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6.国王陛下のもとへ夜忍ぶ者

 夢を見た。

 子供の頃のユーティスが泣いている夢。

 自分の代わりに誰かが傷ついて、その場は気丈に振る舞っていたのに、部屋に戻って一人縮こまって泣いている。


 どうしてそんな夢をみたのかはわからない。

 ただ、自分のために誰かが傷つくことほど耐えられないことはないと、いつかユーティスが言っていたことを思い出した。


 泣かなくていいよ。

 私は死なないから。



 夢の中のユーティスにそう声をかけて、ふっと目を覚ました。

 辺りは真っ暗で、ユーティスはベッドサイドに座ったまま突っ伏して眠っていた。

 なんだか手が動かないと思ったら、ユーティスに握られていた。ずっとそうしていたのだろうか。


 ちゃんと布団に入って寝ないと。

 そう言おうと思った時、部屋の影を何かがもぞりとうごめくのがわかった。


 ユーティスは隣にいる。

 こんな真っ暗な真夜中にノールトが訪ねてくるとも思えない。

 侍女たちも今は休んでいるはず。

 ラスは部屋の中には入らない。今も扉の外にいるんだろう。


 だとしたら、誰か。

 私は再びそっと目を閉じて薄眼をあけ、その動向を見守った。


 影は音もなく私の傍まで忍んで来ると、おもむろに振りかぶる動作をした。

 そこにいたのはお面をかぶった男。

 手にした煌めく何かにカーテンから漏れた月明かりが反射する。

 小刀だ。


 はっとした瞬間、私は重い体をなんとか転がそうとした。けれどそれよりも早く、私の手を握っていたユーティスがぐいっと腕を引いたのがわかった。

 ベッドの下に落ちる、と思ったけど、その体は寝ていたはずのユーティスに抱きかかえられる。


「ユーティス!」


 起きていたのかと思うのと同時、ざくり、と小刀が布団に突き刺さるのが見えた。

 小刀は男の手から離れていた。

 叩き落したのは、ユーティスがカゲと呼んだ真っ黒な出で立ちの護衛。

 私が叫んだ声が聞こえたのか、ラスが勢いよく扉を開け部屋に駆け込んだ。


「誰だ!」


 誰何の声を聞くと、お面の男は身を翻し逃げに転じた。

 騎士の出で立ちのラスと、男の小刀をはじいたカゲが相手では分が悪いと悟ったのだろう。だが、それを逃すわけもなく、カゲが仮面の男との距離を詰めた。ラスも駆け寄り、逃げ道を塞ぐ。


 逃げるのを諦めたお面の男は腰のあたりから新たな小刀を抜き、カゲに向かって横薙ぎにした。カゲは両手にした短刀でそれを受け流して軌道をかえると、返す刀で一歩踏み込む。

 しばらく息を呑むような刃のやり取りが続き、その間ユーティスは私を守るように身を低くして抱え込んでいた。


 ――キンッ、という金属の爆ぜる音が部屋に響き、仮面の男の手にした小刀はまたもや床に突き刺さった。


「観念しろ」


 ラスが抜き身の剣を手に迫ると、仮面の男はそっと両手を上げる動きを見せ――ぐっと何かを強く噛もうとしたのをカゲは見逃さなかった。咄嗟に横からこめかみを掌底で殴りつけ、昏倒させる。


「自害するつもりだったか!」


 倒れた男の口から丸薬が転がり出たのを、ラスがハンカチで注意深く拾う。


「怪我はないな?」


 耳元でユーティスに聞かれ、私は慌てて首を縦に振った。

 思わず息を詰めてしまっていて、やっと深く吐き出す。


 男が動かないことを確認したラスが、そっと男の仮面を剥いだ。


「おまえは……!」


 驚いて声を上げたのは、カゲだった。

 何が起きたのかまだよくわかっていない私に、ユーティスが苦々しげに教えてくれた。


「前国王の……第三王妃メーベラの護衛だ」


 私は、四方八方から狙われていたことを知る。

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