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6.国王陛下と側近

 ユーティスの黒曜石の瞳が間近に迫っていた。

 私はただそれをじっと見ていた。

 ユーティスの細く長い指が頬から、つ、と口元へと降りていく。

 唇に触れる。


 そう思ったとき、扉をノックする硬質な音が響いてはっとした。


「陛下、ノールトです。開けてよろしいですか」


 お約束きたーー! よかった助かった、なんかわかんないけどたぶん危ない所だった。

 そう思ったのに、何故かユーティスはどこうとしない。

 それどころか、ほっと力を抜いた私に、妖しい笑みを深めた。


「まだ仕置きは終わっていない。おまえはまだどこにその身が置かれているのかわかっていないようだな」


 わかってるよ、今は薬屋店主じゃなくて、国王の(偽)婚約者でしょ? だから毒だって致死量盛られるし危険だってよくわかってる。

 それでもユーティスを守るためには仕方なかったんだって。

 心の中ではたくさん言葉が溢れるのに、まったく口を開いて出てこない。

 なぜならユーティスの長い指が私の唇をふにふにと弄んでいるからだ。

 何故か触れられたところがじんじんする。

 ユーティスの手が私の顎をとらえ、空いた親指で私の唇をそっと撫でた。

 私そこまでやってないって! 仕返しの域を超えてるって。っていうかいつからお仕置きだった!


「いつでも思い出せるように俺の手の感触を体に刻み込め。そして忘れるな。おまえの体はおまえだけのものじゃない。決してその身を危険に晒すな。次にまた同じようなことがあったら、これくらいでは済まないと思え」


 ユーティスの目が細められ、私は慌てて声を押し出した。


「――、わかっ……たからっ!」


 ようやっとなんとかそう答えると、扉が、ダァンッ! と激しく叩かれた。


「陛下!! そこにいるのはわかってるんです。答えないと緊急事態とみなして突撃しますよ? よろしいですか? あと三秒であけますからね? いーち、にーい、」


 カウントを始めたノールトの声に重なって、慌てたラスの声が聞こえる。


「うわあ、あとちょっと待った方が! たぶんあとちょっと待った方が!」


 ユーティスの体の下で私がじたばたと暴れると、ユーティスは部屋の外まで聞こえんばかりの大きな舌打ちをして身を起こした。

 私の腕を引いて助け起こし、自身はベッドから降りる。


()()いいぞ」


 答えが返ると何故か一瞬外は静まり返り、それから何故か至極ゆっくりと扉が開けられた。

 そして、ノールトは何やら安全を確認するように部屋を覗きこむ。その隣からラスも部屋を覗きこみ、()()()()ことを確認してほっとしたように立ち位置に戻っていった。

 ノールトはこれみよがしなため息を吐いた後、いつものようにカツカツと部屋の中に踏み入りながら報告を始めた。


 なんかもう完全によからぬことが起きてることを察知してたよね。

 なんだこの羞恥プレイは。

 私はどんな顔をしてここにいればいいんだ。

 真っ赤なこの顔をどうしてくれよう。


 いや、そう言えば私って婚約者じゃん。だったら、そんな鋭く射殺すような目線をチラチラ向けられなくてもよくない?

 建前だけだってこと、ノールトは知ってるのかな。だから不必要に近づくのが嫌なのかもしれない。

 ユーティスはノールトの前では仮面をかぶってはいなかったけど、やっぱり私に対する態度とは違ったから、どこまで話してるのかが気になった。


「先ほどの食事ですが、調べたところソースに毒が混入していました。指示通り挙動不審だった給仕を捕らえ事情を聞いたところ、やはり何者かに脅されていたようです」

「どうせ相手はわからなかったんだろう」

「はい。直接接触してきた男は顔も見たことがないと。どうやら子供が病気で金がかかるため、そこをつかれたようです」

「隙のある人間を探っているな。今後も同様の手は使ってくるだろうな」


 深く考えこみ始めたユーティスの向かいで、ノールトがちらりと私に視線を向けた。


「陛下。話が込み入りますので、場所を移しましょうか」

「いや、このままでいい。おまえがこの部屋に入るのは正直気に入らんが、今リリアを放っておくことはできんからな」

「いや、別にたいして口に入ってはいなかったし、異常もないから大丈夫だよ」

「では、執務室の方で――」

「俺がかまわんと言っている」


 え、いや、借り物とはいえ私の部屋だし。

 なんでユーティスがあるじ然としてるのよ。

 ノールトは明らかに顔を歪め、今にも舌打ちをしそうな顔で私を睨んでいる。

 なんで私を睨むのよー、言いたいことがあるならユーティスに言いなさいよー! 言えるわけないだろうけど。


「リリアは無関係ではない。今後も狙われる可能性もある以上、聞いておく必要がある」


 そう言われれば、ノールトはすっとまた無表情に戻し、報告を続けた。


 ただ、時々物凄く冷たい視線がノールトの方から突き刺さってくるのがとても気になって、話の内容はあんまり頭に入ってこなかった。

 姑がいたらこんな感じなのかな、と目を細めながら思った。

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