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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
6/33

6 私こと冒険者レイは性格が悪いそうです

面倒な奴らに絡まれたりはしたがそのあとは概ね平和だった。村に到着した刑吏へ賊を引き渡したあと金を払って借りた部屋(リアム達は無料)で寝てたら何人かに襲われそうになったり、教会での朝食が残飯だったりしたがまあ平和だった。


ちなみに俺を襲おうとした連中は俺が部屋に張った結界というか防御魔法のせいで部屋に入ることすらできずそのまま帰ったみたいです。ざまあ。


それから村を出るときリアム達はめちゃくちゃ感謝されて惜しまれていた。領主直々に感謝と共に報酬を手渡すレベルで。もちろん俺には無かった。いや額自体は大したもんじゃなかったし、労力に見合うかと問われたら断じて否だったからいいけどね?


「そーいえばあのクソガキはどうなった?」


村を出発してから旅の暇潰しにふとそんな話をリーナに振ってみる。


「教会で介抱したわよ。なに?流石に少しは悪いと思ってるわけ?」

「いや別に。普通に延髄切りをかましたから死んだかなって思っただけ」


実は『首トン』って結構危険。ミスると死にかねないし、障害が残る可能性もある。まああん時は子供のキンキン声で騒がれて鬱陶しかったから死んだらそれでもいいかってカンジでやったんだけど。眠い時とか響くんだよね。


「あっそう!もう話しかけないでくれない?あんたとは話したくないの。少しは骨のある奴だと思ってたのに私の見込み違いだったみたいね」


そういうとリーナはふんっと顔を背けた。


はぁ~酷く嫌われたみたいだねぇ。リアムも朝から目も合わせやしないし口も聞かない。紅蓮全体で俺がいないもののような雰囲気を醸し出している。俺は極当たり前のことを言っただけなのに何故こうも風当たりが強くなるのか全くもって謎だ。


「決闘ならリアムは受けた」


暇をもて余した俺が新しい術式の開発案について考えだし始めたころ隣を走っていたマナがポツリとそんなことを溢した。


「決闘ねぇ…。子供のおままごとに付き合ってやるほど俺がお人好しに見える?」

「フフッ。見えない」


俺の皮肉が面白かったのかマナは小さく笑って答えた。


「まあそれに決闘で勝って俺の名が上がると困る」

「勝てると思うの?」

「余裕だろ。固有魔法抜きの固有魔法保持者なんざカスだ。逆に負ける要素を知りたいね」


パーティーのリーダーを間接的に目の前でディスったにも関わらずマナ特に気にした様子もなく淡々としている。寧ろ前の連中が心なしかピリつきつつあると感じるのは気のせいだろうか。


「どういうこと?」

「あれっ?マナはリアムの固有魔法を知らないのか?」

「知ってる。でもまだ見たことない」

「ふーん」


“固有魔法”それは本来努力すれば使えるようになる一般的な魔法と区別される例外的な存在。ごく一部の選ばれし者たちだけが生まれながらにして使える才能の証。その特異性から他の人間はもとから本人さえもその魔法の理論やシステムを説明することはできない。一部一般化されている物もあるがそれもまた例外的だ。使用者曰く、何となくできるらしい。


今先頭を走っているハリー・ポ〇ター様の固有魔法は『焔神の使徒』。何段階かある身体強化魔法でどれもこれも凶悪無比でここら辺じゃ有名だ。まあ名前は便宜的に呼ばれているだけだが。つけた奴はちょっとイタい奴だったのかな?


「なに?」

「いや、奴の魔法は周囲を巻き込むからね。大勢の野次馬がいたあの場所じゃ性格的に使えないだろ?」

「リアムは固有魔法抜きでも強い」

「ははっ。まあB2ランクではそうかもね。でも才能だけのバカは脆いもんだ。剣を抜くまでもない」


この時前を走る三人の雰囲気がより険しいものになるのを感じた。え~何だろ~?モンスターか何か近くにいるのかな?俺の索敵には反応ないけど。じゃあ何にそんな怒ってるんだろうね。ニヤニヤ


「レイ性格悪い」

「ん?何の事かな?」

「…」


俺がこっちの会話を聞いていたであろうリーナ達をおちょくって楽しんでいるとマナがいきなり名誉を毀損してきた。


「ま、まあそういった状況を加味した上であの場で戦うのはマズいと判断したからリアムも引き下がったんだろ」


となりから来る無言のジト目の圧力に耐えきれなくなった俺は話をすり替えることにする。


「なあ少し前からなんだけど何かちょっと変なカンジしないか?」


森に入ってから少しした頃から感じ始めた小さな違和感。一応周囲を見回したり索敵を強化してみたが特に変わったとこは見当たらない。だが普通は気のせいだと忘れるような程度のものでも経験上森や魔境では意外と馬鹿にできないことが結構ある。


「…どういうこと?」

「いや上手く説明できないんだが、何かそこはかとなく嫌な感じというか周囲からの威圧が少し増してるというか…」

「あんたも気付いてたんだ」

「リーナもか。─って、うおっ!?急に入って来んなよビビるから!てか俺とはもう話さないんじゃなかったの?」


極めて自然に会話に入って来たのでフツーに返してしまったが急なリーナの登場に若干驚く俺。しかもいつの間にかマナを挟む形で並走してるし。こいつアサシンの素養もあんじゃねーの?


「うるさいわね。今はそんなことどうでもいいでしょ」

「ええ~。自分で言ったんじゃん」

「リアムやヴァーンも分からないって言うしあんたしかいないのよ。しょうがないじゃない」

「まだセナがいるだろ」

「あの子は論外。弓のこと以外はからっきしね。それで?この違和感の正体に見当はつかないの?」


完全に人任せかよ。少しは自分で考えたらどうなんだ。いや考えて分からなかったからこっち来たんだろうけども。


「たぶん大気中の魔力濃度が上がってるんじゃないか?それも極々少量。だから違和感を覚えても具体的には分からないんだろ」

「へぇ~。ただのクズかと思ったら意外と鋭いわね。私も同じ考えよ」


分からなかったんじゃなくて自信が持てなかったのね。てか基本的に他人からどう思われようが知ったこっちゃないが、面と向かって堂々と罵倒されると流石に少し心にくるものがあるな。


「まあ森いたらよくあることだしそんなに気にする必要もないと思うけど」


密かに受けた心のダメージを隠すべく極めて平静を装った俺を特に気にする様子もなくリーナは酷く真面目な顔で考え込んでいる。


「何か嫌な予感がするわ…」






リーナの予感に反してその後の旅程は順調そのものに進み、途中何回か近くにモンスターを感知したが特にこちらを襲う意図は見受けられず戦闘にはならなかった。まさに平穏。


村を出てから数時間たった頃俺たちは最初の目的地であるウーズの街へ辿り着いていた。


昨日押し付けられた仕事による睡眠不足が昼食でブーストされ鉛のようになった瞼を無理やりこじ開けつつ半ばアンデット状態でウルよりも大分低い街壁外部に設置された検問へ向かう。


ウルよりは小さいとはいえ交易や行軍等の中継地となるためその検問にはそれなりの人だかりができていた。


「くっさいわね~。ここで吸わないでよ」


順番待ちの間眠気目覚ましに例のごとくプカプカやっていたら前にいたリーナに睨まれた。


「いやぁ、誰かさん達のお陰で寝不足でね。こうでもしないと寝そうなんだ」

「はぁ?それはあんたがあんなことしたからでしょ?自業自得よ」

「えっ?俺は別に誰とは言ってないけど?自覚がお有りで?」


そう言うなり肺に含んだ煙を軽くリーナの顔へ吹きかけたところ、ブチッと何かが切れる音か聞こえた気がした。


「こ、この─ッ!!」

「ちょっ!正気か!?」


マジ切れしたリーナから高出力の魔力反応を感知。大方詠唱破棄した魔法を目の前の超絶イケメンハイスペック冒険者に向けてぶっ放そうとしたんだろう。だが構築された術式は標的へ放たれることなく霧散することになる。


「おい!何をしているんだ!」


慌てた様子で割って入ってきたのはリアムだった。


「だ、だってだってこいつが─」

「はぁ~、話は何となく分かってる。けどこんな街壁の近くで魔法は勘弁してくれ」


怒られていじけた様子のリーナにリアムは頭に手を当てるがどことなく態度に暖かいものを感じる。


いやいやもっと厳しく注意しろよ。こんな場所での魔法使用だ。バレたら問答無用でぶちこまれた上厳罰だ。使おうとした魔法が魔法なら数時間後には処刑台の上だぞ。別にこいつらがくたばる分にはいいが、連座的に俺まで被害がくる羽目になる。それこそ勘弁してくれだ。今回は奇跡的に近くに冒険者なり騎士なりがいなくてバレてないっぽいけど。


「君も喫煙は遠慮してくれ。他の人にも迷惑だ」


俺の内心の不満に気づく様子もなくリアムは氷の視線でそう吐き捨てて元の場所に戻って行った。


「へいへい」


しょうがないのでパイプの先に入れたタバコの葉を地面へ落とし踏んで火を消す。


他の人に迷惑ねぇ。並んでいる人の中には今もスパスパしている人達が大勢いますけど?俺が吸おうが吸うまいが変わらんだろ。嫌いだわー。しかも俺を見るときのあの軽蔑しきった視線。嫌いだわー。ああ早く依頼終わらせてコイツらとおさらばしたい。


「はぁ」


用の済んだパイプをアイテムポーチへしまおうとしたところ、すんでのところでリーナに引ったくられた。


「あっ、おい」


リーナは俺の抗議も聞かずにそのままパイプをへし折ると遠くへぶん投げ、俺にギロリと視線を向ける。


「あんたのせいよ」

「ええ~」


これ俺のせいか?いやまあ俺もちょっとやり過ぎたなとは思うけども。でもフツー魔法撃とうとするか!?怒りで理性がぶっ飛んだとしか思えん。…なにもへし折って捨てることないのに。


「このパーティーには短気しかいないのか」

「今のは明らかにレイが悪い」


リーナが魔法を撃とうとしたとき真っ先に退避したマナさんがいつの間にか戻って来ていた。コイツには止めるとかそういう考えは無いのな。


「いやいやちょっとした茶目っ気じゃん。マジにするかフツー」

「茶目っ気…」

「何か?」

「…」


それきり特に会話もなく前の4人の楽しそうな会話を聞きながら待つこと数分。ようやく回ってきた手続きをこなし街へ入る。腕輪とギルドカード(といっても名前とランクが書かれているだけの名刺程度のものだが、腕輪と同様に偽造防止処理がこれでもかとされているので交付にはかなりの出費が必要)を衛兵に見せた時若干胡散臭げな目で見られたけど気にしない。まあ上位冒険者は全体の20%以下の上皆派手だし俺みたいなのに会う機会はほぼ無いだろうから分かるけどね?


今日の教訓。タバコの煙を人に吹きかけてはいけない。

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