだろう。そこまでしてくるなんて何を考えているのか分からない。
少しの不安感と謎のドキドキで心がいっぱいになったので僕は考えることを放棄しておにぎりを食べる。おかかだ、美味しい。
「また君って言いましたね…… まあいいです。私もこれから毎日ここでお昼を食べますから」
「ここ、俺の楽園なんだけど」
この学校に入ってから約二年、誰からも邪魔されず俺を癒してくれた楽園が消えてしまうのか……
まあ、ふざけるのは終わりにして彼女もそのうち飽きて来なくなるだろう。人とは最低限しか関わらない主義の人間と一緒にいて楽しいこともないだろう。
少なくとも僕はそう思っていた。しかし僕の考えとは裏腹に彼女は一週間経っても昼になると図書室に来て僕に話しかけてくる。
ねえねえ君は、と毎日のように僕を質問攻めにして気が済むとすぐに自分の教室に帰ってしまう。彼女は一体何がしたいんだろう。
読んでいただきありがとうございます!
『ボッチが無意識に痴漢から女子を助けたら。』
原材料
ミルクティー90%
目薬10%