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5.婚約者に誓う ※ユーティス視点

 ユーティスは毒に喘ぐリリアの手を握り締め、額に当てた。

 こんな目に遭わせるつもりではなかったのに。


 リリアは、ユーティスが何でも自分の計画通りに物事を進めていると思っているだろう。

 だが違う。

 いつも想定外のことに見舞われてばかりだ。


 十二歳のあの時から、心から欲してやまないものを手に入れるため突き進んで来た。

 傍にあればいいわけじゃない。

 そのすべてを守りたいと思っているのに。

 大事に思えば思うほど、うまくいかない。


 ユーティスはリリアの右の耳に嵌められた黒曜石のピアスにそっと触れた。


 ユーティスが愚者の仮面をかぶることにしたのは、命を狙われる危機を回避するためだけではない。

 王位継承者として相応しくないという世論を煽る、そのことこそが目的でもあった。


 ユーティスは第一王子で聡い子供であったから、王として相応しいと見られていた。

 しかし後ろ盾がない。

 そのため第二王子派との争いが絶えなかった。

 伯母はユーティスが王位を継ぐよりも第二王子が王として立った方がこの国のためになると判断したのだろう。

 数の論理で言えばその方がより多くの命が救われるのは確かだろうから。

 だからユーティスに毒入りのクッキーを食べさせた。伯母は先行きが長くなかった。最後に国のためを思ってしたことだとは、ユーティスも理解した。

 だからダーナーの処置により辛くも生き延びたユーティスは、穏便に王位継承者から降りることを決めたのだ。


 だが誤算があった。

 まだ幼い第三王子を担ごうとする一派は数少なく、すんなり第二王子が次期王として決まると思っていたのに、第三王子派の一部が暴走し第二王子派と争いを始めてしまったのだ。

 その末に、王子たちが犠牲となってしまった。


 また、前国王である父が亡くなり、想定外の速さでユーティスが王位を継ぐことになってしまった。

 王として相応しくないと見られて以降、ユーティスが命を狙われることはなくなり、リリアに毎日会いに行くのも問題なかった。束の間の自由だった。

 しかし思わぬ王位交代により、リリアに利用価値が生まれてしまった。

 エイラスからもリリアを狙う者がいると報告を受けていた。


 そこから大きく方向転換せざるをえなくなった。

 遠くで何かあるよりも、近くで守ろうと思った。

 だが結果として、二度もリリアに毒を含ませることになってしまった。


 何もかも思うようにはいかない。

 リリアが関わると、何一つうまくいった例がなかった。


 会ってはならない。だが会いたい。

 巻き込んではならない。でも傍にいたい。


 どうしてもユーティスの望みは相反してしまうからだ。


 それだけいばらの道なのだということは最初からわかっている。

 それでも。諦めることはできなかった。

 もはやユーティスにとってリリアは生きる意味そのものだったから。


 だから。


 リリアを苦しめた者がどうなるのか。わからせてやらねばならない。

 徹底的に。


「何があっても、おまえを死なせはしない」


 決して。


 ユーティスはリリアの細い手を握り、額に当てた。

 この手がまたくるくると楽しそうに薬を煎じる日々が訪れるようになるまで。

 ユーティスが歩みを止めることはない。

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