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From the Different World  作者: まっとぅん
序章:あるところにレイという冒険者あり
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2 俺達の冒険はこれからだ!

協議の結果、ワイバーン三体のうち人数の多い紅蓮が二体を相手にすることが決まった。


まあ妥当なとこだろう。人数で言えば6人いるのだから2人ずつに分けられるが紅蓮はあのメンバーで完成しているのであって息の合ったチームプレーができるパーティーを解体するのは寧ろ戦力低下に繋がり悪手だ。だったら個別に各個撃破を狙った方が効率的である。紅蓮の連中はどうか知らないが、俺は個人でB2ランクなのであり俺一人でB2ランクのパーティー1個相当と扱われるため人数差に不公平はないしな。


「そういえばアンタ方個人のランクはどれくらいなんだ?」


少し気になったので聞いてみたところリアムと例の黒髪の小柄な少女(マナという名前らしい)がB2であとはC1だそうだ。まあ一般的なB2パーティーは個人で1人いればかなりいい方なので二人もいれば十分すぎる。


「個人ランク上げるのは面倒なのよね。そもそもパーティーとして登録している以上個人ランクにあまり意味はないわ」

「まあな。ふとした好奇心から聞いただけだよ」


口ぶりからして全員B2以上の実力はありそうだけど。


今回の依頼主はウルからさらに東にいった辺りに点在する村や小規模な街連合だ。どうもここ最近ご近所にワイバーンの一家が引っ越してきたらしく家畜や人間が美味しくいただかれるようになり幾つか村が壊滅したそうだ。


とりあえず連合の代表者がいる街まで行って話を聞く必要がある。大体ここから馬で一日半ほどの距離なのでさっさと向かうことになった。






ウルくらいの都市となると大体城壁の近くに馬をレンタルできる施設があり、そこで馬を借りた後東門から出発する。


正直なところ走った方が速いのだが疲れるからやらない。戦闘の前に気を消耗したくもないしな。


出発してしばらくは比較的のどかな耕作地帯だが、すぐに森が見えてくる。


「毎回思うのですがこの馬って盗まれたりしないのですか?」

「セナはホント弓のこと以外はからっきしねぇ。乗ってれば少しは違和感あるでしょ?」

「え…違和感なんて無いのですが」

「もっと注意深く魔力を探ってみなさいよ」

「ええ~、違和感なんて何にも…ん?ホントだ馬がなんか変な魔力を纏ってます。でもこれと何の関係が?」

「監視魔法のポータルだよ。馬の生体情報と位置情報を送ってるんだ。あと術式に対する干渉を妨害する魔法も複数組み込まれてるから短時間で解除するのは現実的じゃないね」

「なるほど」


コイツら馬に乗ってんのによく喋るな。舌噛むぞ。


そうこうしているうちに大分森に近づき幾つかの人影も視認できるようになってきた。


「防衛ラインが見えてきたね。そろそろ()に出るからお喋りはこれくらいにして警戒を厳にしよう」


現状人間の生存範囲は極々限られたものだ。陸地の殆どは森に覆われ深部、浅部問わず魑魅魍魎どもが跳梁跋扈している。その浅部のうち比較的安全な領域を開墾して人々は生産活動を行っているが、それでも人の生存圏に侵入してくる魔獣や獣は後をたたない。そのため冒険者や国の騎士・兵士が主だった街や村の周囲に防衛ラインを構築し人の生存圏の安全を確保している。


遠くの人影をよくみると今も戦闘が行われているようにみえる。


「うへぇ、まだ昼前だってのに大変だねぇ。よくやるわ」


俺は遠くの人影を眺めながら思わずこぼした。


「彼らだってやりたくてやってるわけじゃない。貴方も経験したはず」


俺は独り言のつもりだったのだが、律儀に隣を走っていた黒髪の少女・マナが反応した。


「まあね。なかなか面倒だったよ。だからこそよくやるなぁってことだ」


魔獣や獣が侵入するとはいえ所詮ここは浅部だ。ここら辺に出没する程度のモンスターなら何体に囲まれようが瞬殺できる。だがそれは俺が紛いなりにも上位冒険者だからだ。


しかし今もあそこで戦っている彼らは冒険者ですらない。冒険者を志す連中はギルドに正式登録される前、強制的にこの防衛ラインに放り込まれる。徹底した自由放任主義の冒険者ギルドによる数少ない強制だ。ここまでの話だと弱いモンスターを相手に経験を重ねさせる研修?と思うだろう。実際世間一般ではそう思われている。だが実情は全くことなる。死闘だ。モンスターとの生死を賭けた血みどろの生存闘争。それが、実情。


そもそも冒険者を志す諸氏の実力など無いに等しい。冒険者ギルドに正式登録された冒険者の最低ランクであるFランク冒険者ですらちょっと喧嘩の強い一般市民の域をでない。それにすら満たない人間をいきなり前線に放り込むことを研修とは言わないだろう。


つまるとこと()()()なのだ。お陰で防衛ラインでの死亡率は70%以上を誇りその殆どは仮登録冒険者である。しかしそんな実情をもってしても冒険者になろうとする人間は尽きることがない。その理由はウルの裏町に広がる大スラム街を一度でも見たことがあるなら容易に想像がつくだろう。汚物やら死体やらその他よく分からんものまでが至る所に散乱してそれはもう酷い所だ。


ま、ここで死ぬ程度の奴はどのみち長生きできないけどね。すれ違い様で見た感じでは善戦してるようだし結構なことではないでしょうか。


耕作地帯ではまだ形を保っていた道も森に入ると急に細くなり一見しだけでは区別が難くなる。当然馬の足も遅くなるし、全方位を警戒しなくてはならない。国が整備したちゃんとした街道もあるにはあるが通行費がバカみたいにかかるので利用者は商人や貴族、騎士辺りに限られてくる。


頭上を覆い隠す原生林のせいで常に薄暗い獣道もどきを二三時間進んだところで早速俺たちは手荒い歓迎を受けた。


「リアム、囲まれてるわよ」


最初に声をあげたのは索敵魔法を展開していたリーナだった。


「みたいだね。数は?」

「15はいるわね」


正確には16だな。だが俺も魔法を使うということは知られたくないので黙っておく。


「ここら辺でその数ってことはゴブリンかフォレストウルフあたりですか?」

「そうね。減速してるとはいえ馬の足についてこれるってことはフォレストウルフでしょ」

「戦闘用意!」


リアムの一声の後俺たちは馬一点に集めそれを守る形で位置についた。


「は~やれやれ、面倒くせぇ。目的地までに何回足止めを食らうのかねぇ」

「そろそろ村も見えてくる。つれてく訳にはいかない」

「ちょっと、そこ!私語しない!」


「グルルル…」


木陰や茂みからぞろぞろ出てきたのは後ろの馬と比べても遜色ないサイズの獣、フォレストウルフだった。いやまあ、これをウルフと呼ぶには少々抵抗があるが…。


それぞれの割り振りは二三体ってとこか。俺のとこには三体来た。


「ガウガウッ」


上、左右からの三体同時攻撃。一体に対処すると他の攻撃を食らい、後ろは障害物のせいで回避不能。だが関係ない。コイツらの牙が俺に届くまでに全て殺せばいいだけだ。


「ふっ…!」


超高速で繰り出された斬撃により上を両断、返す刀で左を屠る。


「はっ…!」


後ろからの飛びかかりを身を屈めて回避し、頭上を通りすぎたフォレストウルフの胴を一薙ぎ。


かなりセーブしたとはいえ気で強化された剣は驚くほど容易にフォレストウルフの肉体を切断した。


死体から流れ出る血や臓物の臭気に顔をしかめつつ周囲をうかがうともうほとんどのフォレストウルフは屍へと加工されていた。


「まあこんなとこかしらね」


そう言ったリーナの前にはこんがりといい感じにローストされた死体が二つ。


なんというか、殺し方を見るだけで攻めのタイプとか技術の高さかわかるな。マナの担当は何か内部から破裂したみたいになってるし、セナは全部脳天をぶち抜いて殺している。リアムとヴァーンは俺と同じか。てかセナ凄いなあの短時間、近距離で全部ヘッドショットかよ。あとマナの殺し方エグい。


その後俺たちは血の臭いに引き寄せられたモンスターが集まる前に急いで死体をひとところに集めその場を後にした。






それ以降はモンスターの襲撃に会うこともなく順調に旅程を消化していった。


襲撃を受けてからさらに数時間、ウルを出発してから半日以上たった。途中近くの村によって小休止をしたり、地図や方位磁石(コンパス)で位置を確認したりしたが概ね当初の予定通りに進んでいる。


夕方になって更に暗さを増した道をパッカパッカと進む。ただでさえ規則性なく生い茂った木々のせいで見通しが効きづらい上この暗さでは有視界範囲は極々限られたものになる。さらにはそろそろ夜行性のモンスターの活動が活発化し始める時間だ。つまり何が言いたいかというとこれからがヤバイ。


まあ、そろそろ村に着きそうだからあんまり関係無いけど。


というのも、今まで進んできた獣道が徐々に人の手が加えられた形跡を持ち始め何とか道と形容できる状態になりつつあるからだ。村にはいれば防衛は村付きの元冒険者辺りがやってくれるから人の苦労を尻目に安眠を貪れる。ラッキー。


「近くに村があるわね。よかった、これなら野宿しなくてすむわ」


気が合うね。全くもって同意見だよ。


「ホントですよ!今日は野宿かと半ば覚悟してました」

「夜営は堪えるからなぁ。宿屋でもあれば最高だね」


今晩の暖かい寝床に思いを馳せ全員のテンション微増。だがそこにヴァーンが水を差す。


「寝込みを襲われる危険性がある。気を抜きすぎるなよ」

「分かっているさ、ヴァーン。だが外より遥かにマシだろう?」

「そうだな」


ヴァーンがフッと笑った。


コイツって笑うことあるのか。始終無言で仏頂面だから石かなんかでできてるもんだと思ってたわ。なんだかんだでコイツもテンション上がってるのか?


俺の密かな驚愕に気づくこともなく会話は続く。


「レイは嬉しくない?」


俺がぼーっと他の連中のくだらねぇ会話を聞いていると、マナが話しかけてきた。


コイツちょくちょく話しかけてくるな。移動中は結構暇だから分からないでもないが。俺ら二人だけちょっと後ろだし。


「うん?まあそれなりに。なんで?」

「出発してからずっと無表情だから。何考えてるか分からない」


それを言ったらお前も同じだろうが。出会い頭の暴挙はまだ忘れてないぞ。


「そんなことはないよ。人目がないなら小躍りして喜びを表現したいくらいだ」

「そう」


俺渾身のボケを完全にスルー。…分かりにくかったかな?


再びの沈黙。き、気まずい。話しかけてくるならもうちょっと話題を用意しといてくれ。人を意識すると気まずくなるだろ。何か話題。


「なあ─」


「────!!」


基本的に他者に興味のない俺が何とか絞り出した話題をマナに投げ掛けようとした時、前方遠くで何か叫び声のようなものが聞こえた。


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