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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
3/33

3 死にたくない?なら…分かるね?

「今の、聞こえた?」

「…ああ」

「悲鳴…よね?」

「先を急ごう。嫌な予感がする」


そう言ってリアムは速度をあげた。


声が聞こえるほどの距離は馬の足ならすぐだ。悲鳴を聞いてから数分とたたないうちに俺たちはその原因を目の当たりにした。


「なっ──!」

「酷い…」


燃える家屋、響き渡る怒声と悲鳴、凌辱される女、流れる血、無造作に横たわる多くの死体。典型的な賊による村の襲撃だった。


だがこんな職に就いていれば腐るほど遭遇するであろう最早見飽きたものだ。そんな光景を俺は少し冷めた目で眺めていたのだが、他の面子は違うらしく凍りついていた。


「何を、やってるんだ──ッ!!」

「ちょっ…!リアム!」


真っ先に立ち直ったのはリアム。激昂し村に突っ込んでいった。他三人もそれに続く。


ええ~これ助けに行く流れだよな?俺も行かなきゃダメ?…面倒くせぇ。ああ時間が取られる。これだから集団行動は嫌なんだ。先行ってていいかな…


「君は行かないのか?」


ふと未だ残っているマナに訪ねる。


「私は教会か領主の屋敷へ行く」

「へえ、何で?」

「そこで戦える人達が防御陣地を敷いているはず」

「なるほど。じゃあ俺もそっち行くか」


つまりカモがたくさん。せいぜい足下を見て吹っ掛けるとしよう。


「その顔やめて」

「おっと、これは失敬」


私の溢れんばかりの博愛精神が知らないうちに表情筋から滲み出ていたらしい。


我らが麗しの王国はその国土の大半が森に覆われており、どこへ行こうが気候は大して変わらないため必然的に街や村は似通ってくる。大抵は水源に沿うように作られ、村で言うなら外縁部に耕作地、教会を中心としてそれを囲むように民家が立ち並び、少し離れたところに領主の屋敷、そして川の近くには製粉小屋があり世帯数は10~30と言ったらイメージできるだろうか。


大体村ひとつにつき引退した冒険者や兵士が数人村付きとして常駐しているが、まあDランクか良くてCランク程度なのでこのカンジじゃあもうご臨終か教会辺りにいるかだろう。


面倒な連中に絡まれないように隠れながらササッと教会に向かったらなかなか衝撃的な状況を目にしてしまった。


領主様ってのはがめつい連中が多いので一人屋敷閉じ籠ってると思いきや、意外や意外なんと子飼いを引き連れて教会を守ってるではないか!


「おお、珍しっ、まともな領主がいるじゃん。もうとっくに絶滅したもんだと思ってた」

「そんなことない。レイが会わないだけ」

「ハッ、だといいね。…すみませーん!冒険者ギルドの者ですがー!中入ってもいいですかー!?」


マナと適当な会話をしながらガチガチにバリケードで固められた教会の中からこちらを窺う気配に呼び掛ける。賊は周囲の家屋の物色やら殺戮やらで忙しいらしくまだ教会までは来ていない様子。


中から話し声がしたあと暫くして男の声が聞こえてきた。


「証拠を見せてくれ!」


俺は袖を捲ると冒険者の証しである腕輪と取り出した指輪を中からでも分かるようにバリケードに近づいて見せた。マナもそれに習う。


「これでいいか!?」

「B2冒険者?…今開ける!」


その言葉と共に目の前に積み上げられた大小の家具や棚がひとりでに動き小さな隙間ができた。


その隙間を通って中に入ろうとしたのだが、途中で小さな違和感を覚えた。


「…対魔結界」

「いやそれだけじゃない。抗物の魔法もかかってるな」


違和感の正体を口にしたマナがこちらを振り返り訝しげな視線を向けてくる。


「魔法使えないのに何で分かる?」

「だからこそだろ」

「ふーん」


その視線に肩をすくめて答え、まだ何か言いたげなマナと目を合わせないようにしつつ早く進むように促す。


高い塀に囲まれた教会の敷地内には案の定多くの人が避難してきいた。そこらじゅうに血痕があるのに負傷者が見当たらないってことは建物にでも収用されているのか。


バリケードを抜けてきた俺たちを最初に出迎えたのは完全武装したリーダーらしき初老の男だった。


「若いな」

「はじめまして。B2ランク冒険者のレイです。こっちはマナ。ウチは完全実力制なので私の力の程はこの腕輪が証明していますよ」


そういって俺は眼前の渋い表情の男に先ほども見せた純金製の腕輪を見せつけ、礼儀正しいスマイルを浮かべる。「あなたを瞬殺できる程度には強いですよ」と言うセリフはもちろん飲み込む。


「む、いやすまない。思ったよりも若かったので面食らってしまったようだ。気に障ったなら謝罪しよう」

「いえ、構いませんよ」

「元冒険者だけあってこういったことには慣れてる筈なんだが、鈍ったかな」


ハハハと笑いながらの言葉に否定も肯定もできないので曖昧に笑っておく。


「話を戻すが、見ての通り事態は切迫している。先ず君たちを領主様のもとへ連れていこう。ついてきてくれ」


そういって歩きだしたおっさんの後ろを俺たちは大人しくついていく。


それにしても18でB2って若いか?まあ一番多い年齢層は20代から30代だが。たった二年だぞ?そんなに変わるもんでもあるまいに。いや、俺の見た目がガキっぽいと言う可能性も…。実は俺って童顔なのか。地味に刺さるな。つーか横のコイツと並んでるとよりいっそうな気がする。にしてもコイツしゃべんねえな。もーちっと愛想良くした方が客受けも良いと思うのだが。


「なに?」

「いや、なんでもない」


まあそんなどーでもいいことを徒然なるままに考えていたら領主のいる部屋に着いたようだ。


「ここだ。先に私が君たちのことを領主様に伝えてくるから少し待っていてくれ」


領主のいる部屋は負傷者で溢れた礼拝堂から更に奥に入った所にあり、入り口には二人の門番が立っていた。武装の感じから領主の子飼いだろう。着用している鎧や武器は手入れが行き届いており、ピカピカに磨かれた表面が反射する壁に掛かった蝋燭やランプの光が鬱陶しい。


教会の外がかなり慌ただしくなり始めた頃中からお呼びがかかった。


中に入るとそこは簡素だが村では珍しい調度品をしつらえた応接間のような部屋だった。


「君たちの事は分かった。挨拶はいい。早速だが応援を要請したい。座ってくれ」


対面掛けのソファーに座り渋面をこれでもかと顔に張り付けた絶滅危惧種がこちらに振り向く。俺の完全な偏見で領主ってのはチビデブヒゲの三点セットのイメージだったのだが、スラッとして白髪混じりの髪そして鋭い目をした、一言で言うなら「できるオヤジ」がそこにいた。


言われた通り俺たちが座ったのを見計らい領主が話を切り出した。


「君たちは魔法を使えるかね?」


俺はチラリとマナをみる。


「…使える」


マナが渋々といったように答える。


「治癒魔法は?」

「…使える」

「結構だ。君には負傷者の手当てを頼みたい。ただこちらとしても防衛には全力を尽くすつもりだが、危ういと感じたらこちらの援護に回ってくれ」

「分かった」


マナはそう言うなり立ち上がってさっさと部屋から出ていってしまった。


何か不機嫌だったな。人見知りなのか?


俺は首をひねっていると、今度はこちらの話になった。


「次に君だが、君には教会の外で未だ逃げ遅れている人々の救助と賊の漸減を頼みたい。幸いなことに奴等はまだ金品の物色に忙しいらしくこちらまで来ていない。そこで──」

「ちょっと、いいですか?」


まるで俺がこの村を助けることが前提であるような口振りに異議を唱えるため手をあげて領主の言葉を遮った。


「…なんだね?」


話を遮ったためか少し不機嫌そうな表情をした領主が続きを促す。


「まず予算を確認させてください」

「予算?何のことだね?」

「いえ、救援を要請される場合自分への依頼という形になりますからその報奨としてどれくらい出して頂けるのかと」

「ふむ、だが冒険者として襲われている人間を助けるのは当然の行いではないのかね?」

「…まあ、そういう考えの人間もギルドに一定数いるのは確かですが」

「では─」


早とちりした危惧種が続けようとするのを手をあげて制す。


「ですが、()()()違います。そしてそういった考えの人間もギルドには一定数いることをご理解ください」

「なるほど。しかし現状を鑑みてそれでも救援を断ると言うのであればこちらとしてもギルドにクレームを入れざるを得ない。『襲われていたのに冒険者は助けてくれなかった』とね」


ふっ、流石に嫌な所を突いてくる。確かに普通の雇われ人ならクレームという言葉に少なからず恐怖を覚えるだろうな。普通ならば。


「構いませんよ。ギルドは基本的に個人に干渉しません。例外があるとすれば依頼の不履行や規則違反等ですね。冒険者というのは、言うなれば個人事業なんですよ。ギルドには手数料を払い仕事を斡旋してもらっているだけです」


俺はニッコリ笑ってそう返す。


「…よく分かった」


領主は腕を組んで少し考える素振りをしたあとそう答えた。


「参考までにこういった事態での相場を聞かせてくれ。私はこうしたことに疎くてね」

「そうですね。正直、人によってまちまちですが…。自分はこういった際には10万程戴いております」

「10万!?」


領主の驚愕の声を無視して続ける。


「もしお財布に余裕があるのでしたら、20万戴ければ直ぐ様村にいる賊全てを殲滅してご覧にいれましょう」

「…何故たかが賊の相手をするだけで10万Gものの大金が要るのかね?B2ランクとはいえ上位冒険者の君からしたら赤子の手を捻る様なものだろう」

「世間一般では賊というものは低く見られがちですがそういった事はありません。彼らの活動範囲は主に森の浅部になります。と言うことは必然的に浅部に生息するモンスター程度なら狩れる実力があると言うことです。更に傭兵と兼業している者も多く、そのリーダー格は我々でも油断出来ない実力を保持している場合があります」


ここで一息。これはビジネスだ。情報提供は丁寧に。納得して合意してもらわねば後でどんないちゃもんをつけられるか分かったもんじゃない。俺は嘘もつくし、裏切り、見捨て何でもするが依頼に対する誠実さ・信頼は冒険者として守るべき最低ラインだ。それがなくなれば俺はただのクソ野郎になってしまう。因みに「もうすでに十分クソ野郎だ!」というようなツッコミは受け付けない。


「そしてこの村を襲っている賊の装備を見た限りでは後者の可能性が高い。こうした相手に体を張って戦うには相応のリターンが無いとやってられないと言う訳です。因みにこれは私見ですが現在の教会を守る戦力では防衛しきれるかかなり怪しいラインかと。差し出がましいことを申し上げたこと謝罪いたします」


俺は話は終わりだという意を込めて押し黙った。


「…だそうだがどう思う?」


俺の話を黙って聞いていた領主が扉の近くに立っている男に水を向けた。俺とマナをここまで案内してきた後話に加わらずにずっと待機していた奴だ。


「概ね間違いないかと。ただ私は助けてきた人間ですので相場については分かりかねます。ですが、こういったタイプの奴は足下をみて吹っ掛けて来ることは間違いないですね」


そういって男は俺を厳しい目で睨み付ける。


ニッコリ笑って手でも振っておこうかね?。


「なるほど。では今の戦力では防衛が厳しいというのも事実かね?」

「村付きとして恥ずかしい限りですが、はい」

「そうか…。分かった。では10万Gで依頼したい。依頼内容は先ほど言った通りだ」

「毎度ありがとうございます!では簡易的ではありますがこちらにサインをお願いします」


部屋の扉が荒々しくノックされたのはそう言って簡易式の契約書を腰のポーチから取り出そうとした時だった。


「何用だ!領主様は今取り込み中だぞ!」

「も、申し訳ありません!ですが至急領主様のお耳に入れたい事が」


扉の向こうから響いてきた声はやや上ずった声だった。


「もうすぐ終わる!それまで待てんのか!」

「で、ですが…ッ!」


「構わん。入れ」


鶴の一声によって中に呼ばれた男は領主の耳元で何事か囁く。男の話を聞くにつれて領主の顔色が喜色に染まりつつあるのを窺いながら俺は少し嫌な予感がした。


そしてその予感は見事的中する。


「すまない。今までの話は全て白紙に戻してくれ」

「は!?」

「すまないが言った通りだ。説明している時間はない。急用が入ったので話はこれまでだ」


その言葉の後、あれよあれよという間に俺は部屋から追い出され礼拝堂にポイされた。


「ええ~」


一切の抗議、質問を無視され文字通り問答無用に部屋から叩き出されて俺はただただ唖然とするしかなかった。


マジかよ…。後少しだったのに。何の話してたんだよ。いやまあ大体想像つくけど。結局俺は時間を無駄にしただけかい。こんなことなら逆に賊から金品略奪すればよかったか?あーもうホント、マジか。てか最初に会ったおっさんが俺を追い出すときのニヤケ顔がムカつく。


「もーどーでもいいや」


外も真っ暗だし礼拝堂の空いている長椅子に寝転がり俺はふて寝することにした。


いやまあ、悲鳴と呻きと怒号が木霊する礼拝堂で寝れるかどうか分からんけども…


悪いことはするもんじゃないね☆

G=$です

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