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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
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5 この世界は『筋肉<魔力・気』だよ

協議の結果、取り敢えず一晩教会に泊まって翌朝村を出るという妥当な結論に至った。襲撃してきた賊の殆どはリアムたちが捕縛し刑吏に引き渡す手はずになっている。必然的に俺たちの中の誰かが見張る事となり当然のように俺にお鉢が回ってきた。クソッタレ。今晩中に刑吏が到着するらしいというのが唯一の救いか。


そもそも何で全員生かしてんだよ。どーせ縛り首だ殺せば手が掛からずに済むってのに。不殺が信念なのか知らんが何で俺がその尻拭いをさせられにゃならんのだ。今からでも遅くないか。…いやいくら俺でも丸腰で縛られた人間を一方的に殺戮するのは少し心に来るものがあるが。てか魔獣とか殺しまくってるくせに殺人はダメって“主義者”かよ。ホント嫌い。


そんなことをぶちぶちと溢しつつ死体が並べられている前を通った時だった。


「何で助けてくれなかったんだ!!」


そんな声が聞こえた。


周りを見渡して声の主を探してみると少し離れたところで今回襲撃の犠牲者だと思われる死体の隣に立っている少年だった。


「お前のせいでお母さんが死んだ!お母さんを返せ!」


どうもこっちに向かって叫んでいる様なので一応後ろを確認。誰もいない。うーん謎だ。こいつは誰に向かって怒鳴り散らしているのだろうか?・・・なんてね。ええ気づいてますとも。なんてったって涙を浮かべたその瞳から発せられる強烈な憎悪の感情はまさに俺に向けられているのだから。そんなことも分からなくなるほど耄碌はしていない。寧ろ敏感な方だ。


「お母さんを返せ!」


再び溢れた悲痛な叫びに周囲の視線が集まる。その視線は少年への同情と俺への軽蔑とか不信とか敵意とかとりあえずその他負の感情をカップに入れて適当にシェイクしたカンジだ。


いちいち相手にするのも面倒なのでそのまま無視して前を通り過ぎるとどんどん周りの視線が険しくなるのを感じる。


「おい。お前にはこの子の話を聞く責任がある。自分のした行為に向き合うべきだ」


そういって俺の肩を掴んで引き留めたのは部屋に引っ込んだはずのリアムだった。


「チッ、何でお前がいんだよ」

「子供の叫んでいる声が聞こえたら飛んでくるのが当たり前だ」


リアムの皮肉を無視しつつその後ろをチラッと見るとご一行様が勢揃いしていた。


はぁ~、こりゃ話聞かないと後ろから刺されそうな勢いだな。ああもう本当に面倒。なんで俺がこんな目に遭うんだ。「日々の行い」とか言ったらぶっ殺すぞこの野郎。少なくとも向こう一年は絶対にレイド依頼は受けない。


新たな決意を胸に渋々さっきのクソガキの元へ向かい上から睨み付ける。


「おいクソガキ。俺はガキの戯言に付き合っているほど暇じゃないんだ。言いたいことがあるなら簡潔かつ明瞭に述べよ」

「お、お前さっきまで寝てたじゃないか!冒険者なんだろ!?強いんだろ!?なんで助けてくれなかったんだ!お前がこんなところで寝てたせいでお母さんが僕を庇って死んだんだ!お前のせいだ!」


一瞬怯んだが恐怖より怒りが勝ったらしく少年はその胸のうちを一気に捲し立てた。


ふーむ。なるほど。俺が無償で賊の駆除を引き受けてたら眼前の馬鹿を庇って死んだ母をもししたら救えたかもしれないと。少なくとも母親が襲われる確率は下がっただろうと。…ふざけた話だ。そもそも俺にはこいつのママを助ける義務も義理もない。他人が知らない所で勝手に死んだだけだ。果てしなくどうでもいい。


「これがお前の利己的な行動が引き起こした結果だ。この悲劇にどう責任をとるつもりだい?」


俺が呆れて黙ったのを俺が打ちのめされて何も言葉にできない的なニュアンスで理解したらしいファ〇キンリアムが神妙な顔で俺に問う。


「一つ聞きたい。お前のかーちゃんが死んだ時側にいたのは誰だ?」


リアムを完全に無視し、俺は少年に一つ問う。


まあこんな10やそこらのガキに税金とか国家による安全保障とか兵士・騎士と冒険者の違いとか小難しい事を語って聞かせても理解できないだろう。だから最も単純かつ明解な世界の基本原理をお届けしようと思う。


「それとこれと何の関係が──!」

「お前だろ?お前がもっと強ければ母親を助けられたんじゃないのか?だができなかった。それはお前が弱いからだ。お前が弱いから、母親が死んだ。お前が弱いせいで死んだ。お前せいで死んだ。ただそれだけのこと。責任の押し付けは良くないぜ?」

「…っ」


俺の言葉に何も言い返せないのか、少年は拳を握り締めながらただ黙って俯いていた。


「ふざけるな!」


だが黙っていないヤツが一人。


「弱いことは悪い事なのか?弱いから切り捨てるのか?見捨てるのか?僕はそんなの絶対認めない。彼らがいるから今の僕達がいるんだ!」


はい。お察しの通りみんな大好きリアムくんです。どうも頭にお花が咲いているリアムくんは私の価値観がお気に召さなかったようで大層ご立腹な様子。


「ハッ、俺をお前と一緒にするなよ。才能に恵まれ、莫大な保有魔力、正統な剣術、おまけに“固有魔法”持ちときた。正にこの世の春ってか?そりゃーさぞかしご裕福な家庭の出なんでしょうねぇ。確かにコイツらから搾取した金が無ければ今のお前はないわなぁ。リアムお坊っちゃま?」

「それ以上言ったら許さないわよ!!」


軽く挑発してみると思わぬ獲物が食いついた。今まで少し離れたところから、もう好きにしろと言いたげな表情で成り行きを見守っていたリーナが赤い顔でズンズンとこっちまでやってくる。


「リアムのこと何にも知らないくせに勝手なこと言ってんじゃないわよ!」

「ほお~。じゃあ当然お前らも土手っ腹に風穴空いたまま昼夜戦い続けた事くらいあるよね?両腕吹っ飛んで剣を咥えて戦ったことは?飢餓の末生きるために人肉を食ったことは?えっ無い?へ~、でも流石に血反吐ぶちまけながら戦った事くらいあるよね?」

「──ッ」

「はあ。話にならねぇな…」


俺の駆け出し時代にあった懐かしのあれこれを語って聴かせるとギャーギャー五月蝿かったリアム達が目を見開いて分かりやすく固まった。


まあさっき言った事の一つや二つ叩き上げの冒険者なら誰しも経験することではあるが。いや~、しかし懐かしいねあの頃は。何年前だ?俺が11の頃だから…もう7年かよ。よくダガー片手に単身森へ行ったっけ。今じゃ脅威とは程遠いフォレストウルフにもよく苦労させられた。素材を売ってせっかく手にいれた金も“お母さん”とか“お姉さん”とかに巻き上げられたりホント大変だったねぇ。


正直眼前の馬鹿供には微塵も興味がないので意識から完全に追い出し、遠い目をしつつ今は遠い過去を思い出してその時の苦労を噛み締める。


「…君がしてきた苦労の大きさはよく分かった。確かにそんな君からしたら僕は苦労知らずのぼんぼんに見えるんだろうね。でもそれとこれとは別問題だ。君が苦労してきたからって弱者を見捨てていい理由にはならない」


人が怒ると返って自分は冷静になるというが、リーナがブチ切れたのを目の当たりにしたせいかリアムは結構冷静に反論してきた。


呼び方がお前から君になってるってことはリアム内での俺の株価はちょっと上がったのか?こいつの好感度上昇とか寒気がするな。てかこいつは俺の言いたいことを全く理解していないらしい。


「はあ。お前は俺の話の何を聞いてたんだ?苦労云々じゃねーんだよ。俺は上位冒険者だ。そして俺はここまで誰の手も借りずに来た。この力は、俺が、俺だけで、俺のために練り上げた俺の力だ!だから俺のために使う。それのどこが悪い」


そう吐き捨てつつ右の拳へ高密度に気を集中いていきそのまま近くの壁へ叩きつける。


普通は壁全体が吹っ飛んだり粉々になったり派手な破壊効果があれば強そうに感じるだろうが実際は違う。むしろ地味だ。より強力で効果的な攻撃は全エネルギーを逃がすことなく極一点に集約しなければならない。必然的に無駄な破壊は起こらず今の俺の右手の様にすっぽりと壁にはまりこむような形になる。


想像したであろう結果よりも圧倒的にショボい、だが見る人が見れば戦慄する結果に周囲から失笑が溢れる。


それを逆に心で嗤いながらリアムヘ手刀を向ける。先程よりもさらに気を集中しているから人間の首くらいプリンをスプーンで掬うよりも遥かに簡単に落とせる程の凶器へと俺の右手は変貌している。


「何のつもりだい?」


それをよく理解しているからこそリアムは険しい表情で対峙する。


「いやなに、少し警告をと思ってね。俺もいい加減ウンザリしてるんだ。てめぇがどんな理念で行動しようが、それで野垂れ死のうが知ったこっちゃねぇが俺に押し付けるな。俺の行動原理は今言った通りだ。今までもこれからも俺が他人のために力を振るうことはない。尊重しろ。そして俺に干渉するな。できないなら─」


─殺す。


明確な殺意。今まで小出しにしたり漏れ出たりしたものとは異なる、命を奪う事を専門とする職業のそれもその上位者が放つ一切の遠慮や自制を取り払った純粋な害意の波動。


まあ向こうも俺と立場は変わらないからこれで怯むなんて事はないが、対等と口では言いつつもどーもやっぱ俺を下に見ている認識を改めさせるには十分だ。コイツのやってることは本質的に棍棒外交と変わらない。最終的には力ずくで言うことを聞かせられると言う考えが意識せずとも頭のどこかにあるからこうも強硬な態度をとれるのだろう。出会い頭に加減したのが悪かったな。所詮コイツも冒険者だ。その物差しは勝てるか勝てないかってことなんだろう。


「…………」


リアムは黙ったまま何も答えない。さっきまでリアムを庇うように前に出ていたリーナは明らかに怯えた表情で庇っていた奴の後ろに隠れている。


ふーむ。俺の言ってることは極々当たり前の事だと思うんだがねぇ。「個人の自由を尊重しろ」ってたったそれだけのことに何を悩む。


「はやく答えてくれませんかねぇ?お前のためには一秒も時間を割きた─」


「こんな奴やっつけてよ!」


全く予想だにしなかった所から思わぬ横槍が入る。怪訝な目でつい声の主を探すとまた例の少年。なんかデジャブ。


「またお前か。俺はコイツと話しているんだ。入ってくるなよ」

「うるさい!そこの兄ちゃん!お母さんの仇をとって!」

「いや俺は別にお前のかーちゃんを殺してはいないんだけど…」

「助けられたのに見捨てたのは殺したと同じだ!僕だけじゃない。お前のせいで皆悲しい思いをしたんだ責任をとれ!」


これが呼び水となりいつの間にか結構な人だかりになったていた周囲から様々な野次が飛んで来る。


「そうだ!お前のせいだ!」「酷い!」「私の子供を返して!」「何で俺たちを見捨てたんだ!」「誰のお陰で飯が食えてると思ってるんだ!」「こんな奴ボコボコにしてくれ!」


等々。それはそれは暖かい言葉の数々を贈られる。酷いのだと「大したことないくせにイキってんじゃねぇ!」とか「キモいんだよ!ナルシストが!」とかそれぼぼ今回の件と関係無くね?ってのまで混じる始末。


「で?どーすんの?」


俺は雑音を完全に無視し、周囲の期待を一身に背負った当のリアムくんに再び問う。


「…いや。分かった。でも謝罪はしない。…行こう。リーナ」

「えっ?でも─」


少し考える素振りを見せたあとリアムはあっさりと俺の要請というか脅迫を受け入れ、何か言いたそうなリーナと共に他の仲間の元へ戻ろうとする。


だがそれが受け入れられない者が一人。


「なんでだよ!なんでこいつの味方をするんだ!結局兄ちゃんも─」

「はぁ」


いい加減この茶番に付き合うのも疲れてきたので馬鹿を強制的に黙らす。うなじを俺に強打され無様にのびてるクソガキをそのまま放置し俺は教会の出口へ向かう。


「ちょっと!このまま置いてく気!?」


慌てて駆け寄ったらしいリーナが俺を呼び止めるが俺は歩き続ける。途中周囲から改めて鬼だのクズだのラブコールが聞こえるが無視。


「おい。待てよ」

「…あ?」


途中後ろから肩に手を置かれ声をかけられたので振り向くと眼前に迫る拳。とは言ったものの遅い上に素人丸出しな攻撃など避けるのは容易だ。


「何の用?」

「村の代表として一発殴らせろ」


そこにいたのは俺より一回りは大きい厳つい巨漢だった。


村の力自慢ってとこか。さっきのでよっぽどナメられたようだ。まさか気も魔力も使えない素人の筋肉だるまに喧嘩を売られるとは。


「ふーん。断る」

「ああそうかいッ」


わざわざ殴られてやる義理も無いので、再び繰り出された俺の顔ほどもある拳をスルリとすり抜け前に出る。急に間合いをつめられ目を剥く素人の眉間へデコピンを叩き込む。


「ぐあっ」


脳震盪を狙っての攻撃は見事に効果を示し男は卒倒する。


「ペッ」


地面に崩れ落ちた代表者様(笑)へ唾を吐きかけそのまま歩き出す。


村の猛者を瞬殺されたせいか最早何か言うものをおらず沈黙のなか俺は教会を後にした。


俺を何だと思ったのかね?流石に上位冒険者が素人にのされはしないわ。それなのに喧嘩を売ってきたコイツは馬鹿なのかな?それにしても疲れた。これだから人と関わるのは嫌なんだ。


ストレスでハゲそう。

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