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From the Different World―俺の異世界見聞録―  作者: まっとぅん
一章:冒険者レイの受難

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37 現在ラティファさんは心身不調の為、休養中です

「さぁて、罠にかかりますかね?」


眼下の裏路地をマナが一人歩いていく。人がようやくすれ違える程度の、狭く入り組んだ裏町の迷路。


その上空――積み重なったバラックの屋根の上で、俺は透明化しながら様子を窺っていた。


こうなったのにも理由がある。ギルマスとの面談後のことだ。


「レイ、これ見て」


あの性悪の執務室がある二階から降りてきた俺をマナは掲示板の前へと腕ごと引っ張っていった。


マナの言いたいことは掲示板を一目見れば分かった。ギルマスの言った通りほとんどの依頼書の付記事項に俺を名指しで排除する旨記載されているのだ。まさか庭の草むしりにまで手を回しているとは恐れ入った。


「手が早えーなぁあのぼんぼん」


他にポイントが入る仕事と言えば手配書か。掲示板の隣、賞金首リストへと視線を移す。まず目に入ってくるのは大物ども。


懸賞金200万G“血狂い道化(マッドピエロ)

懸賞金110万G“首狩り(スカルコレクター)

懸賞金180万G“薄ら笑い(ラファー)

懸賞金40万G(各)“猟犬たち(ハウンズ)”etc


ここに掲載されてるってことは周辺地域(王国東部)での活動や目撃情報が報告されているということだ。だがまぁ懸賞金が100万を超える国際手配辺りになるともはやブランド化してくるので模倣犯や類似犯が後を絶たない。その為出没情報はかなり眉唾だ。


その他の賞金首といえば地域限定のお尋ね者から債務不履行者、果ては規則違反でギルドから手配された元冒険者まで様々。さてどいつを標的(ターゲット)にしますかね。


「ふむ?」


多種多様なお尋ね者達の中で、異彩を放つ手配書が一つ。姿絵は黒塗り。名前欄にはたった一言『Unknown』。


手配書の情報を見るに先日小耳に挟んだ“冒険者殺し”だ。被害者はDランク4名Cランク3名B2ランク1名。いずれも単独行動中に殺害されている。遺体は裸に剥かれ犯行現場に放置と。まぁ早い話が追い剥ぎだろう。殺すのは正体が割れたくないから。だが何故?冒険者が殺された程度で行政も刑吏も動かない。となると生かして帰した後の報復を恐れたが故か。


だとすれば正面からは勝てないとこいつは判断した事になる。格上を殺す方法は2つ。一つは奇襲。2つは誘い込んでのハメ殺し。ただ後者の場合は入念な事前リサーチと下準備が必要になるため、そうポンポンと連発はできない。コイツの犯行頻度を見るに取り得る戦術は問答無用で一撃必殺な奇襲戦術だな。


「レイ?」


懸賞金は5万か。印字された多数の紋章(シンボル)を見るに多パーティー連名。被害者の仲間達は大分キているようだな。ポイントを貯めつつ小遣い稼ぎをするにはちょうどいい。


犯行現場は全て裏町。流血は日常、二〜三人死んだところで騒ぎにすらならなかったことだろう。死角も多く奇襲にはもってこいの場所だ。()()()()()()()()


「んーよし。――マナさん囮やらない?」


と、言うわけで俺達は今例の下手人を捕らえるべく囮捜査を敢行しているのである。


奇襲しようとしてる人間は逆に自分が奇襲をかけられるとは思わないものだ。


「お、いたいた」


少し離れた屋根うえに2つの影。ちょうどこれからマナが通る通路の真上だ。


『マナ、上から来るぞ。側面斬り込みにも注意しろ』

『ん』


“狩り場”に入った瞬間、マナの足が地面に沈み込んだ。途端に上方より降り注ぐ100発近い〈光の矢(ソーサリースマイト)〉の弾雨、いや派生の〈光の穿矢(ソーサリーショット)〉も混じってるか。障壁をボロボロにしてから続く高殺傷〈空断(エアスラッシュ)〉の畳み掛け。


「……」


だがマナ、当然のように無傷。


「なっ、う、う、うそだろ!?」

「逃げるぞ!コイツは次元が違う!」


マナに気を取られている内に背後に回り込んでいた俺は驚愕に震えるその()()()2つの背中へと声を掛けた。


「よーう悪ガキ共。子供の悪戯にしちゃ可愛げがねーな」

「「――っ!?」」


ドカッと少年2人を屋根から蹴り落とす。ここは地上5階程度だが、まぁ大丈夫だろ。


「「ぎゃああああああああ」」






「お前さ、結構マニアックな魔法つかうのな。普通はイメージしやすい風を使った〈風刃(ウィンドブレード)〉あたりを使うんだが」


取り敢えず適当な縄でふんじまった小汚いガキ2匹。そのうち目つきの悪い方、リーダーっぽいガキ(めんどーなので以下“ガキ1”)に先ほどの襲撃で気になった点を尋ねてみる。


「…んなこと知るか。それしか見たことねぇんだよ」

「ほぉう?見ればその魔法が使えるとでも?」

「言うわけねーだろバーカ死ね」


なるほど。こいつは逸材だ。


「レイこの子達どうする?」


こちらを睨むクソガキ2人を前に困惑した様子のマナ。賞金首とはいえこんな子供をまさか突き出すのか?という言外の問い。


それに考え中とだけ答え、俺はグイとガキ1の瞳を覗き込む。


「お前今の状況分かってる?俺達が何で来たか分かるか?」

「知るかよ。盗品でも売りに来たんじゃねーの?」

「懸賞金だよ。お前の首には5万Gの懸賞金が掛かってる。このまま突き出しゃ良くてなぶり殺し、悪くて仲間もろとも皆殺しだ。お前らみたいなストリートチルドレンが何匹死のうが誰も気にも止めない。それはお前もよく分かってる事だろう?」

「……っ」

「レイ、言い過ぎ」

「事実だ。ぼかしたところで現実は変わらないぜ?」

「クソが…どいつもこいつも……」


割れそうなほどに奥歯を噛み締める少年、俺が覗き込んだその瞳に宿るのは激しい憎悪。そしてそれすら塗りつぶし赤黒く煮えたぎるマグマのような憤怒であった。


「ハッ!」


馴染み深い目だ。10年前毎日のように見ていた。凪いだ水面、砥がれた刃、宵の硝子、目を向ければ常にそこにあったもの。今死ぬには惜しいな。


「お前ら寝ぐらは?他に何人いる?大方そいつら食わせるために冒険者襲って日銭稼いでたんだろ?」

「死ねよ」

「なぁに悪いようにはしねぇ。お前らの現状が知りたいだけだ。ねぐらに案内しな」

「死ねよ」

「おいコラ――」


しかし二の句を継ごうとした俺の口は奴の口より放たれたあまりにもな暴言に粉砕された。


「しつけーぞおっさん!仲間は死んでも売らねぇ!覚悟ならとっくにできてる。さっさと突き出せや!!」


視界がぐにゃりとゆがむ。


「おっ…おっさんッ!?」


俺まだ十代なんですけど?いやそれもあと一年だが。それでもまだまだピチピチの二十代なんですけど!?それを言うに事欠いておっさん……いやおっさんてお前。


「大丈夫。あなた達を賞金首として突き出したりはしない。心配してるだけ」

「信じられるかよ!」

「この人が危害を加える様なら私が守る。約束する」

「………本当だな?………分かった。どのみち拒否権なんかねぇし」


俺が行動不能に陥っている間に何か話がついていた。どーも俺は人から信用されないらしい。






案内された場所は放棄された下水道。殆ど光の入らないそこは発酵した汚物の熱でほんのり暖かく代わりに凄まじい悪臭が充満していた。


「リーダーお帰り!」


1人の少女がガキ1に気が付くなり走り寄ってくる。だが彼女の顔は続く俺達の姿にサッと血の気が引いた。


「―っ!みんな奥へ!リリーの周りへ!」


巣穴の奥で外敵の到来に怯える小動物のようなガキ3〜ガキ17(十数人の子供たち)。骨と皮ばかりの身体に、やつれて相対的に大きく見える光のない瞳は頑なにこちらへは向けられない。


俺はそんなガキ共には目もくれず薄汚い下水道跡を我が物顔で闊歩ししげしげと内装を観察する。寒さを凌ぐ為のボロ、カビが生えて腐りかけたパン切れ、清潔な水など手に入らないのであろう汚れて壊れかけの食器が数個、本当に最低限の物しかない。


「このザマはなんだ?冒険者を追い剥ぎしてたんだろ?その分の金はどうしたよ」


口を開いた俺に周りがビクリと反応。


「ガキの俺らじゃ安く買い叩かれて二束三文にもなりゃしねぇんだよ。足元見やがってクソが」

「闇商だろう?なんで同じようにぶっ殺さなかった?そーすりゃ舐めたマネもできなくなる」

「できるわけねぇだろ!!アイツらのバックにはここら仕切ってるマフィアがいんだよ!!」

「ま、そりゃそうだ。――ん?」


挙動不審に遠巻きからこちらを眺めるだけで全く寄ってこない小動物たち、その群れの奥に何かが横たわっている事に気がつく。


「こいつはどうした?」


抵抗するガキ共をどかして見つけたのはボロに包まれ転がってる少女であった。先ほどガキ3が”リリー”と呼んだのはこの娘の事か。


「触んな!!」


確かめようと手を伸ばした瞬間、血相を変えて駆けつけてきたガキ1に手をはたき落とされる。


「お…兄、ちゃん……おかえり……」


兄を迎えようと身体を起こしたその姿、皮膚はただれ、息は浅く、身体は熱に浮かされていた。


「……()()の代償だ。俺達を食わせるために」

「あーはいはい、なるほど」


特殊性癖の変態共相手に身を売ってたって訳か。特段珍しくも無い話だな。俺としては何の感動も感傷も湧かないありふれた悲劇の一つなのだがマナは違ったらしい。


「――っ」


駆け寄ったマナはアイテムポーチに手を伸ばす。俺はその肩をつかんで止めた。


「おい何をする気だ」

「この娘を助ける」

「馬鹿言ってんな。それで治してどうする?この娘はまた同じ事をするぜ。それで余計に苦しむ。自称善人が施す半端な善意に勝る邪悪は無いぞ」


俺とマナの推し問答にも構わす、ガキ1は少女の側へと座る。


「リリー、今日も薬を買ってきたぞ」


そこへ少年が袋を取り出した。


灰色の粉。一目見れば分かる。ここら一帯で出回る安物で害だけ強い粗悪品だ。混ぜものだらけのゴミクズ。


「止めろ。そんなんじゃ大してキマらねぇ。こっちにしろ」


試供品として貰ったはいいが使わず余らせていたもの。純白の、俗に云う“奇跡の薬”とやらを少年に渡す。


「レイッ!!」


マナの声が下水道に鋭く響いた。


「なんだよ。これが本来の、()()()使い方だろ」

「でも…それは…」

「あ…りがとう…お兄ちゃん…。私は大丈夫だから…無理しないでね…」


病巣に冒された身体で、必死に兄を迎えようと健気にもがく娘。その顔は病の毒で醜く腐りただれている。しかし俺にはそんな彼女の微笑みはどこにでもいるありふれた普通の少女のものと何ら変わらなく映った。


「―…スゥ―…」

「……」


処方により焦点の合わなくなった瞳で弱々しく寝息を立て始める少女。そのある種安らかともいえる表情にマナは黙った


途切れ途切れの浅い寝息を立て始めた少女の手を握り、ガキ1は小さく震えている。


俺はこのガキに慰めの言葉をかける程優しくないし、大丈夫だとかなんとか根拠もない希望的観測を述べる程お花畑でもない。


「お前名前は?」

「…カイ」


一つこのガキ1もといカイへ掛けてやる言葉があるとすれば――


「お前さ、冒険者になれよ」

次回もストチル回。もしかしたらレイ君のまた別の顔が見れちゃうかも?


3000字でキメようと思ってたら5000字近くなっていた。短尺とはなんだったのか…

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