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4.国王陛下は薬師を女傑に仕立て上げる

 ユーティスに一発ぶちかました件は、あっという間に町中に知れ渡っていた。

 私のことを『罰をも恐れず愚王に立ち向かった英雄』とか『愛ある拳で愚王の目を覚ました女傑』とか噂されているのを知ったときには、これからどうやって店を続けていこうか頭を抱えたくらいだ。

 おかげで一見さんは店の外からチラチラと見て通り過ぎていくばかりで、ドアをくぐることはなくなった。


「なんで宮廷薬師になるのが嫌なの?」


 そうして暇を持て余すしかなかった私を面白そうに訪ね、訊いたのは友人のラス。

 ふわふわの長い茶色の髪をもてあそぶようにしながら、心から疑問、というように首を傾げた。

 父が宮廷薬師をしていたのに、何故私が嫌がるのかがわからないのだろう。

 でもそうじゃない。だからこそ、嫌なのだ。


「毒と陰謀渦巻く王宮になんて行きたくないわよ」

「でも稼ぎは今よりもっとよくなるじゃん? ダーナーさんも亡くなって、リリアも一人になったことだしさあ……」


 くりくりとした翡翠色の瞳のかわいらしい顔立ちに似合わず、ラスは雑な喋り方をする。

 そんなラスに気づかわしげに言われると、私はなおさら弱い顔など見せるわけにはいかない。


「だからこそよ。この店は私が守らないと。そもそも心配してくれるなら、貧乏でも薬屋店主の方が死亡率は低いわよ」


 ラスはどこか納得いかない顔をしていたけど、私の決意が揺らぐことはない。


 父は宮廷薬師。母も薬師でこの店を一人で切り盛りしていた。

 でも今は二人ともいない。だから今は私が店主。

 これからは一人でもなんとかやってかなきゃ。


 ユーティスが現れたのはそんなときだったのだ。

 まったく、二年ぶりに現れたかと思ったら、いきなりあれなんだから……。

 ユーティスはいつも唐突に現れる。

 そしていつも、目的がよくわからない。


「でも、勿体ないよ。宮廷薬師になりたくない理由はそれだけなの? 国のためになるんだよ。ひいては国民のためにもなるわけで。やりがいがあると思わない?」


 いやに食い下がるな、と思いながらも、私は「うーん」と言葉を探した。


「だってさ、王宮にはユーティスに毒を盛った人たちがいるんだよ。私、今でも腹立ってるんだから。ユーティスがどれだけ苦しんでたか知らずにのうのうと……。いや、苦しめるためにやってたんだろうけどさ。そんな人たちのために働くのは嫌なのよ」


 ユーティスは、幼い時から毒に倒れる度に我が家に運び込まれていた。

 ある時期からパタリと来なくなったけど、何年か後にまた突然、今度は自らの足で毎日顔を出すようになった。

 だからなんだかんだと言って、ユーティスとの付き合いは長い。

 私は彼の仮面の下の素顔も、苦しんでいた過去も、それを自ら乗り越えていったことも、知っている。


 私の言葉に納得したのか、ラスは「ふうん」と何か考え深げに相槌を打つと、また来るねと言って帰って行った。


 私はしばらく往来を眺めながら、ユーティスのことを思い返していた。

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