表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
From the Different World  作者: まっとぅん
一章:冒険者レイの受難
18/34

18 ポイント足りないってお前、依頼サボりすぎだ。冒険者じゃなくて狩人だよもうそれ。

気持ち的にはこのまま何も見なかった事にして立ち去りたいが、流石に区域の責任者として何があったか知る必要があるため、仕方なく男を介抱する。


男の傷は見た目通りなかなかに酷いもので中位ポーションでは無理そうだ。しぶしぶ懐からハイポーションを取り出すと男にぶちまける。この分は後で本人に請求しよう。


「どう?」


血の臭いに惹かれてモンスターがやってこないか周囲を警戒していたマナが声をかける。


「そのうち目を覚ますだろ。それよかこいつってどこ担当だっけ?いちいち人の顔なんざ覚えてないから分からん」

「同じ区域の人くらい顔と名前は知ってるべき」


面倒臭いことをさも当然のようにおっしゃるマナ。だったら聞かせてもらおうじゃないか。


「ほぉ~、じゃあマナさんは当然覚えてますよね?手始めにパーティーと構成メンバーの名前を順にどうぞ」

「…知らない」


ほれほれと促す俺からマナは目をそらすとボソリと溢した。ほらみろ!わざわざ顔と名前覚えるなんざよっぽどマメな奴しかしねーよ。


「覚えて無いんかい。人のこと言えねーじゃん」

「今回の依頼でこの区域の責任者はレイ。責任者なら覚えておくべき」

「いやいや違うから。同じランクならマナも同じ立場だから。なに自分は関係ありませんみたいな顔してんだ」


唐突にバカな事を口走り出したマナに思わずツッコミを入れる。そしてさりげなく責任を俺一人に押し付けようとするな。


「よぉさっきぶりだな。何かヤバいんだって?そこの奴に聞いて戻って来ちまった」


ほんの十数分前に聞いた声が後ろから聞こえ「また来たの!?」と喉元まで出かかった魂の叫びを何とか飲み込む。大討伐依頼(コレ)って別に協力し合ったりする依頼じゃないんですけど。レイドなのは単に人手が要るからであって、そう考えると寧ろ分散して狩り場が被らないようにすべきだろ。何でまた来るかな~、正直言って邪魔。


「この人に俺の居場所を教えたのは貴方でしたか。具体的に何がヤバいのか聞いてます?この人タイラントベアがどうのこうのだけ言って倒れたんですよね」


振り向くと案の定さっきのおっさん。ご丁寧にもパーティーまで連れて来てくださったようだ。余計な事をどうもありがとうございましたと恨みを込めた俺のスマイルに気がついた様子もなくおっさんは肩をすくめる。


「あ~俺達もそれしか知らねぇな。そいつ兄ちゃん達の居場所を聞いた途端急いで行っちまったから」

「…じゃあ本人から聞くしかないですね。ハイポーション使ったんでその内起き─」


「─ぅぅ……ここは……?」


その内起きるでしょうと言おうとした矢先タイミング良く男が目を覚ました。いきなり失神した後だからいまいち今の状況を飲み込めていない様子。


「……っ!そ、そうだ!タイラントベアの群れが!助けてくれ!」


少しすると今までの事を思い出したのか慌てて飛び起き凄い勢いで詰め寄ってくる。てかタイラントベアの()()?…どういう事だ?奴等は基本的に群れずに単独で生活している筈だ。そもそもタイラントベアは深部に生息している筈なのに何で浅部(ここ)でその名が出てくる?


「先ずは落ち着いて。冷静に一から話をしてください」


凄い形相で詰め寄ってくる男に若干引きながら取り敢えず落ち着けと諭す。


それからある程度の冷静さを取り戻した男から聞いた話は次の通り。突然15体ものタイラントベアが深部から現れ襲われた。この男の担当区域は隣で一番深部に近い事もあり真っ先に狙われたのだろう。そんで最初は担当の上位冒険者と共に対処を試みたが手に負えずコイツだけ命からがら助けを呼びに来たとの事。なるほどね。となれば俺の答えは一つだ。


ご愁傷さまです(断る)。それじゃ!」


話が俺とは全く関係無かった事実に安堵しつつ良い笑顔でそう告げる。そしてそのまま呆然としている他の皆様へ別れの挨拶を済ませると颯爽とその場を後に……


「待って」

「─ぐえぇッ」


……できなかった。突如凄い力で後ろから襟を引っ張られたかと思うとそのまま元の位置まで引き戻される。


「ゲホッ…お、お前後ろから襟を引っ張るのは止めろ。あと力加減」

「まだ話は終わってない」


絞められた首をさすりながら犯人へ苦情を入れるが全く意に介していない。いやマジで止めて。舌が飛び出るかと思った。


「話だぁ?マナも聞いただろ?隣だってよ隣。お隣さんにまで俺が出張る必要がどこにあるよ。残念ながらそこは私の責任の範囲外です」

「このままだと相手をしてる人達が持たない」

「いやいや、確か隣の担当は俺なんかよりチョー凄いリオン君達だったろ?いや~僕みたいなゴミクズが彼らを手助けなんて寧ろ失礼ってもんですよ」


きっと彼等なら何とかする筈さ!なんてったって彼等はそこらへんの雑魚とは違うエリートB1冒険者なんだからね☆


「……あの人達には荷が重い。レイも分かってる筈。それにタイラントベアを15体も倒せば報酬が増える」

「あ~もしかして金さえ積めば俺が動くとでも思ってる?だとしたらアテが外れたな。今回の目的はポイントなので余計な労働をするつもりはないよ。てかそんなに言うならマナが助けに行けばいいんじゃね?俺は止めないよ?」


俺の画期的な提案を聞くとマナは少しうつむき暗い表情を見せる。


「……私だけじゃ手に負えない。だからレイに頼んでる」

「……はい?」


頼んでる?マナ的には後ろから襟首掴んで引きずり倒すのが人に何かを頼む態度なのか?ちょっと革新的過ぎてついていけない。


マナさんの意味不明な言動に呆れつつどう対応したものかと悩んでいると思わぬ所から横やりが入った。


「おいおい、流石に酷くねぇか?」


おっさんだ。今の会話で何が気に障ったのか知らないがマナの隣まで来たおっさんは険しい表情で立っている。


「何がです?今回の依頼において俺の責任区域はここだけです。隣だろうが街だろうが俺の関知する所では無いですよ。そもそもこういったイレギュラーに対応するためにそれぞれの区域に上位冒険者が割り当てられてるわけですから、リオン達がやってる事も依頼の範疇と考えるべきです」

「まあ、それは否定しねぇ。けどな、人間一人じゃどうにもならねぇ事もあるんだ。こういう時こそ助け合いってのが大事なんじゃねぇのか?リオン達は嫌な奴等だが見殺しにする程じゃねぇだろ」


おっさんの諭す様な口振りに後ろで他の皆さんもうんうんと同調しておられる。まるで分かっていないな。一人でどうにもならない事も一人でどうにかしないといけないのが冒険者ってもんだ。自分の事は自分で決め、自分で全責任を負うからこそ自由が認められるのだ。故に誰も助けてくれないし、誰の助けも必要としない。自分の事は自分で何とかする。できないなら潔く死ぬ。それが冒険者だ。実際俺はそうやって生きてきたしこれからもそうやって生きていく。そもそも『助け合い』とは双方に価値が生じるから成り立つ話。俺に価値ねーじゃん。


「はぁ、じゃあ其方もマナと一緒に救援に行くということで。俺にご高説垂れてる暇があるならさっさと行ったらどうです?」

「…あ?今嬢ちゃんが手に負えないって言ったばっかだろ。俺たち下位が増えた所で大して変わんねぇよ。だからあんたに協力を仰いでんだ。そんなことも──」


俺の返答にムッとした様子でおっさんが何か言ってるが最後まで聞くのもダルいので結論だけ言わせてもらおう。


「時間の浪費はお互い避けましょう。俺は何と言われようが行動を変えるつもりは無いです。それでも言うこと聞かせたいのなら力ずくしかありませんよ。……まあ、できるならですが」


そう言いながら俺はおっさんを頭から爪先まで一瞥するとフッと鼻で嗤う。


「てめぇ……」

「まあ俺はどっちでもいいです。あなた方を皆殺しにするくらい大した労力じゃないですから。これも何かの縁です、集団自殺をしたいなら介錯くらいはしてあげますよ」

「……っ」


俺は腰に吊るした剣の柄を弄びながら眼前の額に青筋を浮かべた中年男をさらに煽る。俺の言葉におっさんはギリギリと音が聞こえそうな程歯をくいしばり怒りの籠った視線を向けてくるが何も言わない。そしてそれはおっさんだけでなく後ろの方々も同じであった。


まあそうだろうね。言い返したくても言い返す言葉が無いだろうさ。俺の放った言葉は紛れも無い事実なのだから。全てはテメーの非力を恨め。元々こいつら程度の実力じゃあ()()するのがせいぜいだ。


ニヤニヤと笑みを浮かべた俺と渋面を浮かべた男達。両者の間に不穏な沈黙が流れること数秒、最初にその沈黙を破ったのはマナだった。


「もういい。私一人で行く。案内して」

「あっ…はい!ありがとうございます!」


無表情でそう言い放つと一人でスタスタと行ってしまう。先ほど救援を求めた男が慌ててその後を追う。


「いってらっしゃ~い」


俺はその後ろ姿に向かって朗らかに手を振り送り出す。せいぜい頑張ってくださいな。手遅れじゃないといいね。


「あんたってそういう奴だったんだな。若いのになかなか見所のある奴だと思ってたが心底ガッカリだ」

「俺は根っからのそういう奴ですよ。期待するのは勝手ですが、相手がその通りに動かないからといって癇癪を起こすのは止めて頂きたいものです」

「ああそうかいッ!あんたの顔と名前はしっかり覚えとくよ。リオンなんか目じゃねぇクソ野郎だってな!……おい!俺達も行くぞ!」


おっさんはそう吐き捨てると後ろの連中に声を掛けマナの向かった方向へ動き出す。その途中俺の横を通る際、俺に肩をぶつけて来たが向こうの方が弾かれたらしく小さく舌打ちを残し去って行った。


何なんだ一体。俺何もしてないよ?素のフィジカルで弾かれたの?…弱すぎるだろ。その実力でよくもまあ俺に面と向かって悪態つけたな。ある意味凄いわ。


さて厄介者も消えたことだし通常業務に戻りますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ