7.その時、国王陛下の包囲網は完成していた
ラスが帰った後も、親しい人が私とユーティスの一件を聞きつけ、「大丈夫なの?」「国王陛下のことは好きなの?」とかよくわからない質問までされた。
一体どこで、どんな噂を聞いたのか、
ひょんなことから知り合ったルーラン伯爵夫人とは、今では一緒にお茶や食事、時には暇つぶしにダンスと付き合う仲だったけど、特に、私とユーティスのことを根掘り葉掘り聞きたがった。
薬屋の娘であるエトさんも、三児の母ながら目をキラキラさせて聞きたがった。
確かに二人ともロマンスとか身分差の恋とかそういうのが好きな人ではあるけど、でも最初はなんだかその目に心配そうな色があった気がして、それが何となく気になっていた。喋るうちにその色も薄れて行ったし、帰る時には二人とも満面の笑顔だったから、すっかり忘れていたけど。
ユーティスは私に宮廷薬師になってほしいと言ってきただけだったのに、なんで二人はそんなことを訊くんだろうと思っていた。
その答えは、数日もしないうちにやってきた。
◇
そして、ある晴れた日。
店の外には先日とは比にならない数の従者。
毛並みが艶やかな白い馬がつながれているのは、王室専用の豪奢な白い馬車。
瞠目する私の面前には、賢王の仮面をかぶったユーティス。
そこに浮かべられる、爽やかな笑み。
「リリア=ソグワート。そなたはその身に受けうる罰をも恐れず、真に国を想う心から私を諫め、長き眠りから目を覚まさせてくれた。その功績をもって、此度そなたを『国母』と称することとなった。謹んで受けよ」
ユーティスは脇に立つ長身の男から何やら書状を受け取ると、それを私に差し出した。
ぽかんとしたまま、私は自然と決められた動作のようにその書状を受け取った。
「そして『国母』となったリリア=ソグワートに、我が妻となり、名実ともにこの国の母となる栄誉を授ける」
そう言って、ユーティスは私の眼前で膝を折った。
――はい??
私は知らなかった。
あれで終わりじゃなく、その後もじわりじわりと彼が包囲網を敷いていたのだということを。
全ては、周到に練られた計画なのだということを。
そのことに気付かないままこの時を迎えてしまった私には、もはや拒否権はなかった。
店の前には前回よりも多い護衛、従者、町の人々。
そしてユーティスの隣には長身痩躯の銀髪の男が、『一介の薬屋ごときが王の申し出を断れるなどと思うなよ』と鋭い目で言っていた。いや、口でも言った。私だけに聞こえる、小さな声で。
断れないならどうやってこの場を逃げるか。
ただひたすらにそれを考えていた私に、目の前で膝をついたユーティスは爽やかな微笑を浮かべた。
そうして私の手を勝手に取り、ちゅ、と音を立ててその指先にキスをした。
「あまりの喜びで声も出ないようだ。私も嬉しい。――この時をずっと待っていた」
賢王の仮面の下でユーティスが怪しく笑った。
――逃げられない。
私は正しく、そう悟った。