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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
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7 あれ?マナさん?あれあれ?

城門を抜けて街へ入るとまずその活気の無さに驚いた。街の顔とも言うべきメインストリートにも関わらずすれ違う人々の表情は一様に暗い。いやそれだけならばこれがこの街の特色なのかな?と納得出来なくもないが、街を歩く人々の酷く痩せた様子や路地裏へと続く通路に溢れる乞食を見るになかなかの荒み具合。これに更に真新しい破壊跡がちらほらと加わってここは世紀末ですか?という感想が思わず頭に浮かぶ。


まあ、奥に見える町並みに不釣り合いな程豪華絢爛な建物と破壊跡の他にある火災跡と焦げた壁を見れば大体事情を察することはできるが。


てか焦げた壁に黒く人型のシミがあるんだけど。これアレだよなブレスを食らったパンピーが骨も残らず蒸発したってことだよな。生々しい…


案の定リアムとその愉快な仲間達は街の惨状にぎゃあぎゃあとうるさいことこの上ない。もうここまで来たらさっさとワイバーン一匹狩って後の事は後ろの奴等に押し付けるだけなので面倒くさい四馬鹿を放置しとりあえず指定の場所へ向かう。


「待って」


俺だけそーっと一人で向かうつもりだったのだが目ざとく見つけたマナが何故か追い掛けてきた。


「え、マナさん?お仲間置いてきてますけど?」

「いい。後から来る。それよりも早く代表者に会って話を聞く」


後ろをチラッと振り返るとリアム達が何があった!と通行人へ詰め寄っている姿が見える。


あーあー非効率なことしちゃって。通行人から情報収集するより全体の状況を掌握しているもっと上の人間から話を聞いたほうが手っ取り早いのに。人間頭に血が上ると冷静な判断が取れなくなるらしい。


まったく、俺が少ない魔力やら恵まれない体格に四苦八苦してるというのになんであんなバカが才能に溢れているんだ。世の中ホント不公平。


「あれまぁ派手に破壊されて…。これホントに3体か?」

「住人みんな弱ってる。兵士も例外じゃない」


街を見回しながら溢れた言葉にマナが律儀に反応する。


「防衛の要からも搾り取るとかここの領主の正気を疑うよ」

「まだ領主が悪いとは決まってない」

「いやいや分かるって。見てみ?奥のやたら豪勢なヤツを。下界がこれだけやられてるのに傷ひとつない。どーせあそこだけは精強な精鋭部隊でガチガチなんだろうよ」

「レイは領主に偏見を持ちすぎ。前の村みたいな人もいる」

「いやに領主を庇うね」

「………そんなことない」


それっきりマナは黙り込んでしまった。


うーんこれは何か踏んだかな。ちょっと踏み込み過ぎたか。これ以上入ってくるなってサインっぽい。まあ急に身の上話とかされてもこっちも困るからいっか。そんな話されても「ああ、そう」以外に返しようないし。


ポカポカと眠気を誘う陽光が射し込む昼下がり、とっても穏やかな心持ちでぼやーっとそんなことを考えながら適当に街の中心部へ散歩がてら向かう。不謹慎?知らない子ですね。


「ちょっと!待ちなさいよッ!」


暫くして不死鳥のごとく再び復活しだした眠気にあくびをしながら、こりゃ一回どっかで仮眠をとらないと駄目かな~とか考えていると背後からいい加減聞きなれた声。


「……ふぁ?」

「あんた達何でなにも言わずに先行っちゃうわけ!?──って、よくこんな状況でそんなすっとぼけた顔できるわね」


後ろを見ると置いてきた筈の四人。流石と言うべきか結構な距離を走ったにも関わらず息一つ乱れていない。


「何事にも余裕ってのは大事ですよ、お嬢さん。いつも張り詰めてるとその内擦りきれちまいますぜ?」


あくび途中の間抜け面を見て呆れ顔のリーナへ余裕の笑みで返す。


「は?なにその口調。気色悪いわね」

「………」


絶対零度の視線で一刀両断されひきつりそうになる顔面に何とかポーカーフェイスを維持するようビシバシ鞭打っていると、なんとなんと今まで僕のことをいないものとして扱っていたリアム様からのお声掛けを賜った。


「おっ、どうした?みんなでレイを無視しよう運動はもう終わりですか?」

「話す必要が無かったから話さなかっただけだ。邪推は止めろ」


俺のストレートな物言いに表情を変えることなくリアムは淡々と告げる。


「で?用件は?」

「決まっているだろう。僕たちは一時的とはいえレイドを組んでいるんだ。君一人の勝手な行動のせいでみんなの足並みが乱れることになる。今回だって危うく街中を探し回る羽目になるところだったんだ。君一人が危ない目に遭うだけなら自業自得だが、他のみんなを巻き込む事は許さない。…次からは自重してくれ」


リアムの話を明後日の方向を見ながらうんうんと適当に聞き流していると徐々にリアムの表情が険しいものへと変化し始める。


いやだってみなまで聞くまでもないし。俺の足を引っ張んなって目がそう言ってる。『目は口ほどにものを言う』って昔の人は本当にいいことを言う。


「え~なんだ。その─」


リアムの長ったらしい独り言を無視したらしたでまた面倒くさいことになるのは目に見えているのでしょうがなく、本当にしょうがなく、心の底からしょうがなく、反応を返す。


「─まあ、別にお前に許してもらわなくてもいいんですけどとか、何で俺がわざわざ依頼と関係ないお前らの無駄な行為に付き合わないといけないんだ?とか、そもそも目的地は同じなんだから街中探し回る必要は無いだろとか、色々言いたいことはあるが、これだけは言わせてくれ。今回は俺だけじゃない」


いちいち割って入ろうとするリアムを手で制しつつ俺の後でリーナとやいやい言い合っていた免罪符(マナ)をリアムの前に差し出す。


「…何?」

「こちらのリアム君が君に話があるってさ」


面倒事(リーナの相手)から更なる面倒事(リアムの相手)へ引っ張り出され不機嫌なマナが俺を睨むが笑顔で返す。


「マナ…何で君まで……?」

「効率」


マナの事を俺への怒りで頭から抜け落ちていたのか、改めて突きつけられたからかは知らないが酷くショックを受けた様子で理由を問うリアムにマナは端的に答えた。


俺は何となくマナにシンパシーを感じるので、効率云々言ってはいるが実際の所いい加減コイツらに付き合ってらんなくなってきたんだと見ている。なんで紅蓮に入っているんだろう。謎だ。


事の成り行きをニヤニヤしながら傍で観察していると何か会話の内容が俺がマナを唆したとか無理矢理連れていった的な方向性へズレて行き始める。


うん?どゆこと?


俺は冷たい汗が一筋背中を伝うのを感じた。


「うん、そうそれ。私は嫌だって言ったのにレイがいいから行くぞって無理やり……」

「…やはりか」


こ、こいつ!俺を売りやがった!なんだよ私は嫌だって言ったのにって、勝手についてきたのはどこの誰でしたっけ!?つーかわざわざマナを連れていく必要性がないだろ。…まあそんなこと言うだけ無駄なんですけどね。俺とマナじゃ紅蓮での信頼度が違う。これは詰んだな。


しかもマナはよよよ…と、か弱い乙女的な雰囲気を演出する小芝居までする始末。意外と芸達者だなおい。これにコロッと騙されたアホは怒髪天をつく勢いだ。勘弁してくれ。


「嫌がる女の子を無理やり連れていくなんて恥ずかしくないのか!冒険者以前に人としてお前は間違っている!こんなヤツをB2認定するなんてギルドは何を考えているんだ!!もう金輪際僕の仲間に近づくのはやめろ!」

「ええ~」


俺から近づいた事は無いんですが。てか仮にも上位冒険者を捕まえて女の子って…。相手が相手なら侮辱としてとられかねないぞ。毎度思うがコイツの思考回路は平和な内地のそれだ。内地の論理を外に持ち込むバカは普通すぐに死ぬのだが、コイツは無駄に高いポテンシャルのせいで生き残ってしまったんだろう。はた迷惑な。ホントなんで冒険者なんかやってんだろうねぇ。騎士とかの方が向いてるだろ。


未だぎゃあぎゃあとわめき散らすバカを遠い目をしながら聞き流していると、マナがこちらをチラッと見てきた。…目が笑っている。


この野郎。してやったり!みたいな顔しやがって。確実にこの状況を楽しんでるな。マナはマナでまあまあいい性格をしている事に遅まきなから気づく俺。


「はぁ、ちょっといいかしら?」


この鬱陶しい奴をどうやって黙らせるか思案し、やはり一発ぶん殴るのが一番との結論を実行しようとした時リーナがやれやれと言った様子で介入してきた。


「残念だけどレイの言ってる事が本当よ」

「リーナ?それはどういうことかな…?」

「だから、本当はコイツが一人で行こうとした所にこの子がくっついて行っただけってこと。ってそれもどうかと思うけど」


いまいち内容を飲み込めていない様子のリアムへリーナは俺とマナを順に指差しながら補足する。だがリアムはまだ納得いっていない表情を浮かべる。


コイツはどんだけ俺を悪人にしたいんだ?いや少なくとも善人でないことは確かだけども。だからといって悪人ってほどじゃあ…。ジェノサイドもパンピーからの略奪もしないし、足元を見て吹っ掛けることはあるけどそれはあくまで商売としての合理性に基づいての話だし。ここまで来れば最早良識的と言っても過言ではない。…ではない筈だ。……ではないと信じたい。


「分からないな。マナはそんなこと言っていなかったよ。君はこんな糞野郎の言うことを鵜呑みにして味方するって言うのかい?」

「ああもうっ!そのマナが嘘をついてるって事よ!何でレイが絡むと貴方はそう物分かりが悪くなるの!?──ほらアンタも何か言いなさい!アンタが行き当たりばったりでしょーもない嘘ついたせいで拗れてんのよ!?」

「うっ…!」


いまいち会話が成立しないリアム君に焦れたリーナが八つ当たり気味にマナの頭を叩く。これ前もどっかで見たな…


そうだそうだーと小声でリーナに同調したらばっちり聞こえたらしく全員にジロリと睨まれた。…すいません


てかリーナさん結構強くいきましたね。スパーンと小気味よい音が街中に響き渡らんばかりだったわ。その証拠にまだマナが頭を押さえてるし。ククク、良い気味である。


「そもそも何故リーナはマナが嘘をついていると分かるのですか?」


話の収拾がつかなくなってきた所にセナがありがたくも助け船を出してくださった。


「さっき私が聞いた時と言ってる事が全然違ってるのよ」

「どういうことですか?」

「だからさっきリアムがコイツに詰め寄った時に私もマナに理由を聞いたわけ。そしたら依頼主から聞いた方が早いからって。それに普段はこんな殊勝な態度とらないじゃない。怪しさ満点よ」

「なるほど」

「……」


リーナが俺を親指で指しながらそう説明している時近くで小さく舌打ちが聞こえたのは俺の気のせいだろうか。


てか数分と経たずに急に言い分変えたのか…。そりゃしょーもない嘘って言われるわ。まあリーナがわざわざ俺を庇うとは予想外だったんだろうけど。印象最悪だろうし俺もビックリである。


そんなこんなで冤罪からの公開処刑ルートの回避に何とか成功したが大きく時間を無駄にすることとなった。こんなことなら大人しく待ってた方が良かったわ。


因みにこのあとリーナに何で庇ってくれたのか聞いたところ「本当の事を言っただけだから。私は嘘で相手を貶めるようなやり方は嫌いなの。真実は詳らかにされるべきだわ。例えそれでアンタみたいな奴を庇うことになっても。…べ、別に一方的に悪者にされて流石に可哀想に思ったとかじゃないから!」と、まさにテンプレな台詞を頂戴した。


余りにも分かりやすかったので思わず「ツンデレかよ(笑)」と口に出してしまった所、無言の重い拳を鳩尾に食らう羽目になった。


まあ貶めるっては言い過ぎだと思うけど、生け贄に差し出した仕返しとしてはなかなかえげつなかったとは思う。今後軽い気持ちでマナをおちょくるのはやめようと心に誓う。仕返しが怖い。


新たなる発見。リーナはツンデレ。

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