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From the Different World  作者: まっとぅん
一章:冒険者レイの受難
15/34

15 あなたは遊びのつもりでも〜♪地獄の果てまでついて行く〜♪

「ッかあ~美味い!」


俺は呷ったエールのジョッキをドンとテーブルに置き魂の言葉を吐き出す。


まだ昼前だというのに多くの冒険者で賑わうウルのギルド酒場の一角、太い柱のお陰で人目に付きにくく周囲から隔絶された四人かけのテーブル席を占拠し俺はひとり祝杯を上げていた。


この前戦ったあの妙に強い刃竜の素材が案の定高く売れたのだ。なんと相場の2倍近い値段だった。まあ結局完全回復薬二本も使っちまったから(つまり二度ほど死にかけた)利益はほぼ相場みたいなもんなんだけど。あと装備の修繕費な。ホントよく死ななかったな俺。


再びグビリ。つまみパク。


「あぁ、沁みる~」


森で心身ともに疲れ果てた所にこの一杯。最高だ。これさえあれば生きていけるとさえ思う。


「真っ昼間からなに呑んだくれてる?」


テーブルに突っ伏して幸せな夢へとトリップしようとしていたところ上から声を掛けられた気がした。


いやいや俺への言葉じゃないでしょ。俺を個別認識している人間なんて何人いるよ?しかもここは周りからほぼ死角のベストスポットだぜ?俺じゃなく近くの誰かだろ。今は顔を上げるのも億劫だ…。


「レイ。二週間も探した。何処に行ってた?」

「んん!?」


流石に名前を呼ばれたら俺だと分かる。驚いて顔を上げると何処かで見た顔が一つ。


「マナ?何してんの?こんなとこで」

「パーティーを組む約束」


マナは素っ気なく答えると当然のように俺の対面に座る。


「は!?あれマジの話だったの!?」

「マジ」


座ったと思ったら今度は俺のつまみの枝豆めがけて手が伸びてくる始末。


ちょっ、オイこれは俺んだ。


「40万も稼いだのに心が狭い。──ちょっといい?」


俺の防衛行動にマナは顔をしかめると近くの給仕を呼び止め自分の料理を注文し始めた。


えぇ…。これマジで居座る気じゃん。俺の宴が台無しなんですけど。せっかく一人で誰も気にすることなく地酒に舌鼓を打ってたのに。あとここは酒場なんだから酒を頼め。


「40万?プフッ、まったくいつの話をしているんだか。この2週間、他の皆様がせっせこはした金で依頼をこなしている内に俺は200万も稼いじゃったよ~ん」

「なら尚更。……200万??」


酒が入って若干壊れた俺の言動を冷静に対応するマナ。だが少しして肝心な所を理解したらしくウソでしょ!?とでも言いたげに目を見開いた。


「おうとも、見せてやろう──っと」


ご機嫌な俺はポーチをごそごそとやるがちょうどいいタイミングで料理がやって来たためストップ。


「……食べないの?」


まあまあな量の料理がテーブルの上に並べられているがマナは動かない。


「見せて」

「マナも好きだね~。……ほらよ」


俺は二枚の硬貨をポーチから取り出す。一枚100万Gの最高純度ミスリル硬貨だ。ここまで高価だと使うのに不便だが、金貨を千枚単位で持ち歩くのは重すぎるためまとめて貰った。


「…本物?」

「まだ疑うか。…本物だよ。ちゃんと鑑定士に調べて貰ったし。ほれこれが証明書な」


一枚の書類も提出。料理を口へ運びつつそれを吟味したマナは頷き俺に返却。


「確かに。…凄い」

「そーそーやっと分かったか。俺って実は凄いヤツだったんだよ。だからB2の仲間なんざいるだけ邪魔なんだよね。じゃ、そーゆーことなんで。あ、あとリアムに『いつか殺す(よろしく)』って伝えといて。それじゃ」


硬貨と証明書をしまいそそくさと立ち去ろうとする俺をマナは止めもせず、ただポツリと呟いた。


「勝手についてくから別にいい。それに私は弱くない」

「いや、だから──」

「レイはこの前リアムに干渉するなって言った。だったらレイも人に干渉すべきじゃない」

「それは、そのとおりだが──」

「私がどこへ行こうと私の自由。それがたまたまレイと同じってだけ。なのにレイは私に干渉する?」

「うぐっ……」


こじつけだ。凄まじいこじつけだ。だが一応筋が通っている。確かにマナがどこで何しようとマナの自由だ。他人がとやかく言う事ではない。そしてそれがたまたま俺と同じと言われたら、まあ………。いやでも、それストーカーじゃね?これ断ったら俺の後方5メートルくらいをずっと無言でついてきたりすんの?なにそれ怖い。


「逃げても無駄。どこへ行っても必ず見──」

「だあああ!分かった分かった分かりました!組みゃあいいんだろ!?組みゃあ!怖ぇよ!ストーカーの域だよ!」


俺は頭をかきむしりながらヤケクソ気味に叫ぶと席に座り直す。


「おねーちゃんもう一杯!!」


こうなったら酒でも入れなきゃやってられん。


で、結局マナの食事が終わるまで付き合うハメになり、その間俺はひたすらエールを飲むこととなった。


「それでこの後は?」

「あ~?」

「飲み過ぎ。これじゃ依頼は受けられない」


嫌な現実から逃避するため、せっかくの高級エールを安酒のようにグビグビやる俺の姿に呆れ顔のマナ。誰のせいだと思ってんだ。


「ばっかオメーこの(わたくし)がこのくらいで酔うわけないでしょうが!……ちょっと失礼。お花摘みに行ってまいりま~す」

「………」


何も言わなくなったマナを一人置いて俺は酒場の隅にある扉を開け中に入る。装備を外し小部屋にポツンと空いた小穴を跨いで用をたす。この穴は地下の汚物処理場まで繋がっているため当然臭い。酔いも合わさって吐きそうな程。


水洗?何それ美味しいの?そんな物が設置されてるのは金持ちの中でも極々々々一部の屋敷だけだ。だが汚物処理場までアクセスできるだけギルドはマシな方である。酷い所だと香しい芳香を放つ物体が沢山詰まった壺だけだったり、そのまま外へ垂れ流しだったりする。特に裏町は道の端を歩くと大変素敵な目に会うと専ら評判だ。


まあそんな説明する方もされる方も不快になる話はいい。じゃあするな?いえいえ今現在私が味わっている不快感を少しでもお裾分けできればと思いまして。ほんの些細な善意でごさいます、ええはい。


外した装備を装着しながら解毒薬を取り出し一口飲む。数秒も経たずに体内の毒素(エタノール)が減り酒臭は残しつつも戦闘には支障がでない程度には回復。もともと赤くなるタイプではないからこのままで大丈夫かな。


「ふぃ~っと」


そのまま何事も無かったかのようにトイレを出るとフラつく足取りで元の席へ戻る。見るとちょうどマナが食事を終えたところのようだ。


「食べ終わった?」

「ん。行く?」

「はあ~、じゃあそうしますかね。あ、言っとくけど『組む』ってのはパーティーを『組む』って意味じゃ無いからな。暫く行動を共にするのには合意したけど危なくなっても助けたりはしないから。自分の事は自分でなんとかしてください。もちろんマナも俺を助けたりしなくていい」


ビシリと指差し釘を指す俺にマナは淡々と答える。


「ん。それでいい」

「はあ~、ではまず受付に行きましょうかね」


決意は固いようだしもう諦めるしか無い。まあほっといてもそのうち飽きてどっか行くだろ。そもそも俺のホームグラウンドである深部、魔境までついてこられるか怪しいしな。


そんなこんなで最初は軽い気持ちで始めたマナとのコンビが当初の予定よりずっと長く続くことをこの時の俺はまだ知らない。






「あ~、ちょっといいですか?──げ」

「はいはい、いいですよ──あら」


ギルドの受付カウンターで何となく声をかけた後ろ姿は実は天敵の後ろ姿だった。


「これはこれは、B2ランクのレイ様ではないですか。……何ですか?その顔は」

「いえ、なんでもないです」


ニッコリと笑顔の圧力に何も言えなくなる俺。


「ああ、そういえば。前回の依頼は大変だったみたいですね」

「いやあんたはやる前から分かってただろ。あの時既に半笑いだったし」

「ええ、その件()そうですね」

「んん?」


何か引っかかる言い方だな。もしかしてアレの事言ってるのか?いやしかし、アレは表向きは内部のクーデターって事で決着がついている筈だ。そのために関係者全員に箝口令が敷かれたりとかなり徹底した情報統制がある筈。まさか……。


「ちょっとその話──」

「ふふっ、それにしてもあなたが紅蓮とレイド…ふふふっ、ああダメおかしい!」

「ちょっと笑いすぎじゃないですかね!?」


腹を押さえて笑いだした性悪職員に思わずツッコミを入れる。


「おほん、これは失礼しました。なんにせよ久々の人との交流は結構刺激的だったんじゃないですか?どうです?これを機にパーティーを組んでみては」

「ああ…それなんですけど…」


「私がレイとパーティーを組んだ」

「ええ!?」


今まで俺の影に隠れて会話にも入って来なかったマナが唐突に爆弾を投下した。


「いやパーティーを組んだわけじゃ無いってさっき言ったやん」

「よく見たらあなたって紅蓮のマナ様ですよね!?ヘッドハンティングでもされたんですか?」

「違う。私から提案した」

「ウソ…。こんなのの何が良かったんです?あなたなら他にも大勢候補がいるでしょう?」

「こんなのだから。それに私は紅蓮を抜けたわけじゃない」


俺の主張は完全に無視され勝手に盛り上がっている。てかこんなのって酷くね?失礼って言葉知ってる?


「おめでとう、ごさいます。これでレイ様も立派な冒険者の仲間入りですね。何かお祝いをしたいのですが私にできる事なら何でも言ってくださいね」

「取り敢えずそのわざとらしい嘘泣きを止めてもらっていいですかね?」


ハンカチを目元に当て如何にも感極まりましたって雰囲気を演出してはいるが騙されてはいけない。よく見るとそのハンカチは濡れていないし、口角が微妙に上がっているのだ。


「ああそうだ!でしたら今ちょうどいい依頼が来ているんですよ」


俺の言葉を意にも介さず元の調子に戻ったお姉さんはそんなことを言い出すとカウンターの引き出しをゴソゴソとやりだす。そして出てきたのは一枚の依頼書。


「大討伐依頼?もう?」


その書類に興味を示したマナ。


「はい。せっかくなのでお二人で参加してみたらどうですか?ちょうど上位冒険者の手が足りなくて困っていたところなんです。レイ様は飲んでるみたいですけど、まあ会話ができる程度でしたら問題無いでしょう」

「やる」

「おい。俺の意見は無視かい」

「レイは他に受けたい依頼あるの?」

「特に無いけど…」

「じゃあ決まり」


とまあこんな感じでトントン拍子に話が進み依頼を受ける事になってしまった。


受けてしまった以上仕事は仕事だ。集合時間に遅れることなどあってはならない。時間まであと一時間をきっているため急いでギルドを出て行こうとする時、背後で小さな呟きが聞こえた。


「ウーズの件は我々も苦々しく思っていました。やはり貴方に任せて正解でしたね」

「んんん?」


思わず振り返るもそこにあるのはいつもの営業スマイルのみ。これ以上話すつもりはないから早く行けとでも言いたげなその微笑みに押され俺は何も追及できずにギルドを後にした。


油断なら無いなぁあの人。まあ確かによく考えればウル程の街でレイド依頼が3枚だけなんてあり得ないよな。結局俺はあの人の手の上でご機嫌に踊ってただけって訳だ。名前なんていったかな……ああ、アイシャさんだ。覚えとこう、次は利用されない為に。


あっ!そういえば受付でこの前拾った腕輪一式を買い取ってもらうの忘れてた。そっちが本来の目的だったのに。

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