4.国王陛下は枕元で
苦しかった。
息がうまくできない。
頭がうまく働かない。
ただ情景だけがぼんやりと目に映し出されていた。
私が一瞬意識を手放したその後、ラスが応急処置をしてくれたのはわかった。
ラスが歯噛みをしながら私を覗き込んでいた。なんだか、誰かを噛み殺しそうな顔だった。かわいらしいラスの、こんな顔を見ることがあるとは思ってもいなかった。
ベッドに寝かされた私の元を医者が訊ねてきていた。命の危険まではないと思うって言ってたと思う。ラスのおかげだ、ありがとう。そう言いたいのに満足に口は動かない。
ノールトも訪ねてきてくれた。と思ったけど、枕元にいるユーティスに用があっただけかもしれない。
そう。ユーティスは、ずっと私の枕元にいた。片時も離れようとしなかった。仕事はユーティスが出向くのではなく、あちらからやってきた。
枕元でごちゃごちゃと難しい話をしないでよ……。
そう思ったけど、口は全然動かない。
誰もいなくなると、ただじっと私を見つめている。何度もうとうとして目を開ける度に、そこにユーティスがいる。ほっとするような、申し訳なくなるような、複雑だった。
ユーティスの顔は、何故かよく見えない。
ねえ、アイリーンはどうなったの?
アイリーンを捕らえるようなことはしちゃ駄目。
彼女は私に毒を盛るつもりなんてなかったはず。
アイリーンからもきちんと話を聞いて。
そしてその背後を辿って。
そう言いたかったけど、ちゃんと口が動いたとは思えなかった。
それでもユーティスは、「わかった」と言った。
だけどほっとした私に、ユーティスは続けた。
「だが、それは起きてから自分の口で言え。アイリーンが心配なら死ぬな」
そんな、と思った。
だけど、ユーティスの声が掠れていたことが気になった。
ユーティス。
今、どんな顔してる?
もしかして、泣いてるの?
手を伸ばしたかったけれど、手は動かなかった。
私の手はユーティスに握られていた。血が巡るのをやめてしまったみたいな、冷たい手だった。ずっと握っているのに、全然温かくならない。
「死ぬのは許さん。おまえが俺に言ったんだ、生きろと。責任は取れ」
だから死なないってお医者さん言ってたじゃない。
でも、ああ、そういえばそんなことも言ったなあと思い出した。
そうしてまた意識が沈んでいった。




