3.国王陛下と毒
私を迎えることになったせいもあるのか、ユーティスは仕事に忙殺されていた。
けれど言葉通り、夕食の時間には仕事を切り上げて私と共にテーブルについた。
長~いテーブルに向かい合って二人だけで座る。
無駄だ。
果てしなくスペースと動線の無駄。
前菜が運ばれてきて、私は習った通りに食器に手を伸ばそうとした。
けれどすぐにその手を止めた。
赤々としたソース。赤味のある根菜をベースにしているのだろうが、見た目のインパクトが強い。辛味のある香料も交じっているのが見えるが、最初から味覚を損ねるようなものを出すだろうか。
顔を上げ、ユーティスをじっと見る。
気づいたユーティスが「待て」と言う間もなく、私はフォークを手に取り口に運ぶふりをし、ソースだけをちろりと一舐めした。
国王よりも先に食事に手をつけるなど、マナー違反だとノールトが怒り出す前に。
途端、ピリリと舌に刺激が走る。
毒だ。
体に備わる防衛本能は賢い。体によくないものを受け付けないようにするために、刺激を感じ取れるようになっているのだから。
辛味のある真っ赤なドレッシングはカモフラージュで、そこに食用ではない刺激が混じっている。微かに苦みも走った。
ユーティスは私の視線を正しく読み取ると、席を立ちあがった。
「どうやらリリアは体調が思わしくないようだ。私が部屋まで運ぼう。作ってくれた者たちには申し訳ないが、この食事は我々が口をつけてしまったものだから決して誰も口をつけないように」
そう告げた時、厨房から様子を見るようにそっと顔を出していた給仕が青ざめ震えているのが見えた。
使われたのは、あの人か……。
ユーティスもそれを確認したようで、ノールトに視線を走らせた。
遅れて意図を察したらしいノールトがはっとして、すぐさま行動に移した。給仕に気付かれないようさりげなく――。
「さあ部屋まで送るよ、リリア」
「ありがとう」
そう言って立ち上がろうとしたが、それはできなかった。
ユーティスが私を横抱きに抱えてしまったからだ。
「ちょ……!」
抗議しかけた口は、すぐに閉じた。
ユーティスの黒曜石の瞳が、怒っていたから。
「まったく、とんでもない無茶を――」
私にだけ聞こえる小さな声でぼそりと呟き、ユーティスは賢王の顔を張り付けたまま足早に退出した。




