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誰もいなくなった世界

作者: 翔という者

 見渡す限りの荒廃した大地。

 その中にたたずむ、寂れた大都市。

 かつては何千万人もの人間を抱えていたこの街も、人がいなくなって久しい。



 多くの人々が行き交っていた駅も。

 若者が集まっていた電気街も。

 親子連れが遊びに来ていた遊園地も。

 どこにも。誰も。影も形も見当たらない。



 それは、この街だけではない。

 この星から、全ての人間が消えてしまった。

 私は、ただ一人の生き残り……だと思う。

 もう何年も他の人間に会っていないので、たぶん私が最後だと思う。



 全ての人間が消えた、と言っても、ある日突然パッと消えたワケではない。

 少しずつ、少しずつ、時間をかけて消えていったのだ。



 消えてしまった、と言っても、その消え方は様々だ。

 一概に「消えた」と言っても、「死んでしまった」ことも当てはまる。



 神隠しのように突然消えてしまった者もいる。

 何の前触れもなく、失踪してしまった者もいる。

 昨日まで元気だった者が、いきなり病に倒れて亡くなったこともある。

 不意に自殺を思い立って、本当に死んでしまった者もいる。

 原因不明の交通事故で消えた者も数多い。



 次々と消えていく人々を見て、私は思った。

 これは、何者かの手によるものではないか、と。

 つまり「消えた」のではなく、「消された」ということだ。



 調査と研究を重ねて、私は遂に真実を掴んだ。

 この世界には、我々の運命を操ることができる、高次の存在がいる。

 それも複数。

『彼ら』は恐ろしいことに、どう少なく見積もっても100万以上は存在する。

 だが、それを発表する学会も、今はもう無い。

『彼ら』の都合で、我々は消されてしまった。



『彼ら』の魔の手からは、誰であろうと逃れられなかった。

 エリート街道まっしぐらのサラリーマンであろうと。

 法の番人たる警察だろうと。

 国のトップたる大統領だろうと。

 時には動物さえターゲットにされる。

 女子供にだって容赦は無い。

 特に目を付けられたのは、若い少年と中年男性だ。

 何の恨みがあるのか知らないが、そういった者たちは真っ先に消された。



 一人、また一人と人間が消えていった。

 それに伴い、世界の労働力も減少していき、経済が麻痺した。

 やがてあらゆる国家が立ちいかなくなった。

『彼ら』に手を下されずとも、その生を終える者も現れ始めた。



 それでも『彼ら』は、人間を消し続けた。

 自分たちの都合のために。



 私の知り合いも大勢消えた。

 友人も、仕事仲間も、家族も消えた。

 今の私は、まさしく孤独だ。

 かつての顔見知りたちを模したAIを生成し、話し相手になってもらっている。

 要は、孤独を誤魔化しているワケだ。

 だがそれでも、私の精神は果たしていつまで保てるのだろう。



 私が消されなかった理由。

 どうやらこの世には、消されやすい人間と消されにくい人間が存在するらしい。

 生まれ、経歴、人種、年齢、職種、貴賤、人間関係……。

 それに当てはめると、どうやら私は、消されにくい人間に属するようだ。

 私が消されなかった理由は、恐らくそれだと思う。推測だが。



 この星から人間が消えて、それでもなお、私は『彼ら』について研究を続けた。

 そして、ある一つの事実を知った。

『彼ら』に消された人間の、その後の行方についてだ。

 ……だが、私は到底、信じることができない。

『彼ら』という、超常の存在を知って、それでもなお、だ。



 無人の大通りを、私は歩く。

 その途中で、気になるものを見つけた。

 道路のど真ん中で止まったトラックと、その下敷きになった、朽ちた死体だ。

 これはおそらく、『彼ら』に消された跡だ。

『彼ら』が人々を消し始めた初期は、こういう手口がとても多かった。



 この星にはもう、誰もいない。

 みんな、みーんな、異世界とやらに連れていかれてしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 割烹から来ました~。 最後まで引っ張ってからのオチ。 最高でした! みんな異世界いっちゃったら、この世界が非日常に なっちゃいますよね~。
[良い点] これは苦手な怖い話だな……、と思っていたら、最後の1行でやられました (ノ∀`) お上手です☆彡 お見事!
[良い点] ラストにニヤリ、です。 [気になる点] 「私」「俺」が混じっているのですが、意図しているのでしょうか?
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