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From the Different World  作者: まっとぅん
一章:冒険者レイの受難
16/34

16 小物感溢れるリオンくん

「飲んですぐ動くと回るな~」

「ちゃんと歩いて」


大通りの雑踏の中をふらふら歩いていると隣のマナからクレームが飛んで来る。


「まあまあ。仕事はしっかりこなしますから」

「周りの人に迷惑」

「じゃあ、人がいない道行こうぜ。こっちのが近道だし」


そう言って俺は大通りからいくつか伸びている脇道を指差す。


「近道?」

「集合場所は北門だろ?大通りを通ってたら一回中心部を経由することになる。だったら裏町を突っ切った方が早い。それにこうも人が多いと鬱陶しくてかなわんしな」

「裏町は迷路みたいに入り組んでる」

「大丈夫。俺は道分かるから」

「…わかった」


一瞬俺を訝しげに見たがマナの了承を得たのでそのままターンライト。まあ了承が得られなくても俺一人で行ってたけどね。


住民はウル東北区に存在する低所得者向けの商業地域や居住区のことをまとめて裏町と呼んでいる。近年の農耕技術の発展による人口増加に伴い賃金低下や職にあぶれるといった現象が多発。それにより低所得者が爆増し、住む場所を確保するため都市計画もクソもなく場当たり的に増築に増築を重ねた結果出来上がったのが迷宮の様な街だった。


見通しの効く一本道など無く、毛細血管のように中小多様な道が上下左右に張り巡らされているため行政ですら裏町の全体を把握できていないという。当然裏の商売、裏の組織の温床となり治安は最悪である。夜は特に酷い。自衛できない奴は無闇に出歩くのを避けた方がいい。実際、こうして歩いていても怪しげな露店やら怪しげな酒場やらが至る所で目につく。いやそもそも裏町にある時点で枕詞に「怪しげな」は必須かもしれない。


「レイはウルに来てどれくらい?」


怪しげな街ダンジョンを脳内マップに従いすいすい攻略していると唐突にマナがそんなことを聞いてきた。


「あ~、半年くらいかな。何で?」

「まだ半年でこんなに裏町に詳しいのはおかしい」

「ああ、さっき一瞬黙ったのはそういうことね。…俺は野暮用でたまに裏町来てるからな。それで覚えた」

「野暮用って?」

「野暮用は野暮用だよ」

「……ふぅん」


まだ納得いっていない顔のマナ。追及されても面倒だし話を変えるか。


「まあ、マナを一人置き去りにして逃げるなんてしないから安心してくれたまえ。契約は守る。それが俺のポリシーだからな」

「冒険者なら当たり前」

「いやそんなことないよ?裏切って急に斬りかかって来たりとか、ハメるためにわざわざ依頼を用意したりとか結構あるよ?」

「…日頃の行い。それでどうしたの?」

「ハッハッハそんなん当然皆殺しですよ。俺は敵対者には容赦しない。泣こうが喚こうが問答無用でぶち殺す。禍根を残すと次に死ぬのは俺だからな。世界はそんなに綺麗にできてないんだよ。綺麗事で食っていけるのは聖職者くらいだ。マナだって裏切りの一つや二つ経験あるだろ?」

「……ある」

「例えば?」

「……犯されそうになった」

「…なんかすいません」


とまあこんなやりとりをしながら人通りが少なく陰鬱とした路地を歩くこと約30分。特に()()()()()もすることなく無事北門へたどり着いた。


ふーん合格。これなら最低限の信用をマナに置いても良さそうだ。もう酔ったフリをする必要も無いな。まだマナの目的は見えないが、少なくとも俺の装備とか金目当てではないことは分かった。それにしても若干酒が残っていたせいで喋り過ぎた気がする。やっちまった感が酷い。


北門を抜けると交通の妨げにならないようにか道から少し離れた所に結構な人だかりができている。装備に統一感が無く各々が大小様々な武器を携えていることから冒険者の集団だと確認。大体50~60人ってとこか。ウル周辺全域という広範囲でしらみつぶしにモンスターを狩る大討伐依頼にしては確かに少ない。北門集合者は北部のみ担当という点を差し引いても。


「少ない。前回から1ヶ月も経ってないせい?」

「だろうな。今回はいつもの定期大討伐じゃなくて臨時っぽいし。まあもともと人気の依頼ではないから人が集まらないのも頷ける」


まだ集合時間まで少しの余裕があるのでガヤガヤとうるさい集団の近くで待機。


「でも街の為には必要な事」

「確かにその通りだがそう考えてるのは極一部だろうな。上位冒険者は特に」

「なんで?」

「そりゃわざわざ浅部を練り歩いて雑魚を大量に狩るより深部で大型を一体狩った方が時間対効果がいいからに決まってるだろ。俺だってポイント優遇が無ければ断固拒否だ」

「分からなくはない。でもウルを拠点にしてる以上最低限ウルに貢献すべき。……ポイント?足りないの?」

「あ~まあね。ちょっと稼がないとランク落とされそう」


それを聞いた途端マナが瞠目した。


「…信じられない。普通に依頼をこなしてたらポイントに困る事なんて無い筈」

「俺の収入源は主に狩りだからさ、依頼は最小限に──」


「それでは時間になりましたので始めさせてもらいます!!」


他の冒険者達に混じって雑談していると奥の方で定刻の知らせが響いた。


臨時とはいえやることは同じだ。この後は上位冒険者が前に集められてそれを基準にいくつかのグループを作成。見た感じあんまいなそうだから4グループくらいかな。それから各グループの担当区域決めて、最後に諸注意と終了時刻の通達の後はい、いってらっしゃいっていつもの流れだ。


というわけで、これでも上位冒険者の端くれである私もマナと共にギルド職員ひいては冒険者諸氏の前まで出ることになる。そして向けられる好奇や値踏みの視線。


他の上位冒険者はどんなもんだと視線を向けると思ったより多くいた。俺とマナを除いて他に5パーティー。そして驚いたことになんとB1ランクが一組いた。B1は腕輪が白金なので見れば一発で分かる。


「お前ホントに上位冒険者?その見るからに貧弱な装備で俺達の隣に並ぶんじゃねーよ。雑魚の癖にでしゃばんな」

「ちょっとぉ、リオンってばやめなよ~。B2が頑張って買った装備なんだからディスったら可哀想じゃん」

「そうだぜ?B2なりに頑張った結果がそれかもしれねーだろ?」


そのパーティーの中でも一際高級そうな装備を身につけた男がニヤニヤと笑みを浮かべながら俺に話かけてきた。それに同調して後ろのパーティーメンバーも声を上げる。


「ああそうだったな!俺達が凄すぎるだけで他の奴等はこんなもんか!」


なんか勝手に納得された。それにしてもリオン?この名前も最近たまに聞くな。でも実際に会ってみるとこんなカンジかぁ。なんと言うか、底が知れるな。


「おい!聞いてんのかテメェ!!この俺が話かけてやってんだぞ!?」


俺がずっと黙っているのが気に障ったのか耳元で怒鳴り散らすリオン氏。あ~面倒臭い。でも反応しないともっと面倒な事になりそう。


「…ん?ああ、俺に言ってます?だとしたら失敬」

「お前以外に誰がいんだよ!あんまナメてっと潰すぞ!」

「まあまあ、落ち着いて。B2の俺がB1である貴方にたてつくなんてしませんよ」


面倒なのでリオン君を適当におだてて場を納めようと試みるがどうも効果は薄い模様。


「チッ、生意気に女なんか連れやがって。…よく見たら結構可愛いくね?よぉこんな奴捨てて俺んとこ来いよ。可愛がってやるぜ」

「リオン、サイテ~」

「うっせぇ!だってお前全然ヤらせてくれねーじゃん」


ヤバい奴に矛先を向けたと知らずに呑気に仲間と談笑する馬鹿なリオン。


ちらっとマナをうかがうと完全に顔が死んでいる。あ~これはマズイですねぇ。怒り心頭って顔だ。さあどう対応するのかお手並み拝見。


「オラこっち来い。今日から俺がお前のご主人様だ。俺を飽きさせないように尽くせよ?」

「──っ!」

「うおっ」


マナは手を掴んで強引に連れて行こうとするリオンを一瞬で振りほどいたためリオンが前につんのめる。


「お前、この俺が誰か分かってんのか?」

「パーティーには入らない。人を落とす事で優越感を得るような薄っぺらくて自己中心的な人とは組まない。そもそも私よりずっと弱い人と組むメリットが無い」


おーおーずいぶんバッサリ行ったな。ほらみろリオン君が怒りでピクピクしてますよ。こりゃ俺が下手に出て取り成しても無意味かな。


「てめぇ…黙って聞いてりゃB2(カス)の分際で調子に乗りやがって。身の程を知れや!!」

「やっちゃえ~」

「おっと」


ブチギレたリオンはかなり本気でマナに殴りかかろうとするが、その直前にマナから放たれた強烈な殺気を感知した俺が介入し手首を掴んで止める。


「お前も死にてーのか!?雑魚が入ってくんじゃねーよ!」

「はぁ、お前はもう黙れ。これ以上喋ってもテメーの無能が露見するだけだぜ?そもそもランクで実力を判断してる時点でお前の底が知れるってもんだ」

「あ゛あ゛!?──ぐああッ」


忠告を無視して尚口を開くようだったので俺は掴んだままの手首を粉砕。ゴキンという小気味良い音と共にペラ男が地に伏す。


「ぐぅぅぅ──」

「ペッ。それと後ろのテメーら!自分で戦いもしない癖に煽ってんじゃねえ!煽ったんならお前らも戦うのが筋ってもんだ。ったくしょーもねぇ奴らだよ。これだから急成長したニュービーは嫌いなんだ。お前らに使った時間を返してくれ」

「「なっ──ッ!!」」


手を押さえてうずくまる馬鹿の後頭部へ唾を吐きながら奥の奴等に言いたいことを捲し立てると俺は元の位置に戻った。


『おおーーー』


そして何故か一部始終を見ていた他の冒険者達から拍手と称賛を送られる事に。まあ俺と同じようにランク差別されてフラストレーションが溜まってたんだろうな。


「はいはい!話はついたようなので続けますね~!」


そして状況は何事もなかったかの様なギルド職員の声によって元の流れへと修正される。


「…別に助けなんて必要無かった」


邪魔者が消えつつがなく進行する手続きの中でボソリとマナがそんなことを呟く。


「いやあそこで介入しなかったらリオン殺してただろ。上位冒険者が一人減ると俺の担当が増えて困るんだよ」

「殺しはしない。一生流動食しか受け付けない体にしてやろうとしただけ」

「あんま変わんねぇな!てか自己中心的な奴とは組まないとか言ってたのに何で俺と組むとか言い出したの?俺は完全無欠の利己主義者だぜ?」

「自己中心的と利己的は違う」


前々から思っていた事だが今回の件ではっきりした。敵と判断した奴に対してマナは俺なんかより遥かに苛烈だ。そのくせ変にお人好しだったり合理的だったりと俺が言うのもなんだが変な奴だと思う。

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