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From the Different World  作者: まっとぅん
一章:冒険者レイの受難
17/34

17 マナは美少女、これは事実。ただしマニア向け。ぼい〜ん、ばるる〜ん好きの方はあちらへどうぞ。

一悶着あったが俺の平和的解決により死人が出ることも無く無事大討伐依頼は開始された。


「殺す…ぜってぇ後で殺してやる…」


格下である(ランク的には)俺に簡単にあしらわれ公衆の面前で大恥をかいたリオン君は別れ際にそんなことを口走っていた。


まったく随分と恨まれたものだ。俺は隣を歩くこの小さな悪魔の魔の手から助けてやったというのに。感謝こそされ、恨まれるいわれはない。そもそも完全回復薬がある今の時代に一生流動食ってどうやるんだよ。呪いか?呪い的なそーゆーアレか?あり得るな。こいつ執念深そうだしフツーに呪いくらい使いそうな気がする。


「何か失礼な事考えてる?」

「え゛?いやいやそんな馬鹿なハハハこの私が神聖な依頼の最中にそんなこと考えるワケが無いではないですか。……何で?」

「何となく」

「怖っ……」


俺はポーカーフェイスには自信がある方だ。戦闘中とかは特に自身の狙いや感情を表情によって読まれるのは非常にリスクが高いので気を付けているのだが。それなのに気がつくとはこいつの直感はどうなってんだ?


「よお!兄ちゃん、さっきのはスカッとしたぜ!」

「…それはどうも。俺としてはあまり目立ちたく無かったんですけどね」


森林浴と軽い運動がてらサクサクとフォレストウルフやゴブリンその他雑多なモンスターを適当に狩っていると、近くにいた他のパーティーが声をかけてきた。


「そんな謙遜すんなって!あいつらなぁ、ギルドでも前々から他人を見下すってんで他の冒険者から嫌われてんだ。でも実際強いから誰も何も言えなかったんだよ。いやよくやってくれた!」

「ま、まあ本当はテキトーにおだてて標的を外そうと思ったんですけどね」


リーダーらしきおっさんに背中をバシバシ叩かれ息が詰まる。痛いよ、力加減考えろ。


「そうだったな!この嬢ちゃんが殴られそうになったのを庇ったんだよな。なかなか見上げた根性じゃねぇか」

「あ~やっぱそう見えました?個人的には放った暴れ馬が人を蹴らないようカバーしたイメージなんですけどね…」

「……暴れ馬って私の事?」

「他に誰がいるよ?あれしきの事で殺そうとするとか血の気が多いにも程があるだろ」

「私を侮辱した向こうが悪い。手を出してきたのも向こうが先」

「いやまあそうなんだけど。どこ行ったってあの手の馬鹿はいるんだからいちいち相手にしてたらキリがないだろ?」

「………」


黙りこくってしまったマナに俺は肩をすくめる。そんなマナを見つめる視線は二つ。一つは訝しげなおっさんの視線。もう一つは…何だ?おっさんの後ろにいる他のパーティーメンバーの中で俺とそう変わらない歳の若い男から発せられる熱っぽい視線。


その男に興味を引かれ少し観察しようと目を向けると、その更に奥で4匹のゴブリンを発見。


「なあ、兄ちゃん。もしかしてさっき危なかったのって──」

「ちょっと失敬。後ろの人も開けてください」


おっさんと後ろのパーティーメンバーを退かして射線を確保した後、懐から4本のダガーを取り出しそのまま投擲。ダガーは見事にゴブリンの頭部へと吸い込まれ悲鳴と共に哀れな小動物の命を刈り取った。


『すげぇ……』

「またゴブリン?」

「ああ、これは─」

「こりゃ近くに巣があるな」

「─ですね」


他の皆さんが私めの技術に圧倒される中で俺とマナ、そしてリーダーのおっさんだけは別の事を考えていた。


ゴブリンのGはゴキブリのGである。どちらも繁殖力が凄まじく1匹見たら他に数十匹いるとまで言われている。森に入ってから大して経っていないにも関わらず俺はここまでに結構な数のゴブリンを狩っている。ということは近くに巣があると考えるのが妥当だろう。


「他のパーティーも呼んでこよう。いくら兄ちゃん達が上位冒険者といってもゴブリン数百匹を相手にするには人手が足りない」

「うーん。それは巣がどこにあるかによりますね。この近くに洞窟とか巣になりそうな場所あります?」

「洞窟…ああ!それならここから西へ行った所にあるぜ。距離も近いしそこかもな」

「なら何とかなると思いますよ」


話は纏まったので取り敢えずその洞窟へと向かう。流石に俺とマナ二人だけというのは心配らしくおっさんのパーティーもついてくる事となった。


「なああんた。あんたはやっぱりあの子の恋人なのか?」


その道中さっきマナを見ていた若い男からこっそりとそんな寝惚けた話をされる。うっとりと少し前を歩くマナを眺める視線から何故かと聞くのは野暮ってもんだろう。


「はあ?そんなわけ無いだろ。知り合ったのだってほんの少し前だ」

「えっ!?マジでか!でもその割には仲良さそうに見えるけど」

「ないない。寧ろ粘着されて困ってるくらいだよ。唐突に俺とパーティーを組むとか言い出しやがってこっちの迷惑も考えろってんだ」

「…いやそれって確実にあんたの事を」

「ハッ、それこそ無いね。ヤツがそんな可愛げのあるタマとは思えねぇな」

「そう…なのか…」


真実を聞き少し考える素振りを見せたあと男は再び口を開く。


「なら俺が狙っても構わないよな?一目惚れだ。あんな可愛い娘そうそう出会えるもんじゃない」

「どうぞどうぞ。俺としても落として連れてってもらえるなら是非そうしてほしい」

「よっしゃ、じゃあ行ってくる」


若者は喜色を浮かべると軽い足取りでマナの元へ駆けていった。うーん、マナが可愛い?奴のぶっ飛びっぷりに呆れてそういう発想は無かった。あ~でも確かに見てくれは良いか。前に急接近されて緊張した事を思い出した。黙っていればなんとやらだな。凹凸は少ないけど。


にしても十代って皆あんな感じなのかね。ここは浅部とはいえCランクの彼からしたら十分な危険地帯の筈だ。にも関わらず色ボケるとは…。命短し恋せよ若人ってか?恋愛至上主義は反吐が出る。まあ冒険者でそれをやると長生きはできないからいいけどね。彼は保って2~3年ってとこか。


遭遇したモンスターを狩りつつ連れだって歩くこと数十分。俺達は目的の洞窟を目視できる距離まできていた。


「当たりだな」


洞窟の入り口は隆起した断層の下にあり付近に多くのゴブリンが見張りのように立っているためここが奴等の巣だと分かる。


しかし断層下か…。状況的にこの洞窟は地下水脈が隆起によって地表に露出したものと考えられる。となると内部は広い上に入り組んでいて脇道も大量にあるだろう。ゴブリンどもが改築していた場合の内部は想像もつかない。普通に突入したら数日がかりの大仕事になる。()()()()


「なあ、マナって魔法使えたよな?紅蓮だし炎系統だろ?ならテラフレアって使える?」

「使える。…そういうこと?」


俺も手持ちの魔法石にテラフレアがあるにはあるがかなりの値打ち物のためできれば使いたくない。というわけでマナが使えるか確認しに近づく。先程からずっとマナの隣で話しかけていた例の若者に若干嫌な顔をされるが無視。


まあ見てたら話かけてもテキトーな返事しか貰えて無かったようだしこれは見込み薄だろう。そんな奴にわざわざ気を使ってやるのも面倒だ。


「ああ、そうだ。テラフレアは限定空間には極めて有効だ。一撃で一網打尽にできる」

「おい、今は俺がマナさんと話してるんだ邪魔しないでくれ。あんたさっき応援するって言ったじゃないか」

「でも、もう中に他のパーティーがいたら危険」

「いや、だったら既にここら辺は血の海だろ?それに見張りがあんなに平穏にしてるのもおかしい」

「…確かに」

「おい!無視すんなよ!」


面倒なのが状況も弁えずに口を挟んできたが相手にしないで話を進めていると声を荒げだしやがった。


「ちょっ、馬鹿声がでかい」

「んーー!」


慌てて馬鹿の口を塞ぎ洞窟の方を窺うとどうやら声は聞かれなかった様子。ったく、聞かれてゴブリンどもがウジャウジャ出てきたらせっかくの計画がパアになるところだった。こいつ、どうしてくれようか。


「どうした?何かあったのか?」


今の声を聞いたのか少し離れた所で同じく様子を窺っていたおっさんが歩いてくる。ああもう時間が取られる。このくらいさっさと終わらそうぜ。


「…いえ、この馬鹿が状況も考えずに大声を上げようとしたので」

「ああ…すまねぇ。こいつは最近パーティーに加入させた俺の息子だ。腕は立つが何分経験不足でな…。後でキツく叱っとく」

「結構です。殲滅自体はなんとかなりそうなんで早く仕事に取り掛かりましょう」


流石に親御さんの前で息子をぶん殴る訳にもいかず手を離す。


「ぷはっ、いきなり何す──」

「ダ・マ・レ」

「─ひっ」


話を聞いていないのかそもそも聞く気が無いのかまたもや声を上げようとした愚か者へ強めに殺気を叩きつける。


「わ、悪かった。俺からも謝るから今回は見逃してくれ。もうこいつは後ろに下げる」

「…そうしてください」


余波を受けてビビった様子のおっさんがそれでも庇うので仕方なく引き下がる。だが次は無い。殺しはしないがハイポーションが要るくらいにはしてやる。そして当の本人は顔面蒼白で親父の後ろに隠れていた。こいつは…ダメだな。俺が手を下すまでもなく近い内に死ぬ。たぶん仲間も道連れにして。えんがちょえんがちょ。


話を戻そう。殲滅計画は単純だ。見張りのゴブリン数匹を静かに手早く排除した後、洞窟の入り口でマナが一発魔法を放つ。以上。


「では先生、お願いします」

「…一つ条件」


おっさんのパーティーにアーチャーがいたのでその人と俺とで見張りを迅速に排除。後は魔法を放つのみって時にマナがそんなことを言い出した。


「はい?」

「レイにじゃない。奥の若い人を私に近づけないって約束して。鬱陶しいから。約束するなら魔法を撃つ」

「…分かった。金輪際こいつを嬢ちゃんに近づけないとリーダーの俺が誓う。すまねぇな。それじゃダメかい?」

「いい。…離れて危ない」


そう言うとマナは詠唱を開始する。


こうして端で見ているだけでマナが魔導師としても優れていることがよく分かる。呪文がスラスラ言えるのは勿論の事、その魔力量や淀み無い魔力のコントロール、集中力、そして高い強度のイメージまで、どれを取っても非凡と賞さざるを得ない。


「〈万象覆う炎の氾濫(テラフレア)〉」


最後にそう唱えると突き出したマナの右手から激しい勢いで炎が放出され始める。その炎の量も凄まじく高さ10メートル程ある洞窟の入り口が殆んど埋まっている。


万象覆う炎の氾濫(テラフレア)〉、最上位一歩手前の炎系統魔法。一見するだけではただの火炎放射のように映るこの魔法が上位たる所以は別にある。炎だ。この炎が曲者なのだ。魔法の字面を見れば分かるかもしれないが、この炎は火としての性質だけでなく水に近い性質をも併せ持つ。内部のあらゆる空間を満たすように広がり一定時間が経過しないと消えない炎。故に限定空間や都市に対しての使用が効果的だ。特に地下空間への攻撃手段としては最適解と言える。


「もういいんじゃね?埋め尽くす必要はないだろ」

「分かった」


マナが炎を放出し続けること数分、洞窟内部の生体反応が恐ろしい速さで消失し始めるのを確認し声をかける。


「……信じられん。上位冒険者とは言えまだB2の嬢ちゃんが何でこんな高位の魔法を使えるんだ…?」


一応事前にテラフレアを使うと説明した筈だが、やはり実際に見るとでは違うのかマナが魔法の発動を止めた途端周りに人が集まりだし口々に感想を述べ始める。


「?、使えるから使っただけ。何でって聞かれても困る」

「そ、そうか…」


わ~嫌なカンジ。マナさんはどうやって手足を動かすのか説明できない事とこれとを同じ事だって言いたいらしい。才能があるヤツ特有の言い回しだな。平均的な魔導師の皆さんが聞いたら発狂すること間違い無しだ。


「それじゃあ皆さんお疲れ様です。お陰さまで手早く事を進めることができました。多分殲滅できたと思うので各自通常業務に戻ってください。討伐報酬については終わってから話ましょう」


頃合いをみてこの成り行きレイドを解散するため声をかける。


お陰さまでとは言ったが正直おっさんのパーティーが何かしたと聞かれれば甚だ疑問であるが、まあ相手を立てる為にもお世辞は必要だろう。お世辞と敬語は人間関係を円滑に進める為の潤滑油である。それを良く分かっているらしいおっさんは苦笑いを浮かべている。


その後は軽く互いに挨拶を交わして解散しそれぞれの仕事に戻ることとなった。


「さっきの話どういうこと?」

「さっきの話って?」

「レイがあの男の人を応援してるって話」

「あ~、あれは彼の熱意に負けて不本意ながらってカンジかな」

「あの人を利用して私を厄介払いしようとした」

「……よく分かってんじゃん」

「勝手な事しないで。次やったら怒る」

「ハッ、どの口で勝手とか」


俺の策略のせいで面倒な奴に絡まれたマナはご立腹のご様子。まあこれに関してはマナにどうこう言われる筋合いは無い。俺だってこいつの勝手な提案に付き合わされてるわけだしな。マナも勝手、俺も勝手、パーティー組んでるわけじゃないんだしお互い干渉せず好きにやればいいだろ。


「まあ今回のカンジじゃあマナに色仕掛けは効かないみたいだしまた別の手を考えますよっと」

「レイは不能?」

「……どうした急に」

「こんな美少女とパーティーを組めて嫌な男なんかいない」

「お、お前自分で自分のこと美少女とか…。そもそも前冒険者に美醜は関係無いって言ってなかった?」

「言った。でも私が美少女なのは客観的事実」


わ~嫌なカンジ。でもその通りだから何も言えない。実際の所、自分がそうだと認識してない美少女ってまず存在しないよね。鏡でも見れば一発で分かる事だし。空想上の生物に近い。


「分かってんならもうちょっと表情とか──何だ?」


マナさんの今後の改善点を指摘しようとしていると、近くの茂みがやたらとガサガサしだしたため一時中断。


茂みから出てきたのはモンスターではなく一人の人間だった。酷く息が荒く身に付けている装備もあちこちが壊れその下の傷だらけの肉体が露出している。


「はぁ…はぁ…やっと見つけた。救援にきてくれタイラントベアの群れが─」


男はそう言うとプツリと糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。


うわ~嫌な予感しかしな~い。

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